産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「解除できなくなった?」
「うん……」
「どうなってんだ……」
『性転換』の効果時間は切れた。
それなのに、スキルが解除されないどころか。
解除ができなくなってしまった。
「じゃあ、その見た目はお前本来の姿じゃないんだな」
「そうだね」
長い銀髪をいそいそとフードの中にしまいこみながら答える。
「スキルが変化するってのは、聞いたことある。使い込み続けると新しい能力が生えてきたり……」
「進化する。“スキル進化”ね」
「そうだ。けど、解除できなくなるってのは聞かねぇな」
「……なんか」
どんどん、事態が悪い方向に行ってるような。
「私、どうなるのかな」
「……大丈夫だ」
ヒロトが暗い顔をしたのに気づいたのか、二階堂はヒロトの頭に手を置こうとして……止まった。
「?」
「……とにかく! 俺がいる。なんかあったら俺に言え」
ふいっと顔を背けた二階堂。
挙動不審気味な二階堂に、ヒロトは首を傾げながら後ろをついて行く。
「そういえば、お前の名前聞いてなかったな」
「あー……そういえば」
すっかり忘れてた。
プリムノヴァっていうのは、あくまで通称だから。
「……」
一瞬、偽名を使おうか迷ったが。
どうせ元々男だってバレてるのに、隠しても仕方ないか。
「
「小林……? って、どっかで聞いたことあるような」
「気のせいじゃない?」
「うーん……?」
隣のクラスの男子だと気づくか、少しドキドキしたが。
流石に接点なさすぎる上に、ヒロトは校内でも有名人な二階堂と比べて地味だった。
気づかれないのも当たり前か。
「俺は……って、知ってるんだったな」
「
「それはお前もだろ?」
「……よく学生ってわかったね?」
「同い年くらいに見えるからな」
「当て勘かぁ」
二人で歩きながら、ふとひらめく。
「せっかくだしライン交換する?」
「えっ!?」
「えっ、なにその反応。嫌なの?」
「い、嫌っていうか……その……」
二階堂がドギマギしながら、見上げるヒロトの目を見て……目を逸らす。
「男、なんだよな?」
「そうだよ?」
「じゃあ……いいか……」
逆に女だったらダメなのか?
わからん。縛りプレイでもやってんのか。
「はい。これ私のアカウント」
「“ひろ”か……シンプルだな」
「うん……あっ、そうだ。これから女の時は名前“ヒロ”ってことにしよ」
「偽名か?」
「身バレ防止。念のため」
「……俺には、本当の名前教えていいのか?」
「? 二階堂には隠しても仕方ないでしょ」
「まぁ、そう、か?」
なにを当たり前のこと言ってんだか。
本名知ってんのに、わざわざ名前で呼ぶなんて……。
あっ、そういうことか。
「人前では“ヒロ”呼びにしてね」
「えっ、あ、あぁ。そうだな。そうなるか……うん?」
「なに?」
「じゃあ、いつヒロトって呼べばいいんだよ」
「え? そんなの……」
決まってる。
「二人きりの時、とか」
「……」
うん。
正直、今のは自分でも。
恥ずかしいこと言ったかも。
「わ、私も名前で呼ぶから」
「えっ?
「“ジン”って、名前で呼ぶ」
「えっ……!?」
二階堂……ジンが、ぎょっとした目でヒロトのことを見る。
だが、その直後にハッとして……何故か、ジトッとした目でヒロトのことを睨みつけ始めた。
「お前、わざとやってんだろ」
「え、なんの話?」
「からかってんな? 俺のこと」
「だからなんの話……?」
「ぜってーからかってる!」
「意味わかんないんだけど……」
至近距離で睨みつけてくるジンの額を指で押さえて抵抗する。
「う、うぐっ……!? お前、力強っ……!」
「当たり前じゃん。ステータス全然違うし」
「見た目は心配なるくらい細いのに……」
「そんなに?」
自分の体を見下ろす。
胸。細い腰。丸みのある尻。スラっとした足。
「はぁ……」
「なんでいきなり落ち込んだ?」
「ちょっと、現実を直視して耐え切れず……」
『性転換』しても細身だったこともあって今までは気にしなかったが。
元の体も含めて、なんか、どんどん体が丸っこくなってるっていうか。
女っぽくなってるっていうか。
なんか、見られてる気がするし……。
「……?」
見られてる気がする?
