産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「ねーねー、冒険者のお兄ちゃーん」
「……どうした?」
「おぶってー」
「……」
背中に子供を乗せる。
「肩車ー」
頭の上に子供を乗せる。
「ぶら下がるやつやってー」
両腕を垂直に上げる。
「きゃー!」
「すごーい!」
「くっ……」
のべ4人分の子供の重さをその身に負ったところで、ジンは耳元のカフスに搭載されたマイクに向かって話しかけた。
「ヒロ、緊急だ」
『ん? どしたのジン』
「俺はもう何かあっても動けない。何かあったらお前に任せる」
『りょーかーい』
魔道具越しに聞こえた声は軽い。
後ろを振り向くと、軽い声の通りに頭に手を当てて敬礼のポーズをとっているヒロの姿が見えて頬が綻んだ。
頼もしかっこよかわいい。
小学生の無茶振りに心が折れそうになっているジンの心のオアシスだ。
「お兄ちゃんさー」
「うん?」
「あのお姉ちゃんのこと好きなのー?」
「ブフォッ」
遠目にもわかるヒロの魅了に酔いしれていると、突然予想外の方向から喰らった不意打ちにむせる。
「わーきったねー」
「……い、いいか。俺とヒ……あのお姉ちゃんは、冒険者仲間だ。断じてそういう仲じゃない」
「でも好きなんじゃないの?」
「あのお姉ちゃんおっぱいデカかったしな」
「おいエロガキ」
言うに事欠いて。
ヒロの胸部に言及した左腕に捕まる男子生徒をギロリと睨む。
「母ちゃん言ってたよ。男は女の胸しか見てないんだって」
「……帰ったらその母ちゃんに言ってやれ。男が見るのはそれだけじゃないってな」
「じゃあ胸は見るんだ」
「……」
う、うるせぇ。
流石にクソガキが過ぎる。
「お兄ちゃんヘンタイじゃん。ヘンタイ冒険者」
「やーいヘンターイ」
「こら、お前達! ジンさんが困ってるだろう!」
「きゃー」
「まったく……すみません、ジンさん。ダンジョンだからとはしゃいでしまっているようで」
「い、いえ」
坂井さんに怒鳴られて、ジンの体から散っていく子供達。
ジンは、子供というものが嫌いだ。
話が通じず、わがままで、平気で嘘をつき、人に平気で悪意を向ける。
父はジンが子供嫌いであることを見抜いた上で、間違いなくこんな試験を設定したのだと確信している。
そして……。
「お姉ちゃん肩車ー」
「だっこー」
「彼氏いるの?」
「はいはい、順番にねー」
ジンとは反対に、子供達に大人気なヒロ。
「遠くから見守るって話だったんだがな……」
当初の予定とは異なり。
子供達とは離れたところにいたヒロはいつの間にか子供達に手を引かれ、彼らの輪の中にいた。
フードで顔を隠しているのに、素顔を見せているジンよりも遥かに人気なのはどういうことなのか。
……やはり、ヒロから溢れ出る母性を感じているのだろうか。
「……」
「?」
ふと、ジンの隣に一人だけ子供の気配が残っているのに気づき視線を向ける。
「ヒカル……?」
ジンの横で顎に手を当てて、真剣な顔でジッとヒロを見つめ続けている一人の男の子。
神谷ヒカルは、わなわなと唇を震わせながら言った。
「まさか……いや、そんなはずは……!」
ジンはその反応を見てハッとする。
まさか、ヒロの正体に気付いたのか……!?
