産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「ひーくんは熱を出して休んでいるのです。安静にしておく必要はあるですが、命に別状はないのですよ」
「そっか、なら良かった」
「はい……」
ヒロトが寝ていた部屋の隣には、ヒカルくんとハカセが寝ていたらしい。
二つのベッドのうち、一つはシーツが乱れており、一つにはヒカルくんが寝かせられている。
……状況が状況だけに、シーツが乱れてるって言うとやけに意味深な感じがしてしまうが。
多分、普通にハカセが寝てただけだ。
「……プリムノヴァの正体、ヒロだったのですね」
「あーうん、そうだね。もうバレちゃったし、いいか」
乱れている方のベッドのシーツを畳んでいると、ハカセが落ち着いた声で言う。
もう、こんな状況になったのに隠し通せるものでもない。別にいいだろう。
「それなのに、ワタがプリムノヴァに酷いこと言っても……怒らなかったのですね」
「うん? あぁ……」
プリムノヴァはババア、とかのやつか。
いやまぁ、普通に半ギレではあったけどね??
子供相手だから我慢しただけで。
「でも許してはないよ。次言ったらグーだよ、グー」
「……」
冗談めかして言ったヒロトの言葉に、沈黙するハカセ。
「……ヒロ」
そして顔を上げたハカセは、悲痛な声で話し始めた。
「ごめんなさいなのです」
「いや、別に怒ってるわけじゃ……」
「違うのです!」
ハカセが叫び、ヒロトは思わず押し黙る。
「ワタが、あの洞窟に逃げようって言ったせいで……ヒロは……!」
「あ、ああ……」
ヒロトが突然の謝罪の言葉になんと返そうか迷っていると、ハカセの声がどんどん震え始める。
「ここに落ちたのも! ワタのせいなのですっ!! ワタが……ワタが全部やったのですっ!!」
「……」
「ワタの! ワタのせいで!! ヒロは、モンスターに……!!」
「……ハカセ」
「うっ、うぅうぅあああああっ!!」
声に涙が混じり、とうとう決壊して、大きな泣き声と共にハカセは泣き出してしまった。
「……ハカセのせいじゃないよ」
ヒロトは何も言わず、ハカセを後ろから抱きしめた。
「洞窟に入ったのも、ハカセとヒカルくんを守ったのも私が判断してやったことだよ。ハカセは悪くないよ」
「ちがっ……ちがうのです!! ワタが、ワタが……プリムノヴァなんか、消えちゃえって思ったから……!!」
「……」
「ひーくんを取られて……プリムノヴァなんか嫌いって……だから……! ワタの、ワタのせいなのですっ!! あぁああぁぁっ!!」
胸の中で泣き喚くハカセの背中を撫でる。
「ひーくんがっ、倒れたのも! ヒロがモンスターになっちゃったたのもっ!! ワタのせいで……!! ワタがやったから!!」
「……ごめんね。怖いもの見せちゃって」
「ち、違うの! ヒロは、プリムノヴァは悪くないの!! ワタが悪いのぉ!! う、うああぁあああっっ!!」
絹を裂くような、悲鳴のような鳴き声を上げるハカセの頭をただただ撫で続ける。
「う、うるさい……」
その鳴き声に目を覚まして呻くヒカルくんにも。
ハカセにも悪いことをしてしまったと苦笑しながら。
「あああああああっ!!」
泣きじゃくるハカセを抱きしめ続けた。
*
「ん……あむ……」
「おいし?」
「ぁぃ……」
それから。
ヒロトは泣き止まないハカセを抱っこして、廊下を通りダイニングへとやって来た。
流石にあのままじゃヒカルくんが可哀想だったし、ハカセも可哀想だったから。
そして、
フライパンとか、調理器具とか勝手に使っちゃったけど大丈夫かな。
まぁ、ちゃんと洗って返せばいいか……。
「あなた、ヒロちゃんって言うんでしょ?」
「……え」
突然、声が聞こえて台所を見ると。
エロい格好のお姉さんがいつの間にか立っていた。
「初めまして。私、ユウナ。さっきはごめんなさいね?」
「あ、はい。大森ヒロです……」
「まぁ、声もすっごくかわいいじゃない! 私、気に入っちゃった!」
「は、はぁ。どうも……」
