産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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39 着替えるぞよよ

「ありがとうヒロちゃん。お陰で、このどうしようもない引きこもりを大人しくさせられたわ。やっぱりヒロちゃんを連れてきて正解ね〜」

「は、はぁ……」

「ぐぅっ……! あ、あんた。この色ボケの言いなりになってるとロクなことにならなっ、きゃんっ!?」

「生意気なこと口走るのはこの口かしら〜?」

 

 戦いが終わり、ユウナさんの一撃を受けてノックダウンしたシアは。

 

 ヒロトのことを恨みがましい目で睨みながらも、ユウナさんをどこか恐れているようだった。

 

「シアちゃん? 今回のことは流石に私でも庇うのは無理よ。普通、冒険者に襲いかかって返り討ちにされたら、殺されても文句は言えないわ」

「……」

「ふんっ」

「うぎゅっ!」

「返事をしなさい。このメス豚が」

 

 聞いたことのない冷たい声で、見たことのない顔で。

 

 シアを折檻するユウナさん。

 

「はぁ、全く情けないわ。魔法使い相手とはいえ遅れを取っちゃうなんて……鍛え直さないとダメね」

「ぐ、ぐぎゅっ……い、息が……!?」

「ユ、ユウナさん? そ、その辺で……」

「あら? ダメよヒロちゃん? ヒロちゃんの優しさは美徳だけどね。こういう悪い子は……」

「うぎゅーっ!?」

「これくらい、キッツくお仕置きしてあげないとねぇ〜?」

 

 いつの間にか手に持っていた黒い鞭をシアの首にかけて。

 

 柔らかい笑顔で締め上げる。

 

「す、すごい迫力……」

 

 美女が美女を締め上げるという、一部の層にはたまらない光景が広がる。

 

 だけど、それが戯れでもなんでもなく純粋な暴力によって為されている時の迫力といったら。

 

「……ヒロ。絶対ユウナは怒らせちゃダメなのですよ」

「う、うん。そうだね」

「敵組織の女幹部って感じで、ワクワクしますね!」

 

 ちょっと黙っててヒカルくん。

 

 今そういう感じじゃないから。

 

「シアちゃん、こうなった以上は……あなたにも働いてもらうわよ?」

「っ!? ま、待って……!」

「いいえ、ダメです。今までは大目に見てあげたけど、今回の横暴は流石に目に余ります。“今夜”からもう始めるから、そのつもりでね?」

「い、嫌! 嫌ぁ……!!」

 

 それまでの態度から一変して。

 

 顔を真っ青にしてイヤイヤと首を振るシア。

 

「あの、ユウナさん? 働くって何のこと……?」

 

 そのあまりの狼狽ぶりに、ヒロトは思わず質問した。

 

 確か、イトナとの会話でヒロトも“売れそう”とか“働いてもらう”とかいってた気がするんだけど……。

 

「あとで嫌でもわかるわ。期待しててね、ヒロちゃん?」

「アッハイ……」

 

 一抹の不安を抱いて質問したヒロトは。

 

 何の曇りもない、それでいて有無を言わせぬ迫力のユウナさんの答えを聞いて。

 

 ヒロトは何も聞かないことにした。

 

「あら、もうこんな時間。そろそろ“準備”しないとね。ヒロちゃん、今からこの部屋に向かってくれるかしら?」

 

 仏のような顔で棒立ちするヒロトに、ユウナさんが一枚の紙切れを渡してきた。

 

 どうやらこの屋敷の見取り図のようだが。

 

「……どこですか?」

 

 普通に内部が入り組みすぎてて目印と思われる赤い矢印がどの部屋を指してるのかわからない。

 

 広すぎだろこの屋敷。

 

「ここ。“更衣室”って書いてあるところよ」

「あぁ、ここ……うん?」

 

 もう一度、紙に視線を落として首を傾げる。

 

 指定された更衣室のすぐ隣に。

 

 “ホール”と書かれた広い空間が存在した。

 

 一階から二階まで吹き抜けの構造になっていて、かなり大掛かりな部屋のようだ。

 

「ユウナさん、このホールって部屋かなり広いですけどまだ案内されてないですよね? 行かなくても……」

「──」

「いいんです、か……」

 

 ヒロトが気になって質問をすると。

 

 それを聞いたユウナさんが……にっこりと。

 

 今までに見たことがないくらいの純粋な笑顔を浮かべて言った。

 

