産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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27 ヘルハウンド

変身少女(メタモルフォーゼ)

残り時間 24:51

 

「残り25分……」

 

 冒険証を確認して、残りの変身時間を把握する。

 

 上層で変身してから、ヒカルくんとハカセ二人と一緒に深層に落ちて、こうして地上で一息つくまでわずか5分だ。

 

「たった5分にしては、ものすごい濃密な時間だったけど」

 

 上層で呑気に「このあと子供達と何話そっかなー」とか考えてたのが遥か昔のことのように感じる。

 

 そしてあと25分で、この手がかり0の暗闇の森の中で安全な場所に辿り着かなければいけないのだが。

 

「こうも暗いとなぁ」

 

 辺りは、一寸先も見えない……という程ではないが、街灯のない暗い夜道くらいの明るさの森の中。

 

 光源の類はふしぎな衣装部屋(クローゼット)の中にもないし、辺りを照らす光魔法は私が最も苦手とする分野だ。

 

「せめて火が使えれば……ハカセ、魔法使えるんだよね?」

 

 そう聞くと、ヒロトの様子を窺っていたハカセが肩を跳ねさせて、「え、えっと」とどもりながら答えてくれた。

 

「使えますが、火も光も苦手分野なのです。ワタが使えるのは水と、ちょっとだけ風が使えるのです」

「風もいけるんだ」

「……そよ風を吹かす程度なのです。飛行魔法は使えないのですよ」

 

 ハカセがちょっとバツが悪そうに言う。

 

 基本的に、一人につき扱える属性魔法は一つだ。

 

 しかし、まれに二属性以上の魔法を使うことができる者がいる。それでも適性魔法よりは威力練度共に落ちるけど。

 

 最上位冒険者である“七色魔導士”なんかはその名の通り七属性の魔法を使いこなすらしいけど、そんなのは例外中の例外。

 

 “魔法少女”なヒロトだが、肝心の魔法は苦手なのだった。

 

「……プリムノヴァは空が飛べる、と聞いていたのですが。そんなことはないのですね」

「どこ情報よそれ……」

「そこのひーくん……あっ、ヒカルくんが話していたのです」

 

 おいこら。

 

 とんだガセネタじゃんか。

 

 しかもヒロトと面識のあるヒカルくんが言うと説得力が増す。最悪だ。

 

「人が空飛べるわけないでしょ。まさか翼を生やすわけにもいかないし」

「その通りの光景をさっき見たのですが……」

「……」

 

 まぁ。

 

 時にはそういうこともある。

 

「でも、本格的に困っちゃったな。どうすれば……」

「……プリム、ノヴァ。これを」

 

 うーんと悩むヒロトたちに。

 

 苦しそうな声がかけられた。

 

「ひーくん!? 起きたのです?」

「これを……使って……」

 

 目を覚ましたヒカルくんが、肩から下げるようにして持っていたショルダーバックの中から何かを取り出した。

 

「プリムノヴァの変身道具……“プリマバタフライ”。道案内をしてくれる、蝶々だ……」

「変身道具……?」

「次に、会ったら渡そうって……色々、作って……」

「ヒカルくん!」

 

 言い終えるや否や、ガクッとヒカルくんが項垂れる。

 

 額に手を当てる。

 

「……すごい熱。ハカセ、魔法使える?」

「つ、使えますが氷は出せないのです」

「充分。闇魔法の中には凍らせるものもあるから」

 

 ふしぎな衣装部屋(クローゼット)を開き、ビニール袋を取り出す。

 

「“スプラッシュ”」

「“シャドウフリーズ”」

 

 ビニールの中にハカセが威力の低い水魔法で水を溜め、闇属性の凍結魔法で氷を作る。

 

 それを砕いて、ビニールの中に詰めて氷嚢を作る。

 

「! プリムノヴァ、何かいるのです」

 

 氷嚢をヒカルくんの頭に置こうとした時、気配を感じて振り向く。

 

 少し遅れてハカセも気づく。

 

「……“ヘルハウンド”だ」

 

 炎のように逆立った毛。煌々と輝く目。

 

 そしてシルエットと唸り声から、それが炎属性の強力な狼型モンスター、ヘルハウンドだと私は判断した。

 

 上層ではボスモンスター級の強いモンスターで、プリムノヴァになってから遭遇したモンスターの中では一番強力だろう。

 

 小林大翔だった頃なら、間違いなく戦わずに逃亡を選んでいた相手。

 

 ……それが群れを為して、ヒロトの周囲を取り囲んでいた。

 

「あ、あ……」

 

 身近に感じたモンスターの殺気に当てられ、腰を抜かすハカセ。

 

 無理もない。暗い森の中で、それもこれほど強力なモンスターに囲まれているという事実。

 

 今までのダンジョンとはレベルが違う。

 

 これが“深層”。

 

「“シャドウバインド”」

 

 ヒロトはヒカルくんを背負い、彼の首筋に氷嚢を入れ込むと、拘束魔法でヒカルくんの体をヒロトに結びつけた。

 

「ハカセ、走……れないよね。掴まって」

「プ、プリムノヴァ……?」

 

