産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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10 私、女の子になっちゃうかも

『性転換』

効果時間 [20:00]

 

「20分か……」

 

 冒険証に表示され、増えた『性転換』の効果時間。

 

 それは前回の15分よりもさらに5分増えて、20分という長さになっていた。

 

 これにより魔法少女への変身のためには、最低でも10分間事前にスキルを使っておかなければならない。

 

 ダンジョン内では不意の戦闘が起こることは日常茶飯事。

 

 そう考えると、いつ戦闘が起きてもいいように、ダンジョン内では常に女性状態で過ごすのが最も合理的。

 

 それはわかっているのだが。

 

「はぁ〜」

 

 机に突っ伏す。

 

 このまま、スキルの効果時間が伸び続けたとして……例えば、1時間、2時間と『性転換』を持続させる必要性が出てくるかもしれない。

 

 もしかしたら、一日中ずっと女ということも。

 

「俺はどうすればいいんだ……」

 

 もうすでに女になることに忌避感はない。何度もやってきたことだ。慣れてしまった。

 

 女の姿で過ごす時間の方が長くなったら。

 

 学校でも、街でも、ダンジョンでも。

 

 ヒロトはどっちの自分を本当だと思えばいいんだろう。

 

 鏡の前に立ち、もはや懐かしいとすら思う本来の自分の姿を……。

 

 ……。

 

「え?」

 

 なんだ、この違和感。

 

 なにか……何かがおかしい。

 

 なんだ、何が。

 

「あっ」

 

 気づく。

 

 腕を組んだヒロトの二の腕に、わずかに乗る柔らかい感触。

 

 恐る恐る、そこに手のひらを近づけて。

 

「……胸が」

 

 触ってみて、確実に気づく異変。

 

 胸が、わずかに成長している。

 

 昨日まではなかった女性の膨らみが、確かにそこにあった。

 

「うそだろ……」

 

 ヒロトは『性転換』を女になるスキルだと思っていた。

 

 男の体から女の体に『変身』するスキルだと。

 

 だけど、本当はそれだけじゃなくて。

 

 

 男の体を“女に変化させる”スキルでもあったとしたら?

 

 

 そう考えて。

 

 ──頭が真っ白になった。

 

 

 気づけばヒロトは転移門の前に立ち、ダンジョンの中を進んでいた。

 

 足元がフラフラとおぼつかない。

 

 今、ヒロトがどこを進んでいるのかもハッキリしない。

 

「ん?……あ!? おい! お前!」

 

 このままヒロトは、どこか遠くへ行ってしまうのだ。

 

 戻れないほど遠くに行って、消えてしまうのだ。

 

 そうに決まって……。

 

「おいって! 危ねぇよ!」

 

 不意に腕がガシッと掴まれて、進もうとした足が宙ぶらりん。

 

 一歩先は下り階段になっていて、このまま足を踏み出していれば間違いなく落ちていた。

 

「別にいいかな、もう……」

「マジでどうしたんだよ、お前」

 

 ゆっくりと振り向くと、こちらを心配そうに見つめる男の子が立っていた。

 

「二階堂……」

「ビビったぜ、お前。普通にダンジョンの中にいるんだもんよ。よく潜ってこれたな、この状況で」

「この、状況……?」

「……重症だな。あっちで話すぞ」

 

 腕を掴んだまま引き摺られ、通路の奥へと連れ込まれる。

 

 小さな段差を見つけると、そこに二階堂と並んで座った。

 

「まずお前、今の状況わかってるか?」

「わかんない」

「……みんなお前を探してるよ。プリムノヴァを探し出したら報奨金まで出るって話だ」

「へぇ」

 

 報奨金かぁ。

 

「大変だね。そのプリムノヴァって人も」

「お前の……! ……あっぶね。お前、どうしたんだよマジで? 昨日は急にいなくなるし。かと思ったら上の空じゃねぇか」

 

 昨日。

 

 昨日って何してたっけ。

 

「……何があった?」

「何が」

「俺でよかったら、話聞くから」

 

 聞く?

 

 聞いてどうするんだろう。

 

 今、ここにいる小林大翔は消えてなくなるのに。

 

 でも。

 

「……二階堂」

「なんだ」

 

 話すだけ。

 

 ちょっと話すだけ、なら。

 

「私……女の子になっちゃうかも」

 

 ……あ、ダメだこれ。

 

 全部言っちゃう。

 

「……」

 

 二階堂は、とても真剣な顔で私の声に耳を傾けて。

 

「は?」

 

 素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「えーっと、つまり……?」

 

 二階堂は額に手を当ててうんうんと唸りながら俯くヒロトの顔を見て言った。

 

「お前は元々男で、でもスキルで女になって。女しか着れない、着たら強くなるドレスを着て戦ってた?」

「うん……」

「だけど今朝、自分の体を見たら男の体まで女らしく成長してて? これから男の自分の人格は消えるんじゃないかと怖くなって?」

「うん……」

「気づいたら、女の姿のままダンジョンに潜ってた?」

「うん……」

「アホなのか?」

「うん……」

 

