産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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12 甘い夢は続かない

 なんでこんなことになった?

 

 ジンは奇妙な今の状況に対して、そう思わずにいられない。

 

 「今日も潜ればまた会えるかも」なんて軽い気持ちでダンジョンに入り、中にいた冒険者たちの桁違いの熱量に圧倒され。

 

 その渦中にいる本人はどういう訳か「自分は男」なんて意味不明なことを言い出す始末。

 

 挙げ句の果てには、何故かダンジョンの秩序を守るはずの迷宮騎士団に彼女と二人揃って狙われ、逃げ延びた先で。

 

 柔らかい胸の感触に顔を埋めている。

 

 意味がわからない。

 

「……」

 

 正直言って、このまま窒息死するなら別にそれでもいいと思ってしまった。

 

 少なくとも、男としては本望の最期なのではないかと。

 

 だが、ジンはそれでよくても。

 

 プリムノヴァは、自分のせいで誰かが死んだら悲しむだろう。

 

 彼女はそういう性格をしていると、ここまで接してきてなんとなくわかる。

 

 だから、まずはプリムノヴァの名誉のためにも……この不本意な状況から脱出しなくては。

 

 意を決して、地面を掴んで立ち上がる。

 

「んっ、ぁ……!?」

 

 地面を掴もうと思ったはずの指先が、細く引き締まった体をむんずと掴む。

 

 瞬間、乗りかかった体がビクッと震え、小さな嬌声が響いた。

 

 掴んだのはプリムノヴァの脇腹だった。

 

 思いっきり敏感なところを掴んでしまった。

 

「……」

「……へんな声、出ちゃった……」

 

 大慌てで手を離したが、時すでに遅し。

 

 プリムノヴァは顔を手で覆いながら、顔を真っ赤にしながら唸っていた。

 

 こんな時なのに、場違いにも“可愛い”と思ってしまう。

 

 だが、そんな場違いも許されない状況になっていく。

 

「おい、今なんか変な声しなかったか?」

「うん? 変な声?」

「女の声みたいな……こっちか?」

 

 不運は重なり、漏れ出たプリムノヴァの声に耳ざとく反応した足音がこちらに向かってきていた。

 

 口元を両手で覆うプリムノヴァが「やっちゃった……」という表情で申し訳なさそうに顔を伏せるが。

 

「!」

 

 ジンはそんな彼女を胸元に抱き寄せた。

 

 見つかるなら、それはジンの責任だ。ジンが彼女から離れようとしたから、彼女に責任を負わせてしまった。

 

 プリムノヴァだけを悪者にはしない。

 

 だから今度は離れるのではなく……捕まるとしても、腕の中の彼女だけは守れるように、強く抱きしめる。

 

「……」

 

 ジンの腕の中で、プリムノヴァもまたジンの服の袖を掴んだ。

 

 その行動の真意を確かめる暇もないまま、重い沈黙の時間が過ぎて……。

 

「……流石にこんな所で盛ってないか。他探すぞ!」

「わかった」

 

 地面を叩く足音が遠ざかり。

 

 辺りに静寂が舞い降りた。

 

「……はぁ〜」

「ふぅ……」

 

 そしてようやく人の気配が無くなってから、ジンとプリムノヴァは大きく息を吐いて。

 

 お互いの顔を見ると、気まずい空気で物陰から顔を出した。

 

 

「さっきは、ごめんね」

「い、いや。俺の方こそ」

「……」

「……」

 

 気まずい沈黙。

 

 多分、ジンはヒロトの体に触ったり、その、アレを押し付けてしまったことを謝っていて。

 

 ヒロトの方は声を出して見つかりそうになったことを謝っていた。

 

「……」

 

 今思い出しても不覚だった。

 

 不意打ち気味だったとはいえ、ヒロト自身、自分があんな声を漏らすとは思わなかった。

 

 ……明らかに、ジンのアレも反応してたし。

 

 自然と、ついさっきまで押し当てられていた部分に視線が吸い寄せられ……。

 

 ぶんぶんと頭を振って振り払う。

 

 お、落ち着こう。今は逃げてる最中だ。

 

「……結局、あいつらなんだったんだ?」

「うーん……」

 

 しばらく走り、ジンがそう聞いてきた。

 

 足を動かしながら、追っ手の正体を考える。

 

「わかんない……っていうかそもそも、なんで私いまこんなに探されてんの?」

「ん? ああ、知らないんだったな。お前がユニークモンスターを倒したからだよ」

「え?」

「それがニュースになって、大騒ぎになってたんだ。三日連続でダンジョンで大金星。今日は勇者も抑えて一面トップだったぞ」

「マジ?」

 

 全然、気づかなかった。

 

 それどころじゃなかったからだけど。

 

「大袈裟じゃない? ユニークモンスター1匹くらいで」

「そいつが、迷宮騎士団を壊滅させたレベルのバケモンじゃなければな」

「えっ、なにそれ」

「お前が戦う前に、迷宮騎士団が奴とやり合ったんだ。で、20人くらい死傷者を出して取り逃した。それをプリムノヴァが仕留めた。これは表に出てない情報だぞ。騎士団が情報を隠蔽してるんだ」

 

 なに、その陰謀論みたいなの。

 

 まさかあいつがそんなヤバい奴だったとは。

 