あり得る。これほどのプリムノヴァオタクが本物を前に、何らかの勘が働いたという可能性。
まずい。ヒロの正体を知られるわけにはいかない。
「ヒカル! あっちに等身大プリムノヴァ人形が……」
「ハカセが大人に懐いている……!」
「……なんて?」
「ハカセだよ! あの根暗なハカセが初対面の相手とあんなに仲良く話してるなんて! 一体あの人何者なんだ……」
見ると、ヒカルの視線はダボダボの白衣を着てヒロの背中にしがみついている小さな女の子に注がれていた。
どうやら、ヒロの正体に気付いたわけではないらしい。
危なかった。
「ジン〜、助けて〜……」
そうこうしていると。
ひーんとべそをかいたヒロが、フードを子供に引っ張られながらジンに近づいてきた。
顔は見えなくとも、フードの奥で涙目になっているのがわかる。
かわいそ可愛い。
「ちょっとお前! ひーくんに近づくんじゃないのですよ! りょーいきしんぱんなのですよ、お前」
「難しい言葉〜」
「おいヒロ、何かあったら頼むって話はどうした」
「ごめん〜! この子たちすっごい元気で……」
困り顔で背と頭と足に二人ずつ。抱っこしてる一人で合計5人の子供を引っ提げたヒロは、それでも全く重そうにしている気配がない。
ヒロは変身前から、一般人より高いステータスを持っているのは知っていたが……一見細いヒロがこれだけの子供を抱えて平然としているのは中々のインパクトだ。
そう、またしてもヒロが全てを背負う格好に。
「……俺が面倒見切れなかったせいだな。ごめん」
「へ? いや違うと思うけど……?」
ヒロにこんな負担をかけさせたのはジンの未熟さだ。
子供を疎んだジンの弱さだ。
ジンの弱さをヒロに押し付けてしまった。
こうなることも、父は予想してこんな試験を与えたのかもしれない。
「ほら、お前ら。お姉ちゃんに迷惑かけるな」
「やー!」
その内心をヒロに悟らせまいと、ジンに引っ付く子供を剥がしにかかる。
そんなジンの様子を、心配そうにヒロの瞳がフードの奥から見つめていた。
*
「この辺は年代的に、後期暗黒時代の建造物だな。魔法で切り出した岩を溶接して、通路にしてるんだ」
ジンはすごい。
ヒロトは冒険者としての自分の相棒であるジンを胸を張ってそう言える。
「カワサキダンジョンは、建造されたのが全ダンジョンの中でも古い部類でな。構造もシンプルなんだが、その分他のダンジョンより攻略しやすい」
ジンは特に、迷宮内の知識量に関しては並の冒険者のそれを遥かに上回る。
義務教育や一般常識レベルより数段マニアックな、調べないと出てこないような知識をたくさん持っている。
そのおかげで、モンスターが発生する予兆や異変を見逃さずここまで安全にダンジョンを進むことが出来ている。
出会った頃に冒険証なしで入場しようとしていたのが嘘みたいだ。
「壁の材質を調べれば、それで大体当時使われていた魔法の種類がわかるんだ。魔法の特徴を掴めれば、当時の環境や聖夏の成り立ちがわかって……」
「ねむい……」
「ふぁ……」
「お姉ちゃん……だっこ……」
ただ、そんなジンの凄さは子供達には中々伝わらない。
大人が聞けば感心してしまうような知識も、子供たちにとっては眠い授業と何も変わらない。
まぁ、やるべき仕事的にはジンが正しいんだけど。そもそもお勉強のためにダンジョンに来てもらってるわけだから。
「……」
ただ、ジンは寝てしまった子供達をみてどこか悲しそうだった。
「ジンはすごいねぇ」
「ヒロ……」
「ダンジョンの歴史とか成り立ちとか全然考えたことなかったよ。普通に聞き入っちゃった」
「……それでも、試験は子供達のお守りだ」
ジンは壁を見ながら、唇を引き結ぶ。
「どんなに知識を持ってても、俺はそれを冒険者として活かせられない。今だって、結局子供たちをヒロに任せっきりだ」
「まぁ、それは確かに」
「そんなこと……え、あ、うん」
そんなことないよ、という擁護を予想していたジンが、素直に役立たずであることを突きつけられて狼狽する。
「戦っても私の方が強いし」
「うん」
「子供たちには懐かれないし」
「うん」
「内容は面白いけど、話し方は長くて難解で眠くなるし」
「言いすぎじゃね……?」
ジンの痛いところを容赦なく抉るヒロトに、流石にジンが据わった目で反論してくる。
うんうん、こういう怒ってる顔の方がジンっぽい。
「まー、ぶっちゃけ今回のジンは役立たずだったけどさ」
「ハッキリ言いすぎじゃね?」
「でも」
ヒロトは広げたレジャーシートの上に寝転がっている子供達を見て笑った。
「ジンのおかげで、今日はモンスターエンカウント率0%だよ。やったね?」
「……まぁ、な」
「あと、ジンの話が退屈だったおかげで、みんな大人しくなってくれたよ。ナイス!」
「納得できねぇ……」