産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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41 こども調査隊!

「ひーくん、ホントに良かったのですか……?」

 

 “暗里繭”、屋敷内のリビングルーム。

 

 暖炉の熱で温められた室内で、二人の少年少女が話していた。

 

「良かったって?」

「ヒロのことなのですよ。一人きりにしてしまって、良かったのです……?」

「プリムノヴァは僕達よりずっと強いよ。なにしろ冒険者だから、心配いらない。僕たちは僕たちのことを心配すべきだね」

「それは、そうかもなのですが……」

 

 ハカセは机に突っ伏しながら、床に胡座をかいて何やら“魔道具”を弄り回しているヒカルに怪訝な目を向けた。

 

「……ひーくんは、みんなをどう思っているのです?」

「暗里繭のみんなのこと?」

「はい……」

 

 ハカセは、今日一日にあったことを思い返す。

 

 シズク。イトナ。シア。

 

 “魔性化”と呼ばれるモンスター化の症状を患い、表社会から追放されたものたち。

 

 そして……ヒロも彼女たちと同じ病に罹っているという話だが。

 

「そもそも、モンスターになる病気なんて聞いたことないのです。本当のことなのです?」

「少なくとも、僕たちが今日見た彼女たちは確かにモンスターでありながら人間でもあった。それは確かだ。面白い現象だよね」

「全然、面白くないのですよ……」

 

 モンスターというのは、基本的に言葉の通じない化け物でしかない。

 

 それなのに、モンスターになっただけの元人間がいるとしたら。

 

 そんな単純なことにヒカルが気付いていない筈はない。

 

「どうして、そんなに普通でいられるのです? ヒロが……ヒロが……」

 

 モンスターになってしまうかもしれないのに。

 

 という言葉は飲み込んだ。

 

「そもそも、さっきから何をしているのです? ひーくん、今度は一体どんな“魔道具”を……」

「……」

「え?」

 

 ぴょんと椅子から飛び降りて、とてとてとヒカルが床に広げた魔道具を覗き込む。

 

 それはどうやら、映像投影型の魔道具のようだった。

 

 二つ折りになっていた魔道具が開き、下面にはいくつかのボタンやレバー、キーなどが所狭しと並んでおり。

 

 上面には、どこかの建物の中を映し出した映像が表示されていた。

 

「これは……」

「“ホール”だよ。ハカセ」

「え?」

「建物の見取り図を見ればわかる。この屋敷にはホールと呼ばれる大きな一室があり、ヒロが入った更衣室はその隣の部屋だったんだ」

 

 そう言ってヒカルが差し出したのは、屋敷の中の構造が描かれた一枚の用紙だった。

 

「こ、こんなもの一体どこで……」

「ヒロが貰ったものを写しただけだよ。写真で撮って、それをこの“魔道具”で読み込んだだけだ。簡単なことだ」

「全然簡単ではないと思うのですよ……」

 

 当たり前のように言うヒカル。

 

 だが、ハカセは知っている。ヒカルの扱う魔道具は、そのどれもが市販ではあり得ないほどに高性能で多機能な代物であることを。

 

 殆どはハンドメイド。まだ小学生にして“魔工学”の“ロンブン”を書けるほどの知識に精通したヒカルだからこそ、持つことが許されている。

 

「ホールを調べてるのも、魔道具の力なのですか……?」

「そうだ。小型カメラ搭載の“プリマホッパー”から送られてきてる映像だ。こっそり放っておいたんだよ」

「……もしかして、だからあんなに簡単に頷いたのですか?」

 

 ヒカルは顔を上げてニヤリと笑った。

 

 おかしいとは思っていた。あのヒカルにしては、あまりにもあっさりと引いたものだから。

 

 あらかじめ、ヒロの様子を見守る手段を用意していたんだ。

 

「暗里繭の……彼女らの真意を探る上でも、本音が見えるのはきっと僕たちがいない場所だと思ったからね。すでに15匹の小型カメラを屋敷の中に放ってるよ」

「い、いつの間に……」

「まぁ、彼女達が何を考えていてもプリムノヴァなら粉砕して終わりだ。ハカセの“スキル”もあるし。だからヒロがどこにいても、その活躍を見逃せないくらいじゃないと」

 

 ヒカルの抜け目のなさにハカセは呆れ気味だ。

 

 しかもその理由が彼女の、プリムノヴァの活躍を見たいからというものだから。

 

 昔からそうだったが、彼の魔法少女に対する異常な執着と愛はハカセをして狂気的に感じる。

 

