産廃スキル『性転換』は最強魔法少女へのトリガーです   作:ぷに凝

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2 魔法少女は絡まれやすい

「……まずい」

 

『性転換』

残り時間 [3:42]

 

「全っ然、減ってないじゃん……」

 

 10層の転移門広場を前に、ヒロトは物陰に隠れながらまたしても頭を抱えた。

 

 本来ならすでに終わっているはずの『性転換』の効果時間が、どういうわけか終わっていないのだ。

 

「もう転移門が閉じる……」

 

 現在時刻は17:56。

 

 転移門は18時には閉じられるため、今すぐ門を潜らなければ間に合わない。

 

 だがそれをすれば、必ずこの魔法少女姿を人前に晒すことになる。

 

「……バレないよね?」

 

 いや、ここはもう割り切るべきだ。

 

 今のこの姿を見て、小林大翔と結びつける人間がいるか? いるわけがない。いたとしたらそいつは頭がおかしい。

 

「落ち着け……堂々と……堂々としろ……」

 

 物陰で深呼吸をして、よしと息を吐く。

 

 そして、ヒロトは転移門広場へと入っていった。

 

「ん?」

「うおっ」

「すげー」

 

(うっ……)

 

 瞬間、突き刺さる視線。視線。視線。視線の雨。

 

 わかっていたが、ここまで注目されるものか。

 

(落ち着け。大丈夫だ)

 

 周囲からの視線に怯えながらも、背筋を伸ばして堂々と広間を突っ切る。

 

 よし、このまま……。

 

「ねー、君。見たことないけど、このダンジョン初めて?」

(あああああ!!このゴミカス!!)

 

 転移門を目の前にして、ナンパ男に前を塞がれた。

 

 こいつ、知ってる。前にダンジョン内で女性冒険者に付き纏ったとかでトラブル起こしてた奴だ。

 

 女なら誰でもいいらしい。

 

 いや、女でもないけど。

 

「えー、めっちゃかわいいじゃん。何ちゃんって言うの?」

「うっは、背ちっちゃ」

 

 不快な視線が身体中に突き刺さる。

 

 どういうわけか、誰が自分の体のどこを見てるのかが一発でわかる。

 

 なんだこの無駄に高性能で不愉快なセンサーは。

 

(無視してさっさと行こう)

 

 ナンパ男の横を無言で通り過ぎる。

 

「は? 無視は酷くね?」

 

 ガッ、と肩を掴まれる。

 

「ねぇ、ちょっと向こうで俺らと話そうぜ? マジで悪いようにはしないって。むしろ結構ハマっちゃったりしてな笑」

「そうそう。ってか、こんな肌出して人前に出るとか、君もわかっててやってんじゃん?」

「な。あーやべ、顔もめっちゃエロいわ。マジぶちこみてぇ」

 

 身体中を芋虫のように這い回る、不快で粘ついた視線。肩に置かれた手も、首筋にかかる吐息も、全てが。

 

 全てが。

 

「死んで」

「ごっ!」

「ぶっ!?」

「がっ!」

 

 気づけばヒロトは、三人の男を殴り飛ばしていた。

 

 周囲でどよめきが走る。

 

「てんめェ……おいアマァ! 待てやテメェコラ!!」

「地上までお願いします」

「か、かしこまりました」

 

 転移門の門番に言って、冒険証を取り出す。

 

「えっ?」

 

 そして、冒険証の写真と自分の顔を見比べ目を丸くしていたが。

 

 スキル欄に目を通すと、ハッとした様子でこちらを見て。

 

「確認しました。お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

 

 そう言って、プロ意識満点の笑顔で転移門を起動してくれた。

 

「おい! おま──」

 

 視界が光に包まれる。

 

 

「はぁ……」

 

 地上に戻る。

 

 冒険証を取り出し、スキルの残り効果時間を確認する。

 

「3……2……1……」

 

 祈るような心地で、物陰に隠れながら減っていく時間を凝視。

 

 そして、数字が0になった。

 

 体が一瞬光り、スキルが解除されてドレスが消える。

 

 そして気づくとヒロトは変身前のシャツとデニムを着ていた男の姿だった。

 

「戻った……」

 

 ほっと胸を撫で下ろし一安心。力が抜けてズルズルと壁に背中を預けて座り込んだ。

 

「怖かった……」

 

 今まで、冒険者として誰かとトラブルを起こしたことなんて殆どなかった。

 

 それが、女になっただけで冒険者の中でもタチの悪い連中に一発で目をつけられた。

 

