産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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37 もう全部こいつ一人でいいんじゃないかな

『ナビゲーションを開始します』

 

 それまでのふざけた口調のナレーションから一転。

 

 綺麗なお姉さんボイスという印象の声がタブレットから響いて、ヒロトの視界に様々な情報が表示される。

 

 周囲の地形。敵の位置。どこからどういう攻撃が飛んでくるのかの予測。その予測を踏まえた上での最善の移動ルート。

 

「これ全部スキルなの?」

「はい、『星の目(スターリンク)』というスキルなのですよ。ヒロにも見えてるですか?」

「う、うん」

 

 多分、このスキルは周囲の情報を分析して視覚に表示してくれるゲームのHUDを実現するようなスキルなんだろう。

 

 すごいスキルだ。どこにどんな魔法が撃たれるのか凄まじい精度で予測されてる。

 

 スキルの指示に従ってるだけで勝手に勝てるようになっている。

 

 しかもスキル保持者であるハカセ以外にも適用できるなんて。

 

 あれ、もしかして。

 

「ハカセ、もしかしてだけど」

「はい」

「このスキル、“誰にでも無制限に”適用できたりとかって、する?」

 

 ヒロトはおずおずと聞いた。

 

「……さすが。ヒロは察しがいいのですよ。その通りなのです」

「ヤバ……」

 

 そして、出来れば頷いてほしくなかった質問に頷かれて私は冷や汗をかく。

 

「ね、隠していた理由がわかるでしょう?」

「そうだね……」

 

 このスキルは、やろうと思えば。

 

 多分、世界最強の軍隊を作ることができる。

 

「とんでもない厄ダネ知っちゃったなぁ……」

 

 このスキルの存在を知れば、きっと世界中がハカセのことを放っておかないはずだ。

 

 味方の戦力を無条件で、無制限に底上げするスキル。

 

 無法にも程がある。

 

『いやぁ〜っ、そんなに褒められるとスターちゃん照れちゃいますね〜!』

「……ナビゲーションの性格はちょっとウザいけど」

 

 視界に現れる、デフォルメされたネコのようなファンシーな生き物。

 

 その生き物が自分の頭をコツンっと拳で叩いていた。

 

「君が、その、トゥインクル⭐︎スター?」

『はい! 明るく元気なスターちゃんです! ご主人様に話は聞いてますよ〜! 魔法少女プリムノヴァ! 初めまして!』

 

 バチン、とウィンクを決めるトゥインクル⭐︎スター。

 

 長いのでスターと呼ぶけど。

 

「君は、人間? それともスキルなの?」

『へ? 細かいこと気にするんですね? どうだってよくありません? だってスターちゃんがウルトラ銀河級にかわいいことは、正体がなんであれ変わらないワケですし……あっ、そこ攻撃きますよ』

「!」

 

 スターの忠告に従い、その場から飛びずさる。

 

 ヒロトが立っていた場所に、氷柱が突き立っていた。

 

『ワァオ! まだ変身前なのにいい反射神経してますね! 気に入りました! スターちゃん、あなたを徹底的にサポートしちゃいますよ! 一緒にあの性悪ヘビ女を懲らしめましょう!』

「……私のスキルのこと、知ってるの?」

『えぇ、モチロン。ご主人様に聞いていましたから。魔法少女に変身できるスキルでしょう?』

「……そうだね」

 

 性転換のことはバレてない、か。

 

 何でもかんでもお見通しってスキルのわけじゃなさそうだ。

 

 ちょっとだけ安心。

 

『プリムノヴァ。周囲の本棚の異変、気づいてますか?』

「異変……?」

『魔法を受けても全然、傷がつかないでしょう?』

「あぁ……」

 

 確かにそれは気になっていた。

 

 シアはこの図書室にいることが多いという話だから、本が傷つくことは嫌がるのかと思っていたけど。

 

 実際には普通に本棚に魔法を当てている。

 

 だけど、本棚は魔法を受けても傷一つついてなかった。

 

「防御魔法かな……」

『この図書室の全ての本棚にですか? まさか。魔力を食い過ぎますし、維持するのも大変です。その類の魔道具も見当たりませんしね』

「じゃあ……」

『スキルでしょう。ここはやはり』

 

 スキル。

 

 万人が使用できる魔法と異なり、それを手に入れた一部の者に授けられる恩恵。

 

 それが本棚が傷つかないカラクリだとしたら。

 

