産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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47 教えて!シア博士

「ヒロぉ……どこなのです……?」

「おっ」

 

 部屋に戻ると、目を擦りながら起きてきたハカセと鉢合わせる。

 

「ハカセ、起きたの?」

「んぁ……」

 

 うつらうつらとした様子でこちらに寝ぼけ眼を向けるハカセ。

 

 そして、ふらふらとこちらへ近づいてきて……。

 

「ママぁ……」

 

 ぼふ、と胸に飛び込んできた。

 

「って、誰がママだ」

「すぴぃ……」

「寝てるし……」

 

 胸の中で寝息を立てるハカセに、苦笑い。

 

「……ママか」

 

 そう言われても、もうあまり違和感を感じなくなってきてしまっていた。

 

「こんな所にいれば、そりゃそうなるか……」

 

 ダンジョンで寝泊まりすることが出来る場所なんて早々ない。

 

 だから仕方ないとはわかっているんだけど。

 

「早めにここも出ないとな……」

 

 ジンを心配させてしまっているし、いつまでもダンジョンに留まっているわけにもいかない。

 

 それ以前に。

 

「この場所は子供には毒すぎる……」

 

 欲望が渦巻く、ダンジョンの最下層。

 

 ここに子供を置いておくのはあまりにも危険だ。

 

「……」

 

 そして、地上に戻るには“黄金の牙”の協力が必要。

 

 それなら。

 

「直接、交渉しに行こう」

 

 きっとそれが一番話が早いはず。

 

 ……って。

 

「“黄金の牙”の人たちって、昼はどこにいるんだろ……」

 

 夜は暗里繭に遊びに来るのはわかった。

 

 だけど昼は、多分普通の冒険者として過ごしているはずだ。

 

 どこで活動してるのか……。

 

「ヒロ、ちょっといいかしら?」

「? シア?」

 

 顎に手を当てて思案するヒロの元に、シュルシュルと地面に足を擦りながらシアが現れた。

 

「起きてて良かったわ。約束を果たしに来たの」

「約束……?」

「……まさか、忘れたの?」

 

 呆れたように首を振るシア。

 

 すみません、忘れっぽくて。

 

「──あなたの魔性化について、話したいことがあるの」

 

 

「結論から言うと、あなたは“淫魔”の魔性化ではないわ」

 

 図書室に入り、背中で眠っていたハカセをソファに寝かせながら。

 

 開口一番、衝撃の事実。

 

「えっ、違うの?」

「えぇ。まず間違いないわね。理由は主に二つ」

「二つ」

 

 人差し指と中指を立てるシア。

 

 中指を折り、人差し指を立てる。

 

「まず一つは、淫魔種に見られる性格面の変遷……言ってしまうと、淫魔になると思考が冷徹かつ捕食者的になるのよ。モンスターの思考に近づいて、人の心がなくなるって言えばいいかしら。ちょうどユウナみたいな感じよ」

「……ユウナってそんな感じだったっけ?」

「何も知らないあなたを連れてきて、事情も説明せずここで働かせるような人間よ。ああいう仕事は嫌がる子だって多いのにね。人の心が残ってると思う?」

「……やっぱり、あれっておかしかったんだ」

「当たり前でしょ」

 

 吐き捨てるように言うシア。

 

 その目には、隠しきれない嫌悪感が滲み出ていた。

 

「昨日の一件でわかったでしょ? ここの連中はみんな価値観が終わってるのよ。欲望に忠実すぎるというか……知性のかけらも無い。人を騙しても、それを省みることすらしないの」

「い、言い過ぎでは……」

「いいえ。客観的な事実よ。魔性化のことがなくたって、あいつらが地上で生きていくのは難しいでしょうね。常識が無さすぎる」

「う、ううん……」

 

 脳裏に浮かぶのは。

 

 酒に酔っ払い、イケメンに侍らせて顔を赤らめるユウナ。

 

 事あるごとにヒロトにセクハラをかましてくるイトナ。

 

 ……否定の材料がないなぁ。

 

「シ、シズクちゃんは? あの子はいい子だったじゃん?」

「彼女はユウナの言いなりよ。主体性がないから、誰かの命令に従って生きてるの。自分の悪を自覚していない分、他の連中よりタチが悪い。私はああいう女が一番嫌いね」

 

 めちゃくちゃ言うな、この子……。

 

