産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「二階堂さん、お聞きしましたよ! あなた、プリムノヴァに出会ったことがあるんですよね!? 噂では最近のプリムノヴァは少し姿が変わったとか!? いやぁ見たいなぁー! あ、ちなみにプリムノヴァが使用している武具ですけど、あれ実はとある優秀なエンジニアが開発したものだって知ってます? いやー、誰なんでしょうねーあんなデザイン的にも性能的にも彼女にピッタリのものを作ったのは──」
「ウン、ウン、スゴイナ」
ダンジョン見学が始まって早々。
ヒカルくんはキラキラとした目でジンに近寄ると、ものすごい勢いで話し出した。
ジンは笑顔を貼り付けながら死んだ目でヒカルくんの話を聞いている。
ヒロトの存在……というか正体には気づいていないようだったので、遠くの方からバレないように二人の様子を見ていた。
「ヒカルくん元気そうだなぁ」
多数の大手企業の経営を担う“神谷グループ”の御曹司であり、ヒロトにプリマスターフィストとプリマスターロッドの二つの武器を譲ってくれた恩人でもある。
なお、小学5年生だ。
東迷宮小学校だったとは知らなかったけど。
ぶっちゃけ、いつかお礼をしたいとは思っていたんだけど、本人のプリムノヴァへの熱が凄すぎて中々近付くタイミングがなかった。
あの時はまだ10分しか変身時間がなかったし。
だけど今日は話す時間も取れそうだし、改めて前のことについてのお礼を言っておこう。本人もプリムノヴァに会いたがっているようだし。
……時間内で話を終えられるかは微妙だけど。
「おい、そこの女冒険者」
「……」
「聞いているのですか? それとも、耳にカスでも詰まっているのですか?」
「え、私?」
そんな風にして歩いていると。
ヒロトのそばに、いつの間にか小さな女の子が立っていた。
「お前以外に誰がいるのですか? 女、かつ冒険者の条件に合致するのはお前だけなのですよ」
「はぁ……」
「全く論理的じゃないのです、お前。そんなんで冒険者がやれるのか心配なのですよ、お前」
な、なんだろうこの子。
迷子?
白衣を着て、髪をアップにまとめている女の子だった。
そして、言動がクソほどムカつく。
これはいわゆるメスガキってやつ? よく知らないけど。
「お前、ひーくんと話してるあの冴えない感じの冒険者とはどういう関係なのです?」
「ひーくん?」
誰のことだろう。
「ひーくんはひーくんなのですよ、お前」
「あ、もしかしてヒカルくん?」
「そうなのですよ、お前。ワタがつけた素敵な呼び名なのです、お前」
「ワタ」
なんか、胃もたれしそうなくらい濃いキャラ付けをしてるなぁ。
「君は?」
「ワタは
「ハカセ。白衣着てるから?」
「着眼点がいいのですよ、お前。この白衣は博識の証なのです、お前」
むふー、と鼻息を吐いて自慢げなハカセを名乗った女の子。
この子も東迷宮小学校なんだろうけど、ヒカルくんといい、この子といい。
最近の小学生は皆こんな感じなのか?
「それで? 答えるのですよ、お前。あの男とどういう関係なのです」
「どうって……友達兼、仲間って感じかな」
「ふむ。彼氏ではないのですか」
「違うよ?」
「なんだ。紛らわしいのですよ、お前」
がっくりと肩を落とすハカセ。
紛らわしいって言われてもね。
そもそもヒロトは男だし、ジンも男とわかってる相手と付き合いたいとは思わないでしょ。
「ひーくんがあの男とばっかり話すから、ワタは退屈なのです。モンスターも全然出ないし、デートだと思ったのに面白みがないのですよ」
「ヒカルくんのことが好きなの?」
「は? ただの友達なのですよ、お前」
髪をファサッとかき上げて言うハカセに、ヒロトは苦笑してしまいそうになった。
言動は少しおかしいが、この辺は年相応らしい。
どう見ても好きなのに、ただの友達って言い張ってるなんてね。
そんなんじゃそのうち誰かに取られちゃうよ?