 背中にヒカルくんを背負った状態で。

 

「わぁっ!?」

 

 ハカセを右腕で抱えるようにして、胴体の前で拘束魔法で固定。

 

 重くはない。けど、なんだか子供が二人いる母親になった気分だ。

 

「む、胸が当たって……」

 

 ハカセが何か言おうとしたが、今は無視。

 

「ガルルォ!」

「!」

 

 地面を蹴り、周囲を取り囲んでいたヘルハウンドの一体が飛びかかってきた。

 

 声に合わせて私は跳んで空中に逃れ、カウンターでヘルハウンドの鼻面に回し蹴りを叩き込む。

 

「ギャウンッ!?」

「良かった。暗くても目が光って戦いやすいね」

 

 そして、深層のモンスターといえどプリムノヴァの攻撃力は通用する。

 

 蹴りを喰らって吹き飛んでいくヘルハウンドを見て、それを確信。

 

「す、すごいのです」

「ガルルァ!」

「ガウッ!」

 

 最初の1匹を合図に、雪崩を打つようにして襲いかかるヘルハウンドの群れ、群れ、群れ。

 

「……いや多いな!」

 

 想像以上。

 

 何十匹と襲ってくるヘルハウンドに、ヒロはプリマスターロッドを掲げた。

 

「“シャドウアローレイン”!」

 

 杖の先から、黒い矢が何十と放たれ。

 

 それは雨となってヘルハウンドの群れに降り注いだ。

 

 

「……キリがない」

 

 戦い始めて、もう10分は経過した。

 

 ヘルハウンドの群れは、数は減ったがまだ続きそうだ。

 

 このままじゃマズい。

 

 今の状況が続くなら、負けることはないにしても。

 

 変身時間が終了する。

 

「……!」

 

 戦いながら、すでにヒロは森の中を移動し始めていた。

 

 しかし、ただでさえ視界が悪い暗闇を、障害物の多い森の中を進むとなれば。

 

 移動速度は遅くなるし、何より相手はどうやら夜目が効くようだった。

 

 そんなヒロが頼りに進んでいるのは、目の前を飛ぶ1匹の蝶。

 

 “プリマバタフライ”。

 

 蝶と言っても魔道具だが、それが道案内をするようにヒロを導いている。

 

「って言っても、どこに飛んでいってるのか……」

 

 蝶は飛んだ軌跡に光の粒子を残しており、それを辿っていけばいいというのはわかる。

 

 だけど、向かう先にもモンスターがいるとしたらこのまま着いていくうちに時間切れだ。

 

「あっ! プリムノヴァ! あそこ!」

「!」

 

 だんだんと焦るヒロトに、胸に抱くハカセが声を上げて指差した。

 

「洞窟なのです!」

 

 ハカセが指差した先には、確かにヘルハウンドが発する灯りに照らされて、岩肌に口を開けた洞窟があった。

 

「わんちゃん達、あの辺りにいないのです! 逃げ込めるのではないですか!?」

「……」

 

 確かに、そうだ。何故かヘルハウンドたちはその洞窟を避けるようにして移動している。

 

 だけど、それが逆に怪しくもある。どうしてヘルハウンド達はあの洞窟を避けるのか……。

 

「プリマノヴァ!」

「……よしっ!」

 

 少し悩んだが、このままじゃジリ貧なのは変わらない。

 

 ヒロトはプリマスターバタフライを回収すると、方向転換して洞窟に向かって駆け出した。

 

「やっぱり! この中にはあいつら入ってこれないです!」

 

 洞窟に入ったヒロトを、ヘルハウンドたちは追撃してこなかった。

 

 その様子を見たハカセが歓喜の声を上げる。

 

「た、助かったのです!」

「うん、この中でアイツらがいなくなるまで待とう」

「プリムノヴァ! 見たのです!? ワタがこの洞窟見つけたですよ!?」

「うん、ありがとね。ハカセ。助かったよ」

 

 私がお礼を言うと、ハカセは目をキラキラと輝かせて「あいつらが入ってこないか見張るのです!」と入り口のほうに走って行った。

 

 ヒロトは背負い紐代わりにしていた魔法を解除し、ヒカルくんを地面に降ろす。

 

 変身の残り時間もわずかだ、二人には解除後の姿を見せることになると思うけど、贅沢は言ってられない。

 

 残り時間で洞窟の奥の方を……。

 

「プリム、ノヴァ……」

「! ヒカルくん、起きたの……」

「ここから、急いで離れてください」

「……え?」

 

 地面に横たわったヒカルくんが、険しい顔をしていた。

 

「プリマバタフライは、自立思考で周囲で一番安全な場所へと案内します……この洞窟に、あなたを案内しなかったということは……」

 

 不意に、洞窟の奥から何かの音が聞こえた。

 

 ぴちゃ、ぬちゃ、という水音のようなものが。

 

「この洞窟は……」

 

 ぴちゃ、ぬちゃ。

 

 それは音を立てて。

 

「モンスターの巣です……!」

「えっ……」

 

 洞窟の奥から飛び出したピンク色の触手が、ヒロトの体に絡みついた。

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