産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「魔性化した女の子たちの……クラブ……?」
「そうだよ〜。それが、“暗里繭”の裏の顔〜」
「……ユウナの奴、説明してなかったのかよ」
ホール横の楽屋。
イトナだけじゃなく、シアまでもが着飾って出てきたことで。
ヒロトはついに謎に包まれた暗里繭の営業。その実態を知ることになったのだった。
「──だって、ヒロちゃん説明したら逃げちゃいそうだったんだもの」
「ユウナ!」
真実を知って唖然とするヒロトの前に、ユウナさんが現れた。
「……す、すごい格好ですね。似合ってるけど」
「ふふ、そう? ヒロちゃんもとっても素敵よ」
ユウナさんもまた、いつもとは違う華美な装いに身を包んでいた。
胸元だけじゃなく、肩やデコルテ、背中、脇腹、腰回りまで露出した非常に過激なロングドレスだ。
髪はアップに編み込まれた上でレースのついた簪でまとめられ、露出したうなじが非常に色っぽい。
全体的にエキゾチックな装い。アジアンテイストっていうのかな。
「んん〜、こうしてユウ姉とヒロちゃんが揃うと……いや〜、すごい景色だね、色々と。ヒロちゃん、ユウ姉と並んで二台看板に出来るんじゃない〜?」
「看板?」
「
ユウナさんがリーダー、か。
まぁ確かに、こんなに癖の強いメンバーまとめられるのはユウナさんくらいっぽいし。
「こうした営業形態を思いついたのもユウナ様です。おかげで、万年金欠状態だった暗里繭の懐事情にも余裕が出ました」
「あっ、シズクさん……は、いつものメイド服なんだ」
「私はこの格好が一番需要がある、というのがユウナ様の判断です」
……確かに。
メイドさんは、いいものですからね。
「私も〜、シズクちゃんも〜、シアちゃんも、カナトくんも〜。みーんな、ユウ姉に救われてるんだよ〜」
「ちょっと。私を入れないでくれる?」
「シアちゃんだってユウ姉がいなかったら、絶対ダンジョンの中で力尽きてたでしょ〜。ずっと不満そうだけどさ〜」
「……フンっ」
……ようやく、この暗里繭のことがわかってきた。
ここにいる全員、多分元は冒険者だったんだ。
それがいきなり“魔性化”という現象に襲われて、人間として生きていくことが難しくなった。
ヒロトと同じように。
「“魔性化”した人をユウナさんが拾い上げていくうちに、この暗里繭になっていった……ってことだよね」
「そうよ。まぁ、私の力だけじゃないけどね? 色んな人に協力してもらって、今の形になったのよ」
「すごいね、ユウナさん」
「ふふ、やりたくてやったことだもの」
人として生きていたはずなのに、ある日そうすることができなくなって。
きっと、ヒロトには想像できないような苦しいことにも見舞われただろう。
だって冒険者にとって、モンスターは敵でしかない。
それが人の形をしていて、人の言葉を喋っても冒険者はモンスターを倒すしかない。
そうしなければ、死ぬのはこちらなのだから。
「……あれ、待って。じゃあ、このお仕事って誰を相手に商売してるの?」
そこでふと浮かんだ疑問。
暗里繭が“魔性化”を逆に利用して商売をしているなら。
当然、そのお客達には自分たちの姿を見せる必要がある。
「ヒロちゃん、ここに来る前、大手冒険者ギルドの“黄金の牙”がダンジョンの遠征から帰還してるって話したわよね?」
「え? うん。ここは黄金の牙のホームの“ヨコハマダンジョン”と繋がってるから……」
と、そこまで考えて。
「……まさか」
「そのまさか。私たちが相手をするのは彼らよ。冒険で疲れ、傷つき……癒しを求める冒険者。彼らに冒険が終わった後の安らぎを提供するのが、私たちの仕事なの」
ユウナさんはそう言って、楽屋のドア……入ってきた簡素なドアとは違う、豪華な装飾が施された重厚な木組みのドアを開いた。
