産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「ジン」
倒れるジンの体に向けて伸ばした手が。
間に挟まれたブーツによって遮られる。
「安心するといい。そこの彼はもう死んだが、死後間もない状態であれば“聖女”様の奇跡で蘇る」
「奇跡……」
「最も彼が生き返った時、その頭の中から君の記憶は消えてしまっているだろうがね」
カスパルは残念そうにゆるゆると首を振った。
死者を蘇らせる事ができるという、最上位冒険者の一人である聖女の奇跡。
蘇りの代償に捧げるのは、生き返らせる者の生前の記憶だと言う。
もしそんな奇跡が本当にあるなら、ジンは生き返る。
だが、ジンともう一度会えたとしても、その時はもうヒロトのことを覚えてはいない。
「ふざけ、るな」
「うん?」
「まだジンは死んでない……!」
そんなのクソ喰らえだ。
絶対に認めない。
カスパルの背後のジンの胸は、僅かに上下している。
まだ間に合う。
「……時には現実を見る必要がある。冒険者なら特に」
「黙れ」
「やれやれ。その現実逃避が、彼を殺してしまったのでは?」
「……」
現実逃避が、ジンを殺した?
ヒロトがジンを殺した?
「違う! 殺したのはお前だ!」
「それはただの結果だ。君に出会わなければ、本来の彼は幸福に生きられたんだよ」
「うるさい!!」
右手を構え、魔法を放つ。
影の矢が飛び出してカスパルを狙う。
「おっと」
カスパルは、風のシールドを掲げて防いだ。
「……やっぱり、変身できないと」
今のヒロトの体も、相応にステータスは高いはずだが。
魔法少女の姿でないと、どうしても見劣りする。
そしてそれ以上に。
「無茶をしてはいけないよ? 両親からもらった、大事な体なのだから」
こいつ、強い。
歯を食いしばって睨みつける。
「ふふ、怖いね……怒りに震える女性というのは。特に、愛する男性を傷つけられたとあっては尚更か」
「ジンは友達だ」
「変わらないさ。君をこれから“あの方”の元へ連れていくというのもそう。何も変わらない」
「!」
突風が吹き、ヒロトの体が飛ばされる。
「ぐぅっ!」
壁に背中から叩きつけられて、肺から空気が漏れる。
あいつに近づけない。
こうしている間にも、ジンの体はどんどん弱っているのに。
「少年のために傷つきながら戦う少女……君は本当に絵になる。外見だけでなく、心まで清らかだ。その上で強く、可憐な姿にもなれるのだから」
「お前に褒められても、何も嬉しくない」
「構わないさ。君はこれから幾万の人間に讃えられることになっても、その神輿に乗せられる様な人間であってはいけないのだ」
「さっきから、何の話?」
「君はあの方に捧げるに相応しい子だ。という話だよ」
「意味がわからない」
“捧げる”とか、神様へのお供え物にでもするつもりか?
だとしたら、神様も困るだろうな。こんな女の子の見た目しただけの根暗男が捧げられたら。
いや、こいつが信じるような神なんて碌なもんじゃないだろうから、意外とお似合いか?
どうでもいいや。
「“ウィンドボム”!」
今はとにかく、こいつに集中しないと。
小さな球状の風魔法が宙を漂い、こちらに向かってくる。
「!?」
回避のために真横へ飛んだが、風の球はヒロトを追ってグインと進路を曲げてきた。
まさに爆風と呼べる風圧がヒロトの体を叩く。
「ぐっ、うぅ!」
全身を風の刃が襲い、装備が切り裂かれていく。
こんなもの、変身してたら何も痛くないのに。
生身で食らうと、ちゃんと痛いし威力も高い。
「かはっ」
風で飛ばされ、再び壁に叩きつけられる。
「抵抗はしないでくれると助かるよ。君を出来るだけ傷つけたくはない。大人しくしてくれていれば、何も手荒なことなどしないさ」
「……よく言うよ。『スキル』で隠れて、ずっと後をつけ回してた癖に」
「……驚いたな。気づいていたのかい?」
「気づかない方がおかしい」
この逃走劇が始まる前、最初に私とジンを攻撃した見えない攻撃。
あれは風魔法だった。見えないところから飛んできた風魔法。
そしてそれは、さっきジンを襲ったものと同じ魔法だ。
「『透明化』……それか『気配遮断』? そういうスキルでしょ」
