産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「えっ、えっ、えっ」
困惑するヒロトをヨソに、全身を覆う光のリボンが衣装を身につけていく。
巨大ツインテールに、フリル満点のドレス。
謎の効果音と音声には驚いたけど、どうやらそれ以外は変わらない……。
うん?
「──はっ?」
しゃらん、キランと衣装を装着し終えたヒロトは自分の姿を見下ろして思考が停止。
『うんうん! よく似合ってますよプリムノヴァ!』
パチパチ〜とスターが褒め称えたプリムノヴァの衣装を見下ろし、呆然として。
「もどして」
『はい?』
「今すぐもどして」
『戻すって? なにを?』
「き、決まってるでしょ!? 衣装! 衣装戻して!」
『どうして?』
「ど、どうしてって……!」
鬼気迫る表情でヒロトは絶叫した。
「こんな恥ずかしい格好で戦えるわけないじゃん!?」
──胸元が大きく開かれ、非常に際どい角度のハイレグの衣装に変更された、プリムノヴァの姿で。
『いやぁ無理ですね〜』
「なんで!?」
『言ったじゃないですか、最適化したって。無駄を省いたらそうなっちゃったんですから。もう戻せません』
「布面積は無駄じゃないけど!?」
『いやいや、むしろそこが一番の改善点なんですって』
「殺すぞ!!」
スターに言われた意味がわからず、胸と腰を隠しながら叫ぶ。
『まさか、気付いてないんですか? プリムノヴァ。自身のスキルの特性に』
「と、特性……?」
『今まで、理由もわからず強くなっている時がありませんでしたか? あるいは肉体が急激に変化した時とか』
「……」
そう言われ、何も言い返せず閉口する。
理由のわからないパワーアップに、肉体の変化……心当たりはあった。ありすぎるくらいだ。
つい最近だって、そのせいで大変な目に遭ったばかりだったんだから。
傾向としては、ヒロトがメイクやファッションを覚え始めた後にそうした現象が起こっていた気がする。
「で、でもスキルの説明にはそんなこと書いて……」
『──プリムノヴァ、あなたのスキルは自覚することが大事なんです』
「じ、自覚……?」
「つまりですね」
スターがにっこり笑う。
『あなたは自分が“どう見られているか”自覚すると、そっちの方向に体が引っ張られてしまうんです』
「えっ」
『あなたの体が女性らしく変化してきたなら、それはあなた自身がそう見られるように作り変えてきただけのことなんです』
……自分の体を、作り変えた?
『可愛い女の子になりたい。綺麗で強くなりたい。心の奥でそう思い続けているからあなたは強くなれる。そして……今のその姿も、あなた自身の心が秘めている“欲望”を、見える形にしただけなんですよ』
「……」
それがあなたのスキルです。と付け加えて。
『さぁ、どうします? プリムノヴァ。自分の心に嘘をつくか……それとも、その姿を受け入れて前に進むか』
「そ、そんなの……」
『ちなみに私は……』
スターが目と鼻の先まで近づいて……ニヤリと笑った。
『今のあなたは──とっても綺麗で、可愛らしいと思いますよ?』
「……」
すり、と汗ばむ内股を擦り合わせる。
顔が茹だったように熱い。
震える唇を開く。
「……つ」
『はい?』
「強く、なるために仕方なく……だから」
『えぇ、わかっていますよ』
「可愛くなりたい……とか、思ってないから」
『勿論です』
自分で言葉にしながら。
その言葉のあまりの弱々しさを自覚しながら。
「勘違い、しないで……」
ヒロトは体を隠す腕をどけて。
恥ずかしくて仕方ない自分の姿を、晒した。
*
「ようやく出てきたと思ったら……」
「……」
「一体なんなの? その格好」
図書室の中心で、シアはヒロトの様子を伺っていた。
一瞬感じた、圧倒的な魔力の奔流……それを警戒したためだ。
ヒロトはしばらくその場で立ち止まって、何か悩んでいるような素振りを見せていたが。
数分経って、魔法少女……と思われる姿でシアの前に現れた。
「見てるこっちまで恥ずかしくなるんだけど? 媚びすぎで、馬鹿っぽいわ」
「う、うるさい」
「まぁ貴方にはお似合いなんじゃない? こいつと同じで、さ」