頬に手を当てて、嬉しそうに笑うユウナさん。
その仕草のはずみで、薄布に包まれた胸がブルンッと揺れた。
ち、乳デケェ……。
カナトの言ってた、私以外の魔性化の被害者ってこのユウナさんなのかな。
うん、多分そうだろうな。ハカセと隣の部屋にいた時、隣の部屋から悩ましげな声が漏れ聞こえてたし。
なんか肌ツヤツヤしてるし。
ハカセが泣いてくれてたおかげで、結果的には助かったわけだ。
「ヒロちゃんも冒険者なのかしら?」
「は、はい。冒険者をやらせていただいております」
なんか畏まった言い方になってしまった。
こんな美女相手だと緊張してしまうな。
前までだったら緊張しまくってガチガチで話せなくなってただろうけど。
ヒロトも女になってから、女の子に対する耐性はある程度ついてきた。
「私もそうよ。冒険者だったの。でも、蟲にやられちゃってこの通り……あなたもそうでしょ?」
「そう、ですね」
答えながら、話に聞いていた事例を実際に目にしてごくりと生唾を飲み込む。
妖艶という言葉がそのまま人の形をしているようなユウナさん。
優しげな目元に、柔らかそうな唇とほくろ。片方の目を隠す紫色の長髪。
腕を組んでいるだけで存在感を主張する胸に、滑らかな腰つき。すらりと細長い手足に、脳が溶かされそうな甘い声。
今は女の身のヒロトだが、男のヒロトだったら断言できる。
こんな女性を目の前にして、冷静でいられる男はいない。
これが本当に、淫魔化の効果だとしたら。
「あなたも、こうなっちゃうかもね」
「……」
疑問を先回りに答えられて口を閉じる。
考えないようにしていたことが、途端に現実味を帯びて襲ってくる。
「肉体よりも先に、精神の方がね、どんどん変わっちゃうの。ぼーっとしちゃったり、集中力が続かなくなったり、今まで好きだったものに興味がなくなったり」
「……ユウナさんも?」
「えぇ。こう見えて私、冒険者としてはゴリゴリの武闘派だったの。見た目にも気を遣ってなかったし、色恋なんて全然興味なかったのよ?」
「えぇ……?」
衝撃的な発言だ。
この激エロお姉様のユウナさんを目の前にして……あまり想像できない。
「でも、あんなに好きだったのに体を鍛えることにも強くなることもどんどん興味が薄れちゃって……剣なんてもう半年は握ってないわね。それに、仲間の男の子の一人を食べちゃってからは、もう止まらなくて」
「た、食べちゃったんですか」
「えぇ、ペロリよ。その時に完全に“味”を覚えちゃってね? はぁ、もう一回食べたいなぁ」
悩ましげに息を吐くユウナさん。
そんな仕草もいちいちエロい。
「それで、もう冒険者どころか人間社会でやっていけなくなっちゃって。モンスター扱いよ、完全に」
「モンスターって……じゃあ」
「そ。私たち、ダンジョンの中でしか生きられないの」
「……そんなことが」
でも、確かにそうかもしれない。
これからモンスターになって、人を襲うかもしれませんって人を、地上の人間社会が受け入れられるとは到底思えない。
それができなかったから、人間は地上からモンスターを排除したんだし。
「だから安心して。ヒロちゃんのこと、絶対怖がったり追い出したりなんてしないわ。あなたの苦しみはよくわかってるつもり。ちゃんと私たちで面倒見てあげるわ」
「め。面倒?」
「地上に帰る方法、ないんでしょ?」
「は、はい……」
「だったら、しばらくこっちで過ごすことになる。でも、ダンジョンの中で野宿なんてあんまりだわ。しばらく私たちが匿ってあげる」
「それは助かりますけど……」
あれ。
「“私たち”って……」
「あら、カナくんったら言ってなかったの? もうっ、気が回らないんだから」
ベッドの上とは大違いね? という、反応のしづらい問いかけはスルーして。
「もしかして、魔性化した人は他にも……?」
「えぇ。なんなら、淫魔だけじゃなくて、他の症状にかかっちゃった子もいるわよ?」
「他の……?」
ヒロトが首を傾げると、ユウナさんは見惚れてしまうような笑顔で笑った。
「“