平民男子、最強精霊に懐かれ令嬢だらけの魔法学校に入学する   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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第3話 白い居候

 

 

「ナナティナ?」

 

「そうだ。ナナティナ」

 

「家名は?」

 

「家名?」

 

「どこの家の人間かってこと」

 

「私はナナティナだ」

 

「いや、だからな……」

 

 アレンは眉間を押さえた。

 

「出身は? どこから来た?」

 

「……分からない」

 

「親は?」

 

「さあな。記憶にない」

 

「昨日、森で何してた?」

 

「分からん。気づいたらあそこにいた」

 

「ファングルに襲われてた自覚は?」

 

「ふぁんぐる」

 

「昨日の犬っころみたいな魔物だ」

 

「……さて、何故襲われたと思う?」

 

「聞いてるのはこっちだが?」

 

「答えは『知らない』だ」

 

「何で一回泳がせた!?」

 

 ナナティナの顔に、ほんの少しだけ悪戯っぽい色が混じっていた。

 

 こいつ、遊んでやがる。

 

 アレンは天井を仰いだ。

 名前以外は分からない。

 常識も怪しい。

 いわゆる『記憶喪失』というやつなのだろう。

 だが、人をからかう余裕だけはあるらしい。

 

「お前はアレンか」

 

「……何で俺の名前覚えてんだよ、というか名乗ったっけ?」

 

「昨日聞いた」

 

「……言ったっけ?」

 

「喉が乾いた」

 

「スルーかよ、はいはい」

 

 アレンがカップを渡す。

 ナナティナは受け取り、じっと見つめた。

 

「これはなんだ?」

 

「あ? 水だよ……喉乾いたって自分で言ったろ?」

 

「これを飲むのか?」

 

「そうだよ!」

 

「なるほどなるほど」

 

 ナナティナは両手でカップを持ち、水を飲んだ。

 

 一口。

 

 二口。

 

 そして、少しだけ目を細める。

 

「悪くない」

 

「水に評価つけるやつ初めて見たわ」

 

 アレンは寝台の横に座った。

 すると、ナナティナも当然のように体を寄せてきた。

 肩が触れる。

 

「待って、近い近い近い」

 

「何がだ?」

 

「距離だよ。何でそんな詰めてくんだ」

 

「アレンのそばが落ち着くからな」

 

「昨日会ったばっかりだぞ、俺たち」

 

「気にすることか?」

 

「気にすることですことよ!?」

 

 ナナティナはじっとアレンを見る。

 白い髪がさらりと肩から落ちた。

 

 整った顔立ち。

 

 眠たげな目。

 

 人形のようにも見える。

 だが、まばたきの仕方や首の傾げ方は妙に人間臭い。

 アレンは目をそらした。

 じっと見ていると、どうにも調子が狂う。

 

「……とにかく、普通はもうちょい距離を取る」

 

「普通とは何だ?」

 

「面倒くせぇ質問きたな」

 

 アレンは深く息を吐いた。

 そこへ、ガレンが入ってきた。

 朝から村長のところへ行き、ナチュレ家にも使いを出してきたらしい。

 ガレンはナナティナを見て、次にアレンを見る。

 

「目を覚ましたか」

 

「ああ。名前はナナティナだってよ」

 

「それ以外は?」

 

「ほぼ全滅」

 

「そうか」

 

 ガレンは腕を組んだ。

 

「村長にも話した。領主様にも報告は行ってる。身元が分かるまでは村で預かることになるだろう」

 

「うちで?」

 

「分からん。……しかし、随分お前に懐いているようだな」

 

 アレンは自分の腕に触れているナナティナの手を見た。

 

「懐いてるっていうか、距離感が壊れてる」

 

「アレン」

 

 ナナティナが言った。

 

「腹が減った」

 

「ほら見ろ。完全に俺を世話係だと思ってる」

 

「拾ってきたのはお前だ」

 

「拾ったって言うなよ爺ちゃん!」

 

      β

 

