産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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44 お触りは厳禁です

「でさー、そん時の俺、めっちゃダルくてさー。まぁ仕方なく手貸してやったんだけどさぁー」

「えー、すごーい」

「でしょ!? いやぁ、やっぱヒロちゃんにはわかっちゃうか。流石、俺の女」

「あはは……」

 

 数十分後。

 

 ヒロトは死んだ目で男の隣に座り、やれどこそこの女を仲間と一緒に口説いただの、やれ普段はみんなから頼りにされているリーダー気質だのと。

 

 毛程も興味のわかない上に最低な話題を、ただひたすら相槌打つだけのマシーンと化していた。

 

 それでも男の方は満足なようで、機を見て立ちあがろうとするヒロトの腰をがっちりとホールドして抱き寄せて離さない。

 

 何度も何度もしつこく胸に手を伸ばすのを制していたら、手を繋ぎたがってると思われて指を絡めようとしてくる。

 

 マジで勘弁してくれ。

 

「……にしてもヒロちゃん、マジで胸でかすぎじゃね? 顔より大きいじゃん。なんか特別なことしてんの?」

「えー、よくわかんないですねぇー……」

「嘘つけよ。どうせこいつで男を弄んできたんだろ……?」

 

 腰に回される腕がそのまま上に上がろうとしたのを、引き止めるために伸ばした右手が掴まれる。

 

 そのまま、強引に男の方へ腕を伸ばされて。

 

「……なぁ、触れよ」

 

 と、下半身へと腕が引っ張られる。

 

 胸の内から湧き起こる強烈な嫌悪感と共に、いよいよヒロトは強硬手段に出ようと……。

 

「あれぇ? ヒロちゃんだぁ」

「イ、イトナ?」

「ヒロちゃ〜ん♡」

 

 突然横合いから現れ、ヒロトの腕を取ったイトナにフリーズする。

 

「もう休憩時間なのにどこにもいないから〜。ここにいたんだねぇ。一緒に行こ?」

 

 そう言ってこちらを見上げるイトナの目は。

 

 酒気に当てられたあからんでいるように見えて、しっかり理性の光を残していた。

 

「う、うん。そうだね」

「やったぁ! じゃあ、そういうことでお兄さん。またあとね〜」

「おいおい、そりゃねぇだろ!」

「ごめんね〜」

 

 その助け舟に乗ったヒロを、強引に男から引き剥がして連れ去っていくイトナ。

 

 離れていくヒロの背中を、男の欲望と熱に染まった視線が灼いていた。

 

「……ありがとう、イトナ」

「ヒロちゃん、ダメだよ〜。ああいうお客様と二人きりになったら〜」

 

 男から離れ、楽屋に戻った所でヒロトはイトナに頭を下げた。

 

 そんなヒロトに、イトナはいつもの調子ながらもハッキリとした言葉を投げかけたのだった。

 

「男の子を助けたかったのはわかるけどね〜。ヒロちゃんみたいな女の子があんな風にくっついてきたら、そりゃ男はみんな冷静じゃいられなくなっちゃうんだからさ〜」

「う、うーん」

「……わかってないでしょ?」

「あんまり……」

 

 イトナからの指摘に、曖昧に頷く。

 

「困ったなぁ。そんな無自覚なままじゃ危なっかしくて働かせられないんだけどぉ……。まぁ、それがヒロちゃんの良い所でもあるんだけどさぁ」

 

 頬に手を当ててため息のイトナ。

 

 すでに薄れつつある男だった時のヒロトの感覚からしても、今の“ヒロ”は魅力的な女性だ。綺麗に着飾っていれば尚更。

 

 決して自分に魅力があることを自覚していないわけじゃない。

 

 でも、ヒロトには女性に対して無理矢理迫るだとか、そういう手段に出る気持ちはわからない。

 

 そんな風に無理矢理相手を従わせても、関係が長続きするはずがない。

 

「ま、とりあえず“黄金の牙”の団長さんには話しといたからぁ。多分戻っても同じようなことはされないと思うよぉ」

「そ、そっか……ありがとう。助かった」

「お返しはこの体でいいよぉ〜」

「わっ」

 

 裏で色々と動いてくれていたらしいイトナにお礼を言うと、ボフッと体ごとヒロの胸の中に飛び込んでくる。

 

「いや〜、相変わらずもちもちふわふわのマシュマロボディ……ヒロちゃん、私の抱き枕になって〜」

「なにそれ」

 

 笑いながら、イトナの頭を撫でる。

 

「ヒロちゃん好き。好き好き、大好きぃ〜」

 

 すると許可を得たと勢いづいて体を弄り始めるイトナ。

 

 ……さっきの男とイトナで、全然感じ方が違うのはなんでなんだろ。

 

