産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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16 変わらぬ日常と変わった日常

「ふっ……ふぁ……」

 

 朝、目が覚めて。

 

 ベッドから降りた。

 

「あっ」

 

 立ち上がる時、自然と内股になっているのに気づいて頭を掻く。

 

「男に戻ったの久しぶりだな……」

 

 苦笑しながら立ち上がり、シャツを押し上げることがない平らな……ほんのわずかに盛り上がった胸を見て、ふぅと息を吐く。

 

 スキルが『変身少女(メタモルフォーゼ)』に進化したことにより、ヒロトは任意で男性体と女性体を切り替えることができるようになった。

 

 制限時間はない。

 

 男の……元のヒロトは、前より少し髪が伸びるのが早くなって、肌や髪質が変わって、線が細くなった。

 

 今はまだその程度の変化だが、これからスキルを使っていくごとに、この体がさらに女体化していく可能性は充分にある。

 

「ふっ、ふっ……」

 

 それを少しでも遅らせるため、ヒロトは筋トレを始めた。

 

 筋肉をつけ、男らしさを身につければ、ある程度女性化を抑止する効果があるのではと踏んだわけだ。

 

 と言っても、スキル獲得前の普通の冒険者だった頃から自主トレはしていたので、やることは然程変わらない。

 

 ただ、トレーニングの目的が変わっただけだ。

 

「『性転換』」

 

 筋トレをしながら、ストレッチやヨガなどの柔軟を女性体で行う。

 関節の柔らかさは女性体の方が優れている。筋トレを男性時に、柔軟を女性体でやることでいいとこ取りをするわけだ。

 

 男と女をシームレスに切り替えることができるようになったメリットは大きい。素晴らしいスキル効果だ。

 

 「〜♪」

 

 運動を終えた後、体を拭くときは男の体だ。

 女と比べて体に凹凸が少ないし、肌質も繊細じゃない。多少雑に扱っても荒れたりしないのが素晴らしい。

 

 そうして体を清めたら今度は女に。

 

「鶏肉ある〜」

 

 キッチンに立ち、作り置きしておいた食材で軽く朝食を作る。

 

 台所に立つ上で性別は関係ないと思うかもしれないが、これが何故か女の姿でいる方が捗るのだ。理由はわからないが、母性本能をくすぐられたりするのだろうか。

 

「よいしょっと」

 

 朝食と一緒に、弁当箱も用意する。

 

 なお、“二人分”だ。

 

「いただきます」

 

 今日の朝食は、自家製サラダチキンときゅうりの塩漬け。ヨーグルトを添えて。

 

 ヒロトは鶏肉を好んで食べる。高タンパクかつ低脂質で、消化吸収にも優れているから……というより、普通に味が好みだからだ。鶏肉大好き。

 

「ごちそうさまでした」

 

 食べ終わり、食器を片付けて洗っておく。

 

「さて、と」

 

 登校時間までまだ少しある。

 

 こんなときは。

 

「よいしょっと」

 

 スマホを取り出し、メッセージアプリを起動。

 

 以前までは起動することも殆どなかったアプリだが、最近は毎朝確認している。

 

「まだ起きてない」

 

 起きてすぐに送った『おはよう』のメッセージに既読が付いていないことから、まだ相手が寝ていることを確認して頬が綻ぶ。

 

『今日もお弁当作ったよ』

 

『放課後、いつものとこね』

 

「あっ、既読ついた」

 

『ありがほ』

 

「ありがほ……って、なにこれ。へんなの。ふふっ」

 

 返ってきたメッセージが、明らかに寝ぼけたまま送られてきたものだとわかって思わず笑みが溢れる。

 

 返ってきたメッセージを、指先でなぞり……。返事を入力する。

 

『す』

 

「……」

 

『すぐにきてね』

 

 メッセージを送信。

 

『わかった』

 

 また、すぐに返信。

 

『絶対だよ』

『絶対いく』

『よろしい』

 

「よし」

 

 やる気フルチャージ。気合い十分だ。

 

「行くぞっ!」

 

 そうして。

 

 ヒロトは今まで、憂鬱でしかなかった学校への道を歩いて行くのだった。

 

 

「おっ、やってる。“ダンジョン配信”」

「あ、マジだ。どんな感じ?」

「んー……プリムノヴァはいねぇな」

「当たり前だろ。6層じゃ浅すぎだよ」

「なんだよー。一回も生で見れねぇじゃんかー」

 

 東迷宮高校は、ダンジョン内であんな大事件が起きてもいつも通りの変わらぬ日々が過ぎていく。

 

 それもそのはずで、あの日起きたヒロトとジン、迷宮騎士団、そしてルシファーを巻き込んだ事件は……。

 

 無かったことになったからだ。

 