 その日の昼前には、シェリーが様子を見にやって来た。

 ケビンとラブラリー、そしてイギー村の村長も一緒である。

 シェリーはナナティナを見るなり、表情を引き締めた。

 

「この方が、昨夜の?」

 

「ああ」

 

 アレンは頷く。

 

「森でファングルに囲まれてた。結界魔法みたいなのを張って、彼女が俺に触ったら白い光が爆発した。そしたらファングルが消えて、俺の怪我も治ってた」

 

「……信じがたい話ですわね」

 

「俺も信じがたいですことよ?」

 

 シェリーはナナティナを観察した。

 

 白い髪。

 

 白い肌。

 

 妙に整った顔立ち。

 そして、村娘にも貴族令嬢にも見えない雰囲気。

 昨夜、魔法のようなものを使ったという報告。

 

 記憶喪失。

 

 名前以外の身元不明。

 

 考えるべきことは多かった。

 シェリーは領主家の娘として、多くの人間を見てきた。

 

 村人、商人、貴族、ウィッチ、旅人。

 

 だが、目の前の白髪の娘は、そのどれにも収まらない。

 

「ナナティナ様」

 

 シェリーが丁寧に声をかける。

 ナナティナは首を傾げた。

 

「私は様なのか?」

 

「いえ、失礼のないようにと」

 

「では、シェリーは『礼儀正しい』のだな、気に入ったぞ」

 

「……あ、ありがとうございます?」

 

 シェリーが少し戸惑う。

 

 ナナティナはすっとアレンの隣へ移動し、当然のように彼の腕に抱きつく。

 

 シェリーの視線がそこへ落ちる。

 

「……アレン」

 

「待て。俺は何もしてない」

 

「まだ何も言っておりませんわ」

 

「顔が言ってた」

 

「その距離感は何ですの?」

 

「お、俺が聞きたいぜ」

 

 ラブラリーが「わふ」と鳴いた。

 

 ナナティナはラブラリーを見た。

 

「これは何だ?」

 

「ラブラリーですわ。わたくしの契約精霊です」

 

「精霊……せいれい……」

 

 ナナティナはその言葉を繰り返した。

 ほんのわずかに、目の奥が揺れたように見えた。

 だが、すぐに無表情へ戻る。

 

 村長は困ったように髭を撫でた。

 

「とにかく、身元が分かるまでは村で保護するしかあるまい」

 

「ナチュレ家でも周辺領と貴族家の行方不明者を確認しますわ。魔法らしきものを使った以上、貴族家の関係者である可能性もあります」

 

「貴族?」

 

 ナナティナがまた首を傾げる。

 

 シェリーは少し困った顔をした。

 

「それも覚えていらっしゃらないのですか?」

 

「そうだ、『記憶喪失』だからな」

 

「……そ、そうですか」

 

 村長はアレンを見た。

 

「問題は、当面どこに置くかだが」

 

「ナチュレ家で保護するのが妥当では?」

 

 シェリーが言う。

 

 だが、ナナティナは抱きつく力を込めた。

 

「私はアレンのそばにいる」

 

 部屋が静まり返った。

 アレンは目を見開く。

 

「え、何で!?」

 

「……どうやら、アレンに懐いておるようだな」

 

「懐いてるって、そんな犬猫みたいに言うなよ」

 

「では、ひとまずアレンの家で預かる形にしよう」

 

「えっ」

 

 アレンの声が裏返った。

 

「村長?」

 

「ガレンもおる。何かあればすぐ知らせろ。領主様にも定期的に見てもらう。それでよかろう」

 

「いやいやいや、貴族かもしれない娘を農家に預けるって正気か?」

 

「お前が連れて帰ってきたんだろう」

 

「そうだけど!」

 

 ガレンが腕を組んで言った。

 

「まあ、仕方ねぇ。放り出すわけにもいかん」

 

「爺ちゃんまで!」

 

 ナナティナはアレンを見上げた。

 

