産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「そろそろかな……」
プログラムも30分を過ぎて、折り返し地点。
「じゃあみんなー! ここから元の広場まで戻るよー!」
「「「はーい!」」」
「えらい!よくお返事できましたー!」
ヒロトが子供達に向けて呼びかけると、大きな返事が返ってきた。
パチパチパチ、と拍手すると何人かの子供達が真似して非常に可愛らしい。
「す、すごいですね、大森さん。あの僅かな時間で子供達とここまで打ち解けるなんて……」
「まぁ、皆いい子達だったので……」
ジンから「どこがだ」という視線が飛んでくるが、本当にこれくらいは可愛いものだ。
どこかに行ってしまったり、その場から動こうとしなかったりというような子が一人もいなかった。
言えばちゃんとついてくるし、行くなと言った場所には行かない。それだけで充分“いい子達”と言っていいだろう。
「おっぱいサンドバック」
「……」
「ひーくんを誘惑する悪いモンスターを退治なのです」
ヒロトの胸をペシペシと叩いてくるエロガキがいてもだ。
「ハカセ、なんかイライラしてる?」
「結局、モンスターの1匹も出くわさなかったのです。がっかりなのですよ、お前」
「出てこないルートを通ったからねぇ」
「ふん、大人になると冒険をしなくなるのですよ。ワタはそうはならんのです、お前」
ハカセが肩をすくめてやれやれと言う。
なんか舐められてる気がしないでもないが、それは仲良くなった証だと大目に見てあげよう。
なにせ、ここからは彼女の希望通り……ダンジョンの恐ろしさを体験する時間だからだ。
「ヒロ、そろそろ変身の準備……どうした?」
「な、なんでもないっ」
子供達を見ていたところに、突然耳元でジンに囁かれて。
思わず体が跳ね上がる。
本当、こういう不意打ちやめてほしい……。
「?」
熱くなった顔をパタパタと手で仰ぎながら、ヒロトはこっそり集団から距離を取った。
「あれー、お姉ちゃんどこー?」
「つまんないお兄ちゃんしかいないのつまんなーい」
「……」
胸の鼓動を誤魔化すように深呼吸して、子供達に視線を戻す。
そして、程なくしてそれは現れた。
「え!?」
「モンスターだ!」
「きゃー!!」
通路に向こう側から現れたのは、3体の子供くらいの大きさをした人型モンスター。
ゴブリンだ。
「グギャ!」
「グギャギャ!!」
「グギャー!」
「みんな下がって!」
ジンが子供達の前に出て、子供達がパニックにならないように指示を出す。
「みんなで固まって、先生の所から動かないこと! 決して一人で離れたり逃げたりするな!」
「みんな! こっちだ!」
緊迫した空気に、さすがの子供達も顔に恐怖を浮かべながらひと所に集まっていく。
モンスターがテイム済みじゃなければ、確かに緊急事態だけど。
勿論、ジンも坂井先生もこれが演出だってことはわかってる。
ダンジョンは怖い所だ、という認識を子供達に持ってもらうため、そして緊急時のため実際には無害とわかっていても本当にモンスターが現れた想定で動く。
それも一つのダンジョン経験と言えるものだ。
「よし、私も行こう」
子供達が集まったタイミングでヒロトはフードを脱ぎ、胸元のブローチをタップした。
「変身」
ブローチが光り輝き、胸から伸びたリボンが全身に巻き付いていく。
髪が伸びて、パーカーがドレスに変化して、全身が光り輝き魔力が漲る。
瞳の中に星が浮かび、虚空から現れたステッキを手に取って構える。
光が収まりリボンが解かれ、カツンとヒールが音を立てて地面に降り立つと、魔法少女の姿となったヒロトがそこに立っていた。
「うん……?」
変身を終え、再び状況を確認すると。
なにやら子供達が騒いでいた。
「なんでです先生! モンスターがいるのですよ!?」
「だからだ! 勝手に動くんじゃないって、さっきジンさんも言ってただろう!?」
子供達の中で大声で叫んでいたのは、意外にもハカセだった。
さっきまでの落ち着いた様子から一転。鬼気迫る表情で何かを訴えている。
先生がなんとか宥めようとして、ジンも遠巻きに困ったように見つめていた。そして棒立ちのゴブリン。
なんだかシュールな状況だけど、一体なにが起きて……。
って、まさか!?