「……それで、ホールの中は見れたのですか?」

「それなんだよね……」

 

 ヒカルの理解できない部分を話題にしても理解できないままで終わる。

 

 それを知っているハカセは、魔道具に表示されている映像の方に注目した。

 

「ハカセ、君はこれを見てどう思う?」

「……」

 

 ヒカルに見やすいように向けられた画面に映っていた光景は……なんというか。

 

「大人の世界、なのです」

 

 室内は薄暗く、現状から吊り下がっているシャンデリアのような照明も淡い光を放っているだけだ。

 

 だけどそれは、多分照明が壊れているんじゃなくわざとだ。その部屋の暗さを“演出”するための。

 

 美しく着飾った魔性の女性達。

 

 その腰や肩に手を回し、だらしない笑みを浮かべる男達。

 

「まぁ、なんとなく予想していたけど……やっぱりこの屋敷の裏の顔はこれだ。魔性化した者たちの接客を売りにした、高級クラブのようなものだね」

「こうきゅう、くらぶ?」

「女の人とお酒を飲みながら話をしたりするお店らしいよ。だけど価格設定がもの凄く高いんだ。非合理的な施設だね」

「……そんなお店、楽しいのです?」

「さぁ? 大人の楽しみは僕たちにはよく分からないからね」

 

 見る限り、店内の雰囲気はどこか熱気がこもっているというか。

 

 女性たちの接客を受ける男性の顔は、鼻の下が伸びていたり逆に必要以上にキリッとしていたりして。

 

「気持ち悪いのです……」

 

 ハカセは本能的な忌避感を覚えた。

 

 お酒、タバコ、化粧をして頬を赤らめる女。

 

 どれもハカセの嫌いなものだ。

 

「あっ、ユウナさんがいたのです。……って、すごいカッコしてるのですよ!?」

「……アレ、服って言っていいの?」

「ひーくん! 見ちゃダメなのです!」

「心外だな。僕がプリムノヴァ以外に興味を示すと思ってるの?」

「そ、それはそれでどうなのですか……」

 

 映像の中に映った見知った顔と、大事な部分以外が全く隠れていない服にハカセがギョッとする。

 

 なんだか、見てはいけないものを見てしまっているような強烈な背徳感を感じる。

 

「それよりハカセ、気づいてる?」

「えっ……何がです? え、えっちな話です……?」

「いや、お客さんの方。男達の方だよ」

 

 えっちな話ではないらしい。

 

 何故か少し落胆しながら、だらしない顔の男達を見る。

 

 変わった所は何も……。

 

「……あれ、もしかしてこれ、皆……?」

「あぁ、全員冒険者だね。装備は脱いでるけど、体つきは鍛えられている。そして……」

 

 ヒカルはホール内の一角。

 

 あるスペースを指して言った。

 

「獣人が多い」

「……獣人」

 

 耳や毛、尻尾。爪や牙。

 

 その体の一部に獣の特徴を持った人間達。

 

 “魔性化”とは違い、こちらはちゃんと人間社会でも受け入れられている人種だ。

 

「獣人の、冒険者……?」

「そうだ。獣人で、かつ冒険者。そういう客が異様に多い。ここは彼らを相手に商売してるんだろうね」

「なんで獣人なのです?」

 

 冒険者が多い。というのはわかる。というか、当たり前のことだ。

 

 ここはダンジョンの奥深く。30層以降の“深層”だ。

 

 そんな所まで潜って来れるのはそもそもが冒険者か、国に雇われた軍隊くらいだ。

 

「いくつか理由は考えられるけど……うん?」

 

 ヒカルが推測を口にしようとした時。

 

 店内がにわかに騒がしくなった。みんながどこか一点に視線を向けて拍手している。

 

「な、何が起きてるのです?」

「わからない。音声は拾えないからな……」

 

 カメラがぐるんと移動して、客と店員の視線を追うように動く。

 

「も、もっとゆっくり動かしてほしいのです。酔っちゃうのです」

「そんなこと言われても、酔い対策は実装してな、い……」

「……」

 

 食い入るように画面を見つめていた二人の言葉が、途切れる。

 

 その画面に映ったものが、あまりに衝撃的だったからだ。

 

 音声は聞こえなくとも、その場が静まり返っていることだけは映像越しに伝わってきた。

 

 それほどまでに……画面に映ったその女性は。

 

 誰もが見惚れるような美しさをしていた

 

「……ヒロ」

 

 知っているはずの彼女だった。

 

 それなのに、その姿は二人の知るヒロとはまるで別人のようだった。

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