産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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14 プリムノヴァ・ブラン

変身少女(メタモルフォーゼ)

 

愛と魔法の力で戦う伝説の戦士へと姿を変える。

 

変身者は戦士に最適化された肉体となり、全ステータスに肉体適応率に応じた補正がかかる。

 

 

ふしぎな衣装部屋(クローゼット)

 

魔法の扉を開けて、自分だけの衣装部屋に入ることができる。衣装部屋では“ドレスアップ”を行うことができる。

 

 

「そ、その姿は……!」

 

 熱が体中を巡って、一体化して、ヒロトの背は少し高くなった。

 

 小柄だった背は伸びて、少女から大人の女性の体に。

 

 背中まで伸びる髪はさらさらとした艶のある黒色で、風を受けて優雅に靡く。

 

 一番目に見えて変わったのが体のライン。

 ハッキリと女性的な曲線を描くその体は、どこか中性的な印象があった今までの体とは一線を画していた。

 

 男に戻れるかどうかもわからない。

 

 だからこそ。

 

「もっと強そうな見た目が良かったんだけど」

 

 ヒロトの喉が、綺麗な音色のようなソプラノボイスを奏でる。

 

 どこをどう切り取っても、完璧な美女の姿となったヒロトは内心の苛立ちを目の前の男に向けた。

 

 そして本能的に理解したが、この体にもう時間制限はない。進化したスキルは半永久的にこの体を持続させる。

 

「う、美しい」

「黙れ」

 

 成長したヒロトの姿を、両手を広げて大仰に褒め称えるカスパル。

 

「とても美しい。だが、それだけに惜しい。その美しさ、正しき場所で輝かせば君は至高の美姫として讃えられるだろうに」

「興味ない」

 

 吐き捨て、冷たく見下ろす。

 

 こんな体になってしまったが、ヒロトは持て囃されるためにここに居るんじゃない。

 

「私は冒険者で……」

 

 そして今は。

 

 友達を傷つけられてブチギレてるだけの。

 

「魔法少女だから」

 

 胸と一体化した、ハート型のブローチをタップする。

 

「変身」

 

 ブローチから光輝くリボンの帯が飛び出る。

 

 リボンは胴体から腕先、足先まで伸びて全身を包み込んだ。

 

「させないよ」

 

 リボンに包まれたヒロトの体を切り刻まんと、カスパルが風の刃を放つ。

 

 だが、刃はリボンに弾かれて無効化された。

 

「バカな!?」

 

 魔法は効かない。

 

 殴っても効かない。

 

「攻撃無効化……そんな理屈が通るか!」

 

 理屈じゃない。 

 

 少しでも映像の中の魔法少女を見た事があれば、誰でも知っているただの“現象”。

 

「知らないの? 魔法少女の変身シーンは……」

 

 リボンが解かれ、フリルとリボンで彩られた魔法のドレスが姿を表す。

 

 黒髪が光り輝き、巨大なツインテールへと変化する。

 

 瞳の中に星が輝き、反射した視界に驚愕する男の姿が映り込む。

 

「絶対に邪魔できないんだよ」

 

 完璧で、清廉で、最強のヒーローなんて。

 

 なんでもない学生のヒロトには荷が重いが。

 

「魔法少女プリムノヴァ、参上」

 

 今だけは、最強のヒーローのフリをしよう。

 

 

「何故だ、変身時間はすでに……! くっ!!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔のカスパルは、杖を掲げて叫ぶ。

 

「迷宮騎士団を舐めないでもらおうか!」

「!」

 

 掲げた杖の先端に備えられた翠玉色の宝玉。

 

 宝玉が光り、溢れ出したのは薄い緑の波動だ。

 

 波動を身に浴びた途端、魔力で僅かに地面から浮き上がっていた体が沈んでいく。

 

「“封魔の宝玉”……」

「ご存知でしたか。だが知っていたところでどうにも出来ないでしょう。私たち迷宮騎士団を前に、魔力を操ることは叶いません。()()()()

 

 迷宮騎士団は、犯罪を犯した冒険者の鎮圧も担当する。

 

 故に彼らは冒険者を無力化するための力を備えている。

 

 噂には聞いていたけど、事実だったようだ。

 

「ふん」

 

 それなら。

 

 魔法を使わなければいいだけだ。

 

「“プリマスターフィスト”」

「なに!? 魔導具か!? どこから!」

 

 どうやら、スキルが進化したのと同時に。

 

 『収納袋』の中身もスキルに統合されたらしい。

 

 今のヒロトは、いつでも武器を取り出すことができる。

 

 ……それだけじゃ終わらない。

 

「!」

 

 プリマスターフィストを装備した瞬間、体が光に包まれて。

 

 ドレスが白く染まった。

 

「な、なんだその姿は!?」

「うん?……うん」

 

 ピンクを基調にした普段の姿とは異なる、真っ白な姿。

 

 なんだろ、これ。

 

 マジで何??