「私はここにいていいのだな?」

 

「……まあ、駄目とは言えねぇだろ」

 

「そうかそうか」

 

 ナナティナは小さく頷いた。

 

「これで私は『アレンのもの』だな」

 

「いや、言い方ァ!」

 

 シェリーの扇子が、ぱきりと音を立てた。

 

「アレン?」

 

「待て待てシェリー様! 俺は今の発言に一切関与してないぞ!」

 

「なんだアレンのものとは、違うのか?」

 

「違う! 居候! 保護対象! そういうやつ!」

 

「わざわざ難しくするなアレン」

 

「別に難しくしてねぇよ!」

 

 ケビンが静かに言う。

 

「お嬢様。落ち着いてください。扇子が一本、殉職いたしました」

 

「……後で新しいものを出しておきなさい。頑丈な物を」

 

「かしこまりました」

 

 精霊のラブラリーだけが楽しそうに尻尾を振っていた。

 

       β

 

 午後。

 アレンはナナティナに村を案内することになった。

 理由は単純である。

 

 ナナティナが何も知らなさすぎたからだ。

 

 水を汲む井戸を見て首を傾げる。

 鶏小屋を見て、「これは食べ物か?」と聞く。

 麦畑を見て、「全部食べるのか?」と聞く。

 村人を見て、「なぜ皆、土に触っている?」と聞く。

 

 そのたびにアレンは頭を抱えた。

 イギー村は大きな村ではない。

 麦畑があり、家畜小屋があり、井戸があり、古い家が並ぶ。

 アレンにとっては見慣れたものばかりだ。

 だが、ナナティナにとっては違うらしい。

 彼女はまるで、世界を初めて見る子供のように一つ一つを見つめていた。

 

「いいか。あれは鶏。卵を産む。肉にもなるけど、いきなり食うな」

 

「なんだ、いきなりでなければいいのか?」

 

「そういう話じゃねぇ、揚げ足とるな」

 

「あれは?」

 

「山羊」

 

「食べるのか?」

 

「乳を取る」

 

「乳」

 

「変な顔すんな」

 

「ふーむ、分からないことが多いな」

 

「俺もお前が分からん」

 

 ナナティナは終始、アレンの隣を歩いた。

 

 近い。

 とにかく近い。

 少し油断すると腕に抱き着く。

 さらに油断すると手を握ろうとする。

 

 ふと、柔らかい感触が当たる。

 

 アレンはそのたびに距離を取ろうとするが、ナナティナは当然のようについてくる。

 

「近いって」

 

「離れると迷うかもしれない」

 

「子供か」

 

「仕方がないだろ『記憶喪失』なのだから。それに私は子供ではない……と思う」

 

「いや、たしかに見た目は俺と同じくらいか、少し上だと思うけど……中身がな?」

 

「見るものすべてが新鮮なのだ。許せ」

 

「……まぁ、そうだよな」

 

 アレンはそう言ってから、少しだけ黙った。

 もし本当に何も覚えていないのなら、ナナティナにとってこの村のすべては初めてのものなのだ。

 

 井戸も。

 

 畑も。

 

 家畜も。

 

 人の暮らしも。

 

 そう思うと、少しだけ怒る気が失せた。

 村人たちは当然、そんな二人を見逃さなかった。

 

「あら、アレン。可愛い子連れてるじゃない」

 

「まず言っておく『違う』」

 

「恋人か?」

 

「言うと思った! だから違うって!」

 

「昨日の夜に拾って、もう連れ歩いてるのか。……手が早いなぁ」

 

「だーかーらー違うって言ってんだろ!」

 

 畑仕事をしていたおばさんたちが、にやにやと笑う。

 年寄りたちも面白そうに眺めている。

 子供たちは遠慮がない。

 

「アレン兄ちゃんの恋人?」

 

「だ・か・ら・違う!」

 

「白くてきれー!」

 

「お姫様?」

 

 ナナティナは子供たちをじっと見た。

 