「お前があの男の気を引いてくれれば、ワタがひーくんと話せたのですが……アテが外れたのです。お前を見る視線がいやらしかったのでそういう関係かと思ったです。ただのエロ男だったのです」
「ヒカルくんと話したいなら……プリムノヴァの話すれば? その話題なら喜んで話してくれそうだけど……」
「あのババアの話をすんじゃねーです!」
その方がこの後の展開も盛り上がるだろうし、と打算込みで提案すると。
予想外の罵倒を喰らって体がピシリと硬直した。
「バ、ババア……?」
「そうなのです! プリムノヴァとかいうあのババアは、ワタからひーくんを奪いやがったのです! 冒険者のくせに、あんなヒラヒラの服着て……! 気持ちわりぃんですよ!」
「き、気持ち悪い……」
グサグサ、と言葉の暴力が突き刺さる。
いや、まぁ確かに最初はヒロトも頭おかしいんじゃないのかこの服とは思ってたけど。
こ、子供ゆえに遠慮がない直接的な罵倒が……。
「まさか、お前もあのババアのファンなのです?」
「え? い、いや。私は……どうかなぁ……?」
「忠告しといてやるのですよ、お前。あの女は絶対性格悪いのです。どうせ裏で色んな男引っ掛けて遊びまくってるに決まってるのですよ。ビッチなのです、ビッチ」
「は、はは」
ものすごい言われよう。
なんか、この感じ最初のジンを思い出すなぁ。
っていうかこの子、語彙豊富だな。ヒロトより悪口のレパートリー豊富なんじゃないか。
「大体、プリムノヴァは強いって話なのです。このダンジョンにいる他の冒険者よりずっと」
「まぁ、そうみたいだけど」
「それなら、なんで姿を隠しているのです? 他の冒険者と協力すれば、もっと効率的にダンジョンを攻略できるのです。力を持っていてもそれを自分のためにしか使わない、所詮は偽善者なのですよ」
「……」
偽善者。
その言葉に、思わず言葉が詰まった。
「チヤホヤされて、気持ちよくなってるだけなのです。本物の冒険者ではないのですよ。なのに皆、あんな女をすごいすごいと持ち上げて……下らないのです」
「……そうかもね」
「おっ、お前もそう思うのです? 中々見所があるのです、お前」
腰に手を当てて笑うハカセを見ながら、ヒロトは自分の手のひらを見つめる。
武器なんて持ちそうにない、細くて綺麗な手がそこにあった。
「本物の冒険者じゃない、ね」
*
今から数百年前のこと。
地表にはいくつもの大穴が開き、そこから大量のモンスターが湧き出て地上を埋め尽くしたという。
人類が使う科学兵器は、モンスターに対して無力だった。
たちまち、それまで地上を制覇していた人間の勢力圏は当時の10分の1ほどまでに削られ、数十億と言われた総人口は1000万人程度まで数を減らした。
人類史の暗黒時代だ。
モンスターに追い詰められ、希望もなく、助け合うどころかわずかな食糧や資源を奪い合って数を減らしていく人類。
その時、モンスターを倒す力を持った一人の英雄が立ち上がり、絶滅寸前にあった人類を導いたという。
一説では、この時立ち上がった英雄──初代勇者が発揮したのが、人類が獲得した最初の『スキル』なのだという。
人類は彼を旗印に結束して、徐々にモンスターに奪われた勢力圏を取り戻していった。
勇者はモンスターが湧き出る大穴の上に、石と鉄で出来た塔を建てた。
「それが現在の“ダンジョン”となっており、我々冒険者の本来の役目とは、ダンジョンを遡って地上へと進出してくるモンスターを食い止めることに……」
「つまんなーい!」
「そんなの皆知ってるー」
地面に座ってぶーたれる子供達。
「プリムノヴァの魅力は、なんと言ってもあの星が輝く目ですよね! 知ってます? プリムノヴァって魔力が高まるとあの目が魔力光で光ってですね、それがプリムノヴァの動体視力を向上させていると僕は睨んでいるのですが──」
耳元で永遠に講釈を垂れ続ける金髪の子供。
「……ヒロ、助けてくれ」
それらの災害に見舞われながら。
ジンは、遠くからこちらを見守っているはずの少女に助けを求めた。
しかし、誰も現れなかった。