産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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19 おうちほうもん

「おぉ」

 

 高そうな絵。壁にかかったモンスターの頭。埃一つない掃除の行き届いた室内。廊下に敷かれた柔らかそうなカーペット。

 

 外観を見た時に「豪邸だ」と思ったヒロトの感想が全く損なわれることがない、想像通りの内装にヒロトはキョロキョロと周囲を見回した。

 

「ジンってちゃんとお金持ちだったんだね」

「俺じゃなくて、親父がな。ダンジョンは儲かるんだ」

 

 ヒロトの前を歩くジンは、いつもの学校の制服姿だ。前から思っていたが、ジンは服を着崩したりしない。キッチリと着こなしている。

 

 思えばそういうところに育ちの良さは出ていたのかもしれない。

 

 ミミックに食われてるシーンのインパクトが強くて気づかなかった。

 

「まさか、ジンのお家にお呼ばれするなんてね」

 

 放課後。

 

 ヒロトはジンと一緒に、ジンの実家……二階堂家にやって来ていた。

 

 流石はダンジョンマスターの家ということもあって、なんと庭にメイドさんがいた。メイドさんだ。あの夢にまで見た。

 

 おばさんだったけど。

 

 寮暮らしのヒロには考えられない別世界。こうしてお家の広さを見せつけられると、ジンって凄かったんだなぁと今更ながらに痛感。

 

「ヒロ、ちゃんと設定は頭に入ってるよな?」

「うん。私はプリムノヴァに助けられたことがあって、連絡先を知ってる。それで本人に確認を取ったら、代表の話を受けてもいい……って、どうしたの?」

 

 前を歩くジンが立ち止まり、ヒロトを振り向く。

 

 その目がヒロトの頭からつま先までを眺めて、もにょもにょと口元を動かす。

 

「いや、なんていうか」

「うん?」

「……ただ助けられただけの一般人、にしては」

 

 ヒロトは自分の格好を見下ろす。

 

 真っ白でリボンとフリルが可愛いノースリーブワンピースに、白いパンプス。手にはクロシェ編みハンドバッグ。

 

 無造作な印象を与えないように、髪は三つ編みにして肩から下げている。メイクは目立たないようナチュラルに。

 

 三つ編みもメイクも最初は苦戦したが、今は慣れたものだ。

 

 ジンからの要望で、「派手すぎなければいい」と言われたのでこういう格好で来たのだが。

 

「なんか変?」

「変っていうか……」

「??」

「……クソッ、こいつのポテンシャルを舐めてた」

 

 意味がわからん。

 

「いいか? くれぐれも一般人らしく振る舞え。何ならあんま喋るな」

「言われなくても一般人だけど?」

「お前みたいな一般人が……ああっ、もういいや。行くぞ」

 

 髪をぐしゃぐしゃにして再び前を歩き出すジン。

 

 その背後に小走りで近寄ると、腕を伸ばして手櫛でジンの髪を整える。

 

「せっかくセットしたのに〜」

「……ヒロ、お前マジでそういうとこだぞ」

「へ」

「そういうこと、親父の前でやんなよ。絶対勘違いされる」

 

 勘違い……?

 

「親父はいつも仕事で忙しくて家にいない。けど、事あるごとに電話してきてウザいんだよ。今日だって、連れてくのが女だって言ったら……はぁ……」

「な、なんか色々大変だね?」

 

 ヒロトにはよく分からないが。

 

 親がいたのは、ずいぶん昔の話だ。

 

「ここだ」

 

 そうこうしている間に、目的の部屋の前に着いた。

 

 扉には“執務室”のプレートが掛けられてある。

 

「親父、入るぞ」

 

 ジンがノックを3回。

 

 中から「どうぞ」とダンディな声が聞こえて扉を開ける。

 

「行くぞ」

「し、失礼します」

 

 躊躇なく前を歩くジンに続いて部屋の中に入ると、まず目に入るのは壁に埋め込まれた大きな棚と、棚の中でガラス越しに並ぶいくつものトロフィー、表彰状、記念写真。

 

 やっぱりお金持ちってこういう棚持ってるんだなぁ……と軽い感動。

 

「ジン。家の中とはいえ、来客がいる時はいつも敬語を使いなさい……と……」

 

 そして部屋の奥。大きな窓を背にして書類が積まれた机に座っているのは、灰色の髪をオールバックに撫でつけた、整えられたヒゲがカッコいいおじ様。

 

 確かに、どことなくジンと面影が似ているそのおじ様が顔を上げて、鋭い眼光をこちらに向ける。

 

「は、初めまして」

 