『おい……なんでそうなる!? アイツらお咎め無しかよ!?』

『代わりに、ルシファーさんが今後はこんなことが絶対に起きないようにしてくれるって』

『お前、それを信じられるって本気で思ってんのか? だとしたら……』

『わかってる。わかってるよ、でも』

 

『この事件を公表するんなら、私は“プリムノヴァ”にならなきゃいけないじゃん』

 

「……」

 

 先日交わしたジンとのやり取りが脳裏に蘇る。

 

 誰かに責められたとしても、ヒロトはまだヒロトでいたかった。

 

「お前ら席につけー」

 

 窓の外を眺めていると、朝のHRが始まった。

 

「小林君」

 

 教科書を準備していると、横合いから不意に声がかかった。

 

「スマホ、しまわないと叱られますよ」

 

 声の主は隣の席に座る、黒髪を三つ編みでまとめた女子生徒。

 

 確か苗字は、黒井さんと言ったか。

 

「ごめん、黒井さん」

「い、いえ。謝って欲しいわけじゃ……」

 

 ヒロトが返事すると、黒井さんは少し目を見開いてそう言って。

 

 何かを言いたげに口をパクパクと動かした。

 

「……プリムノヴァ、好きなんですか?」

「え?」

「ニュースを、見ているようだったので」

 

 言われてスマホの画面を確認する。

 

「あぁ……」

 

 確かに、プリムノヴァのダンジョン速報が表示されている。

 

 迷宮騎士団の一件が世間に漏れ伝わっていないか確認するのも兼ねてチェックしていたのだ。

 

 そうでなくても、ダンジョン速報はいつも見るようにしているが。

 

「うん、まぁ、好きかな」

「そ、そうなんですね」

「うん……」

「……」

 

 それきり会話が途切れた。

 

 うん、陰の者同士の会話って、こうなるよな。

 

 

 昼休み。

 

 ヒロトは二つの弁当箱を持って、渡り廊下を歩いていた。

 

 この棟には、教室が集まっている建物とは程よく離れ、あまり使われることがない空き教室が多く存在している。

 

 教室の多くは鍵が閉められていて開かない。しかし、それでいい。開かないと思われていることが重要なのだ。

 

 ヒロトは首から下げたネックレスに繋がった、おもちゃの鍵のようなものを取り出した。

 

 一見、ファンシーかつ実用性に欠けるそのデザインは女児向けの玩具の鍵のような印象を抱かせるが、一方でその素材感はずっしりとした金属製であり、チープさを感じさせない。

 

 そんな鍵を、使われていない空き教室の鍵穴へと差し込む。

 

 ガチャリ。

 

 鍵が開く音がして、空き教室の扉が開いた。

 

 ただしそれは、学校内の多くの部屋に使われているスライド式のドアではなく、重厚な木造の造りの両開き扉で。

 

 それをヒロトは両手で開いて、中へと入った。

 

 木造の壁と床で覆われた、10畳ほどの広さの一室がそこに広がった。

 

 部屋の中でまず目につくのは正面にある三着の“ドレス”だ。

 

 ピンク。白。黒。フリル満点のファンシードレスが壁際のハンガーラックに丁寧にかけられ、存在感を放っている。

 

 次にその横には、ハート型の模様があしらわれていても隠しきれない物々しさを感じさせる“武器庫”があった。

 ガラスケースの中に収納されているのは“プリマスターフィスト”と“プリマスターロッド”だ。

 

 さらにその横には、光り輝く大きな“ミサンガ”が置いてある。今は動いていないが、その巨大さたるやこの空間の4分の1のスペースを占拠してしまっているほどだ。

 

 そして残ったスペースには、大きなラウンドテーブルとその上に敷かれた“地図”。キャスター付きの丸椅子が二脚。

 

 壁際にはブラインドをかけた棚があった。

 

 棚に近づき、ブラインドを上げる。

 

 中には、何着かの女物の普段着がかけてあった。

 

 ヒロトはそのうちの一着……胸元の大きなリボンが特徴の白いワンピースを手に取ると、その横に備え付けられた全身鏡に向き直り。

 

「『性転換』」

 

 女の姿に変わると、服を着替える。

 

 ワンピースを着た、黒髪の美女が緊張した面持ちで鏡に写っている。

 前髪を整えて、服のほつれを直す。くるりと回って全身確認。

 

 顔を覗き込む。うん、誰がどこから見ても完璧美少女。

 

「よし」

「何がよしなんだ?」

「んひゃっ!?」

 

 拳を握り込んで、笑顔で今日の仕上がりに満足していると。

 

 突然空間内に声が響いて、顔を上げる。

 

 バッと振り向く。

 

「ジン! びっくりさせないでよ!?」

「言われた通り、ちゃんと来たぞ」

 

 いつの間にか室内にいたジンが、指先でチリンと鍵を弄びながら立っていた。

 

 胸がバクバクと鼓動を早める。

 

 びっくりさせられたせいだ。

 

 絶対に。

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