産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「はい、お弁当」
「ん、ありがとう」
「ふふん〜」
お弁当を手渡ししてきて、何故かドヤ顔するヒロを見ながら。
ジンは「勘弁してほしい」という思いでいっぱいだった。
弁当を作ってきてくれたのが嬉しくない? 余計なお世話? 実はヒロの料理は美味しくない?
違う。全く違う。全部逆だ。
ヒロはこの世の誰よりも可愛くて、優しくて、家庭的で、世話好きで、料理も上手い。
笑えば可愛いし、笑わなくても可愛い。
声も仕草も可愛い。
もうぶっちゃけ息してるだけで可愛い。
だから勘弁してほしい。
言うまでもないことだが、ジンはヒロのことが好きだ。全身全霊で恋をしている真っ最中だった。
当たり前だろう。こんな女子が近くにいて、好きにならない男の方がどうかしてる。
いやダメだ。他の男がヒロを好きになるなんてあってはならない。絶対に。
「おいし?」
肘を立てて頬を挟み込みながら、タコさんウィンナーを食べるジンを見つめて聞いてくるヒロ。
「美味い」
「良かった〜」
美味い、と言うとふにゃりと笑う。
マジでふざけるなよ。
なんなんだ、この全身が可愛いで構成された生き物は。ジンがどんな思いで鉄面皮を保ってると思っているのか、ヒロは知る由もないだろう。
本当は男だとか、ヒロは気にしているようだがジンにとっては全く関係ない。いや、それどころかプラスだ。
普段は男の姿で過ごしてくれているからこそ、ジンはこうして昼休みにヒロと過ごすことができている。
ヒロが普段からこの姿だったら……一体、何人の男がヒロに言い寄るか想像もできない。
(というか、もう起きてることなんだよな)
ヒロが握ってくれた塩むすびを一口ずつ味わって食べながら、危機感を募らせる。
冒険者、“深淵のルシファー”。
冒険者の他に、“エンジェル芸能事務所”社長、魔工業大手“アビス”代表取締役。そして迷宮騎士団本部“総代表”という幾つもの顔を持つ男。
裏では迷宮の“魔王”と呼ばれるほどの大人物だ。
そんな男がプリムノヴァに……ヒロに直接接触してきた。その狙いは、プリムノヴァを自分の影響下に取り込むことだと考えてまず間違いない。
魔王ルシファーは、狙った獲物をどんな手を使ってでも追い詰めて自分のモノにすることで知られる人物だ。
噂では裏で繋がっている犯罪組織をけしかけたり、弱みを握って逆らえなくしたり、借金をさせて身動きを取れなくさせたりと。
特に、奴のせいで身柄を破滅させられたという女性の話は枚挙にいとまがない。
絶対に、ヒロに近づけさせたくない。
「なぁ、ヒロ」
「うん?」
「冒険者、まだ続けるのか」
「またその話ぃ?」
ジンが今までに何度かした話を繰り返すと、ヒロはうんざりしたように返した。
「冒険者はやめない。何度も言ったでしょ」
「俺がお前の分まで一生分稼いでやる。って言ってもか」
「……」
ヒロが目を見開いて驚き、それからジトっと怪訝な顔になって言う。
「お父さんに頼って?」
「うっ」
「何かあるとお父さんに頼るクセ、やめなさい……ん、んっ」
ヒロが机の向こう側から腕を伸ばして、ジンの頭を叩こうと身を乗り出し……。
腕の長さが足りず、気まずそうに座り直して少し顔を赤くしながら前髪を整える。
全ての瞬間が可愛さの権化だ。
そう。ヒロは可愛すぎる。
誰にも見せたくないし会わせたくない。
出来ればずっとこのクローゼットの中にいて、俺と会う時だけ顔を見せてほしい。じゃないと安心なんでできるはずもない。
クローゼットは、ヒロのスキル『性転換』が『メタモルフォーゼ』というスキルに進化した結果新たに増えた能力だ。
その名の通り、自分だけの衣装部屋を作り出し中にあるものをいつでも自由に取り出せるらしい。
ハッキリ言おう。これは俗に言う“チートスキル”だ。
空間拡張系スキルにハズレなし。強力なスキルとして代表的な『アイテムボックス』ですら、重量制限や取り出しの煩雑さという点で様々な欠点を持っている。