 気づけばヒロトは、全てをぶちまけていた。

 

 今まで隠していた、全てを。

 

「色々言いたいことはあるが、まず言わせてくれ。お前はアホだ」

「だよね……」

「だよね、じゃない。アホだ」

 

 二階堂が大きく嘆息して、「あのな」と続ける。

 

「制限時間付きの力なんて、ずっと潜り続けなきゃいけないダンジョンの中じゃいつか限界来るってわかってただろ?」

「まぁ……」

「昨日、戦闘中に時間切れになったら、お前死んでたぞ?」

「まぁ……」

「そもそも10分ってアホか。短すぎだ」

「まぁ……」

 

 マジレス。マジレスの嵐だ。

 

 言われてみれば……というか、別に言われなくてもその通りでしかない。

 

「……そんな状態で戦ってたのか。今まで」

「うん」

「無茶しすぎだろ」

「ごめん」

「俺に謝ってどうする」

 

 二階堂が頭をガシガシと掻きむしる。

 

「俺は昨日、お前と初めて会った。お前のことなんも知らない」

「それは、みんなそうだよ」

「……そうなのか?」

「うん。みんな俺の正体は知らない」

 

 バレないようにしてきたんだから。

 

 当たり前だけど。

 

「二階堂に言うことになるなんて、思わなかったな」

 

 少なくとも昨日の時点では。

 

 誰にも言うつもりなんて、なかったのに。

 

「あっ」

 

 ふと気づいて、冒険証を取り出す。

 

『性転換』

残り時間 [00:32]

 

「効果切れそう」

「……男に戻るのか?」

「うん」

「……どう、する?」

 

 二階堂は、「ここにいていいのか?」というニュアンスでそう言った。

 

 ヒロトに気を遣ったのだ。

 

「いいよ、別に」

 

 普段だったら逃げているが。

 

 もう、全部言ってしまったし。

 

「この力は、俺には重すぎたんだ」

 

 結局、ヒロトには過ぎた代物だった。

 

 それだけのことだ。

 

 もうこれきり、スキルを使うのはやめよう。

 

 自分が自分でなくなる前に。

 

「そうか」

 

 二階堂が、寂しそうに返事して。

 

 体から光が漏れて、元に戻った。

 

 フードを取る。

 

「あ……」

「これが俺の元の姿。どう?」

 

 そこには、黒髪で地味で目立たない、どこにでもいるような。

 

 小林大翔というただの一般人が、そこに。

 

「お、お前……!」

 

 頬を長い髪がくすぐった。

 

 銀色の長い髪が。

 

「元からそれなら、別に『性転換』とかいらないんじゃねぇか……?」

「え?」

 

 そう言われ、一瞬固まる。

 

 ハッとして、ヒロトは自分の胸を触った。

 

「変わってない……」

 

 胸の感触と、胸に当てた手の細さと薄さが、何も変わっていなかった。

 

 慌てて懐から冒険証を取り出す。

 

 

『性転換』

残り時間 [24:00]

 

※解除不能

 

 

「……24時間?」

 

 残り時間の表示が固定され、解除不能となったスキルが。

 

 そこに表示されていた。

 

 

「プリムノヴァは見つかりましたか?」

「いえ、まだです」

「急げ。彼女の手に持たせておくには、あまりにも危険だ」

「はっ」

 

 ダンジョン内。

 

 揃って赤いマントを翻し、本来は警戒しながら進まなければ命はないダンジョン内を、己の庭とばかりに闊歩する集団がいた。

 

 迷宮騎士団。

 

 一団を率いるのは、カワサキダンジョン支部の“筆頭”を務める迷宮騎士たちの取りまとめ役。

 

 “西園寺カスパル”。

 

 普段は落ち着いた口調を崩さない彼だが、今日の彼にいつものような、余裕のある立ち居振る舞いはなかった。

 

「カスパル様」

「なんですか」

「プリムノヴァは見つかりませんが……戦闘時、彼女と同じ場にいたと思われる、高校生の冒険者の所在が掴めました」

「ほう」

「そして現在。彼の傍に、顔を隠した少女がいると」

「興味深い」

 

 カスパルは歩調を早めて言った。

 

「その学生くんの所へ行きましょう。もし抵抗するようなら、多少怪我をさせるくらいは構いません。足を潰しておいてください」

「……相手は子供ですが」

「そうですね。ですから丁重に。いいですか?」

「はっ。少女の方はどういたしますか……?」

 

 カスパルは、いつも通りの人好きするような笑みを浮かべて……いつも通りの優しい調子で言ったのだった。

 

「手は出さないでください。傷をつけず捕縛するように」

「はっ」

 

 全くいつもと変わらない調子でそう言ったカスパルは目を細めて宙を滑るように駆け出した。

 

「必ずや、“陰陽玉”と魔法少女を確保し、あの方に捧げねば」

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