産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「クゥン……」
ズズゥン、と音を立てて沈むボスハウンド。
その身は音を立てて、シュウゥゥゥ……と白煙を上げて。
見上げるような巨体は、地に沈んだ。
「やったな! ヒロ! ……ヒロ?」
モンスター討伐の喜びに浸るカナトの呼びかけは、耳に届かず。
ヒロトはフラフラと誘われるようにして、ボスハウンドの死体に近づき、その体を触った。
ぺたぺた。
うん。
いけそうだ。
手を伸ばした。
「は?」
その瞬間、カナトが信じられないものを見たような目でヒロトを見て。
「ヒロー!!」
「流石ですプリムノヴァ!」
ハカセとヒカルくんのダブルキッズが駆け寄ってきて。
「大丈夫なのですか!? 怪我とかしてな……って、うわあああああっ!?」
「ほふもぐ」
「なに食ってんですか!!」
──ボスハウンドの肉に頬張っていたヒロトの後頭部を思い切り叩いた。
「あ、なるほど。確かにこれだけの大型モンスターの肉体ともなれば保有魔力量も段違いですから。消耗した魔力を補充するにはうってつけですね」
「言ってる場合ですか!? ヒロ! そんなばっちぃもんぺってするのです! ぺっ!!」
「ですが、プリムノヴァ。生肉は寄生虫などのリスクもあります。一度焼いてから食べるのが無難ですね」
「俺の属性は炎だ。焼くか?」
「そういう問題じゃねーです!!」
ジュウウウウ、と炎で炙られていく狼肉を涎を垂らしながら見つめるヒロト。
その姿を、喜色満面で駆け寄ってきていたはずのハカセは胡乱げな目で見つめていた。
「もぐもぐ」
「どうです? 美味しいですか?」
「犬食ったのは初めてだけど、結構イケるね」
「狼はジビエの中でも特に美味しいらしいですからね。肉食動物ですが、旨みが強くて弾力があるらしいです」
「美味そうだな。俺も食っていいか?」
「……なんでこの状況を平然と受け入れてるんです、お前」
ボスハウンドの肉を噛み切るヒロトの真似をして、口の中に炙った肉片を放り込むカナト。
「ぶぇっ!? ぺっ! ぺっ! なんだこりゃ! 食えたもんじゃねぇ」
「あっ、やっぱりそうなんですね。モンスター食べる人って全然いないので。普通は食べれないんですよね」
「もぐもぐ」
「じゃあコイツはなんなんだよ」
「ヒロは魔法少女ですから」
「ほー。やっぱすげぇんだな、魔法少女ってのは」
「当たり前でしょう。フフン」
「もぐもぐもぐもぐ」
「頼むからまともなツッコミが欲しいのですよ」
狼肉を頬張るヒロト。解説のヒカルくん。関心のカナト。胡乱のハカセ。
「みんな〜? そんなところで立ち止まってどうし……って、あらあら。バーベキューかしら? 私も混ぜて〜」
こうして、混沌の焼肉会場は。
合流したユウナが同じように肉に手を出し、吐き出すまで続けられたのだった。
その後も襲ってくるモンスターを返り討ちにして──。
「がぶがぶ」
「あー!! ヒロがデカいムカデ食ってるのです!!」
「昆虫食ですか。でもムカデって実は火を通せば食べれるんですよね確か。頭部に毒があるので処理する必要はありますが」
「食ったことが?」
「まさか。僕が今まで食べたものの中でいちばんのゲテモノは闇オークションで仕入れた非公式プリムノヴァクッキーくらいです……は? 今プリムノヴァをゲテモノ扱いしましたか……?」
「足の食感が悪いなぁ」
「これワタがおかしいのです……?」
ある時は池中から襲ってきた虫を食べて。
「ふぅ〜、ようやく空腹が収まってきた」
モンスターを次から次へと胃に放り込んでいるうち。
ヒロの空腹状態はすっかり解消されたのだった。
「ヒロってこんな
「……ヒロ」
「うん?」
「ヒロがバケモノになっても、ワタは一緒にいてあげるですよ」
