産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「まず、現状の確認だ」
頭からギャグみたいなたんこぶを生やしたジンが真面目な顔で話し出したので、ヒロトも真面目な顔をして聞く。
「カワサキダンジョンの現時点での最高踏破階層は19層。20層前にはフロアボスの扉が確認されていて、ここを通ると……」
「“フロアボス戦”が始まる」
ダンジョンは、10層ごとに“フロアボス”と呼ばれる大きなボス戦が挟まる。
大抵、ひとつのパーティーじゃ到底攻略できない難易度のボスが待ち構えており地域の冒険者たちと協力して綿密に作戦を立てながら、時間をかけて挑むダンジョンの一大イベントだ。
「フロアボスを倒すこと自体は、冒険者が一丸になって協力すれば出来る。だけど、ボスを倒すことでいくらか弊害もある。それが……」
「モンスターの過疎化でしょ?」
「そうだ」
ラウンドテーブルの間に広げられた地図は、カワサキダンジョンを横から簡略化して見た断面図だ。
ちなみにヒロトが描いたのだが、見やすくするためにポップな絵柄で描いたモンスターが「ネコにしか見えん」ともっぱらの評判だ。これだから芸術のわからん奴は。
そのネコ……じゃなくてモンスターを示すコマが、1層〜19層までで集中している所、フロアボスのコマを外すことで30層までの間で広がる。
「ダンジョン内で湧くモンスターの数には限りがある。20層前までで攻略を止めておけば、1〜19層にモンスターが集中する初・中級冒険者にとって適性の環境だ。それがフロアボスを倒せば30層まで広がって、浅い階層のモンスターの数は減る」
「だから、ジンのお父さんは20層の攻略を禁止してるんだったよね」
「そうだ。カワサキダンジョンに潜る冒険者のレベル的に、20層までで打ち止めておくのが最善。俺もそれは同意見だった、が」
そこでジンがヒロトに視線を向けた。
「プリムノヴァが現れて話が変わった」
「お騒がせしてます」
「プリムノヴァ目当てで、全国からレベルの高い冒険者がカワサキに集まってきた。冒険者の総数が増えれば、応じてダンジョン内のモンスターの数も増える。今のカワサキダンジョンは、空前のプリムノヴァブームでモンスターの過密状態だ」
「お騒がせしてます」
冒険者の数が増えたのはわかっていたが、モンスターの数にもそれが影響するのは盲点だった。
元々カワサキで活動してた冒険者の方々がいい顔をしないわけだね。
「謝らなくていい。正直、今の状況はチャンスなんだよ。カワサキダンジョンを盛り上げる上でも……フロアボスを突破する上でもな」
「おお! ということは!?」
「30層のフロアボスに挑む」
「キター!」
拳を振り上げて喜ぶ。
これこれ! ダンジョンの醍醐味! ボス戦だ!