それがこの『クローゼット』は、恐らくこの空間内に入るものは全て収納できる。重量制限も存在せず、装備を取り出す際は迅速。
無法だ。このスキルの存在だけで、ヒロは冒険者として変えが効かない人材と言えるだろう。
ヒロも冒険者のため、このスキルの強力さは認識している。そのため、スキル『クローゼット』の存在はヒロとジンだけの秘密となった。プリムノヴァの正体以上に、だ。
だが、ヒロはスキルの強力さは認めても自分が持ってる他の魅力に驚くほど鈍い。
『普通に可愛い、くらいじゃない?』
『まぁ、確かにスタイルはちょっといいかも?』
『地味な服着てればバレないでしょ〜』
これらは、自分の容姿に無自覚なヒロが放った“ヒロ語録”だ。
自分の可愛さに気づいている上で言ってるならともかく、ヒロの場合どこまで本気で言ってるのかわからない。
こんな状態でヒロを出歩かせることなどとても出来ない。一日で町中が騒ぎになるだろう。
「ごちそうさま」
「お粗末さまです。美味しかった?」
「世界一美味い」
「んふふふふ」
ジンの褒め言葉に気持ち悪い笑みを浮かべるヒロ。気持ち悪可愛い。
しかし、勘違いしてはいけない。
弁当を作ってきてくれても、美味しいと言うと嬉しそうにしてくれても、笑顔が可愛くても、二人きりの秘密を共有しても。
ヒロがジンのことを異性として意識してるなんて、勘違いしてはいけない。
何故ならヒロは、誰にでも優しいのだから。
「……」
先日のことだ。
ヒロのあまりにも思わせぶりな言動に限界を迎え、ジンはとうとう直接聞いたことがあった。
『お前、俺のこと好きなの?』
と。
冗談混じりに言ったが、9割型本気の質問だった。その言葉を言うのに、途轍もない勇気を振り絞ったのは言うまでもない。
結果は。
『え? な訳ないじゃん。どしたのいきなり?』
──玉砕だ。
玉砕だった。
その後、家に帰るまでの記憶がすっかり吹き飛ぶくらい、見事なまでにジンはフラれた。
家に帰って、呆然としたまま風呂に入り、飯を食べて、ベッドに入り……そこでようやく号泣できたくらいだ。あまりにもショックが大きすぎて、翌日ヒロがいる学校に行きたくなくなったくらいだ。
だが、それでも震える足で学校に向かい……いつもと変わらぬ調子で接してくれるヒロに心底救われた。
そう。ヒロのこの態度はジンだから特別なのではない。誰に対してもこうなのだ。
だから他の男には絶対に会わせたくない。誰だってこんだけ可愛いヒロを好きになるに決まってる。それは良い。当たり前のことだ。
だが、ヒロを好きになった男の中に……ヒロ“が”好きになる男がいたら。
「グボホァッ」
「えぇ!? いきなり!?」
食事を終えて、食器を片付けるヒロを見つめている最中に突然吐血したジンにヒロがギョッとする。
「ちょ、ちょっと大丈夫? やっぱりまだ前の怪我の後遺症が……」
「い、いや。大丈夫ブハッ」
「大丈夫じゃないじゃん!? ちょっと待って」
ヒロがとたとたと足音まで可愛い動きでジンのそばに駆け寄り、背中に優しく手を当てる。
「変身」
そして、ヒロの姿が光に包まれ、“プリムノヴァ・ブラン”の姿へと変わった。
全身を白くて温かい光で包まれ、血が消えていく。
……こんなに優しく、健気なヒロの隣に。いつまでジンという凡庸な男が立っていられるかわからない。
もしかしたら、ルシファーの提案に乗っていた方が幸せかも、なんて。
「……大丈夫だ。助かった、ヒロ……」
そんな内心の不安を表に出さないように、笑顔を作ってヒロを振り向こうとして。
大きく胸元が開かれた魔法少女の衣装から見える、美しい曲線を描く双丘の谷間が目に留まった。
「おい」
その瞬間、ヒロから注がれる視線が氷点下まで下がる。
「なんか言うことあるか」
「……俺は、これくらいのサイズが一番好ぐぼほぁっ!
怒るヒロに、ジンとしては最高の褒め言葉を放った結果。
治してもらう前より重傷になった。