産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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32 プリムノヴァ・ノワール

「ヒロ」

 

 5人でしばらく“暗闇の森”を進んで、数時間が経過。

 

 最後尾を歩くヒロトに、隊列の一つ前を歩いていたカナトが話しかけてきた。

 

「気づいてるか?」

「うん。15……いや、16かな」

「数までわかるのか?」

 

 カナトが驚いたように言う。

 

 だけど、タネは簡単だ。

 

「この前、襲われたんだよ。多分その時と同じ群れ」

「そうだったのか……」

 

 チラリと視線を向けると。

 

 木々の隙間からこちらを睨む、橙色の光を目に灯した狼たちがこちらを囲んで睨んでいた。

 

 ヘルハウンド。

 

 “深層”に落ちてきて二度目。それも、恐らく以前と同じ群れにヒロトたちは狙われていた。

 

 ヒロトが彼らの仲間を何匹か倒したことの復讐か、それとも……。

 

「ヘルハウンドは一度狙った獲物を、鼻を頼りにいつまでも追い続けるって習性がある。執念深いモンスターだ」

「モテまくりで困っちゃうね」

「いけるか?」

 

 そう問われ、即答しようとして……視線を下に向ける。

 

 ドンと前方に突き出たセーター……ではなく、その下。

 

「……」

 

 お腹の方は、正直言って万全とは言えない。

 

 未だ空腹状態は続いていて……体力を消耗しないように歩いているのに、むしろ酷くなっている節すらある。

 

 だけど。

 

「任せて」

 

 引き受けちゃったからね。

 

 やるからには全力だ。

 

「変身」

 

 胸のブローチをタップして変身。

 

 全身がリボンと光で包まれ、魔法少女の衣装を身につける。

 

 光が収まり、カツンとヒールが音を立てて着地。

 

「おぉ……マジで魔法少女なのか」

「あっ!? プリムノヴァ!? 変身シーンを見逃した!? う、うわあああああっ!!」

「ひーくん、女子の着替えを覗くのはダメなのですよ」

 

 変身したヒロトに対して、思い思いの感想。

 

 だけど、それら一つ一つに反応する前にヒロトの体は異常を感じ取った。

 

「……キ、キツイ」

 

 なんとなく、ここ最近の流れで嫌な予感はしていたけど。

 

 衣装がキツくなっていた。

 

 特に胸、腰、太ももの辺りが締め付けられるような感触になっている。

 

「魔法でも、体型変化はカバーできないか……」

 

 魔法少女の衣装は基本的に、体のサイズに合わせて細かい寸法などが自動で変更されるようになっている。

 

 多少、成長した程度では衣装が合わなくなるなんてことはない。

 

 それが“多少”の範疇で済めば。

 

「しかも、こんなに疲れるっけ……?」

 

 それだけじゃない。

 

 変身した瞬間、普段なら体が軽くなるような感覚がするはずなのに。

 

 なぜか今は、逆に体が重い。

 

「!」

 

 しかし、そんなヒロトの不調もお構いなしに周囲を囲んでいたヘルハウンドが俄かに殺気立つ。

 

「“プリマスターロッド”」

 

 今はあまり激しく動きたくない。

 

 ということで、魔法攻撃主体で戦うため最近活躍頻度が多いプリマスターロッドを召喚。

 

「!?」

 

 その瞬間。

 

 ドレスの色が、辺りの暗闇を投影したかのように真っ黒に染まった。

 

「フォ、フォームチェンジ!?」

 

 ヒカルくんがグッと握り拳を作ってなにごとかを叫ぶが、それに意識を割いてる余裕はない。

 

「“シャドウアローレイン”……っ!?」

 

 モンスターの群れに向けて、魔法を掃射。

 

 その瞬間、体の中からごっそりと魔力が抜ける感触がして。

 

 ──ズドドドドドドドドドド!!!!

 

「ギャウッ!?」

「グギャグバァッ!!」

「ギャウオォン!!」

 

 その名の通り、“雨”としか形容しようがない広範囲殲滅魔法が炸裂。

 

 森の中に隠れるヘルハウンド達は、魔法という名の大雨に呑まれていく。

 

「……マジか」

「プリマスターレイ! プリマスターレイだよハカセ!」

「多分違うと思うのですよ……」

 

 そして、魔法の雨が降り注いだ一帯は。

 

 木々が薙ぎ倒され、モンスターだったのものの残骸がかろうじて散らばるだけのクレーターと化した。

 

「こりゃ噂以上……なるほどな。実力は本物って……どうした?」

「お腹すいた……」

 

 その光景を見て冷や汗を流すカナトとは対照的に、膝をついてグロッキー状態のヒロト。

 