 

「プリマノヴァ……ホワイト、いや、“ブラン”かな」

「ブラン……?」

「“プリマノヴァ・ブラン”」

 

 名乗りを上げる。こういうのは、名前をつけるのが大事だ。

 

 はい、プリマノヴァ・ブラン。決定。

 

「ふざけたことを……“ウィンド・ストーム”!」

 

 走り出したヒロトに、風の刃が荒れ狂う嵐が迫り来る。

 

 いや、迫ってくるというのは大きな嵐だからそう感じるだけで、実際にはそこに留まっている。

 

 壁代わりにして、距離を取らせようって意図が見える。

 

 それなら。

 

「な、何!?」

 

 正面から突っ込むまでだ。

 

 全身を切り裂かれながら、嵐を突破する。

 

「なんて滅茶苦茶な……!」

「マジカルアッパー」

「!」

「からの腹パン」

「ぐぼほぉっ!?」

 

 顎をカチ上げる左アッパーを叩き込み、間髪入れず右ストレートで腹部を直撃。

 

 卑怯とは言うまいな。

 

「がっ……ぼうえぇっ……!?」

 

 蹲って地面に胃の中身を吐くカスパル。

 

「内臓も全部出させてあげる」

「く、来るな!?」

 

 追撃のために距離を詰めると、体を胃の中のもので汚したまま後ずさる。

 

 汚いな。ドレスが汚れたらどうするつもりだろう。

 

「これで終わりだと……ん」

 

 一歩を踏み出すと同時に、振り上げた右手を見て気づく。

 

「傷が治ってる……」

 

 さっき、魔法に切り裂かれたはずの傷がすっかり癒えていた。

 

 確かに魔法少女は治癒力も高いが、これほど早く回復したりは……。

 

「もしかして、この衣装の効果……?」

 

 ヒロトが身につけた白い衣装……プリムノヴァ・ブランは、どうやら身体性能が向上して近接特化となっているようだった。

 

 加えて、魔法に対する抵抗力が強く、体を巡るように膨大な魔力が渦を巻いている。

 

 いや、これは魔力というより……。

 

「……」

「ひぃっ!?」

 

 ヒロトはカスパルに歩いて近づき。

 

 大慌てで通路の隅へと飛びずさったカスパルを無視してさらに歩く。

 

「……ジン」

 

 そうして、ようやくジンの側に来れた頃には、彼はすっかり肌も青白くなり微動だにしなくなっていた。

 

 時間をかけすぎたのだ。

 

「ごめんね」

 

 ヒロトは膝上にジンの頭を乗せ、胸に手を当て……体の中を巡る膨大なエネルギーを注ぎ込んだ。

 

 ジンの体が白い柔らかな光に包まれ……そして、傷が癒えていく。

 

「やっぱり、そうだ」

 

 この体を流れる力は生命力。これが全身を巡っているおかげで、今の姿のヒロトは異常な再生力と頑丈さを持っているようだ。

 

 もしかしたら、これもあの“陰陽玉”のおかげなのかもしれない。

 

「もっと早く気づけてたら……!」

 

 ヒロトがもっと早く覚悟を決めて、それこそ、ジンがやられた瞬間に……いや、それよりもっと早く。

 

 カマイタチを倒して、すぐにこれを飲み込んでたら……この力で、ジンがこんなに冷たくなる前に、助けてあげられたのに。

 

 いや、『収納袋』の中の回復薬の在庫を切らしたのが不味かった。もっと稼いで、買い溜めておけば……そうすれば、ジンは。

 

「私の、せいで」

 

 俯き、こぼれた涙がジンの頬に落ちる。

 

 涙が頬を流れる。

 

「……なわけあるか」

 

 そんな流れていく涙を。

 

 拭う指先があった。

 

「ジン!?」

「お前のせいなわけ、あるかよ」

 

 目を開けたジンが、優しく笑っていた。

 

「ジン! よ、よかった……よかったよぉ……!」

「あぁ……クソッ、なんなんだよ……体中クソいてぇのに……」

「動いちゃダメ! 傷が……」

 

 目を虚に開けたジンが、ヒロトの目をぼんやりと見つめて。

 

 眩しそうに目を細めた。

 

「死ぬほど、可愛くなってんじゃねぇか……」

「──」

「変身する瞬間、見たかっ、た……」

 

 頬に添えられた手から、くたりと力が抜ける。

 

「ジン!?」

「……」

「気絶……」

 

 慌てて抱き抱えると、健やかな呼吸音が聞こえた。

 

「……もう、心配したのに」

「……」

「馬鹿なことばっかり」

 

 添えられた手が崩れ落ちないように、ヒロトの手で優しく包む。

 

「あとでいっぱい、見せてあげるから」

 

 眠りについたジンの耳元で囁いて。

 

 目元を優しく撫でる。

 

「ふぅ」

 

 安心したら気抜けちゃった。

 

 あっ、早くカスパルにトドメ刺さないと……。

 

「しくじったようだね。カスパル」

 

 立ち上がり、振り返ったその時。

 

「あ、あぁ……!」

 

 気づくとカスパルの傍に、見たことのない人影が立っていた。

 

 背の高い男だ。黒いスーツに、長い金髪。額からは山羊のようなツノが生えている。

 

「誰……?」

 

 男はこちらに背を向けて、顔は見えなかったが。

 

「お、お許しを。ルシ……!」

 

 男を前にしたカスパルは酷く怯えた様子で。

 

「悪い子だ」

 

 パァン、という乾いた破裂音。

 

「……え?」

 

 カスパルの頭が。

 

 風船が割れるみたいに破裂した。

 

 あたりに飛び散る、肉片と血飛沫。

 

「──初めましてだね。プリムノヴァ」

 

 カスパルに手を翳し、それをしたと思われる男は。

 

 破裂したはずの肉片も返り血も、一切浴びることなく立っていて。

 

「私はルシファー。冒険者だ。今日は君に会いに来たんだ」

 

 見ただけで誰もが安心してしまいそうな、柔らかい笑みを浮かべたのだった。

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