産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「先に言っておくんだけど」
地下に繋がる大扉の前で。
ユウナは立ち止まった。
「あの子、かなり口悪いから。でも根の部分は悪い子じゃないから。大目に見てあげてほしいわ」
「あぁ、そうなの?」
「えぇ……機嫌が悪い時は特にね。今日はまだ初対面だから、大丈夫とは思うけど」
図書室の魔法使い、か。
確かに、いかにも偏屈で気難しそうな爺さんでもいそうなイメージだもんね。
正直、そういう人は苦手だけど。
「大丈夫。私、結構人見知りするから。元々あんまり話さないタイプだよ」
「あら、そうなの? そういうタイプには見えなかったけど」
「まぁ……なんというか……色々……」
「?」
ユウナにも、ヒカルくんにもハカセにも言っていないけど。
そもそもヒロトは男だ。
“ヒロ”になっている間は、まるで自分が別人格になっているような気分がする。魔法少女もそんな感じだし。
だから最低限は喋れるけど。
元々のヒロトはただのコミュ障なので……。
「でも、そういう子のほうが相性はいいのかも……? まぁ会ってみたらわかるわね」
ユウナさんが、ガチャと木でできた大扉を開ける。
その先に待っていたのは……想像した通りの、見上げるような本棚の数々。
特有の匂いと、静かな雰囲気。天井から吊り下がった古めかしいランプは、静かな大図書館を薄暗く照らして……。
「──もう来ないでって言ったわよね? クサい発情臭が本に移るから」
その大図書室の中心で、本を広げている一人の影。
「頭が快楽物質まみれで、そんなことも忘れてしまったかしら? ……ユウナ」
下半身は蛇。頭髪は銀髪。
青白い肌で、黄金の瞳を輝かせた女性。
「相変わらずね、シア。元気そうでなによりだわ」
シアと呼ばれた彼女からの強烈な皮肉に、ユウナさんは笑顔で返す。
な、なんか雰囲気が明らかに平和的じゃないんですけど。
「……」
フンっと鼻を鳴らしたシアは、続けてヒロトに視線を向けてきた。
ビクッとして、思わず顔を背ける。
「ふぅん」
そんなヒロトに、シアはなにか納得したような声を出して。
全身をじろじろと這うように視線が回る。
今日、なんかこんなふうに見られること多くない……?
「予想通りね」
「な、なにが……?」
ヒロトの全身を見て、何かを感じ取ったシアは。
つまらなさそうに息を吐いた。
「“魔法少女”なんて呼ばれて、世間では持て囃されてる冒険者。どうせその名についてる“魔法”の意味も全く理解してない、バカな女だと思ってたけど」
フッと笑った。
「頭の悪そうな顔。だらしない体。幼稚な振る舞い。想像通り……いえ、想像以下の愚物ね。目に入れるのも不快だわ」
そう吐き捨て、くるりと背を向けたシアに。
「なんだァ? テメェ……」
ブチギレたヒカルくんが、懐から銃型の魔道具を取り出した。
ヒロトは咄嗟に地面を蹴り、ヒカルくんを抱えてその場を離れた。
「……!」
「ヒ、ヒロ!?」
間一髪。
さっきまでヒカルくんが立っていたその場所に、大きな氷柱が突き立っていた。
危なかった。
「あら、庇ったの? 正義心のつもり? まぁ反射神経はそこそこね。とは言っても、この図書室の中で私と戦って、無事でいれるなんて思わないことよ」
「シア! やめなさい!」
「は? なんで私がユウナの言うこと聞かなきゃいけないの?」
「この子達は新しい暗里繭の仲間よ! 敵じゃないわ!」
「その仲間に先に武器を向けたのは誰? 正当防衛だと思わない?」
「!」
足場に魔力反応。
次から次へと、氷柱が自然から生えてくる。
「ひーくん! ヒロ!」
「シア! !」
「心配しなくても、本にダメージがいく前に終わらせるわ」
「そんなこと許すと思うかしら……ヒロ! 逃げなさい!」
ユウナさんの緊迫した声。
これは、ちょっと不味いかも。
変身すれば、この魔法攻撃をかわすのは不可能じゃないし、なんなら反撃までできるだろう。
だけどそれをすれば、戦闘の余波で周囲への大図書室への被害は甚大になる。
そうなれば、シアと自分の関係はきっと決定的に悪くなるだろう。
魔性化のことを聞くチャンスもなくなる。
「向こうは氷属性……」
水属性の派生、氷属性。
それがシアの得意魔法なら、弱点がある。
それは氷魔法は室内で使えば使うほど、周囲の気温を下げるということだ。
図書室でそれをすれば、本が痛む。
つまり魔法の乱発はできない。
だったら、このまま逃げ切れば……!
