産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「ごめんね、ヒロちゃん。初日からこんな事になるなんて」
「初日ってことは……これからもやるの……?」
「嫌になっちゃった?」
「いやぁ……」
お客さんの数も疎になり、そろそろ営業が終わりという頃になって。
ヒロトはユウナに楽屋で頭を下げられていた。
……ちなみに、蹴っ飛ばされた団長さんは無傷だったし全く怒っていなかった。
どうやらユウナさんと団長さんは古い知り合いみたいで、あんな風なことは日常茶飯事だったんだとか。
怖すぎる日常だと思う。
「私、そもそも冒険者だし……こういうの、あんまり向かないかなって……」
「そうね。理由も説明せずこんなことさせて、ごめんなさいね」
理由、かぁ。
「もしかしてなんだけど……今日やったことって……」
「あなたが上層に戻るために、必要なことよ」
やっぱりか。
「あなた達は本来入れないルートで深層に潜って、元に戻るルートがない……だけど、ヨコハマダンジョンの帰還ルートを使えば地上に戻れるわ。丁度、これから“黄金の牙”が通るルートね」
「なるほど……」
つまり、彼らに付いていけば、ヒロト達は地上に戻れるわけだ。
「私たちのお願いなら、きっと彼らはあなた達を上層まで連れていってくれるわ。それこそ、ヒロちゃんみたいな可愛い子ならね? ふふっ」
「そ、そうなんだ」
「でも、もし貴方の“素性”がバレたらそうはいかないわ」
「素性?」
「あなたが“カワサキダンジョン”の冒険者……それも、あのプリムノヴァだとバレた場合よ」
「……?」
何が問題なのかわからず、首を傾げる。
「いい? この“ヨコハマダンジョン”は言ってしまえば、彼らのナワバリ……このダンジョンから産出されるアイテムやモンスターの素材は全て彼らが取りまとめているの」
「へぇ……ダンマスも兼任してるってこと?」
「そうなるわね」
冒険者が管理者……つまり、ダンマスの役割も担うのは、多くはないがいくつか例がある。
大手ギルドほどそうした傾向は強い。
「“黄金の牙”のナワバリに、事故とはいえカワサキの中でも有名なあなたが迷い込めば、彼らはどう思うかしら?」
「……お客さんが来た、とか?」
「喧嘩を売られた、と思うはずよ」
「え??」
け、喧嘩?
なんでそんな話に?
「自分たちの領域に、他所の冒険者が断りも入れず入ってきた。これを放置すれば、ヨコハマダンジョンを統括する“獣王”の名に泥を塗ることになる。彼らはあなたを拘束しなければならないはずよ」
「えぇ……」
ぜ、全然そんなこと考えてなかった。
「でも、あなたが“プリムノヴァ”ではなく、“暗里繭”のキャストをしてるただのヒロちゃんならどう? 私たちは彼らとビジネスパートナーの関係よ。“カワサキ”も“プリムノヴァ”の名前も出ることなく、このヨコハマダンジョンの内で起こったこととして処理できる」
「あっ……だから……」
「そう。あなたを“暗里繭”の仲間として彼らに紹介するために、今日はあなたに働いてもらったの。まぁ、結果的には初日からトラブルが起きちゃって、どうなることかと思ったけど……」
……色々と腑に落ちた。
正直、最初は騙されたとも思っていたけど。
これはヒロトのために必要なことだった。
「さ、最初から言ってくれれば……」
「う、うーん……私も話そうと思ったんだけど……」
「ヒロちゃんって、演技とか得意そうなタイプに見えなかったから……」
「……」
「でも、騙すようなことしちゃったのは確かだから。ごめんなさいね?」
ぐうの音も出ない。
もし、私が事前にそういう裏事情を知っていたらきっと余計なことを考えて全く会話に集中できなかったと思う。
というか、今日ですら出来てなかったし。
「私はあたふたしてるヒロちゃんが見れたから満足〜」