「……」
そう言ってシアが掲げたのは。
氷の中に拘束されたユウナだった。
抵抗したのか、周囲に砕けた氷が散らばっている。
「……仲間じゃなかったの?」
「こいつと? 私が? はっ、冗談言わないでよ。住みやすそうな家だから利用してる。それだけよ」
「ユウナさんはあなたのこと仲間だって言ってたけど」
「あら、そう。おめでたいことね。そういう押し付けがましい仲間意識がいっちばん嫌いなの。ごっこ遊びなら他所でやってればいいのよ」
心底興味のなさそうな目をユウナに向けるシアを、ヒロトは真正面に捉えた。
「……ほ、本当に言うの?」
「……?」
「いや、そうだけど……でも……心の準備が……!」
突然一人で、ブツブツと何かを言い出したヒロトに怪訝な目を向けるシア。
「……気持ち悪い」
噂の魔法少女プリムノヴァ。
高い実力の噂を聞いて、一応警戒して対処してきたが……こうしてこの目で見て確信した。
大したことない相手だ。
「消えなさい」
魔法で消し飛ばして、それで終わり──。
「あ……あなたの胸にトキメキ⭐︎スター! 無限の愛でキラめいて!」
「魔法少女プリムノヴァ! さ、参上っ!」
「……」
「……」
しん、と静まり返る図書室に。
「ころして……」
蹲って消えそうなプリムノヴァの声だけがか細く響いていた。
*
『よくやりましたプリムノヴァ。効果テキメンです』
「どこが!?」
放たれる氷の礫の嵐。
それを拳で打ち払いながら、ヒロトはスターにツッコミを入れた。
「ねぇ! あれ意味あった!? 意味あったかな!? 私が盛大に自爆しただけな気がするんだけど!」
『言ったでしょう? 自覚が大事なんです。自分が魔法少女だと自覚するために、ああした名乗りを上げるのは重要ですよ』
「お前適当言ってるだろ!」
半ギレになりながら、しかし攻撃は避ける。
避ける避ける避ける。
『気付いていますか?』
「な、なにが?」
『動きやすくなってるはずですよ』
「……」
確かに。
前よりずっと、衣装が体に馴染むような感覚がしていた。
まるで何も着てないみたいに軽い感覚。
「……単純に露出が減ったからじゃないよね?」
『ソンナワケナイジャナイデスカー』
「なんだその棒読みは……」
このスターとかいうスキル。どこまで本当のことを言ってるのかわからない。
だけど、スターが提示してくれる周囲の情報、予測、そして最適化された衣装は間違いなくヒロトを飛躍的に強化していた。
「な、なんなの……!?」
それこそ。
氷と風、そしていつの間にか炎まで操って。
「一体なんなのよ、あなたは!!」
“魔法”に圧倒的な自信を持つと思われるシアの攻撃を、ヒロトは完璧に見切っていた。
魔法があらかじめどこに撃ち込まれるかわかっていれば、発動前から避けることができる。
そうして出来た攻撃の余白分、距離をつめれば少しずつ術者に近づいていく。
「くっ!」
それを嫌って範囲攻撃魔法で追い払おうとするなら、余剰な魔力消費を強制することができる。
そうでなくても範囲攻撃は術者の視界も塞いでしまう。
「どこに……っ!?」
見失った魔法使いの虚を突いて、接近すれば暴発気味の魔法で迎え撃つしかない。
「……ハァ、ハァ……!」
結果。
戦闘開始から数分後には、ほぼ無傷で体力も余裕を残したヒロトと。
疲労困憊で意識も朦朧とした、魔力枯渇寸前のシアの姿が残っていた。
「なんなのよ……一体……!」
息を切らしながら、ぎりとシアが歯を噛み締める音がした。
「私が! あなたに何かした!? 恨みを買うようなことしたっていうの!?」
髪を振り乱しながら、シアが叫ぶ。
「あんたたちが先に仕掛けてきたんでしょうが! 私の世界に踏み入って! 荒らして! 暴れ回って!!」
「……」
ドンドン、と地団駄を踏み、ヒロトに指を突きつける。
その様子をヒロトは黙って見ていた。
「全部悪いのはそっちでしょう!? なんで、いつもいつもいつもいつも! 誰にも迷惑なんてかけてない私が!! こんな目に──がっ」
「あっ」
そんなシアの背後に、ゆらりと立った影が。
「……オイタが過ぎたみたいね。シア」
彼女の意識を刈り取っていた。