産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「まずは謝罪から入らせてほしい。私の部下が、君にとんだ無礼を働いたようだ。すまなかった、どうか許して欲しい」
「……部下ってことは、迷宮騎士団の、偉い人?」
「一応、総合代表を務めさせてもらっているよ。騎士団のトップと言ってもいい立場かな。僭越ながらね」
金髪のお兄さん……ルシファーは、懐から名刺を取り出して渡してきた。
“迷宮騎士団本部 総合代表 ルシファー”
「ルシファー……」
「もしかしたら、私の名前も聞いたことがあったりするのかな? だとしたら光栄なことだ」
彼は朗らかにそう言って笑った。
だけど、それがただの謙遜でしかないことはよくわかっている。冒険者どころか、一般人にもその名は広く知れ渡っている。
至高の十人。桁外れの功績を挙げた最上位の冒険者である“十冠”と呼ばれる冒険者たち。
頂点に君臨する“勇者”を除けば……その男は十冠でも迷宮踏破数、ユニークモンスター討伐数、ボスモンスターMVP獲得率最多。
十冠、“第二位”。
“深淵のルシファー”。
それが今、ヒロトの目の前に立ち圧倒的な存在感を放つ男の名前だった。
冒険者以外にもビジネスを色々やっていたのは知っていたけど、まさか迷宮騎士団の関係者……それもトップだったなんて。知らなかった。
「……」
こうして対峙してみて、改めて感じる。
今のヒロトでは、逆立ちしても勝てそうにないという現実が。
もしヒロトが凡庸な冒険者だったら、力の差を感じ取ることすらできなかっただろう。
それほどまでにルシファーは、その身に宿す膨大な魔力を完璧に制御している。
プリムノヴァに変身して、一応は上位の冒険者相当の感覚を持っているからこそ、その桁違いな実力に気づけるのだ。
「そんなに警戒する必要はないよ。君に危害を加えるつもりはない。直接会って、話がしたかったんだ」
「……カスパルが言ってた“あの方”っていうのは、あなたのこと?」
「あの方……まったく。カスパルはまだ私のことをそんな呼び方で? 困ったものだよ。彼は優秀なのだが、私への忠誠心のためか、暴走する所があってね。今回はそれが最悪な形で裏目に出てしまった」
ルシファーはゆるゆると首を振った。
まるで、聞き分けのない子供に困らされる親のような仕草だが。
「だから、殺したの?」
たった今、ヒロトの目の前で起きた光景は決してそんな平和なものじゃなかった。
ルシファーは、自分を慕っていた部下であるカスパルを殺したのだ。
「そうだね、躾の一環だ。“聖女”がそばに居ると、命の価値があやふやに感じてしまってね。驚かせたならすまない」
「私に謝られても、困る」
「おや、意外だね。君は彼を恨んではいないのかい?」
「恨んでるというか……」
間違いなくカスパルは敵だった。それは間違いない。
ジンのことも、殺そうとしたし……。
いや、そうか。ジンのこと殺そうとしたのかアイツ。じゃあダメだ。
「うん、恨んでるし嫌い。死んでも悲しくはないかな」
「はは、正直だね。まぁ、君が受けた仕打ちを考えれば当然……」
「だけど、部下を殺して笑ってるあなたも不気味」
ルシファーは笑顔を保ったまま、わずかに目を見開いた。
何もされていないはずなのに、その一動作だけで息が詰まるような威圧感を覚える。
「カスパルへの罰は、君への贖罪代わりでもある。私は出来れば、君と良好な関係を築きたいと考えているんだ」
「だったら、カスパルへのトドメは私にやらせて欲しかった。横からいいとこ取りをされて、消化不良」
「……君、思ったよりもいい性格をしてるね?」
ルシファーが苦笑して、ゆっくりとこちらに向き直る。
初めてヒロトを正面から見つめてきたのだ。
「私は君を過小評価していたようだ。まだ学生と思っていたが、ずいぶん達観した物の見方をしているね。良いことだ。私にとってもその方が望ましい」
「!」
ルシファーはヒロトに歩み寄り……そして。
右手を差し出した。
「私に、君をプロデュースさせて貰えないだろうか。プリムノヴァくん」
*
