TS魔法少女プリムノヴァ   作:ぷに凝

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3 ファンボーイとの邂逅

 ダンジョン内でスキルを使う際は、気をつけなければならない。

 

「でさー、そん時の子がめっちゃ可愛くて」

「マジか。俺も見たかったな」

「それガセじゃないの?」

 

 何故なら、すでにダンジョンに潜る魔法少女の姿はちょっとした噂になっているからだ。

 

 昨日の今日で早いことだ。

 

「まぁ、目立つから仕方ないんだけどな」

 

 ダンジョンに入る際の装備は、基本的に物騒で地味なものが大半。

 

 当たり前だ。どこに自分の命よりファッションを優先させる奴がいるというのか。

 

 そんな中にあって、当然ながらドレス姿の女の子なんていれば目立つ。そりゃもう滅茶苦茶目立つ。

 

 だからあまり人前に姿を晒したくはなかったし、昨日の転移門広場でのいざこざはかなり痛手だった。

 

 写真を撮られたりはしていなかったようだが、どんな見た目をしていたかは、すでにネットの掲示板やSNSなどでも粗方共有されている。

 

 それこそ、今日のダンジョンにはちらほらと噂の魔法少女を探していると思わしき冒険者の姿が見え隠れするくらいだ。

 

 だが同時に、この噂をデマだとする説も根強い。一種の都市伝説の類だと。

 

 実際、ガセやデマはいくらでもある。だから冒険者には正しい情報とそうでない情報を嗅ぎ分ける嗅覚が必要だった。

 

 ヒロトがリッチを倒して、『性転換』と『魔法少女のドレス』を手に入れたのも……ちょっと思っていたのとは違ったけど、信頼できると思えた情報を試した結果だ。

 

 情報は武器。ゆえにヒロトはなるべく自分のスキルと正体を隠さなければならない。

 

 変身する瞬間を見られでもしなければ、正体が男だと勘付かれることはないだろう。

 

 ただし。

 

「よし……『性転換』」

 

 女の姿でいる時は別だ。

 

 男のヒロトを魔法少女と結びつけられることはないにしても、変身前の女のヒロトはかなり容姿が近い。

 

 姿を見られれば、すぐにバレてしまう。

 

 だから性転換したら、すぐにドレスを装備してしまうのが望ましい。

 

 貧弱な状態のままでダンジョンを彷徨くメリットは、あまりない。

 

「『変身』」

 

 ドレスを取り出して装備。

 

 全身が光に包まれて、魔法少女の姿に変身。

 

「慣れないなぁ」

 

 相変わらずの、心底不安になるフリフリドレス姿だ。

 

 トントン、とヒールの足先を地面で叩いて感触を確かめる。

 

「……あれ」

 

 残り時間を確認するため、冒険証を見ると。

 

『性転換』

残り時間 [5:52]

 

「残り時間が増えてる……?」

 

 性転換の効果時間は5分だったはずだ。

 

 それがいつの間にか、6分に増えている。

 

「いつから?」

 

 5分だと思い込んでいたので、初回以降わざわざ残り時間を確認したりはしていなかった。

 

 いつから増えたのかわからない。

 

「まずい」

 

 だが、条件はわからないがとにかく性転換の時間は増えるらしい。

 

 そして、それはヒロトにとって凶報だった。

 

「そのうち、ドレスの装備時間を追い越しちゃう」

 

 なんらかの要件を満たしたら性転換の効果時間が増えるなら。

 

 10分を超えて、ドレスの解除時間が先に来てしまうことは十分あり得る。

 

 そうなった時、手元にドレスが残る保証はない。

 

「流石に、ドレス無しじゃ『性転換』は使えない」

 

 ほぼ産廃だったはずのスキルを有効利用できる、こんな都合のいい装備が他にいくつもあるとは思えない。

 

「せめて、残り時間が増える条件さえわかれば……ん?」

 

 遠くから、何やら甲高い悲鳴が聞こえた。

 

 聴覚も強化されているのだろう。かなり遠くの音も拾えるようになったらしい。

 

 ヒールで地面を蹴って駆け出し、悲鳴の元へ走り出す。

 

「!? 早くなってる?」

 

 そうして走り出した自分のスピードが、目に見えて上がっていることに驚く。

 

 昨日もかなり速いと感じたけど、それよりもっとだ。体感4倍くらいにはなっている。

 

「ステータス二倍どころじゃないぞ、これ」

 

 やはり『魔法少女のドレス』には、何かヒロトの知らない追加効果がある。

 

 冒険証による簡易鑑定じゃなく、しっかりとした鑑定所で見てもらう必要がありそうだ。

 

 あまり、外に持ち出すのは嫌なのだが。

 

「ここだね」

 

 そうこう言っている間に、通路を抜けて大きな広いエリアに出た。

 

 さっきの悲鳴はここから……って。

 

「誰か! 助けて!」

「モンスターハウス……!」

 

 部屋中をびっしりと埋め尽くしたモンスター。その包囲網の中心に。

 

 ランドセルを背負った女の子が、血を流しながら必死の形相で走り回っていた。

 

