産廃スキル『性転換』は最強魔法少女へのトリガーです   作:ぷに凝

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思いついてしまったので。


1 性転換魔法少女

「せ、『性転換』……」

 

 冒険証に表示されたスキル名の欄を見て、小林大翔(こばやしひろと)は頭を抱えた。

 

 スキルというのは、原則一人に一つ。

 

 そして一度取得してしまえば変更はできず、それゆえに“スキルガチャ”などと呼ばれることも多い要素。

 

 スキルに関する真偽不明の噂は数知れず。

 

 やれ竜種に跨がれば『竜騎士』のスキルが手に入るだの、やれ大量のアイテムを持ち歩いたら『アイテムボックス』が手に入るだの。

 

 ほとんどは眉唾物だが、僅かな可能性にかけて強スキルを手に入れるため、ただでさえ危険なダンジョンで奇行を繰り返す者は後を経たない。

 

 ヒロトもまた、一縷の望みにかけてただでさえ強いリッチを耐性のある魔法攻撃で倒すという苦行をやり遂げたのだが。

 

「その結果が……『性転換』……はは……」

 

 一周回って笑えてくる。

 

 『性転換』スキルは文字通り、性別を変更するスキルだ。男を女に、女を男にする。

 

 ただそれだけのスキル。

 

「女性にとっては、それなりにメリットあるスキルかもしれないけど……」

 

 元々体格的に恵まれている男がわざわざ女になって、ダンジョンで何の得をする?

 

 筋力が落ちて体格が小さくなる分、ステータスは大幅に低下するのに。

 

 他の冒険者に色仕掛けでもしろと?

 

「犯されて終わりだな」

 

 何の意味もない産廃スキル。

 

 それが『性転換』スキルだ。

 

「まぁ、一回使ってみるか……」

 

 取得してしまったものは仕方ないので、とりあえず使用してみる。

 

 みるみるうちに背が縮み、服がダボダボになっていく。髪は背中まで伸びて、腕や足がスラリと細くなっていく。

 

 体は全体的に小柄に、丸みを帯びていく中で一際小型化したのが首から上。

 

「顔ちっちゃ」

 

 手で頬を触り、そのミニマムさに驚嘆。

 

 水魔法で“鏡”を作り、全身を眺める。

 

「おお」

 

 思わず感嘆の声が漏れてしまうほどに、鏡に映ったヒロトの姿は華奢で、儚げで、俗っぽい言い方をすれば“美少女”としか言えない姿になっていた。

 

 身長は145cm程度だろう。肌は陽の光を知らないのかと思うほどの色白で、シミひとつない。

 髪色は暗闇の中でも目立つ白銀色で、肩の下まで伸びるセミロング。髪質はまるで絹のように滑らかだった。

 

 触れたら消えてしまいそうな印象すら感じる、妖精のような見た目の少女がそこにいた。

 

「これは、他の冒険者に見つかったらヤバいな」

 

 自分の声とはとても思えない、柔らかくて静かながらも芯の通った、耳心地のいい声が喉から発せられる。

 

 ダンジョンの中の冒険者はただでさえ溜まってる。そこにこんな華奢な姿で出ていけば、ダンジョンを舐めていると思われても仕方ない。

 

 さっさと解除しよう。

 

「……あれ?」

 

 これ、どうやって解除するんだ?

 

 冒険証を見る。

 

 

『性転換』

残り時間[4:21]

 

 

「嘘でしょ……」

 

 本日二度目の頭を抱える。

 

 どうやらこのスキル、効果時間が設定されているらしい。

 

 しかも、強制解除不可のタイプだ。

 

「ま、まずい」

 

 この姿のヒロトは無防備もいい所だ。

 

 万が一、他の冒険者と出くわしたら。

 

 背筋を悪寒が走り抜ける。

 

「な、なんかなかったっけ」

 

 慌てて背中に背負った『収納袋』を漁る。

 

 例えば『性転換』が何らかの状態異常判定なら、解毒薬を飲めば……。

 

「……うん?」

 

 『収納袋』を漁っていると、何やら覚えのない布の感触。

 

 引っ張り出す。

 

「な、なんだこれ」

 

 それはドレスだった。

 

 ただのドレスじゃない。フリフリのレースがふんだんに施された、少女用の白いドレス。

 

「まさか、リッチのドロップ……?」

 

 こんなアイテムを持ってきた記憶はないので、有り得るとすればさっき手に入れた以外にはない。

 

 冒険証を翳して『鑑定』を行う。

 

『魔法少女のドレス』

女性専用装備。着用すると、全てのステータスに二倍の補正。10分後、魔法が解けてこのドレスは消える。

 

