産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「くっ、なにこれ……!」
洞窟の奥から飛び出した触手を手で払う。
ビチィッ! という肉を打つ音と共に触手が弾かれる。
しかし、次から次へと闇から現れる触手。
「マジカル……」
カウンター、と迎え撃とうとして。
「やっぱキモいからブラスター!」
“プリマスターロッド”を召喚。
闇色の光線を連射して伸びてくる触手を次々迎え撃つ。
「うっわ……」
魔法を受けて、切断された触手の先端は。
ビチビチッと地面の上で水揚げされた魚のように跳ね回った。
そのあまりにグロテスクな光景に思わずドン引き。
しかもなんか先端から変な透明の液体噴射してるし。キモすぎる。
流石は深層のモンスター。精神的ダメージも欠かさないってわけだ。
「けど、魔法が効くなら!」
闇魔法の速射、連射、飽和攻撃。
ドドドド──と、魔法による掃射を、見えない敵に向かって行う。
そうして、魔法を撃ち終えると。
ズドォン……という、重い何かが奥で倒れるような音がして、洞窟の中は静かになった。
「……」
“プリマバタフライ”を取り出し、周囲の様子に注意しながら奥へと進む。
「……これが本体か」
そうして程なく、洞窟の最奥へと辿り着く。
そこには、幾重もの触手が絡まり合った肉の塊とでもいうような……グロテスクかつ冒涜的なフォルムのモンスターがいた。
「なんてモンスターだったんだろ。あんまり見たこと……」
遠目から動かないことを確認したヒロトが一歩踏み出した。
瞬間。
「いっ!?」
首筋の後ろ。うなじの部分に。
チクリと鋭い痛みを感じた。
──プシュウウウ。
空気の抜けるような音と共に、首筋に何かが注入されていく感触。
瞬間、カッと体が熱くなる。
「“シャドウアロー”!」
すぐさま振り向き魔法を放つ。
魔法によりちぎれる触手。
「うっ!?」
しかし、切れた触手が噴射する透明な体液を顔に浴びてしまった。
反射的に目を閉じるが、口の中に少量ながら体液が入り込む。
喉に絡みつくような、粘ついた感触が口の中を侵す。
構わず魔法を乱射。
「げほっ、ごほっ」
咳き込みながら目を開けると、天井にへばりついていた触手の一部が、シュウゥゥ……と音を立てて消えていくところだった。
どうやら、あの肉塊は天井に吊り下がっていたようだ。
その切れ端が、最後に反撃をしてきた。
「……」
チクリと痛んだうなじを触る。
腫れてもいなければ、血も出ていない。
「なんだったんだろ……」
釈然としない思いを抱えたまま。
ヒロトは二人の元へと戻っていった。
上気したような顔の熱と体の疼きには気付かずに。
……ふらふらと、僅かに揺れる視界で。
*
「プリムノヴァ! 戻って……え?」
「変身が……解除されてる……!」
「……ヒロ!? プリムノヴァはヒロだったのです!?」
「ハカセ……! 彼女をこっちに……!」
「ひーくん!? 動いちゃダメなのです!」
「狼が避ける元凶を倒したんだ……モンスターが寄ってくる……もう、この洞窟は……!」
「そんな……!」
「……よぉ」
「えっ」
「……あなたは」
「ここで派手に戦ってたのはお前らか?」
*
頭が痛い。
頭蓋の内側から、ペンチで直接殴られているかのような。
何も考えられないくらい、頭が割れるように痛いのに。
同じくらい全身が熱かった。
「……あれ」
目を覚ます。
周囲を見渡すと、そこはどこかの薄暗い寝室のようだった。
甘い香りが充満する部屋だ。
ここは一体、どこなのか。
ヒロトは確か、深層に落ちて、ヘルハウンドから逃げ回り、洞窟に逃げて、それから……。
「なんだっけ……」
思い出せない。
ハカセとヒカルは、どこに……。
意識がぼんやりとしたまま寝転んでいると。
ギィ、と扉が開く音。
ぱたぱたという軽い足音。
ギシッ、とヒロトが寝転がるベッドが軋む音がして。
息がかかるくらい近い距離に。
銀髪の美少年の顔があった。
そして、少年は顔を寄せて。
吸い寄せられるように瞳が……。
「は?」
反射的に手を動かして、少年の顔を押し留める。
「……まさか、起きたのか?」
状況が理解できず、ぱちくりとまばたきするヒロに。
「“
銀髪少年はそう言って、フッと笑った。
「早いほうがいい。毒が回り切る前に終わらせるぞ」
「毒……?」
