産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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28 堕落蟲

「くっ、なにこれ……!」

 

 洞窟の奥から飛び出した触手を手で払う。

 

 ビチィッ! という肉を打つ音と共に触手が弾かれる。

 

 しかし、次から次へと闇から現れる触手。

 

「マジカル……」

 

 カウンター、と迎え撃とうとして。

 

「やっぱキモいからブラスター!」

 

 “プリマスターロッド”を召喚。

 

 闇色の光線を連射して伸びてくる触手を次々迎え撃つ。

 

「うっわ……」

 

 魔法を受けて、切断された触手の先端は。

 

 ビチビチッと地面の上で水揚げされた魚のように跳ね回った。

 

 そのあまりにグロテスクな光景に思わずドン引き。

 

 しかもなんか先端から変な透明の液体噴射してるし。キモすぎる。

 

 流石は深層のモンスター。精神的ダメージも欠かさないってわけだ。

 

「けど、魔法が効くなら!」

 

 闇魔法の速射、連射、飽和攻撃。

 

 ドドドド──と、魔法による掃射を、見えない敵に向かって行う。

 

 そうして、魔法を撃ち終えると。

 

 ズドォン……という、重い何かが奥で倒れるような音がして、洞窟の中は静かになった。

 

「……」

 

 “プリマバタフライ”を取り出し、周囲の様子に注意しながら奥へと進む。

 

「……これが本体か」

 

 そうして程なく、洞窟の最奥へと辿り着く。

 

 そこには、幾重もの触手が絡まり合った肉の塊とでもいうような……グロテスクかつ冒涜的なフォルムのモンスターがいた。

 

「なんてモンスターだったんだろ。あんまり見たこと……」

 

 遠目から動かないことを確認したヒロトが一歩踏み出した。

 

 瞬間。

 

「いっ!?」

 

 首筋の後ろ。うなじの部分に。

 

 チクリと鋭い痛みを感じた。

 

 ──プシュウウウ。

 

 空気の抜けるような音と共に、首筋に何かが注入されていく感触。

 

 瞬間、カッと体が熱くなる。

 

「“シャドウアロー”!」

 

 すぐさま振り向き魔法を放つ。

 

 魔法によりちぎれる触手。

 

「うっ!?」

 

 しかし、切れた触手が噴射する透明な体液を顔に浴びてしまった。

 

 反射的に目を閉じるが、口の中に少量ながら体液が入り込む。

 

 喉に絡みつくような、粘ついた感触が口の中を侵す。

 

 構わず魔法を乱射。

 

「げほっ、ごほっ」

 

 咳き込みながら目を開けると、天井にへばりついていた触手の一部が、シュウゥゥ……と音を立てて消えていくところだった。

 

 どうやら、あの肉塊は天井に吊り下がっていたようだ。

 

 その切れ端が、最後に反撃をしてきた。

 

「……」

 

 チクリと痛んだうなじを触る。

 

 腫れてもいなければ、血も出ていない。

 

「なんだったんだろ……」

 

 釈然としない思いを抱えたまま。

 

 ヒロトは二人の元へと戻っていった。

 

 上気したような顔の熱と体の疼きには気付かずに。

 

 ……ふらふらと、僅かに揺れる視界で。

 

 

「プリムノヴァ! 戻って……え?」

「変身が……解除されてる……!」

「……ヒロ!? プリムノヴァはヒロだったのです!?」

「ハカセ……! 彼女をこっちに……!」

「ひーくん!? 動いちゃダメなのです!」

「狼が避ける元凶を倒したんだ……モンスターが寄ってくる……もう、この洞窟は……!」

「そんな……!」

 

「……よぉ」

 

「えっ」

「……あなたは」

 

「ここで派手に戦ってたのはお前らか?」

 

 

 頭が痛い。

 

 頭蓋の内側から、ペンチで直接殴られているかのような。

 

 何も考えられないくらい、頭が割れるように痛いのに。

 

 同じくらい全身が熱かった。

 

「……あれ」

 

 目を覚ます。

 

 周囲を見渡すと、そこはどこかの薄暗い寝室のようだった。

 

 甘い香りが充満する部屋だ。

 

 ここは一体、どこなのか。

 

 ヒロトは確か、深層に落ちて、ヘルハウンドから逃げ回り、洞窟に逃げて、それから……。

 

「なんだっけ……」

 

 思い出せない。

 

 ハカセとヒカルは、どこに……。

 

 意識がぼんやりとしたまま寝転んでいると。

 

 ギィ、と扉が開く音。

 

 ぱたぱたという軽い足音。

 

 ギシッ、とヒロトが寝転がるベッドが軋む音がして。

 

 息がかかるくらい近い距離に。

 

 銀髪の美少年の顔があった。

 

 そして、少年は顔を寄せて。

 

 吸い寄せられるように瞳が……。

 

「は?」

 

 反射的に手を動かして、少年の顔を押し留める。

 

「……まさか、起きたのか?」

 

 状況が理解できず、ぱちくりとまばたきするヒロに。

 

「“堕落蟲(だらくちゅう)”にやられて、こんなにすぐ起きた奴は初めて見たぜ」

 