「もう、あの姿は封印した方がいいな」

 

 やはり『性転換』は産廃スキルだ。

 

 もうドレスも無くなったことだし、大人しくこれからは地道にやっていこう。

 

 今日の戦果を確認するため、『収納袋』を確認する。

 

「……え?」

 

 その中に、あるはずのないものが見えて思わず目を疑った。

 

 取り出す。

 

「……なんで」

 

 『魔法少女のドレス』。

 

 一度きりしか使えないはずの変身アイテムが、再びヒロトの手元に舞い戻っていた。

 

 

「うーん」

 

 首を捻りながら、自室で冒険証の文言を眺める。

 

『魔法少女のドレス』

女性専用装備。着用すると、全てのステータスに二倍の補正。10分後、魔法が解けてこのドレスは消える。

 

「魔法が解けて、ってのがミソだよなぁ」

 

 てっきり、ヒロトは使い終わった後このドレスが手元から無くなってしまう使い切りアイテムだと思っていた。

 

 だが、よくよく考えれば全ステータス二倍は破格とはいえ、一度きりならリッチからドロップするアイテムとしてはショボい効果と言うこともできる。

 

 使い方次第では勿論強力な装備だが、それも女性専用の上、効果時間まで……。

 

「待てよ」

 

 もしかしたら。

 

 この『性転換』スキルと『魔法少女のドレス』は、二つで一つなんじゃないか?

 

「性転換は5分。ドレスは10分……」

 

 余程遅れて着るでもない限り、ドレスの効果時間が切れるのは性転換が切れた後だ。

 

 そして、性転換が解除された時点で大翔は女じゃなくなるのだから、女性専用装備のドレスは自然と装備から外れる。

 

「ドレスは使い切りだけど、効果時間が切れる前に装備を外せればリサイクルが可能……?」

 

 もし、これが意図された仕様だったとしたら。

 

 あの異常なステータス強化にも、何らかの裏仕様が関わっていたと考えることができる。

 

「面白くなってきた」

 

 産廃スキルだと思っていた『性転換』。

 

 だが、ここに女性専用装備を組み合わせることで裏技的にステータスを強化できるなら、意味が出てくる。

 

 が。

 

「また変身するのかぁ……」

 

 今朝の男に掴まれた肩の感触が蘇る。

 

 ステータスが上昇していたこともあってか、振り解けないほどの力だとは感じなかった。

 

 だが、間違いなく恐怖は感じた。

 

「やだぁ〜……」

 

 またあの手のトラブルに巻き込まれると思うと。

 

 とても憂鬱な気分になるのだった。

 

「せめて、この体に慣れておいた方がいいか」

 

 憂鬱晴らしとばかりに、ヒロトはベッドから降りて立つ。

 

「『性転換』」

 

 背が縮み、髪が伸びて、体があちこち細く、肌はきめ細やかで、まつ毛が伸びる。

 

「……やっぱり、リーチが短い」

 

 体が縮むということは、それだけ腕や足も短くなるということで。

 

 いや、足はむしろ長くなってる。スラリと伸びたモデルみたいな細い足だ。

 

 だけど、全体の身長が縮んだのだからやはり最終的にリーチは短くなっているはずだ。

 

 少々悩みながらもハンガーにかけておいた『魔法少女のドレス』を手に取る。

 

 装備類はわざわざ着る必要はなく、手に取って「装備」と空ごちるだけでいい。

 

 そうして気づけば、ヒロトはまたあの魔法少女姿に変身していた。

 

「不思議。動きづらくない」

 

 大きく広がったスカートも、ハートや星の装飾も、巨大ツインテも、全部がヒロトの動きを阻害するはずなのに。

 

 不思議と腕を回したり肩を上げたり下げたり、くるりと回転してもそれらが干渉することはなかった。

 

 まるでドレスそのものが意思を持って邪魔にならないように動いているみたいだ。

 

「……」

 

 無言でスマホを取り出し、インカメを起動する。

 

「わぁ」

 

 改めて自分の姿を眺めて、その余りにも非現実的な魔法少女っぷりに驚く。

 

「メイクとか、これどうやってるんだろ」

 

 顔をアップにして、作り物としか思えない大きな瞳を覗き込む。

 

「いぇーい」

 

 ふと思いついて、片目を閉じてウィンクをしながら自撮り。

 

 写真を確認すると、半端に目が開いた不細工な笑顔をした魔法少女が写っていた。

 

 撮った写真はその後、正気に戻ってから全て消した。

 

 危なかった。

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