「はぁっ!!」

 

 それを確認すると同時に、ヒロトは大きく地面を蹴って、目の前のモンスターの一体に飛び蹴りをかます。

 

 魔法に強い代わりに物理攻撃に弱い蛙型のモンスターは、蹴りの衝撃で容易く爆散した。

 

「プリムノヴァ!?」

「動くな……あ、いや。そこから動かないで」

 

 反射的に男言葉を使いそうになり、慌てて修正。

 

 喋り方一つでも正体はバレかねない。気をつけないと。

 

「それにしても……」

 

 まさか、小学生が襲われていたとは。

 

 保護者は何をやってるんだ。

 

「ガルルァ!」

「ふんっ!」

 

 モンスターの中から飛び出して襲ってきた黒狼を回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「ギャンっ!」

 

 狼が弾丸のような速度で壁にぶつかり、大穴を開ける。確認するまでもなく一撃だ。

 

「す、すごい……!」

 

 背後に庇う小学生ちゃんが感動したような声を上げるのにも構う暇なく、次から次へと襲ってくるモンスターを迎え撃つ。

 

 いや、でも確かにすごいなこの体。その辺の近接スキル持ちより余程フィジカル強いぞ。

 

 攻撃力だけじゃなく、敵の攻撃を受け止める防御力も凄まじい。

 

「ギャーギャー!」

「キャウォォン!!」

「ガルルル」

「くっ……!」

 

 だけど、流石に数が多すぎる。

 

 どれだけ火力が高くとも、ヒロトは一人だ。数の力で押されれば捌き切るのには限界がある。

 

 このままじゃ、変身時間が……!

 

「プリムノヴァ! これ使って!」

「!」

 

 徐々に不利になっていく状況を察したのかどうかはわからないが。

 

 背後の小学生ちゃんが何かを投げてきた。

 

「試作品だったけど、昨日急いで完成させたんだ!」

「ガントレット?」

 

 それは両腕に嵌めて使うタイプの、ヒロトの衣装デザインに合わせてデザインされたガントレットだった。

 

「“プリマスターフィスト”! デザインも衣装に合わせて、ちゃんと使えるようにしといたよ!」

 

 ダンジョン産……じゃないな。

 

 まさか自作か?

 

 なにもわからない。

 

 けど……。

 

「……わぁ。プリムノヴァが使ってる……!」

 

 小学生ちゃんが、何故こんなものを持っているのかは、ちっともわからないけど。

 

「ありがとう。使わせてもらう」

 

 どうせこのままじゃジリ貧。

 

 一か八かだ。

 

 ガントレットを両腕に装着。

 

 同時に表面の溝にピンク色の魔力線が浮かび上がる。

 

「キシャーッ!」

「はッ」

 

 毒牙を剥き出しに襲ってくる巨大蜘蛛。

 

 その懐に入り込み、弱点の腹に拳を打ち込む。

 

 ドッ!!

 

 瞬間、空間が震えた。

 

「キシャッ!」

「アオォン!」

「ギャオ!」

 

 突き出した拳の先……いや、ガントレットから衝撃波が走り、大蜘蛛を巻き込んで背後のモンスターごと、まとめて吹き飛ばす。

 

 魔力を変換して衝撃波を生み出した……のか? そうだとしても凄まじい威力だ。

 

「これなら……!」

 

 単体への攻撃が範囲攻撃となり、モンスターを捌く速度が格段に上がった。

 

 あっという間に形成が逆転し、エリア内のモンスターの数がみるみる減っていく。

 

「ラスト」

「ゴガッ!!」

 

 最後に残った、物理防御の高い山亀を倒して、モンスターハウスを一掃。

 

「ふぅ、危なかった」

「わぁ……わぁ……!」

 

 モンスターの死体が折り重なった地獄絵図のような光景を見て、額の汗を拭く。

 

 そんなヒロトに、小学生ちゃんはきらきらとした目を向けてきていた。

 

「ありがとう。君がくれた武器のおかげで……」

「す、すごい! プリムノヴァかっこいい! 強すぎ!! 最強!!」

「……ごめん。さっきから言ってる、その“プリムノヴァ”ってなに?」

 

 小学生ちゃんにお礼を言おうと思ったら、興奮気味にそう言われ頬をかく。

 

 小学生ちゃんはハッとしたようにポケットからスマホを取り出して画面を見せてきた。

 

「戦闘少女プリムノヴァ! お姉ちゃんそっくりなんだよ! ボク毎日見てるんだ!」

 

 見ると、画面に映っていたのは子供向けと思われるアニメのスクショ。

 

 ヒロトと同じ、ツインテールでガントレットを装着した女の子が戦っていた。

 

 なるほど、アニメのキャラとヒロトを重ね合わせて……って。

 

 ちょっと待て。

 

「ボクって言った? 今」

「? うん」

「君、名前は?」

 

 そう聞くと。

 

 “黒い”ランドセルを背負った小学生ちゃん、もとい。

 

「ヒカルだよ。神谷(かみたに)ヒカル。5年生」

 

 神谷ヒカルくんは、子供らしくにっぱりと笑ったのだった。

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