「『恋人』とは、どういうものだ?」

 

 空気が止まった。

 アレンは頭を抱えた。

 

「そこからかよ……」

 

 子供の一人が元気よく言った。

 

「好きな人のことだよ!」

 

「なるほど、好きな人」

 

 ナナティナはアレンを見た。

 じっと。

 とてもじっと。

 アレンは嫌な汗をかいた。

 

「おい、待て。今のは参考にするな?」

 

「私はアレンが嫌いではない」

 

「それはありがたいけど、そういう話じゃない」

 

「では恋人なのか?」

 

「っく……違う違う!」

 

 村人たちの笑い声が響いた。

 アレンは耳まで赤くしながら叫ぶ。

 

「お前ら暇なのか! 仕事しろ畑仕事! サボってんじゃねーぞ!」

 

「お前が言うな!」

 

 全員から返された。

 

「ぐうの音も出ねぇ……」

 

 ナナティナはそんな様子を見て、少し微笑んだ。

 それはほんの小さな笑みだった。

 だが、昨日森で出会った時には見せなかった表情だった。

 

       β

 

 村の広場に差しかかった時、子供の一人がナナティナを指さした。

 

「ねぇ、この人もウィッチ?」

 

 アレンの足が止まった。

 ナナティナが子供を見る。

 

「ウィッチとは何だ?」

 

「えっ、ウィッチ知らないの?」

 

 子供たちがざわつく。

 アレンは頭をかいた。

 

「まあ、記憶がないらしいからな」

 

「アレン、ウィッチとは何だ?」

 

 ナナティナが尋ねる。

 その声は素直だった。

 だが、アレンにとっては少し複雑な問いだった。

 

 ウィッチ。

 

 この国で魔法を使い、精霊と契約し、悪魔兵器や魔物と戦う女性。

 

 王国の誇り。

 

 多くの者にとっての憧れ。

 

 そして、アレンにとっては――届かなかったもの。

 

 かつて焼け落ちた故郷で、彼が見上げた光。

 

 赤い魔法。

 

 戦場を駆ける背中。

 

 自分には決して届かないと思っていた存在。

 

「……ウィッチってのはな」

 

 アレンは言葉を選んだ。

 

「魔法を使える女の人たちのことだ。ほとんどは女貴族で、精霊と契約してる。シェリー様みたいに村や領地を守ったり、怪我を治したり、悪いやつと戦ったりするんだよ」

 

「シェリーはウィッチなのか」

 

「ああ。典型的なウィッチだな」

 

「アレンは?」

 

 アレンは一瞬、黙った。

 子供たちも黙った。

 少しだけ、風が麦畑の方から流れてくる。

 

「俺は違う。ウィッチは女しかなれねーしな」

 

 アレンは軽く笑った。

 

「ただの農家の男。槍振り回して、畑をサボって、爺ちゃんに怒鳴られるだけの弱い平民……それが俺だ」

 

「そうなのか」

 

「そうなのだ」

 

 ナナティナはアレンをじっと見た。

 

「だが、アレンは私を守った」

 

「それは……まあ、ウィッチじゃなくてもできることはあるだろ?」

 

「なら、アレンは『弱い』ではない」

 

 アレンは返事に詰まった。

 そんなことを、あまり真っ直ぐ言われたことはなかった。

 村人たちはアレンを知っている。

 

 サボり魔で、口が悪くて、調子に乗りやすい男として。

 

 ガレンはアレンを叱る。

 

 ミドはからかう。

 

 子供たちは慕ってくれる。

 だが、真正面から「弱くない」と言われたことは、ほとんどなかった。

 子供たちがきゃっきゃと騒ぎ出す。

 

「アレン兄ちゃん、照れてる!」

 

「ばっ、照れてねぇ!」

 

「顔赤い!」

 

「夕日だ!」

 

「まだ夕方じゃないよ!」

 

「うるせぇガキども!」

 

 ナナティナは不思議そうにアレンを見上げていた。

 その視線が妙にまっすぐで、アレンはますます顔を逸らすしかなかった。

 