 と同時に目が合い、なんとか挨拶。

 

 初対面の相手。強面のおじ様……それでも、何度も練習した通りに挨拶だけはなんとか終えて。

 

 これ以上はもう無理、とジンに「要救助」の視線を送ろうとして……。

 

「ジン、結婚しなさい」

「え」

 

 脈絡もなくおじ様がそう言って。

 

 ジンが天を仰いだ。

 

 

「初めまして、お嬢さん。二階堂誠也と申します。カワサキダンジョンのダンジョンマスターを務めております」

「お、大森ヒロです」

 

 おじ様……誠也さんの予想外の一撃にヒロトとジンが揃ってフリーズして、その衝撃からなんとか抜け出したあと。

 

 ヒロトは誠也さんに、若干の罪悪感を感じながら偽名を名乗った。

 

 大森ヒロ。

 

 ヒロトが女性として過ごす上でこれから使う偽名だ。

 

 それにしても小林→大森は安直すぎない? とジンに意見を求めたところ。

 

 “お前を見て男の小林と結びつける奴はまずいないから安心しろ”……とのことだった。

 

 いいのか、そんなガバガバ理論で。

 

 ジンって普通に話してれば頭いいんだなってわかるけど、たまにバカになるから困る。

 

「……親父。さっきの“挨拶”はどういうつもりだよ」

 

 挨拶が終わると、ジンが嫌そうな顔でさっきの台詞に言及する。

 

 良かった、ジンがいてくれて。

 

 ヒロトだけじゃ絶対に切り込めなかった。

 

「言葉通りだが? 女の子を連れてくるというから、どんな子かと思えば物凄く可愛い子じゃないか。他の男に取られる前に結婚してしまいなさい」

「……ヒロはそういうんじゃねぇよ」

 

 ジンが怖い声でそう言って凄む。

 

 対人経験が壊滅してるヒロトでも、すごく怒ってるっぽいことだけはわかった。

 

「そうか……ヒロさんと言ったね。君の方はどうなんだね? 息子とはどういう関係なのかな?」

「アッ、エトッ、ハイ、スゥゥ……ジンクントハ、オトモダチデェ……」

「どうしたお前」

 

 突然話しかけられて盛大にバグったヒロトにジンが突っ込む。

 

「だ、だって初めての人だし……! しかもジンのお父さんなんて、どうやって話せば……!」

「……あぁ、そういやお前、コミュ障だっけ。忘れてたわ」

 

 手をわたわたさせて慌てるヒロトに、ジンがため息を吐く。

 

「すまない。私が急かしすぎたね。まずは落ち着けるように、茶でも淹れよう」

 

 ヒロトの慌てぶりにも誠也さんは笑顔で、部屋の真ん中に机を挟んで向き合うように置かれたソファーに座るように促してくれた。

 

 ふかふかの感触に思わず感動の声が漏れそうになるのを抑える。

 

「ジンは緑茶だろう。ヒロさんは、何か飲みたいものはあるかな?」

「あっ、緑茶でダイジョブデス」

「わかった」

 

 誠也さんが机の上の急須を手に取り、棚の中から取り出した高そうな湯呑みに緑茶を注いでくれる。

 

「いただきます」

 

 湯呑みを手に取り、舌を火傷しないように少しだけ口に運ぶ。

 

「んっ……美味しい」

「良かった。雑誌ではプリムノヴァは紅茶しか飲まないと書かれていたが、やはりあの手のゴシップは信用ならんね」

「え? 私、紅茶なんて殆ど……」

「ヒロ」

「? なに、ジン……あっ!?」

「……」

 

 ジンに呼びかけられたことで、ようやく気づき。

 

 慌てて自分の口を塞いだ。

 

「……クソッ」

 

 ジンが苦虫を噛み潰したような顔。

 

「……」

「なるほど」

 

 誠也さんはジンの顔を見て呟くと、両手を組んで身を乗り出した。

 

「まだまだだな、ジン。その反応は肯定と同じだ」

「……いつ気づいた?」

「最初からだ」

 

 ジンが気まずそうに顔を逸らした。

 

 誠也さんはさっき、確かに言った。

 

 私を指して“プリムノヴァ”と。

 

 そしてヒロトは、まんまと受け答えしてしまったのだ。

 

「タイミングが出来すぎているからな。元より疑っていた。そもそも、お前な……」

 

 チラ、と私に向けられる視線。

 

「こんなに綺麗に着飾った女性を“一般人です”は無理がある」

「だと思ったよ!」

 

 ジンが観念したように両手を振り上げ。

 

 話について行けず呆然とするヒロトに、誠也さんが苦笑していた。

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