 どっちも鼻伸ばしたまま体を触られてるのは同じなのにな。

 

 そうして、ひっついてくるイトナをぺしっと叩きながら。

 

 ヒロトは心に負った傷を回復させていった。

 

 

「うん?」

 

 再びホールに戻ると、何やらがやがやと騒がしくなっていた。

 

 何をしているんだろう、と見ると。

 

「オラァッ!」

「ぐぼほぉっ」

「もいっぱぁつ!!」

「ぼぐうぇっ」

「おまけぇっ!!」

「ごぶふぼほぉ!!」

 

「えぇ……」

 

 その光景は、なんと称するべきか。

 

 筋骨隆々の鍛えた獣人の男たちが、一人の獣人を羽交い締めにしてサンドバックにしていた。

 

 サンドバックの獣人の男は顔も体もズタボロで、もはや人の形を呈していない。

 

「いいぞー!」

「やれやれー!」

「喧嘩……?」

 

 あまりにも酷い集団リンチの光景と、なぜか周囲の彼とお仲間のはずの獣人までもが一緒になってそのショーで盛り上がっている地獄。

 

 なんでこんなことになっているのか、と近づいて気づく。

 

「あっ、さっきの……」

 

 サンドバックになっていたのは、さっきまでヒロが接客していた男だった。

 

 さっきまで鼻の下が伸びきっていたニヤケ面が、今はもう見る影もないことになっている。

 

「あ、ヒロちゃん! 休憩は終わった?」

「なにっ、ヒロちゃんだと!?」

「ヒロちゃん! 大丈夫だった!?」

 

 その光景を困惑げに見ていると、一人の獣人がヒロトの存在に気づき、そこからどんどんヒロトの周りに人が集まってくる。

 

「えっ、えっ、なに!?」

 

 事態を飲み込めないヒロトは目を回した。

 

「ヒロ、あの男に色々やらされたんでしょ」

「えっ、シア?」

「まったく。何かあったら呼べって言って早々これなんだから。いい? うち(暗里繭)はキャストが嫌がるような行為は厳禁なの。それを守ってもらえない客は出禁にしてもらってるわ」

「ヒロちゃんすまん! このバカが迷惑かけた! こいつ“黄金の牙”の中でも問題児なんだよ! 目ぇ離した俺らの責任だ!」

「あいつになんか嫌なこと……は、もうされちまったんだったな。くそっ、面目ねぇ……」

「は、はぁ」

 

 周囲で口々に謝罪と後悔を口にする獣人たちに、ヒロトは気が抜けたような返事しか返せない。

 

 事態が急すぎて、理解が追いつかないのだ。

 

「──俺が責任を取ろう」

「団長!」

 

 困惑するヒロトの前に。

 

 突然、見上げるほどの大男が現れた。

 

 荒々しく逆立った毛皮のような頭髪。盛り上がった筋肉。ピンと立った獣耳。

 

 そして身に纏う圧倒的な魔力。

 

 その男を一目見てヒロトは確信した。

 

 この男は、間違いなく“強い”。

 

「“黄金の牙”の総長、レオンだ」

 

 低く唸るような声。

 

 こちらを獲物と見定めるような鋭い眼光。

 

 周囲を威圧する獰猛な獣の気配。

 

「獣王……」

 

 至高の冒険者、“十冠”のうちが一人。

 

 “第六位” 獣王レオン。

 

 噂話でしか聞かない、最強の冒険者として名を連ねる一人が真っ直ぐにヒロトを見下ろしていた。

 

「……君、強いだろう?」

「え?」

「この俺に睨まれて、一切動揺しない。そんな女性は今まで、数える程度しか会ったことがない」

 

 そう言われ、まぁ確かになとヒロトは思った。

 

 見た目が怖いってだけじゃない。このレオンを名乗った男が纏う暴力的な魔力は見た者に恐怖を感じさせる。

 

 蛇に睨まれた蛙のように、呼吸すらままならなくなるほどの恐怖を与えるだろう。

 

「ガウみたいな雑魚では相手にもならん。それでも黙って奴の言いなりになっていたのは、無用な騒ぎを起こしたくなかったから……そうだろう」

「……」

「すまん、バカの尻拭いをさせた……この通りだ」

「団長!?」

 

 何も答えないヒロトの前で。

 

 “団長”を名乗ったレオンが土下座、ヒロトは目を丸くした。

 

「こんなもので許されるとは思ってないが……俺たちも決してここで騒ぎを起こしたかったわけじゃあ……」

「ふんっ!!」

 

 その瞬間。

 

 地面に頭を擦り付けるレオンを。

 

「ふざっけんなよ! このスケベオオカミどもが!!」

「……えぇ」

 

 ──お酒で顔を真っ赤にしたユウナさんが蹴っ飛ばした。

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