産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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21 青熟しちゃって

「じゃあな、ヒロ。また明日学校でな」

「……」

「週末、大変そうだが一緒に頑張ろう」

「……」

「どうしたんだよ……」

「別に……」

 

 誠也さんとの話がついて。

 

 二階堂家の前で、ヒロトとジンは話していた。

 

「家出てからずっと機嫌悪いじゃねぇか」

「なんか、思い出したら段々ムカついてきちゃって……」

「なんの話だよ」

「……ジンのお父さん、言ってたじゃん」

「?」

「ジンのこと、“半端者”って」

「あー、言ってたな」

 

 ジンはそれを聞いて、軽く頷くと。

 

 うん? と首を傾げ。

 

「……それだけか?」

 

 肩透かしを食らったかのように言った。

 

「それだけじゃない! 3回だよ!? 3回もジンのこと半端者って言ってた!」

「なんで回数まで覚えてんだよ……」

「だって……だって……!」

 

 ヒロトはジンのことを友達だと思っているし、恩人だと思っている。

 

 それなのに、親だからってあんな風に言われて。

 

「ジンが……あんな風に言われてたの……悔しいのに、ジンは受け入れてるみたいで……」

「事実だからな」

「違うよ! ジンは半端なんかじゃないよ!?」

「なんでお前がそんなキレてんだよ」

 

 ジンが苦笑する。

 

 まるで、自分が言われた事がくだらないことかのように。

 

「……ヒロ、聞いてた通りだ。俺は最初、お前に嫉妬してた。大したことないって言ってやりたかったんだ。ダンジョンの中でドレス着てるような女が強いわけないってな」

「……知ってるよ。でも別に、そう思うのって普通のことだし……」

「“普通”じゃダメなんだよ。普通のままじゃ、お前の隣に居られない」

 

 ジンの言葉に、胸がギュッと苦しくなる。

 

「違う、違うよ。ジン……普通のままでいいんだよ。普通のままでいてくれれば……」

 

 ジンが、ヒロトのことを普通だと。

 

 ヒロトの秘密を知っても、普通に接してくれたからこそ、ヒロトは……。

 

 そんなヒロトにジンは苦笑して言う。

 

「俺、お前に言われるまで親父に言われたことに怒るなんて考えもしなかった。全部図星だったからな」

「……ジン」

「怒ってくれてありがとう。……お前は優しいな」

「……!」

 

 ジンの手が、ヒロトの頭にポンと乗せられる。

 

「……ヒロ」

 

 それからジンは、ヒロの目をまっすぐ見て。

 

 顔を近づけて……。

 

「おいジン! もう暗くなる! 早くヒロさんを送ってこい!」

「「……」」

 

 何かを言う前に。

 

 家の中から誠也さんの声が響いた。

 

「……ど、どうする?」

 

 げんなりとした顔をするジンに、ヒロトが聞く。

 

「……ヒロは」

「う、うん」

「家まで送って欲しい、か?」

 

 意を決したように、そう聞いてきたジン。

 

 家まで送って欲しいか、ってそりゃ……。

 

「いや、結構遠いから大丈夫だよ?」

 

 行ったり来たりさせるのも悪いしね、と当たり前のようにそう答えて。

 

 ガクッとジンが項垂れた。

 

 

「……」

「だからお前は半端だと言うんだ」

「……今のは、邪魔したの親父だろ」

「流石に家の前でイチャイチャされちゃ敵わんからな。だが中に連れ込んでたら止めなかったぞ?」

「んなことするかよ」

「はー、やれやれ。まさかあそこまでやっておいて結局一人で帰らせるなんてな。とんだヘタレだ」

「うるせぇ。ヒロとはまだそういうんじゃねーよ」

「“まだ”か。後で後悔しても知らんぞ?」

「うるせぇっての」

 

 

「あ、この色かわいい」

 

 ほんのりピンクに色づいた手の甲を見ながら、ヒロトはうんと頷いた。

 

「……こっちは派手すぎ? でも子供相手なら明るい色の方がいいのかな……」

 

 より発色の強いパッションピンクのコスメと並べてみて、うーんと首を傾げる。

 

 ジンと別れ、自室に帰ってきてからヒロトは最近の夜の日課となったメイクの練習に励んでいた。

 

 最近、ヒロトは日常でも女性の姿でいる事がかなり多くなっている。

 