「……お前、ダンジョンの話になるとテンション上振れるよな」
「ボス戦が好きです」
「まぁ、俺も好きだが」
嫌いな奴なんていないだろう。ボス戦は冒険者にとって祭りみたいなもんだ。
大変で危険なことには限りないけど、終わった後は貴重なボスモンス素材が大量に手に入る。それを装備に使えば、冒険者としてさらに強くなれる。
冒険者にとっての花形と言っていい。
「30層のボス討伐は、現実的に考えて妥当だ。斥候代わりに“身代わり”のスキル持ちを送り込んで、ボスの情報を収集次第、参加する冒険者を集うつもりだ、が」
「が?」
「……ヒロ。提案なんだが」
「うん?」
なんだか。
雲行きが。
「お前、カワサキダンジョンの“代表冒険者”に立候補するつもりはないか?」
*
代表冒険者。
各ダンジョンに潜る冒険者の中でも実力が上位で、常に攻略の最前線を走る冒険者のことをそう呼ぶ。
代表になれば様々な恩恵が受けられる。素材の融通や、ダンジョン内の情報を優先的に受け取れる権利。知名度の上昇による、ダンジョン探索以外での
代表冒険者はダンジョンの顔だ。
選出される冒険者は、ダンジョンマスターと選考委員会による厳正な審査の上で行われ──。
大体の場合、ダンマスの身内贔屓で選ばれる。
ヒロトが代表冒険者となるなら、『カワサキダンジョンの代表冒険者 プリムノヴァ』ってな感じの肩書きとなる。
ちなみに、冒険者は本名を名乗る必要はない。というか、本名を使うことはあまり推奨されてない。
芸名みたいな感じだ。
「私でいいの? 本当ならジンが……」
「俺の実力は見ただろ。あれで代表が務まると思うか?」
「ふふっ」
「お前今笑ったか?」
「べ、別にっ」
口角が上がりそうになるのを必死に抑制。
いや、まぁミミックから尻が生えてる姿もそれなりに威厳が……威厳はないけど、可愛げはある。
マスコットみたいな感じで、愛されはするんじゃないか。
「プリムノヴァが現れてから、ずっと考えてはいた。けど、本人に連絡を取る手段がなかったし、あんまり他人と関わろうとしないタイプだったみたいなんで望み薄かなと思ってたが……ヒロお前、もう『性転換』の時間制限問題は解決したんだろ?」
「うん、『変身』はまだ制限あるけどね。30分」
30分。
それが検証した結果わかった、今のヒロトの変身時間。
以前に比べて、単純に3倍の活動時間だ。
加えて『
「なるほどね。謎の美少女冒険者として代表になれって事か。承っ……」
「なワケねぇだろ、何寝ぼけた事言ってんだフリフリ女」
「フリフリ女!?」
どういう罵倒?
「プリムノヴァの正体は隠す。これは絶対だ。お前はこのクローゼットの中以外で女の姿になるな。ダンジョンで変身する時も、誰にも見られない場所でだけ女になれ。というか俺が見てる所以外で変身するな」
「重っ! なに、ジンって私の彼氏だったっけ?」
「……」
ジンが口をモニョモニョとさせながら、手で口元を隠した。
「落ち着け……深い意味はない。深い意味は……」と謎の呪文を唱えている。
聞こえてないと思ってるなら悪いけど、今のヒロトは上位冒険者並のステータスだ。耳も良いのだ。
「っていうか、それって矛盾してない? 代表なのに、正体は隠すの?」
「俺と……というか、親父が独自の連絡手段を持ってて緊急時には連絡できるって体にしておく」
「緊急時だけでいいの?」
「別におかしいことじゃない。むしろ他のダンジョンでも、ほぼダンジョンに篭り切りで連絡が全然つかない代表冒険者なんてごまんといるからな。むしろ連絡取れるだけ上等って感じだろ」
「それで良いんだ……」
代表って、思ったより自由な感じだ。
「加えて、これを使う」
おもむろにジンがポケットから取り出したのは、小型の魔導具だった。
「これは何?」
「発信機だ」
「発信機」
ピンバッジ型のそれを、ジンは胸に付けた。
「こんな感じで、今後カワサキダンジョンに入る冒険者には発信機の着用を義務化させる。これがあれば、どこに冒険者がいるかわかる。変身を見られる心配がなくなるし、プリムノヴァの時は冒険者の少ないエリアで戦えば必要以上の露出も減らせる」
「……権力の濫用じゃない?」
「似たようなことは他所もやってる。というか、冒険者の人口が多いダンジョンじゃ当たり前だ。迷宮内犯罪も減らせるし、救助の時も対応が迅速になるからな。渋るのはむしろ、維持費が増えるダンマス側だ」
「はえー」
流石、ダンマスの息子。
色々と裏事情に精通しておられる。
「で、そのために必要なことなんだが……」
「うん」
「ヒロ、お前俺の家に来い」
「うん……うん?」
???
??????
お呼ばれですか???