「すぐに案内してあげるわ。楽しみにしてて?」

 

 いつも以上に上機嫌で、綺麗なその笑顔を見て。

 

 ヒロトはなんだか、背筋が凍えるような気がした。

 

 

「ここか」

 

 図書室にユウナさんを残して、ヒロトたちは“更衣室”に辿り着いた。

 

「今更だけど、なんで更衣室……? さっき着替えたばっかだけど」

「もしかして、まだサイズが合ってないんじゃないですか?」

「いや、気持ち悪いくらいピッタリだよ」

「そ、そうですか」

 

 ホント、あの短い時間でよくこんだけ似合う服を仕立ててくれたなって感心してしまうくらいだ。

 

 ……今思うと、あの時のイトナはかなり急いでる感じもした。おっとりとしてそうな性格だから意外だったけど。

 

「ヒロ様」

「あっ、シズクさん?」

 

 更衣室に入ろうとしたところで、通路の向かい側からスライムメイドのシズクさんが現れた。

 

「私、ユウナさんにこの部屋で待ってるように言われてて……」

「存じております。私の方から室内を案内させていただきますが……その前に」

 

 シズクさんはチラとヒカルくんとハカセに視線を向けた。

 

 撫で回された前科があるハカセがファイティングポーズを取って警戒。

 

「申し訳ありませんが、お二人は別室にてしばらく待機していただきます。ここから先は、ヒロ様のみ入室可能です」

「えっ?」

「……どういうことですか」

「お答えいたしかねます。ご了承ください」

 

 どういうわけか。

 

 門前払いを下された二人は当然不満げだ。

 

 私としても納得いく説明が欲しいところ。

 

「ヒロ様」

 

 そう思っていると、シズクさんがとととっと近づいてきて耳打ち。

 

「実は、ここから先は子供には少々“危険”な場所なのです。お二人の安全のための処置とご理解いただければ」

「!」

 

 シズクさんは無表情だったが。

 

 声にはわずかに、申し訳なさそうな色があった。

 

「……二人とも、悪いんだけど二人でいい子にして待っててくれる」

「ヒロ!?」

「……どうしても、ですか?」

「うん。ごめんね」

 

 すでについさっき。

 

 図書室でヒカルくんを危険な目に遭わせてしまった。

 

 もし同じようなことが起きる可能性があるなら、確かに二人を連れて行くのは危険だった。

 

「い、嫌なのです! どうして……」

「ハカセ、行こう」

「ひ、ひーくんまで!?」

 

 抵抗されるかと思ったが、思いの外素直なヒカルくんと泣きそうな顔のハカセ。

 

 心が痛む。

 

「プリムノヴァ……いいえ、ヒロさん。僕たちが足手纏いなのは理解しています」

「!」

「そうするのが最善だとヒロさんが判断したなら、僕は従います……いいよね、ハカセ」

「……ヒロ」

「なぁに」

「絶対、無事に帰ってくるのですよ」

「うん、絶対」

「絶対に、絶対なのです」

 

 ヒロトは屈んでハカセに目線を合わせて、小指を突き出した。

 

 ハカセもおずおずと小指を差し出して、二つの小指が結ばれる。

 

「約束ね」

「……はいなのです」

「こちらです!」

 

 そして、ふっと笑ったハカセは。

 

 ヒカルくんと案内役のスイホウちゃんに連れられて、通路の向こうへ消えていった。

 

「では、ご案内いたします」

 

 そして、シズクさんが扉を開き。

 

 更衣室の中へ。

 

 まず目に入ったのが、並べて壁際に置かれた3台の大きなドレッサー。

 

 鏡の前には大小色とりどりのコスメや香水、ヘアスプレー、ドライヤーにヘアアイロンといった一通りの美容品が揃っている。

 

 部屋の真ん中には白いテーブルと丸椅子が置かれて、お菓子や軽食、ペットボトルが置かれている。

 

 壁際にはホワイトボードが置かれ、マグネットで何枚かの書類が貼り付けられていた。

 

 その近くにはロッカーが備え付けられていて、開いた隙間からわずかにドレスの裾が見えていた。

 

「──ようこそぉ、ヒロちゃん。ここが、暗里繭の“楽屋”だよぉ」

 

 そして、開かれたロッカーの前に立っているのは。

 

 糸細工とレースがあしらわれた純白のドレスを着た、幻想的なイトナの姿だった。

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