言葉の意味を理解する暇もなく。少年がヒロトに覆い被さり。
そして。
「まぁ、すぐ終わるから大人しくしとけ」
手を伸ばしてきて。
ぴら、と上着を捲られた。
「ふむ」
そしてお腹を確認して、頷く少年。
……え。
ワンテンポ遅れて、ヒロトは自分が今、何をされたのかを理解して。
「んんっ」
さわ、と下に潜り込んだ手がヒロトの尻を撫でた。
予想外の感触に、思わず口から熱い吐息が漏れる。
「って、ちょっと!?」
その瞬間、ぼんやりとしていた意識が覚醒して、ヒロトはずざざざっ! と飛び起きた。
いつの間にかヒロトは裸にされていた。何もつけていない真っ白な肌がわずかに赤らんでいる。
「な、なんで服着てないの……!? っていうか、誰!? なんでお尻撫でたの!? は!?」
「おいおい、落ち着け。触診してただけだよ」
状況を脳が理解できず、フリーズする。
どういう状況なんだ、これは。
「早くこっち戻ってこい。じゃないと始められねぇだろ」
「は、始めるって……何を……?」
「決まってんだろ」
少年は呆れたように言った。
「治療だよ、治療」
「ち、治療? なんの?」
「覚えてねぇのか。お前、モンスターの毒にやられたんだよ」
そう言われ、直前の記憶を掘り起こす。
……まさか、あの触手が?
「……だとしても、治療でなんで体触る必要があるわけ?」
「そりゃあるだろ。胸に聴診器当てずに心拍数がわかるのか? どんくらい毒が回ってたのか確認したんだよ」
「だ、だとしても……!」
両腕で胸を隠しながら、状況の意味不明さに困惑する。
謎の触手モンスターに襲われて、なんとか倒したと思ったら、いきなりどこかのベッドの上で目覚めて。
お、お尻を触られて。
「意味がわかんないんだけど……!」
キッ、と少年……白衣を素肌の上に着た珍妙な格好の少年を睨みつける。
恐怖と、意味のわからなさと、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。
「! ヒカルくんとハカセは!? 二人とも無事!?」
「ん? あぁ、あのガキどもなら……」
「ま、まさか二人にも今みたいなこと……!?」
「してねぇよ。あんなガキには興味ねぇし、そもそも片っぽ男だろ」
「私だって男だけど!?」
キレ気味に叫ぶ。
その瞬間、少年の表情が「は?」と固まって……ベッドの端で警戒するヒロトの全身をジロジロと見た。
全身を舐め回すような視線。その視線で裸なことを意識して、見られたところがじんわりと汗ばむ。
「……随分いい体した男がいるもんだな」
「ち、違う!? い、いや違わないけど違うっていうか……とにかく! 私に男と寝る趣味なんかない!」
銀髪の少年は、ハァ……とため息を吐いて、ヒロトに向かってあぐらをかいて座っ、って。
「待って。ちょ、見えてる。丸見えになってる! 何見せてんの!?」
「あ? 男の見るのは初めてか?」
「い、いや初めてではないけど……!」
見たことあると言っても、それは自分のだ。
他人のなんて、チラッと見たことがある程度。だから大きい小さいなんてわからないけど。
……多分、この子のは大きい。それも相当。
ヒロトが男の時ってどれくらいだったっけ……。
と、まじまじと少年のそれを凝視していると。
銀髪の少年が疑わしげな視線を向けてきているのに気づいた。
「な、何?」
「いや、思ったより症状の進みが早いなと……俺のモンが気になったか?」
「……!? ち、ちがっ」
立ち上がり、否定しようとして。
「ふぇ?」
腰に甘い疼きと、電撃のような快楽が走り。
「あっ……」
ビクッと腰を跳ねさせて、ベッドにへたり込んでしまう。
バチッ、バチッと視界が明滅し、ガクガクと震える足。
「なに、こりぇ……ッ?」
「チッ、蟲が動き出したか……仕方ない、応急処置だ」
そう言うと、少年はヒロトの下腹部に手を当て。
「……あぐっ!?」
焼けた鉄を押し当てられるような熱と共に、禍々しい紋章が浮かび上がる。
「いいかよく聞け。お前には今、蟲が寄生してる。そいつがお前の中を食い荒らす前に、とりあえず暴れ出さないように封印はしておいた」
遠くなっていく意識の中で、少年の声だけが他人事みたいに響く。
「こいつが再び動き出したら……お前は“魔性化”する。その前に治すんだ」
理解も何もできない、その言葉だけが。
明滅する頭に叩きつけられた。