「……ん、ぅん」
「あ、起きた」
転移門広場。
冒険証を眺めていると、ジンの瞼が揺れて目を覚ました。
顔を覗き込んで、目を合わせる。
「怪我の具合はどう? 動けそう?」
「……」
ジンは虚な目で、ヒロトをぼーっと眺めると。
「……誰?」
と言った。
「ふんっ」
「いっふぁ!? ふぁひふんは!!」
「ふざけたこと言う口を懲らしめてる」
ジンの頬を引っ張り、つねりあげる。
子供のような喧嘩だが、これも冒険者のステータスでやれば死人を出すのが恐ろしいところだ。
「……ヒロ、ふぁ?」
「それ以外誰に見えたの?」
「ひふぁ……いっ、づ」
寝ぼけていた頭がようやく回り出したのか。ヒロトの顔を見て呆然とするジン。
頬を離して、釈明を聞く。
さぁ、言いたまえ。一体どんな聞き苦しい言い訳が飛び出すのか……。
「……いや、綺麗になりすぎだろ。全然気づかなかった」
「……」
……。
…………。
「ふんっ」
「むぐぅっ!」
「それでも気付け」
ムギュッと手のひらで顔を挟んで圧迫。
確かにスキル進化の影響で、髪の色も身長も……他の部分も色々と変わったが。
友達の顔を忘れていい理由にはならない。
「ぎ、ギブギブ。ヒロ、死ぬ。死んじゃうって。こ、殺す気か」
「はぁ? 殺すわけないじゃん」
「ぶはっ、息吸える……!」
太ももから解放すると、思い切り深く息を吸うジン。
「落ち着いた?」
「ふぅ……おう。助かったわ。助かった……」
笑顔を浮かべたジンの顔が、右腕を見下ろして、途端に曇る。
そして右腕を抑えながら震え出した。
「ど、どうしたのジン。お腹痛い?」
「……ヒロ。俺を襲ったアイツは……」
「……カスパルなら、大丈夫。私が倒して……」
「倒したのは、ルシファーだったよな」
「……気づいてたんだ」
あぁ。
あの時、ジンはちゃんと起きてたんだね。
「ルシファーのことは……親父から聞いたことがある。欲しいもん手に入れるために、何でもする男だって」
「……」
「アイツに、何された」
ヒロトは首を横に振った。
「何もされてないよ」
「嘘つけ。そんなわけあるか」
「本当に何もされてないって……ふぁっ!?」
ガッと肩を掴まれ、目を覗き込まれる。
大きくてがっしりとした、男の人の手だった。
男の時のヒロトよりも、ずっと逞しい腕だ。
「か、顔ちかい……!?」
「気つかってんのか? それとも俺に言えないことでもされたのか……!?
「ど、どっちも違うって! ただ、“プロデュースさせてくれ”って言われただけで……!」
「……プロデュース?」
必死に弁明すると、ジンが息が掛かるほど近づけてきた顔を離す。
あー、ビックリした。心臓バクバクだ。ジンに触れられると頭真っ白なる……。
「アイドルにでもなれって?」
「ううん、冒険者としての活動をサポートする……みたいな感じらしいよ。消耗品とか、武器とか、お金の面も」
「……そりゃ、“十冠”のバックアップがあれば、冒険者としては安泰中の安泰だが……」
ジンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……もう、今となっちゃこう言うことしかできないが。気をつけろよヒロト。ルシファーは黒い噂も色々聞く。なんか、変なことされそうになったら……!」
「わかった。今度会ったら気をつけるよ」
「今度会ったら、ってお前。お前のバックにルシファーがつくんなら何回もアイツと会う羽目に……!」
「うん? 断ったよ?」
「……は?」
ジンがキョトンとする。
私も首を傾げる。
「だから、プロデュース。断った。“必要ありません”って言ったよ」
「……“第二位”の冒険者の、オファーを?」
「うん」
「直接、勧誘されたのに?」
「うん」
「……なんで」
心底理解できない、という顔のジンに……今度はヒロトの方が呆れてしまう。
どうしてこんな当たり前のことをわざわざ言わせるのか。
「だって私のバックアップは、ジンがしてくれるでしょ?」
それなのに。
十冠だろうが、その席を譲るわけにはいかないだろう。
「……はっ?」
それを聞いたジンは、間抜けな顔をして固まった。