「? ありがとね、ハカセ」
なんのことかわからないけど。
「ところでハカセ」
「はい、なんですかヒロ? なんでも答えてあげるですよ」
「さっきから博士キャラがすっかりヒカルくんに取られちゃってると思うんだけど……おーい!」
「ユウナ。あれが?」
「ええ。着いたわ」
早足で隊列の前へ進み出たハカセの目に映ったのは、暗闇の森に佇む、3階建てほどの大きさがある洋館。
ダンジョンの中だというのに、場違いなほど綺麗に整えられ、灯りがついたその施設を背にしてユウナがにこりと笑った。
「ようこそ。地上に見捨てられた者達の楽園……“
*
「ただいま〜」
「誰かいるか?」
洋館の扉を開き、中に入ると。
「おぉ……!」
豪華で華美な雰囲気のエントランスがヒロトたちを迎えた。
高い天井から釣り下がるシャンデリアが室内を明るく照らし、床には赤い絨毯が敷かれている。
備え付けのアンティーク調の家具が、絢爛さに落ち着きを加えており、雰囲気は完全に高級ホテルだ。
「テーマパークに来たみたい! テンション上がる〜!」
「絶対言いたいだけなのですよ……」
「ビックリしたでしょう? ダンジョンの深層にこんなおっきい建物、普通ないわよね」
通路を歩きながら、綺麗で整理された内装をキョロキョロ見回しながら歩く。
「お帰りなさいませ、ユウナ様」
「ただいま、シズクちゃん。お勤めご苦労様」
「いえ、これが私の役目ですので」
そして、そんなヒロトたちを一人の少女が出迎えてくれた。
銀髪で、片方の目が隠れたショートヘアのその子は白と黒の給仕服がよく似合っていて……。
って!
「メイドさんだ!?」
「はい。当館のメイド長をしております。“八百万シズク”です。以後お見知り置きを」
「か、かわいい……!」
綺麗な角度に腰を曲げて挨拶するシズクちゃん。
ヒロトは思うのだ。
メイドさんが嫌いな人間が、この世に存在するものか……と。
「美少女メイドが実在したなんて……か、感動の涙で前が」
「魔法少女がなんか言ってるのです」
「プリムノヴァも同じくらい奇跡的な存在ですよ!」
いや、まぁ、そうかもしれないけどね。
自分がそうなるのと、野生のメイドさんを見つけるのは別の話じゃん。
まぁシズクちゃんは全然野生ではなさそうだけど。
「シズクちゃんはすごいのよ? 一人で暗里繭の屋敷の管理をしてるんだから。掃除も料理も洗濯も」
「……え、一人で? 正気?」
こんだけ広そうな屋敷をワンオペとか。
どんだけブラックなんって話だけど。
「ご心配には及びません。この通り、私の分体である“スイテキちゃん”に業務を分担しておりますので」
「おぉ!?」
シズクちゃんの体から、ぷにょんと水色の塊が分かれて。
それが空中で銀髪のメカクレ少女に変身した。
「スイテキ36号です! 初めまして!」
「えっ! かわいい! この子なに!?」
「シズクちゃんは“スライム”なのよ。分裂して自分の分体を生み出せるの。すごいでしょ?」
「すごいのです。ぶい」
「ぶい!」
シズクちゃんとスイテキちゃんが二人でピースサイン。
か、かわいいが渋滞している……。
「……まぁ、プリムノヴァには及びませんがね」
「ヒロ、負けちゃダメなのですよ」
「なんの話?」
謎の対抗意識を燃やす二人。
かわいいに勝ち負けとかありません。
「ごめんね、この子達が……」
「いえ、お気になさらず。ですが、どうしてもお詫びをしたいということであればそのご厚意を受け取るのもやぶさかではなく。ということでほっぺをもちもちさせていただいてもよろしいでしょうか? ありがとうございますそれでは失礼して」
「なのでふ!?」
有無を言わさずスライムハンドでほっぺをもちもちされるハカセを尻目に。
「次はリビングを案内するわ。面白い子がいるわよ?」
ユウナさんがにっこりと笑って先を進んでいった。