産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

11 / 13
11 私とあなたで逃避行

「解除できなくなった?」

「うん……」

「どうなってんだ……」

 

 『性転換』の効果時間は切れた。

 

 それなのに、スキルが解除されないどころか。

 

 解除ができなくなってしまった。

 

「じゃあ、その見た目はお前本来の姿じゃないんだな」

「そうだね」

 

 長い銀髪をいそいそとフードの中にしまいこみながら答える。

 

「スキルが変化するってのは、聞いたことある。使い込み続けると新しい能力が生えてきたり……」

「進化する。“スキル進化”ね」

「そうだ。けど、解除できなくなるってのは聞かねぇな」

「……なんか」

 

 どんどん、事態が悪い方向に行ってるような。

 

「私、どうなるのかな」

「……大丈夫だ」

 

 ヒロトが暗い顔をしたのに気づいたのか、二階堂はヒロトの頭に手を置こうとして……止まった。

 

「?」

「……とにかく! 俺がいる。なんかあったら俺に言え」

 

 ふいっと顔を背けた二階堂。

 

 挙動不審気味な二階堂に、ヒロトは首を傾げながら後ろをついて行く。

 

「そういえば、お前の名前聞いてなかったな」

「あー……そういえば」

 

 すっかり忘れてた。

 

 プリムノヴァっていうのは、あくまで通称だから。

 

「……」

 

 一瞬、偽名を使おうか迷ったが。

 

 どうせ元々男だってバレてるのに、隠しても仕方ないか。

 

小林大翔(こばやしひろと)だよ」

「小林……? って、どっかで聞いたことあるような」

「気のせいじゃない?」

「うーん……?」

 

 隣のクラスの男子だと気づくか、少しドキドキしたが。

 

 流石に接点なさすぎる上に、ヒロトは校内でも有名人な二階堂と比べて地味だった。

 

 気づかれないのも当たり前か。

 

「俺は……って、知ってるんだったな」

二階堂仁(にかいどうじん)。高校生冒険者でしょ?」

「それはお前もだろ?」

「……よく学生ってわかったね?」

「同い年くらいに見えるからな」

「当て勘かぁ」

 

 二人で歩きながら、ふとひらめく。

 

「せっかくだしライン交換する?」

「えっ!?」

「えっ、なにその反応。嫌なの?」

「い、嫌っていうか……その……」

 

 二階堂がドギマギしながら、見上げるヒロトの目を見て……目を逸らす。

 

「男、なんだよな?」

「そうだよ?」

「じゃあ……いいか……」

 

 逆に女だったらダメなのか?

 

 わからん。縛りプレイでもやってんのか。

 

「はい。これ私のアカウント」

「“ひろ”か……シンプルだな」

「うん……あっ、そうだ。これから女の時は名前“ヒロ”ってことにしよ」

「偽名か?」

「身バレ防止。念のため」

「……俺には、本当の名前教えていいのか?」

「? 二階堂には隠しても仕方ないでしょ」

「まぁ、そう、か?」

 

 なにを当たり前のこと言ってんだか。

 

 本名知ってんのに、わざわざ名前で呼ぶなんて……。

 

 あっ、そういうことか。

 

「人前では“ヒロ”呼びにしてね」

「えっ、あ、あぁ。そうだな。そうなるか……うん?」

「なに?」

「じゃあ、いつヒロトって呼べばいいんだよ」

「え? そんなの……」

 

 決まってる。

 

「二人きりの時、とか」

「……」

 

 うん。

 

 正直、今のは自分でも。

 

 恥ずかしいこと言ったかも。

 

「わ、私も名前で呼ぶから」

「えっ?

「“ジン”って、名前で呼ぶ」

「えっ……!?」

 

 二階堂……ジンが、ぎょっとした目でヒロトのことを見る。

 

 だが、その直後にハッとして……何故か、ジトッとした目でヒロトのことを睨みつけ始めた。

 

「お前、わざとやってんだろ」

「え、なんの話?」

「からかってんな? 俺のこと」

「だからなんの話……?」

「ぜってーからかってる!」

「意味わかんないんだけど……」

 

 至近距離で睨みつけてくるジンの額を指で押さえて抵抗する。

 

「う、うぐっ……!? お前、力強っ……!」

「当たり前じゃん。ステータス全然違うし」

「見た目は心配なるくらい細いのに……」

「そんなに?」

 

 自分の体を見下ろす。

 

 胸。細い腰。丸みのある尻。スラっとした足。

 

「はぁ……」

「なんでいきなり落ち込んだ?」

「ちょっと、現実を直視して耐え切れず……」

 

 『性転換』しても細身だったこともあって今までは気にしなかったが。

 

 元の体も含めて、なんか、どんどん体が丸っこくなってるっていうか。

 

 女っぽくなってるっていうか。

 

 なんか、見られてる気がするし……。

 

「……?」

 

 見られてる気がする?

