産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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42 マジでやめてください

「魔性化した女の子たちの……クラブ……?」

「そうだよ〜。それが、“暗里繭”の裏の顔〜」

「……ユウナの奴、説明してなかったのかよ」

 

 ホール横の楽屋。

 

 イトナだけじゃなく、シアまでもが着飾って出てきたことで。

 

 ヒロトはついに謎に包まれた暗里繭の営業。その実態を知ることになったのだった。

 

「──だって、ヒロちゃん説明したら逃げちゃいそうだったんだもの」

「ユウナ!」

 

 真実を知って唖然とするヒロトの前に、ユウナさんが現れた。

 

「……す、すごい格好ですね。似合ってるけど」

「ふふ、そう? ヒロちゃんもとっても素敵よ」

 

 ユウナさんもまた、いつもとは違う華美な装いに身を包んでいた。

 

 胸元だけじゃなく、肩やデコルテ、背中、脇腹、腰回りまで露出した非常に過激なロングドレスだ。

 

 髪はアップに編み込まれた上でレースのついた簪でまとめられ、露出したうなじが非常に色っぽい。

 

 全体的にエキゾチックな装い。アジアンテイストっていうのかな。

 

「んん〜、こうしてユウ姉とヒロちゃんが揃うと……いや〜、すごい景色だね、色々と。ヒロちゃん、ユウ姉と並んで二台看板に出来るんじゃない〜?」

「看板?」

ウチ(暗里繭)の売り上げトップ、ユウ姉なんだよ〜。エースっていうか、まぁリーダーだよね〜」

 

 ユウナさんがリーダー、か。

 

 まぁ確かに、こんなに癖の強いメンバーまとめられるのはユウナさんくらいっぽいし。

 

「こうした営業形態を思いついたのもユウナ様です。おかげで、万年金欠状態だった暗里繭の懐事情にも余裕が出ました」

「あっ、シズクさん……は、いつものメイド服なんだ」

「私はこの格好が一番需要がある、というのがユウナ様の判断です」

 

 ……確かに。

 

 メイドさんは、いいものですからね。

 

「私も〜、シズクちゃんも〜、シアちゃんも、カナトくんも〜。みーんな、ユウ姉に救われてるんだよ〜」

「ちょっと。私を入れないでくれる?」

「シアちゃんだってユウ姉がいなかったら、絶対ダンジョンの中で力尽きてたでしょ〜。ずっと不満そうだけどさ〜」

「……フンっ」

 

 ……ようやく、この暗里繭のことがわかってきた。

 

 ここにいる全員、多分元は冒険者だったんだ。

 

 それがいきなり“魔性化”という現象に襲われて、人間として生きていくことが難しくなった。

 

 ヒロトと同じように。

 

「“魔性化”した人をユウナさんが拾い上げていくうちに、この暗里繭になっていった……ってことだよね」

「そうよ。まぁ、私の力だけじゃないけどね? 色んな人に協力してもらって、今の形になったのよ」

「すごいね、ユウナさん」

「ふふ、やりたくてやったことだもの」

 

 人として生きていたはずなのに、ある日そうすることができなくなって。

 

 きっと、ヒロトには想像できないような苦しいことにも見舞われただろう。

 

 だって冒険者にとって、モンスターは敵でしかない。

 

 それが人の形をしていて、人の言葉を喋っても冒険者はモンスターを倒すしかない。

 

 そうしなければ、死ぬのはこちらなのだから。

 

「……あれ、待って。じゃあ、このお仕事って誰を相手に商売してるの?」

 

 そこでふと浮かんだ疑問。

 

 暗里繭が“魔性化”を逆に利用して商売をしているなら。

 

 当然、そのお客達には自分たちの姿を見せる必要がある。

 

「ヒロちゃん、ここに来る前、大手冒険者ギルドの“黄金の牙”がダンジョンの遠征から帰還してるって話したわよね?」

「え? うん。ここは黄金の牙のホームの“ヨコハマダンジョン”と繋がってるから……」

 

 と、そこまで考えて。

 

「……まさか」

「そのまさか。私たちが相手をするのは彼らよ。冒険で疲れ、傷つき……癒しを求める冒険者。彼らに冒険が終わった後の安らぎを提供するのが、私たちの仕事なの」

 

 ユウナさんはそう言って、楽屋のドア……入ってきた簡素なドアとは違う、豪華な装飾が施された重厚な木組みのドアを開いた。

 