 ぺっこりと凹んだお腹からは“ぐぅ〜ぎゅるぎゅる”という怪物の唸り声のような音が鳴っていた。

 

「燃費が悪いのか。道理で高出力なわけだな」

「前まではそうでもなかったんだけど〜……」

 

 ヒロトの感覚では、魔性化した辺りから。

 

 明らかに空腹になる速度が早まっていた。

 

「空からおやつとか降ってこないかなぁ」

「ふむ、淫魔化の影響か? いや、少し違うような……」

「! マジカル……」

「は?」

 

 考え込むカナトの前で。

 

 バッと顔を上げたヒロトは瞬時に腕に装備している武装を入れ替えた。

 

 ”プリマスターフィスト“。

 

 そして、純白のドレスに身を包み。

 

「スカイアッパー!」

 

 瞬間。

 

 虚空に向けて振り上げられた拳は。

 

「ギャウッ!?」

 

 空から舞い降りてきた、牙剥き出しのヘルハウンドの顎をカチ割った。

 

「なに!?」

 

 突然の奇襲にカナトが驚き、手に持つラウンドシールドを構える。

 

「ガルルァッ!!」

 

 顎を粉砕されても、空中でくるりと一回転して地面に降り立った大型のヘルハウンドは、地を蹴りカナトに襲いかかる。

 

 が、少し遅い。

 

 確かに、この奇襲が成功していれば、カナトは致命傷を負っていただろう。

 

 今の一撃に気づいたのはただの偶然。空腹のあまり空を見上げて、それで気づいただけだ。

 

「マジカル跳び膝蹴り!」

「!」

 

 飛び上がり、膝を打ち出したヒロト。

 

「避けた!?」

 

 が、その一撃を大型ヘルハウンドはひらりとかわした。

 

 なにげに驚きだ。

 

 ヒロトの攻撃速度に反応して避けられたのは、これが初めてのことだった。

 

「こいつ、もしかしてさっきのヘルハウンド達のリーダーだったりする?」

「体格の大きさは魔力量の多さだ。あり得るかもな」

「ガルルルルァァッ!!」

 

 毛が逆立ち、ヒロトを牙を剥き出しにして威嚇してくるヘルハウンド……もとい”ボスハウンド“。

 

 このキレ様は自分の群れを壊滅させられたから?

 

 こっちだって殺されかけてんだから、恨まれる筋合いはないけど。

 

 ぐぎゅうううぅぅ〜……。

 

「うぅ……」

 

 “プリムノヴァ・ブラン”になって近接戦をしたものだから。

 

 体力使っちゃって、ロクに動けそうにない。

 

 これはちょっと、まずいか?

 

「……ヒロ」

「なにぃ……?」

「あいつの動きを止めれば、お前が仕留められるか?」

「動きを止めれば……って」

 

 どうやって、て聞こうとして。

 

 カナトが真剣な眼差しでこちらを見ていた。

 

「俺の“スキル”を使う。一瞬動きが止まるはずだ。その隙を逃すな」

 

 とても真剣な眼差しだった。

 

 冒険者としての、覚悟を決めた目。

 

「……任せて!」

 

 再び武装を切り替え、ロッドに持ち替える。

 

 その瞬間、黒色に染まるドレス。

 

 さっきの、威力が倍増した魔法。

 

 “プリムノヴァ・ブラン”が近接戦のための姿なら、こちらは魔法使いとしての姿ということだろう。

 

 そういうことなら。

 

「“プリムノヴァ・ノワール”! 私が絶対、仕留めてみせる!」

「新フォームキター!!」

「ひーくん!」

 

 名乗りを上げた瞬間、離れた物陰でこちらを見守っていたキッズ二人が騒ぎ出す。

 

 その騒ぎにも構わず、全身で魔力を練り始めた。

 

 絶対に、カナトが動きを止めると信じて。

 

「まさか、魔法少女と共闘することになるなんてな!」

「ガルルァ!」

 

 ラウンドシールドを構えたまま、ヒロトが駆け出した。

 

 その盾ごと噛み砕いてやる、という気概のボスハウンドが迎え撃ち。

 

「!」

 

 ラウンドシールドが光り輝く──!!

 

「くらえ、俺のスキル──!」

 

 カナトが雄叫びを上げ。

 

 スキルが発動した!

 

 

「“目潰しローション”!!!」

 

 

 ブピュッ

 

「ギャッ」

 

 ラウンドシールドから、大量のローションが噴射された。

 

「いけええええ!!」

「──“ダークネスブラスト”」

 

 ローションまみれになり、盛大にすっ転んだボスハウンドを。

 

 漆黒の極太ビームが呑み込んだ──。

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