 

 反射的に、後ろを振り向いた。

 

「? どうした?」

「いや……」

 

 並んで歩きながら、なにか違和感のようなものが。

 

「……あれ?」

 

 そういえば、いつからか。

 

 周りに誰も居なくなって。

 

 空気が。

 

 重たい。

 

 ような……。

 

 ──風を切る音がした。

 

「!? 伏せて!」

「うぉあ!?」

 

 瞬間。ヒロトは有無を言わさずジンの体を押し倒して。

 

 地面に伏せた。

 

 その次の瞬間、頭の上を透明な風の刃が通り抜けた。

 

「なんだ!?」

「誰かいる! 走るよ!」

「ちょ待っ!?」

 

 姿の見えない何者かの攻撃。

 

 昨日起きたことの再現だ。警戒していたからこそ防げたが。

 

 ここにいるのは危険だ。

 

「待て、って……!?」

 

 ジンの手を引いて全速力で走り出すと、彼の足がもつれて姿勢を崩す。

 

「ああもうっ……動かないで!」

「え!? ……うおぉ!!」

「走るよ!」

 

 転びかけたジンの胴体に腕を回して、肩に担ぐ。

 

 顔のすぐ横でジンの足が暴れるのも構わずに駆け出した。

 

 並んで走るよりこうした方が速い。

 

「これ男としちゃ大分プライドが傷つくんだが!?」

「知らない。それより袋の中からドレス取って」

 

 ジンの抗議の声を無視して、後ろの『収納袋』をゆさゆさ揺らす。

 

「ドレスぅ!?」

「それで『変身』するから。早く」

「わ、わかった! えっと……これか!」

 

 バッ! とジンが『収納袋』の中から取り出したのは。

 

 機能性重視の、地味なデザインのスポーツブラ。

 

「マジでごめん!」

「い、いいから」

「わざとじゃないって!」

「わかってる!」

 

 死ぬほど焦りながらブラを袋の中に戻すジン。

 

 わざとじゃないってわかってるはずなのに、少し声が震えてしまう。

 

 クソ、動揺するな。落ち着け落ち着け。

 

「これだな、ドレス!」

「『変身』!」

 

 ジンが袋から『魔法少女のドレス』を取り出した瞬間。

 

 ヒロトはそのドレスに手を伸ばして装備。

 

 全身が光に包まれ、スカートが広がり、ツインテールが伸びて、視線が高く……。

 

 視線が高く?

 

「あっ」

 

 地面を踏みしめた瞬間、踵から生えてきたヒールにバランスを崩す。

 

「やばっ……!?」

 

 咄嗟に肩に担ぐジンを両腕で抱きすくめて、地面を転がる。

 

「ヒロト!?」

 

 転んだ拍子にどこかの段差から足を踏み外したのか。

 

「あぐっ」

 

 あちこちに体をぶつけながら、最終的にどこか狭い空間に背中からぶつかって止まった。

 

 衝撃でジンが投げ出される。

 

「おい! ヒロト! 大丈……」

 

 ぐわんぐわんと揺れる視界の中で、仰向けになっているヒロトの上に馬乗りになったジンが……。

 

 ジン、が。

 

「……」

「あっ」

 

 プリムノヴァとなったヒロトの胸を。

 

 右手で鷲掴みにしていた。

 

「ご、ごめっ……! すぐ離れ」

「!」

「んぶっ!?」

 

 すぐさま離れようとしたジンの頭を、両腕で抱き寄せる。

 

 自然と、ジンの顔がヒロトの胸の中に埋まった。

 

「んんぶっ!」

「静かに」

 

 胸の中のジンが苦しそうに喘ぐのを、耳元で囁いて静止する。

 

 ドクンドクン、と早鐘を打つ心臓の音。

 

 ドタドタドタ、とすぐ近くに何人かの足音。

 

「どこに行った!」

「こっちに消えたのは見たが……!」

「まだ近くにいるかもしれん。探せ!」

 

 どうやらヒロトたちは追われているらしい。

 

 2、3人の男たちが、理由は不明だが明確にヒロトたちを探して近くを走り回っていた。

 

 転んだ拍子に小さな空間に挟まるように入り込んだことで、結果的に監視の目から隠れることができた。

 

「もごごっ」

「ちょ、ちょっと……鼻息荒い……!」

 

 胸の中で、モゴモゴと呼吸困難に陥っているジン。

 

 このままだと死ぬので、少しだけ拘束を緩め、ジンの体勢を変えさせる。

 

「……!?」

 

 瞬間。

 

 ヒロトの太ももに当たっている、ジンの腰あたりが。

 

 どんどん熱く、硬くなるのを感じて。

 

「……もう」

 

 その感触に気を取られないよう。

 

 顔の火照りを無視して、息を潜ませ続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。