 というか、学校で授業を受ける時以外の外出時は大体女の、ヒロの姿だ。

 

 自然と、女性として振る舞うために必要なことも覚えていく。メイクやスキンケアなどの美容関連はその代表だ。

 

 『変身少女(メタモルフォーゼ)』は、なにもお手軽簡単美少女変身スキルじゃない。

 

 健康状態や身体機能は男女体を共通で引き継ぐし、例えば男の体で太れば女の体も同じように太る。

 

 変身時に施されるメイクやヘアスタイルなどに限っては、自動かつ固定だし体型もある程度矯正されるようだが。

 

 そして、体感的に“可愛くなるほど強くなる”特性がこのスキルにはある。

 

 気づいたのは最近だ。メイクやファッションなど“どう見られるか”に重点を置いた状態で変身すると、目に見えるレベルで身体能力が強化された。

 

 こうなると、ヒロトも不本意ながら冒険者として最善を尽くすために美容に精を出す必要が出てくるわけだ。

 

 そう、不本意ながら……。

 

 ……本当に?

 

「……」

 

 メイクと並行して、情報収集がてらスマホに表示していたSNSの投稿を見る。

 

『プリムノヴァちゃん今日ダンジョンいないのー?』

『生で見たいわ』

『最近ちょっと成長したよな?』

『背伸びて美人になった』

『永遠にロリ体型でいてほしい』

『グッズ化まだ? 待ってんだけど』

 

「素顔が知られたら普通の生活は難しい、か」

 

 誠也さんに言われた言葉が脳裏によぎる。

 

 ヒロトの想像を超えて、プリムノヴァという存在は世間ではかなり大きくなってしまっているように感じる。

 

 それこそ、怖くなるくらいだ。

 

 写真と、目撃証言と、いくつかの動画と、実績。それが世間に出回っているプリムノヴァの情報の全て。

 

 それだけでここまでの反応なら、これから先はどうなってしまうのか。

 

 これから先、ヒロトは周囲にどう見られるのか。そして、どう見られるように変わっていくのか。

 

 メイクを終え、ふと鏡を見る。

 

 少し化粧を覚え始めた、可愛いと言っていい少女の姿がそこにあった。

 

 男の小林大翔の面影はまるで感じない、自然な少女の姿だ。

 

「誰なんだろうな、お前は」

 

 最近は意識しないと男口調も出なくなった。

 

 もう一人の自分が、呆れたように笑う。

 

「……ジン」

 

 気づけば、ジンのことばかり考えるようになっている。

 

 別れる時、あんな風に感情を抑えられなくなったのは初めてのことだった。

 

 ジンのことになると、何故か理性のブレーキが効かない。

 

「……会いたい」

 

無意識のうちに、口をついてそんな言葉が出てきた。

 

 誰かに会いたい、寂しいと思う気持ちも、もう随分感じていなかったものだ。

 

 家でも学校でも、一人きりで何も問題なかったのに。

 

 これは誰の気持ちなんだろう。

 

 小林大翔なのか、大森ヒロなのか。プリムノヴァなのか。

 

 それとも……。

 

 シュポン

 

「!」

 

 スマホに、メッセージが届いた通知が表示されて手に取る。

 

「ジンだ」

 

『今日はありがとう。週末、頑張ろうな』

 

『(力こぶのスタンプ)』

 

届いたメッセージに、思わず頬が緩む。

 

『週末がんばろうね! 今日はゆっくり休んで。お父さんに言われたこと、あんまり気にしないでいいからね?』

『ありがとう』

 

 軽妙な音と共にラリーされる会話に、心が安らぐ。

 

『これで垢抜けバッチリ! 気になるあの人を、明日からドキドキさせちゃおう!』

 

 不意に、開いていたメイク動画からそんなセリフが聞こえた。

 

「気になる人……」

 

 頬に指を添えて考える。

 

 メイクをする時は、それを見せたい誰かを思い浮かべながらだと上手くいくことが多いらしい。

 

 ……目の上にアイラインを引く。

 

「えっ」

 

 苦戦していたはずなのに、思った以上に綺麗に引けた線に驚く。

 

 それは頭の中に思い浮かべた顔を、無意識のうちに意識した途端に起きたことで。

 

「……な、ないないっ」

 

 慌てて首を振ってその思考を消す。

 

 それでも。

 

 鏡に映る頬の赤みだけは、隠しようがなかった。

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