 銀髪少年はそう言って、フッと笑った。

 

「早いほうがいい。毒が回り切る前に終わらせるぞ」

「毒……?」

 

 言葉の意味を理解する暇もなく。少年がヒロトに覆い被さり。

 

 そして。

 

「まぁ、すぐ終わるから大人しくしとけ」

 

 手を伸ばしてきて。

 

 ぴら、と上着を捲られた。

 

「ふむ」

 

 そしてお腹を確認して、頷く少年。

 

 ……え。

 

 ワンテンポ遅れて、ヒロトは自分が今、何をされたのかを理解して。

 

「んんっ」

 

 さわ、と下に潜り込んだ手がヒロトの尻を撫でた。

 

 予想外の感触に、思わず口から熱い吐息が漏れる。

 

「って、ちょっと!?」

 

 その瞬間、ぼんやりとしていた意識が覚醒して、ヒロトはずざざざっ! と飛び起きた。

 

 いつの間にかヒロトは裸にされていた。何もつけていない真っ白な肌がわずかに赤らんでいる。

 

「な、なんで服着てないの……!? っていうか、誰!? なんでお尻撫でたの!? は!?」

「おいおい、落ち着け。触診してただけだよ」

 

 状況を脳が理解できず、フリーズする。

 

 どういう状況なんだ、これは。

 

「早くこっち戻ってこい。じゃないと始められねぇだろ」

「は、始めるって……何を……?」

「決まってんだろ」

 

 少年は呆れたように言った。

 

「治療だよ、治療」

「ち、治療? なんの?」

「覚えてねぇのか。お前、モンスターの毒にやられたんだよ」

 

 そう言われ、直前の記憶を掘り起こす。

 

 ……まさか、あの触手が?

 

「……だとしても、治療でなんで体触る必要があるわけ?」

「そりゃあるだろ。胸に聴診器当てずに心拍数がわかるのか? どんくらい毒が回ってたのか確認したんだよ」

「だ、だとしても……!」

 

 両腕で胸を隠しながら、状況の意味不明さに困惑する。

 

 謎の触手モンスターに襲われて、なんとか倒したと思ったら、いきなりどこかのベッドの上で目覚めて。

 

 お、お尻を触られて。

 

「意味がわかんないんだけど……!」

 

 キッ、と少年……白衣を素肌の上に着た珍妙な格好の少年を睨みつける。

 

 恐怖と、意味のわからなさと、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。

 

「! ヒカルくんとハカセは!? 二人とも無事!?」

「ん? あぁ、あのガキどもなら……」

「ま、まさか二人にも今みたいなこと……!?」

「してねぇよ。あんなガキには興味ねぇし、そもそも片っぽ男だろ」

「私だって男だけど!?」

 

 キレ気味に叫ぶ。

 

 その瞬間、少年の表情が「は?」と固まって……ベッドの端で警戒するヒロトの全身をジロジロと見た。

 

 全身を舐め回すような視線。その視線で裸なことを意識して、見られたところがじんわりと汗ばむ。

 

「……随分いい体した男がいるもんだな」

「ち、違う!? い、いや違わないけど違うっていうか……とにかく! 私に男と寝る趣味なんかない!」

 

 銀髪の少年は、ハァ……とため息を吐いて、ヒロトに向かってあぐらをかいて座っ、って。

 

「待って。ちょ、見えてる。丸見えになってる! 何見せてんの!?」

「あ? 男の見るのは初めてか?」

「い、いや初めてではないけど……!」

 

 見たことあると言っても、それは自分のだ。

 

 他人のなんて、チラッと見たことがある程度。だから大きい小さいなんてわからないけど。

 

 ……多分、この子のは大きい。それも相当。

 

 ヒロトが男の時ってどれくらいだったっけ……。

 

 と、まじまじと少年のそれを凝視していると。

 

 銀髪の少年が疑わしげな視線を向けてきているのに気づいた。

 

「な、何?」

「いや、思ったより症状の進みが早いなと……俺のモンが気になったか?」

「……!? ち、ちがっ」

 

 立ち上がり、否定しようとして。

 

「ふぇ?」

 

 腰に甘い疼きと、電撃のような快楽が走り。

 

「あっ……」

 

 ビクッと腰を跳ねさせて、ベッドにへたり込んでしまう。

 

 バチッ、バチッと視界が明滅し、ガクガクと震える足。

 

「なに、こりぇ……ッ?」

「チッ、蟲が動き出したか……仕方ない、応急処置だ」

 

 そう言うと、少年はヒロトの下腹部に手を当て。

 

「……あぐっ!?」

 

 焼けた鉄を押し当てられるような熱と共に、禍々しい紋章が浮かび上がる。

 

「いいかよく聞け。お前には今、蟲が寄生してる。そいつがお前の中を食い荒らす前に、とりあえず暴れ出さないように封印はしておいた」

 

 遠くなっていく意識の中で、少年の声だけが他人事みたいに響く。

 

「こいつが再び動き出したら……お前は“魔性化”する。その前に治すんだ」

 

 理解も何もできない、その言葉だけが。

 

 明滅する頭に叩きつけられた。

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