反射的に、後ろを振り向いた。
「? どうした?」
「いや……」
並んで歩きながら、なにか違和感のようなものが。
「……あれ?」
そういえば、いつからか。
周りに誰も居なくなって。
空気が。
重たい。
ような……。
──風を切る音がした。
「!? 伏せて!」
「うぉあ!?」
瞬間。ヒロトは有無を言わさずジンの体を押し倒して。
地面に伏せた。
その次の瞬間、頭の上を透明な風の刃が通り抜けた。
「なんだ!?」
「誰かいる! 走るよ!」
「ちょ待っ!?」
姿の見えない何者かの攻撃。
昨日起きたことの再現だ。警戒していたからこそ防げたが。
ここにいるのは危険だ。
「待て、って……!?」
ジンの手を引いて全速力で走り出すと、彼の足がもつれて姿勢を崩す。
「ああもうっ……動かないで!」
「え!? ……うおぉ!!」
「走るよ!」
転びかけたジンの胴体に腕を回して、肩に担ぐ。
顔のすぐ横でジンの足が暴れるのも構わずに駆け出した。
並んで走るよりこうした方が速い。
「これ男としちゃ大分プライドが傷つくんだが!?」
「知らない。それより袋の中からドレス取って」
ジンの抗議の声を無視して、後ろの『収納袋』をゆさゆさ揺らす。
「ドレスぅ!?」
「それで『変身』するから。早く」
「わ、わかった! えっと……これか!」
バッ! とジンが『収納袋』の中から取り出したのは。
機能性重視の、地味なデザインのスポーツブラ。
「マジでごめん!」
「い、いいから」
「わざとじゃないって!」
「わかってる!」
死ぬほど焦りながらブラを袋の中に戻すジン。
わざとじゃないってわかってるはずなのに、少し声が震えてしまう。
クソ、動揺するな。落ち着け落ち着け。
「これだな、ドレス!」
「『変身』!」
ジンが袋から『魔法少女のドレス』を取り出した瞬間。
ヒロトはそのドレスに手を伸ばして装備。
全身が光に包まれ、スカートが広がり、ツインテールが伸びて、視線が高く……。
視線が高く?
「あっ」
地面を踏みしめた瞬間、踵から生えてきたヒールにバランスを崩す。
「やばっ……!?」
咄嗟に肩に担ぐジンを両腕で抱きすくめて、地面を転がる。
「ヒロト!?」
転んだ拍子にどこかの段差から足を踏み外したのか。
「あぐっ」
あちこちに体をぶつけながら、最終的にどこか狭い空間に背中からぶつかって止まった。
衝撃でジンが投げ出される。
「おい! ヒロト! 大丈……」
ぐわんぐわんと揺れる視界の中で、仰向けになっているヒロトの上に馬乗りになったジンが……。
ジン、が。
「……」
「あっ」
プリムノヴァとなったヒロトの胸を。
右手で鷲掴みにしていた。
「ご、ごめっ……! すぐ離れ」
「!」
「んぶっ!?」
すぐさま離れようとしたジンの頭を、両腕で抱き寄せる。
自然と、ジンの顔がヒロトの胸の中に埋まった。
「んんぶっ!」
「静かに」
胸の中のジンが苦しそうに喘ぐのを、耳元で囁いて静止する。
ドクンドクン、と早鐘を打つ心臓の音。
ドタドタドタ、とすぐ近くに何人かの足音。
「どこに行った!」
「こっちに消えたのは見たが……!」
「まだ近くにいるかもしれん。探せ!」
どうやらヒロトたちは追われているらしい。
2、3人の男たちが、理由は不明だが明確にヒロトたちを探して近くを走り回っていた。
転んだ拍子に小さな空間に挟まるように入り込んだことで、結果的に監視の目から隠れることができた。
「もごごっ」
「ちょ、ちょっと……鼻息荒い……!」
胸の中で、モゴモゴと呼吸困難に陥っているジン。
このままだと死ぬので、少しだけ拘束を緩め、ジンの体勢を変えさせる。
「……!?」
瞬間。
ヒロトの太ももに当たっている、ジンの腰あたりが。
どんどん熱く、硬くなるのを感じて。
「……もう」
その感触に気を取られないよう。
顔の火照りを無視して、息を潜ませ続けた。