「どう考えても最低よ。善意の協力者を騙すような真似するなんて。死ぬべきね」
「……シア、いつの間にヒロちゃんと仲良くなってないかしら?」
「なってない」
楽屋に戻ってきたイトナとシアの二人が、思い思いに離しながら会話に加わる。
どうやら、知らなかったのはヒロトだけだったらしい。
普通なら、騙されたって思っても良いのかもしれないけど。
ヒロトには、それが皆なりに一番いい方法を選んだだけだってことがわかった。
それなのに、ヒロトは。
皆がただ、自分のことしか考えてないと思い込んで。
「……ごめん。私みんなのこと誤解してた」
ヒロはみんなに頭を下げて謝罪した。
驚いたような顔をするユウナさん。
「あら、いきなりどうしたの?」
「私、てっきり皆がイケメンのことしか考えてないと思ってた……!」
ヒロトは正直に吐露する。
こいつら男のことしか頭の中にねーんじゃねーかと思っていたことを。
「本当は皆、私のこと考えてくれてたのに……」
それを聞いたユウナさんは、何を思ったのか感情の読めない瞳で口を開き。
「いいえ? 普通に男の子のことしか考えてなかったけど?」
「……」
前言撤回。
やっぱコイツやべーわ。
「ヒロちゃんもヤっちゃえば? みんな上手だし、優しいわよ?」
「ヤっ……!?」
「黙れ色情魔。ヒロはアンタみたいな緩い頭してないわ。しっかりしてるんだから」
「確かに〜。ヒロちゃんは純愛好きそう〜」
「じゅ、純愛って……」
好き勝手言われ放題。
「まぁ、ぶっちゃけヒロちゃんが帰るために必要なことだったのは確かだけど、あわよくばこのお仕事を気に入って、ここに定住してくれないかなー……なんてことも考えてたのは事実よ? ヒロちゃん、絶対“売れる”し」
「……私、結局今日全然喋れなかったけど」
「その初々しさが良いのよ〜! なんていうか、女の子として扱われ慣れてない感じっていうの? その辿々しさが“可愛い”って、すっごく評判だったんだから!」
“女の子として扱われ慣れてない”。
それは、かなり的を得ている感想だったので冷や汗をかく。
現状、ヒロトは自分のスキルのことを誰にも話していない。
いざという時のための“切り札”として残しておいてある。
それがバレるのは嫌だった。
「ともかく、思った以上にヒロちゃんのウケは良かったし、結果的にレオンに借りも作れたわ。大戦果よ!」
「嬉しくない……」
親指を立てるユウナさんにげんなりするヒロト。
セクハラを受けて立てた戦果ってどうなんだ。いやまぁ、それも仕事のうちって言われたら何も言えないけど。
「……っていうか! 何度も言うけど冒険者だからね! 私!」
「わかってるわかってる。でもここにいる間は“暗里繭のヒロちゃん”よ。それが地上に戻る1番の近道なんだから」
「うー……」
理屈ではわかっても、感情面で納得し難い。
なんだか最近、この手の辱めを受けることが多くなってる気がするんだけど……。
「話、終わった〜? じゃあヒロちゃん、衣装の細かい調整するからもう一回脱いで〜」
「……え、調整?」
「うん。時間なかったから仕方ないけど、まだ色々と詰めの甘い部分あったからさ〜。デザイナーとしては噴飯モノだよ〜」
「ちょ、ちょっと待って。調整ってことは……もしかしてまた着るの!?」
「当たり前じゃん〜? “黄金の牙”に取り入るんだったら、一回だけじゃ足りないし〜」
「……シ、シア! 助けて!!」
「……助けるのはいいけど、レオンの信用を得たいなら、結局やる必要はあると思うわよ。今回の機会を逃しちゃったら、地上に戻るチャンスなんて早々ないもの」
「大丈夫だよ〜、怖くないよ〜。ちょーっと可愛くなるだけだからね〜」
「あ、あ……!」
目の前に広がる、裁縫道具。化粧品。
“暗里繭”の恍惚とした、ヒロトを狙うような笑み。
深層の闇の中に、ヒロトの絶叫が消えていった。