「子供扱いするなです! “オーシャンウェーブ”!」
「バカなことを……!!」
ハカセが呪文を唱えた瞬間、魔力が渦巻きゴブリン達を飲み込むように巨大なうずしおが現れた。
ゴブリンたちは抵抗する暇もなく水に飲み込まれていき、水の中に沈んでいった。
それはいい。
問題は、ゴブリン達を飲み込んだうずしおがいまだに消えていないことだった。
「え……?」
「やばっ……!?」
ヒロトは地面を蹴って駆け出した。
「みんな離れろ! 巻き込まれるぞ!」
「おい、何やってんだよハカセ!」
「ち、ちが……!? ワタはみんなを守ろうとして……!」
「まずい! 通路に水が!」
カワサキダンジョンは狭い。水の魔法なんて使おうものなら通路全体があっという間に水没する。
さらに岩壁が連なったようにして出来た通路は、ひとたび衝撃が加わると崩れてしまうような脆い構造。
これを知っているカワサキダンジョンの冒険者達は、魔法を使う際でも決して範囲攻撃魔法を使ったりはしない。
何故か。
「ダ、ダンジョンが……!」
それをすれば、敵も味方も含めて全員がダンジョンの崩壊に巻き込まれるからだ。
「わああああっ!」
「助けて!」
地面が崩落し、底が抜けた結果出来た通路の大穴に二人の子供達が巻き込まれていく。
「はぁっ!」
ヒロトは崩落していく足場を飛び越えて、空中で子供達を抱えた。
「えっ……プリムノヴァ!?」
「本物!?」
「掴まって!」
足場を再び蹴り、崩壊が及んでいない通路の端まで飛んで二人を降ろす。
「ヒロ!」
「ジン! 何人巻き込まれた!?」
「プリムノヴァだ!」
「プリムノヴァが助けてくれたの!?」
崩落が及んでいない通路の端に、ジンと坂井先生と他の子供達が集まっていた。
どうやらジンが避難誘導してくれたみたいだ。おかげで助かった。
「あと二人足りない……」
「二人って……」
「あの子達が……! ヒカルくんが瀬奈さんを庇って、二人とも崩落に!」
「え!?」
坂井先生が絶望的な表情でヒロトに詰め寄る。
ヒカルくんと、瀬奈さんってことはハカセだ。
二人が崩落に……。
「プリムノヴァさん! どうか、どうかあの子達をお願いします!」
「!」
頭を下げて懇願する先生。
ヒロトはジンに視線を向けると、ジンは一瞬眉を寄せて悩んだような表情をしたあと。
顔をあげてヒロトの顔をハッキリ見た。
「プリムノヴァ、この人たちは俺が見てる。お前は二人を助けにいってくれるか」
「うん、わかった!」
「……悪いな」
切なそうな顔をするジンに、何かを言おうと口を開いて。
首を振って、今やるべきことは別だと切り替える。
「……行ってくる!」
ジンに背を向け、走り出し。
崩落した通路に再び飛び込む。
「二人とも、どこに……!」
瓦礫によって塞がれた視界。
一つ一つ瓦礫をどかしていたら間に合わない。
ヒロトは足を止め、耳を澄ました。
「──」
「!」
そうして捉えた、瓦礫の向こうから聞こえる声。
声の発生地点に向けて、ヒロトは瓦礫を飛び越えた。
「もういい! ここから離れろハカセ!」
「ぜったい……嫌、なのです……っ!」
「ヒカルくん! ハカセ!」
瓦礫の向こう。視界に飛び込んできた光景は。
崩落した瓦礫の隙間に挟まって動けなくなっているヒカルくんと、彼をなんとか引っ張り出そうとしているハカセの姿だった。
「プ、プリムノヴァ!? 」
「え!?」
ヒカルくんがヒロトの姿を視界に捉え、目を見開く。
声につられてハカセもこちらを振り向き。
……二人の足元を支えていた床に、ピシリとヒビが入った。
「ッ!」
それを見た瞬間、ヒロトが飛び出して。
「セナ!」
ヒカルがハカセの手を掴んだ。
「ひーくん!?」
二人の足場が音を立てて崩れ、奈落へと落ちていく。
数秒後。
そこには、あらゆるものを飲み込む迷宮の闇だけが。
大口を開けて、そこにあった。