「なんて、思っているんでしょうけど」
「!」
瞬間。
ヒロトの体がぶわりと浮き上がった。
「風属性……!?」
そんな馬鹿な。
水属性以外の魔法をどうして。
いや、そもそも。
風は指向性や範囲の指定をするのが非常に難しい魔法。
普通に使えば、室内を荒らしてしまうはずだ。
当然、本も傷つくはずで。
「お生憎さま。すでに対策済みよ」
「え?」
なんでだ。
なんでこんだけ派手に魔法を放って、図書室が荒れてない?
「うっ!?」
その疑問も置き去りにして。
打ち上げられたヒロトたちは、図書室の一角へと叩き落とされた。
なんとか不格好ながら受け身を取る。
「ヒロ! 大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫、だけど……」
「ヒロ!!」
地面に落ちたヒロトの側に、駆け寄ってくる小さな影。
「ハカセ……」
「大丈夫なのですか!? どこも怪我してないのです!?」
「ヒカルくんにも答えたけど、大丈夫だよ」
「よ、良かったのです……」
ホッと安心するハカセ。
ただ、状況は悪いまま。
一体どうしたら……。
「……ハカセ、もうこうなった以上は、アレを使うしかないんじゃない?」
悩むヒロトに耳に、突然のその提案。
「アレ、って?」
「ヒロ、実は僕とハカセには切り札があるんです」
「切り札……」
二人にそんなものが?
「……ヒロ、ワタは決してヒロのことを信用していなかったワケじゃないのです。ただ、タイミングが悪くてずっと言い出せなかったのですよ」
「深層に落ちてから、モンスターに襲われるか、カナトさんやユウナさんが一緒にいるかでしたから……でも二人で話し合って、ヒロに打ち明けることだけは決めていたんです」
「? う、うん。それは嬉しいけど……」
ヒロトは首を傾げる。
「なんの話?」
「──ワタのスキルなのです」
「え……?」
スキル。
その言葉の響きを聞いてヒロトが驚く。
「ハカセ、スキル持ってたの?」
「はい。実は子供の頃に取得する機会があって……でも、パパママとひーくん以外には言ってないのです」
ハカセは今も子供だと思うけど、それはともかく。
ハカセは懐から、青いフチがついた薄い板を取り出した。
「これ、タブレット?」
「はい。学校で支給されたタブレットなのです。その中にスキルが入っているのですよ」
「ハカセのスキルは珍しくて、本人じゃなくて端末に保存されるタイプなんです」
「スキルもデジタル化の時代か……」
アホなことを言いながら、タブレットを操作するハカセを見届ける。
一体、何が飛び出すのか……。
『──ハァ〜イ⭐︎ 読んでくれてありがとう! アナタのハートにトキメキ届け! トゥインクル⭐︎スターよ!』
「……」
タブレットから、突然。
キャピキャピした女性の声が聞こえてきて、重い沈黙が舞い降りた。
「ち、違うのですよ!? ワタがこんな喋り方にしたんじゃないのです! 最初っからこのウザい喋り方になってて、変えられないのです!」
『むーっ! ウザいとはなんだーっ!! スターちゃん、怒っちゃうんだからね! プンプンっ!!』
「ノリと喋り方に若干のキツさがあるな……」
「? そうですか? 普通だと思いますが」
マジか、ヒカルくん。
まぁでも、昔のアニメってこういうよくわからないハイテンションキャラいがちだからね……。
『フンだっ!! スターちゃんの凄さを思い知ってから後悔しても遅いんだからね! じゃあ早速やっちゃうよ〜!!』
ハイテンションな声。
トゥインクル⭐︎スターと名乗った、タブレットから聞こえる謎の音声は、一瞬プツリと途切れ──。
『──ナビゲーションを開始します』
次の瞬間。
「え?」
ヒロトの視界に。
まるでゲームのHUDのような、“UI”が映し出されたのだった。