「えっ、待って。じゃあジンはなんでそれ知ってんの?」

「んっ? あぁ、そりゃ俺の親父がダンジョンマスターだからな」

「あー……」

 

 なるほど、ダンジョンマスターだったのか。

 

 それなら納得……。

 

「……え。ダンマス? お父さんが?」

「は?……まさかお前、知らなかったのか?」

「全然」

「お、お前……呆れた奴だな。まさか知らずに俺のこと助けたのか?」

「いや、ミミックから尻が生えてたら気にならない? 誰だってさ」

「……ハッ、道理で親父に会わせろとか言わないわけだな」

 

 ジンは呆れながらも、どこか嬉しそうな様子だった。

 

「ともかくそのツテで知ったんだ。で、迷宮騎士団は表彰をするためとかなんとか理由をつけてお前を探してんだが……大方、口封じしたいんだろ。あるいは手柄を寄越せって言ってきそうだ」

「あぁ……そういう話? まぁ、私は別にいいけど」

「……ヒロ、お前な。マジでそういうとこだぞ」

「?」

 

 なんだ。どういう意味?

 

「素材は貰ったし、私も別に目立ちたくないし。win-winじゃない?」

「……お前、もしなんか契約とか結ばされそうになったら、絶対俺に連絡入れろよ。契約書とか読まないタイプだろ」

「なぜバレたし」

 

 長いじゃん。契約内容とかアレ色々。

 

 面倒臭いし読み飛ばすタイプだ。

 

「自分が狙われてるって自覚あるか? これから騙そうとしてくる大人なんていくらでも寄ってくるぞ」

「ま、考えとくよ」

「“考えとく”じゃねぇ。絶対呼べって……」

「っ!?」

 

 会話の最中、突然ジンがずずいと距離を詰めてきて。

 

 思わず息を呑んで距離を取る。

 

「……ご、ごめん」

「……そんなに俺のこと信用できないか?」

「ち、ちがくて」

 

 ヒロトの反応に傷ついたように肩を落とすジン。

 

 決してそんな顔をさせたかったわけじゃない。

 

「何が違うんだよ。どう見たって今の反応は信用できない奴が近寄ってきた時の反応だろ」

「だから、ちがうって。 いきなりだったからびっくりしただけで…!」

「もういいって。最初からわかってたことだよ」

「ちょっと、ジン!」

 

 ヒロトの先を走り出してしまうジンを追いかけようと足を踏み出して。

 

「あっ……」

 

 ブローチが点滅し始める。

 

「嘘、もう10分経ったの……!?」

 

 残り時間、わずかのサイン。

 

 まずい、貴重な変身だったのに。ヒロトとジンが追っ手から隠れていた時間で、大半を使い切ってしまった。

 

 軽率だった……と反省する暇もなく。

 

 全身が光に包まれ。

 

 ドレスが消える。

 

 ヒロトは気づけば元のパーカー姿になっていた。

 

「……変身時間は変わらないか」

 

 スキルの時間が伸びて、もしかしたらと思ったけど。

 

 そんな上手い話はないみたいだ。

 

「……待って。じゃあドレスは」

 

 スキルより先にドレスが解除されてしまった。

 

 まさか、と『収納袋』の中を漁る。

 

「ドレスがない……」

 

 予想通り、やっぱりドレスは消えていた。

 

 落胆と危機感が同時に胸に募り、そういえば回復薬の方は在庫あったっけ……と袋の中を漁り。

 

「うん……?」

 

 指先に、触り慣れない硬い感触。

 

 取り出して確認すると。

 

「……ブローチ?」

 

 それは、変身時に胸を飾っていた『魔法少女のドレス』のブローチだった。

 

「なんでこれだけ残って……」

「おーい、ヒロ! いつまでそこで……」

 

 声に顔を上げて、ヒロトはブローチをジンに見せた。

 

「ジン、なんかこれ……」

「ヒロッ!!」

 

 そこからの光景は、まるでコマ送りのように流れた。

 

「えっ?」

 

 駆け寄ってきたジンが、ヒロを胸の中に抱きすくめて。

 

 気づけば、体が宙に浮いていた。

 

「──!?」

 

 わけもわからぬまま、まるで洗濯機の中を丸洗いされるような……そんな激しい動きに襲われて。

 

 ただヒロトを抱きしめる感触だけが残っていた。

 

「げほっ、げほ……!」

 

 丸洗いのあと、気づけばヒロトは地面に投げ出されていた。

 

「ジン! 何が……」

 

 むせ込みながら、そばに居たジンの姿を探して。

 

「……」

 

 地面に広がっていく、赤黒いシミを見た。

 

 そのシミの中心に倒れる、一人の男の子の姿も。

 

「……ジン?」

 

 呼びかけに答える声はなく。

 

「うむ。やはり魔法少女の姿は時間制……今は使えない。間違いないようだね」

 

 代わりに、カツ、カツという硬い足音が近づいてきていた。

 

「一昨日ぶりかな? プリムノヴァ。いや……ヒロと。そう呼ばれていたようだね。彼には」

 

 地面に倒れる、彼の体を跨いで。

 

「大人しく我々の仲間となっていれば、こうはならなかったのにね」

 

 ……優しい声と身振りをするだけの、悪魔のような男がヒロトの前に立った。

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