「当たらずとも遠からず。安心したまえ、君のことは警戒している。口を滑らせたりはしないさ」
「あっそう」
ご丁寧にどうも。
だが、隠密スキル持ちならこうして姿を現したのは……やっぱりヒロトが『変身』できないことがバレているからだろう。
ドレスはもうないのだから。
『収納服』を後ろ手で漁る。
「……」
取り出したのはブローチだ。プリムノヴァの胸元を飾っていたのと同じデザイン。
『魔法のブローチ』
魔法を使い果たした不思議なドレスは眠りにつき、少女が再び愛を胸に立ち上がるその時を静かに待っている。
ドレスは効果を失い、変身能力は失われた。
『魔法少女のドレス』は一度のみの使い切りだった。だからあんなに常識はずれな性能をしていたんだ。
それを、スキルの仕様の抜け道を突いて使い続けるズルをしたのがヒロトだ。
ズルして得た力で、今までヒロトは戦っていた。
……そのズルの代償を支払ったのはヒロトじゃなく、ジンだった。
「最低だな、
自分のために、他人を騙して。
人を助けられる力を持ってたのに、目の前で友達を死なせた。
ズルズルと、足から力が抜けて壁にもたれかかる。
「そう。そうして無抵抗でいなさい。そして“陰陽玉”をこちらへ渡しなさい」
カスパルはヒロトを見下ろしながら、そう言って内面の醜悪さを感じさせない穏やかな笑顔で言った。
「“陰陽玉”……?」
「あぁ、君がユニークモンスターから取り出したコアだよ。あれは絶大な魔力を秘めていてね。取り込んだのがカマイタチだからまだ良かったが……もっと強力なモンスターだったら、取り返しのつかないことになっていた。だから回収しに来たのさ」
「……はっ、そんな理由で襲ってきたの?」
「私たちにとっては一大事さ」
そんな理由で、ジンは死んだのか。
あんな石ころのために。
「勿論、君自身も回収の対象だ。何度でも言うがね、ユニークモンスターを単独撃破。モンスターハウスを一人で殲滅……そんな力が、野放しなんてことはあってはならないんだよ。絶対に」
「買い被りだよ」
カマイタチはジンがいたからなんとかなったんだし、モンスターハウスを生き残れたのもヒカルくんのおかげ。
ヒロトは大したことはしていない。持たされた力を振るっただけだ。
「あれだけの活躍をそんな風に言えてしまう君だからこそ、私は“騎士団”に君を勧誘したんだがね。生憎、フラれてしまったから。本当に残念だ」
「ストーカーはお呼びじゃないんで……」
今になって思う。
あの時、こいつの誘いに乗らなかったのは大正解だ。
“迷宮騎士団”が揃いも揃ってこんなイかれた連中だとは思わなかった。
陰陽玉だの、騎士団だの、清らかな心だの。
こいつらの薄気味悪い思想に付き合わされるのはまっぴらごめんだ。
そんなことになるくらいなら。
「……? 何をしている?」
ヒロトは『収納袋』に手を入れ、二つの球を取り出した。
「陰陽玉って言うんでしょ、これ」
手のひらの中で転がる二つの球体。
右手に白と黒、二つの玉を握り。
──左手にはブローチを握る。
「……まさか!」
この玉が、絶大な魔力を秘めてるって?
上等だ。
魔法を使い果たしたと、やる気のないドレスにガソリンを注入してやる。
“魔法少女”なんだろう。完璧な正義のヒーローの装備なんだろう。
「だったら、モンスターの心臓くらい喰らい尽くしてみろ」
「やめなさいッ!!」
カスパルが突風を放ち、目前に嵐のような暴風雨が迫る。
それが届く直前に、ヒロトは陰陽玉を口元へと持ってゆき。
──飲み下した。
「!?」
カッ、と胎の奥がマグマのような煮えたぎる熱を発する。
「あ、ああっ!!」
熱は血流を伝って全身を巡り、灼熱のプールに落とされたような心地だ。
「な、なんてことを!」
熱は際限なく溢れ、全身に激痛が走る。
ヒロトが今、立っているのかも座っているのか、生きているのかもわからない。
それでも。
左手に握った“何か”が、ドクンと脈動したのを感じた。
全身の熱が、左手へと集まってゆく。
「これは……まさか……!」
そして、左手に集中した熱は……溶けて、ヒロトの中に入り込み。
ヒロトの体の中心、胸の中心へと集った。
「“スキル進化”か!?」
全身の熱が、一箇所に。胸の中心に集まり。
『性転換』
↓
『
──ひとつとなった。