「に、二倍!?」

 

 なんだこの破格の効果。装備するだけで全ステータス2倍なんて聞いたこともない。

 だが、時間制限がアリの上、使えるのは一度きりらしい。確かにそれなら、この効果も納得だ。

 

「……」

 

 『収納袋』を漁ったが、解除薬の在庫はなかった。

 

 このまま残り時間を息を潜めて過ごすのは、あまりにもリスクが大きい。そもそもモンスターがリポップするかも知れない。

 

 戦うための力は必要だ。

 

「……うぅ」

 

 ヒロトは苦渋の判断を下した。

 

 パッと手に持った魔法少女のドレスが消え……そして、ヒロトの体に装備される。

 

「んっ!?」

 

 瞬間、ヒロトの体が光って辺りを埋め尽くす。

 

「……おぉ」

 

 光が収まり、鏡を見る。

 

 そこに立っていたのは、子供向けアニメの中から飛び出してきたとしか思えない“魔法少女”の姿だった。

 

 最初に目を引くのは身長と同じ長さがある巨大ツインテールで、明るい水色でハート型が連なったような三つ編みを特に目を引く大きなリボンが結んでいた。

 

 ふわりと広がるショートフリルスカートは足の長さを引きたてて、太ももから伸びるガーターベルトとブーツを強調している。

 背には髪を結ぶそれ以上に巨大なリボンを背負っており、中心に星型のアクセサリー。

 

 腕は白い布地にピンクの縁取りとハートと星の装飾がされたグローブが二の腕までを覆っており、指先は抜かれている。

 

 頭の上は一際大きなハートと星とリボンであしらわれたティアラが飾り、視線を下に移すとメイクが施され、イヤリングを耳にかけて華やかな印象になった顔がそこにある。

 

 目は宇宙空間を思わせる引き込まれるような色をしており、瞳孔の中に大きな星が輝きハート型のハイライトがそれを引き立てる。

 まつ毛は長く伸びて瞳を彩り、唇には薄くグロスが引かれ、艶やかな印象に仕立てていた。

 

 そして、胸の上では最も大きなハート型のブローチが輝き、ワンピースの上から胸部を飾り立てていた。

 

 ともかく、そこに立っていたのは絵に描いたような魔法少女で。

 

「いや、露出多いな……」

 

 背中、肩、胸元、太ももが大きく開いたデザインの、かなり際どい姿の魔法少女だった。

 

 いや、でも魔法少女ってこれくらいが普通なのか……? だとしたら凄すぎるだろ。こんな心許ない状態で戦ってんの?

 

「うっ、股がスースーする……」

 

 鏡の中でスカートを抑えてもじもじとする魔法少女。

 

 普段ならありがたやーと頭を下げて感謝するような絵も、当の本人になってみれば笑えない。

 

「と、とにかく行こう」

 

 ここで足踏みしていても仕方ない。

 

 ヒロトはリッチ狩りのために潜っていた、ダンジョン12層の上層への階段へ向けてひた走った。

 

「……パンツ見えてないよね?」

 

 何度も何度も、後方への確認を挟みながら。

 

 

「モンスターか……」

 

 しばらく進むと、道の途中に人間大ほどの大蜥蜴が鎮座してこちらを見つめていた。

 

 ここまで運が良いことにモンスターと出会わなかったが、10層まで来てついに出会ってしまった。ここから先に行けば転移装置で地上に戻れるのに。

 

 仕方ない。

 

「やってみよう」

 

 ヒールで慣れない足で無理やり地面を蹴った。

 

「ふっ」

 

 自分としては気合を込めた声が、ただ少女が細く息を吐いただけの結果となる。

 

 だが力は込めている。普段は、適度に距離をとってヒットアンドアウェイで、慎重に戦うべきモンスターだ。

 

 この小さくなった体で、果たしてどこまで戦えるのか。

 

 まずは小手調べに、手加減した一撃を叩き込む。

 

 ──ドゴッ!!

 

「へっ」

 

 跳躍し、落下と同時に振り下ろした小さな拳は。

 

 大蜥蜴の頭を粉砕し、地面に小さなクレーターをつくった。

 

「えっ、はっ?」

 

 何が起きたか分からず、目をぱちくり。

 

 普段は何十分もかけて、細かな傷を作って勝つはずの大蜥蜴が一発。

 

 一発だった。

 

 す、ステータス二倍の恩恵? だとしても強化されすぎじゃないか? 元は弱体化してるはずの『性転換』後の強化なのに。

 

「……たまたま防御が低かった個体なのかな」

 

 首を捻りながらも、そういうことにして納得する。

 

 『性転換』の効果切れも、脱出経路もすぐそこだった。

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