その瞬間、目に飛び込んでくる。
薄暗い室内と、店内を闊歩する華やかな女の子たち。
そして。
「……よぉ。今日は遅かったじゃねぇか、ユウナ」
見上げるような巨躯と、獰猛な笑みを浮かべる。
まさに“雄”を体現したような、屈強な男達の姿。
*
ヒロトが冒険者になってから、色々なことがあった。
右も左も分からない状態で、装備も整わないままダンジョンに挑んで、モンスターの群れに囲まれて死にかけて。
それから、強くなるために体を鍛えて情報を収集して、スキルを手に入れようと画策して。
全財産を投じてなんとか得られたスキルが、まさかの“性転換”という戦闘向きとは思えない産廃スキルで。
かと思ったら、スキルとユニーク装備の奇跡的な噛み合いでどんどん強くなっていって。
今では、性転換した女で魔法少女でさらにはモンスター化もしようとしているという属性過多状態。
本当に、色々なことを経験した。
だけど、その中でも。
「緊張してんの? ヒロちゃん。可愛いね」
「じゃあ俺たちと仲良しになれる、魔法のおまじない……かけてあげる」
「おい、お前らよせよ。ヒロは新人なんだ。あんま群がりすぎんな」
ここまで本気で“死ぬかも”と思ったことは初めてだ。
しかも、モンスターじゃなくて人間相手に。
暴力以外で。
「あ、あの。ユウナさん」
「うん? なぁに? ヒロちゃん」
「これは一体……」
ソファに座り、両手でグラスを持ってカタカタと震えるヒロトの両隣には。
それぞれ金髪と黒髪の、筋肉質な二人の獣人が座っていた。
「ハヤト君とカイ君よ。二人とも“黄金の牙”の若手で、期待のホープって感じね。すっごい強いんだから」
「ちょっと、やめてくださいよ姉さん」
「ヒロちゃんもめっちゃ強いんでしょ? プレッシャーエグいって」
グラスを傾けてワインを煽るユウナさんの紹介を受けて笑う二人。
……二人の名前が知りたいわけじゃなくて、この状況のことが知りたかったんだけどな。
「にしても、話に聞いてた通りめっちゃ可愛いっすねヒロちゃん! 慣れてない感じなのも最高っす」
「そうでしょお? 逸材よ、逸材」
「やー、マジで“黄金の牙”入ってよかった〜! こんな可愛い子とお酒飲めるなんて最高ですよ!」
「は、はは」
二人の……いや、それどころか。
ヒロとユウナの座る席には、二人以外は全員“黄金の牙”の男性冒険者達だった。
こちらを狙うような、ギラギラした目線がそこかしこから浴びせられている。
死にたい。いっそ死なせてほしい。
いきなりここで舌噛んで死んだらビックリするかな。
それでこの場から離れられるなら今すぐやるけどね。
「最初裏から出てきた時、一瞬時止まったもんな〜」
「そりゃそうだろ。新人の子が来るっていうから期待してたら、ものすごいオーラの美女が出てきたんだから」
「あの団長の顔見たか? 固まってたぜ。あそこまで間抜けヅラのあの人は初めてだったわ」
「あの人も男だったってこったなぁ」
ヒロトを中心に、知らない話題で知らない男達が盛り上がっている。
「いぇーい! さいこぉ〜!」
頼みの綱のユウナさんは、お酒が入ってベロンベロン。
この人、こんなに酒癖悪かったんだ……。
「ヒロちゃんも冒険者なんでしょ? 強いんだってね?」
「こんだけ可愛くてしかも強いとか、将来有望なんてもんじゃねぇな。ねぇ、ウチこない?」
「おい、よせ。暗里繭から引き抜こうとなんてしたら、この店出禁になるぞ」
「本人が望むならいいんだろ? な? どうよヒロちゃん?」
「エ……アノ……エト……」
む、無理だ。もう。
視界がぐるぐる回ってきた。
吐きそうだ。
「ア……ト、トイレ……」
ヒロトは下を向いたまま立ち上がり。
足早にその場を去る。
早足で部屋を横断するヒロの足元を。
バッタのような生き物がついて回っていた。