 その瞬間、目に飛び込んでくる。

 

 薄暗い室内と、店内を闊歩する華やかな女の子たち。

 

 そして。

 

「……よぉ。今日は遅かったじゃねぇか、ユウナ」

 

 見上げるような巨躯と、獰猛な笑みを浮かべる。

 

 まさに“雄”を体現したような、屈強な男達の姿。

 

 

 ヒロトが冒険者になってから、色々なことがあった。

 

 右も左も分からない状態で、装備も整わないままダンジョンに挑んで、モンスターの群れに囲まれて死にかけて。

 

 それから、強くなるために体を鍛えて情報を収集して、スキルを手に入れようと画策して。

 

 全財産を投じてなんとか得られたスキルが、まさかの“性転換”という戦闘向きとは思えない産廃スキルで。

 

 かと思ったら、スキルとユニーク装備の奇跡的な噛み合いでどんどん強くなっていって。

 

 今では、性転換した女で魔法少女でさらにはモンスター化もしようとしているという属性過多状態。

 

 本当に、色々なことを経験した。

 

 だけど、その中でも。

 

「緊張してんの? ヒロちゃん。可愛いね」

「じゃあ俺たちと仲良しになれる、魔法のおまじない……かけてあげる」

「おい、お前らよせよ。ヒロは新人なんだ。あんま群がりすぎんな」

 

 ここまで本気で“死ぬかも”と思ったことは初めてだ。

 

 しかも、モンスターじゃなくて人間相手に。

 

 暴力以外で。

 

「あ、あの。ユウナさん」

「うん? なぁに? ヒロちゃん」

「これは一体……」

 

 ソファに座り、両手でグラスを持ってカタカタと震えるヒロトの両隣には。

 

 それぞれ金髪と黒髪の、筋肉質な二人の獣人が座っていた。

 

「ハヤト君とカイ君よ。二人とも“黄金の牙”の若手で、期待のホープって感じね。すっごい強いんだから」

「ちょっと、やめてくださいよ姉さん」

「ヒロちゃんもめっちゃ強いんでしょ? プレッシャーエグいって」

 

 グラスを傾けてワインを煽るユウナさんの紹介を受けて笑う二人。

 

 ……二人の名前が知りたいわけじゃなくて、この状況のことが知りたかったんだけどな。

 

「にしても、話に聞いてた通りめっちゃ可愛いっすねヒロちゃん! 慣れてない感じなのも最高っす」

「そうでしょお? 逸材よ、逸材」

「やー、マジで“黄金の牙”入ってよかった〜! こんな可愛い子とお酒飲めるなんて最高ですよ!」

「は、はは」

 

 二人の……いや、それどころか。

 

 ヒロとユウナの座る席には、二人以外は全員“黄金の牙”の男性冒険者達だった。

 

 こちらを狙うような、ギラギラした目線がそこかしこから浴びせられている。

 

 死にたい。いっそ死なせてほしい。

 

 いきなりここで舌噛んで死んだらビックリするかな。

 

 それでこの場から離れられるなら今すぐやるけどね。

 

「最初裏から出てきた時、一瞬時止まったもんな〜」

「そりゃそうだろ。新人の子が来るっていうから期待してたら、ものすごいオーラの美女が出てきたんだから」

「あの団長の顔見たか? 固まってたぜ。あそこまで間抜けヅラのあの人は初めてだったわ」

「あの人も男だったってこったなぁ」

 

 ヒロトを中心に、知らない話題で知らない男達が盛り上がっている。

 

「いぇーい! さいこぉ〜!」

 

 頼みの綱のユウナさんは、お酒が入ってベロンベロン。

 

 この人、こんなに酒癖悪かったんだ……。

 

「ヒロちゃんも冒険者なんでしょ? 強いんだってね?」

「こんだけ可愛くてしかも強いとか、将来有望なんてもんじゃねぇな。ねぇ、ウチこない?」

「おい、よせ。暗里繭から引き抜こうとなんてしたら、この店出禁になるぞ」

「本人が望むならいいんだろ? な? どうよヒロちゃん?」

「エ……アノ……エト……」

 

 む、無理だ。もう。

 

 視界がぐるぐる回ってきた。

 

 吐きそうだ。

 

「ア……ト、トイレ……」

 

 ヒロトは下を向いたまま立ち上がり。

 

 足早にその場を去る。

 

 早足で部屋を横断するヒロの足元を。

 

 バッタのような生き物がついて回っていた。

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