       β

 

 その頃。

 

 ナチュレ家の屋敷では、シェリーが執務机に向かっていた。

 

 机の上には、周辺領の行方不明者記録、貴族家の家系書、魔法学院関係の連絡文書が積まれている。

 

「そうですか。わざわざご連絡ありがとうございます」

 

 風の魔鉱石を用いて遠くの人と会話できる風信機。

 その受話器を、ケビンはゆっくり置いた。

 

「どうでしたか?」

 

「ネルシュ家の者でもなさそうです」

 

「……そうですか」

 

 シェリーは眉を寄せた。

 

 白髪の娘、ナナティナ。

 

 魔法らしき力を使ったという報告。

 

 記憶喪失。

 

 身元不明。

 

 そして、アレンに異様に懐いている。

 最後の一点だけは、調査とは別の意味で胸に引っかかる。

 

「……べ、別に、気にしているわけではありませんわ」

 

「誰も何も申し上げておりませんが」

 

 ケビンが横から静かに言った。

 

「ケビン。あなた、最近少し遠慮がありませんわよ」

 

「お嬢様が分かりやすいだけでございます」

 

「お黙りなさい」

 

 シェリーは書類をめくる。

 該当する貴族家の娘はいない。

 少なくとも、この近辺には。

 魔法が使えるなら、貴族か、あるいはどこかの魔法研究機関関係者か、それとも珍しい平民ウィッチか。

 

 だが、ナナティナからはどれも違う匂いがした。

 

 気品はない。

 

 常識もない。

 

 それなのに、どこか人より上に立つことを当然と思っているような態度がある。

 あの白さも、存在感も、普通ではない。

 シェリーは眉を寄せた。

 ナチュレ家の令嬢として、領内の異変を見過ごすわけにはいかない。

 だが、それとは別に、彼女の胸には小さな棘が刺さっていた。

 アレンのそばに当然のように立つ白い娘。

 彼の腕を掴み、距離を詰め、無邪気に彼の隣を占める存在。

 それを思い出すと、なぜか扇子を握る手に力が入る。

 

 その時、扉が叩かれた。

 

「シェリー様、緊急の報告です」

 

 入ってきたのは、ナチュレ家の見回り兵だった。

 顔色が悪い。

 

「何事ですの?」

 

「本日未明、エリドール領の村が悪魔兵器の襲撃を受けたとの報告が入りました」

 

 部屋の空気が冷えた。

 ケビンの目が細くなる。

 シェリーは立ち上がった。

 

「エリドール……ですって」

 

 エリドール領は、ナチュレ領の西側に接する隣領である。

 

「はい。すでにウィッチ軍が出動し、鎮圧は完了したとのことです。ただ、同型がナチュレ領へ流れてくる可能性も否定できません」

 

 シェリーは窓の外を見た。

 

 イギー村の方角。

 

 麦畑。

 

 村の灯り。

 

 その中にいる、アレンとナナティナ。

 

 胸の奥に、嫌な予感が落ちた。

 

「すぐに詳細を確認します。見回りを増やしなさい。各村の村長とキャベット町の町長にも通達を」

 

「はっ」

 

 兵が下がる。

 シェリーは書類の上に置いていた扇子を握った。

 ナナティナという謎の少女。

 昨夜現れたファングル。

 そして、領地近くに出没し始めた悪魔兵器らしき影。

 無関係だと思うには、あまりにもタイミングが悪い。

 

「……アレン」

 

 小さく呟いた声は、誰にも聞かせるつもりのないものだった。

 

 しかし、ケビンは静かに頭を下げる。

 

「念のため、ガレン殿の家にも使いを出しましょう」

 

「ええ。お願いします」

 

 シェリーは窓の外を見つめた。

 夕暮れの麦畑は、穏やかに揺れている。

 だが、その穏やかさがいつまで続くのか。

 それはもう、誰にも分からなかった。

 

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