「『魔法無効』……もしくは『攻撃無効』の付与……?」

『だとしたらプリムノヴァに対して、チマチマ魔法で攻撃する意味は薄いじゃないんですか? その辺の家具を操ってプリムノヴァを囲めば、それで檻の出来上がりです』

「……動かせないんだとしたら?」

『ほう!』

 

 スターが感心したように声を上げる。

 

「『不変』。物体の状況を保存して、外部からの干渉を弾く……多分、この図書室自体がスキルの対象で、どんな攻撃をしても傷つかない。そういうスキル」

「──合格です。思ってたよりずっと早く辿り着きましたね。オドロキの結果です」

 

 舐めてもらっちゃ困るよ。

 

 ヒロトがどれだけこの手の能力バトル漫画を読んだと思っているのか。

 

「そうだとしたら、かなり強いスキルだけど……弱点もあるはず」

『えぇ、その通り。全てのスキルに弱点は存在しますから』

 

 無法・無制限のスキルがなんか言ってる。

 

 それはともかく、『不変』スキルの弱点かぁ……。

 

「自分も動けなくなる、とか」

『ほほう』

「あり得そうじゃない? 物体を固定している間は自分も動けない」

『試してみますか?』

 

 スターに問われ、私は笑みを深めた。

 

 本棚から身を乗り出して。

 

「へんし」

『あっ、ちょっと待ってくださいプリムノヴァ』

「あだっ」

 

 変身して飛び出そうとした矢先。

 

 出鼻をくじかれ地面に鼻をぶつける。

 

「な、何?」

『いえ、変身する前に一つだけ確認したいことがあり』

「確認したいこと……?」

 

 はい。と答えたスターが。

 

 ヒロトの目の前に光の図面を展開した。

 

『こちらが今のプリムノヴァの衣装ですよね』

「う、うん」

 

 表示されたのは、一体どこから仕入れたのか。

 

 プリムノヴァの衣装のデザイン図。

 

 いや、すごいな。こんなのどうやって用意したんだ。少なくともヒロトは知らないが。

 

『ハッキリ言って、魔力効率が悪いです』

「……へ?」

『あなたの肉体が持つ魔力出力を無駄にしている構造なんですよ、これ』

「はぁ……」

 

 プリムノヴァの魔力効率が、悪い?

 

「……魔力効率が悪いと、なんか不都合あるの?」

『当然です。エネルギーを無駄にしてるわけですから。本来もっとあなたは強くなれるんですよ』

「へぇ……」

 

 他人事のように呟く。

 

 イキナリそんなこと言われても全然実感湧かない。

 

 普通に今のままでも強くね?

 

『なのでそれを改善したいのですが……リソースが足りないんですよね。端的に言ってスキルの性能不足です』

「はぁ」

『ですので、スターちゃんの方で勝手にスキルの“最適化”をさせていただきたいのですがよろしいですか?』

「……え? 最適化? そんなのできるの?」

『出来ますよ? スターちゃん、スーパー有能スキルなので』

 

 ドン、と胸を叩くネコ型の魔法生物。

 

 う、うーん……。

 

「それをすれば強くなれるってこと?」

『えぇ。今よりも遥かに』

「……じゃあ」

 

 こくんと頷く。

 

「一回やってみて。もしダメだったら元に戻してもらうけど」

『りょーかいでーす! ウフフ、これを味わったらもう元になんか戻れませんよー!』

 

 スターがぽよんぽよんと跳ね回り。

 

「!」

 

 ピカッと胸元の宝石が光った。

 

『はい! 調整完了です! おめでとうございます!』

「……もう?」

『万能スキルですので』

「万能すぎない?」

『もっと褒めてください。まぁ、ご主人様がすぐ近くにいるので出来る処理速度ではありますが』

 

 目を開けて、自分の体を見る。

 

 そんなに変わった感じはしないけど。

 

「まぁ、やってみればわかるか」

 

 胸元のブローチをタップ。

 

 ──その瞬間。

 

「!?」

 

 圧倒的な魔力の奔流が、ヒロトの体から放出された。

 

 ビリビリビリ、と大気が震える音。

 

「す、すごい魔力……!」

『どうです? それが本来のあなたの力。今まではセルフ縛りプレイをしていたようなものですよ。それにぃ……』

 

 ヒロトの胸を中心に、光り輝くリボンが溢れ出て。

 

『どうせ変身するなら、可愛く変身しちゃいましょう?』

「……えっ」

 

 

『プリマチェンジ! ドレスアップ!』

 

 

 キラン、という効果音と共にスターのハイテンションな声と、煌びやかな音声が響きわたった。

 

 ……な、何が始まったんだ。

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