 最初に会った時の険悪な態度も、これだけみんなの事を嫌ってるなら納得だ。

 

「話が脱線したわね。ともかく淫魔になる確率は低い。そして理由二つ目。あなたのその異常な食欲よ」

「異常な食欲……?」

「……駄菓子の袋を開けながら首を傾げられてもね」

 

 あっ、スミマセン。

 

 台所にあったので、つい持ってきてしまいまして。

 

「聞きたいんだけど、あなたって魔性化する前からそんなに食欲旺盛だった?」

「まふぁへっふぉうはふぇうほうへはあっふぁわ」

「飲み込んでから喋って」

「んぐっ……そんなにたくさん食べる方じゃなかったかな。むしろ少食かも」

「それなのに今は魔物の肉すら食べる変態になった、と」

「変態て」

 

 そこまで言うか。

 

「異常な食欲……悪食……確か、上位悪魔系モンスターにそういうのがいたはず。ちょっと待ってて、資料を当たってみるから」

「あ、ありがとう」

 

 本棚の影に消えていくシアを見送る。

 

 初めて会った時が嘘みたいな親切さだ。

 

 これも、信用された結果って言ってもいいのかな……。

 

「ん……ヒロ……?」

「あ、ハカセ」

「ここ……図書室なのです……?」

 

 シアが居なくなると、入れ違いにハカセが目を覚ます。

 

「ハカセ、起きてきてすぐに寝ちゃったんだよ。覚えてる?」

「……覚えてないのです」

 

 まぁ、本当に寝ぼけてたからねぇ。

 

 ヒロトのことを“ママ”って呼んでたのは許してあげよう。

 

「……あっ! そうだ! 思い出したのです!」

 

 眠気眼をゴシゴシと擦っていたハカセだったが、やがてハッとしたように目を見開いた。

 

「ヒロ。……実は今、この屋敷の近くに強力なモンスターの魔力反応があったのです」

「!」

 

 ひそひそと声を顰めて耳打ちするハカセ。

 

「まだ襲いかかってきてはいませんが……いつ攻撃をしてきてもおかしくない状態らしいのです」

「……その情報って」

「はい。ワタのスキルが言っていたのです」

 

 なるほど。

 

 周囲に危険な魔力反応があったらそれを教えてくれるのか。

 

 とことん便利なスキルだ。

 

「わかった。私が外に行って対処してくる。ハカセはシアと一緒にここにいてくれる?」

「ワ、ワタも行くのです!」

 

 立ち上がったヒロトに、慌てたようにソファから降りるハカセ。

 

「……強いモンスターなんでしょ? だったら近くに行くのは危ないよ」

「それはヒロだって同じなのです! ヒロに何かあったら……」

 

 唇を引き結んだハカセの大きな目が潤んでいく。

 

 う、うぅ。その目は反則じゃない……?

 

 と言っても、危険なものは危険だし。どうすれば……。

 

「私が行くわ」

 

 その時、二人の会話に割り入る声。

 

「シア!?」

「ヒロはその子を危ない場所に連れて行けない。そして、その子はヒロに危ない目に遭って欲しくない。両方を解決するなら、私とヒロが一緒に行くのが最善なんじゃないの?」

「き、聞いてたんだ」

「図書室であんな大きい声で話してたらそりゃ響くでしょ。静かにしてっていつも言ってるのに」

「あ、ごめん」

「別にいいわ。他に人なんていないしね」

 

 ふぅ、と息を吐いてシアはハカセの前に立った。

 

「そういうわけでおチビちゃん、あなたはここで待ってなさい。私とヒロで片をつけて来るわ」

「ワ、ワタも一緒に……!」

「あなたにはここの見張りを頼みたいのよ。誰か来たら追っ払ってちょうだい。“本に少しでも傷をつけたら殺す”って伝えてちょうだい」

 

 諦めきれない様子のハカセを制するシア。

 

「ヒロ……」

 

 心配そうな目でヒロトを見つめてくる。

 

「お願いできる? ハカセ」

「……ヒロはいつも無茶ばっかりなのです」

「ごめんね」

「なんでヒロが謝るですか……」

 

 ヒロトが連れていく気がないと悟ると、しゅんと項垂れてしまうハカセ。

 

 心が痛む。

 

「安心しなさい、おチビちゃん。私がいるんだし、ヒロはその私に勝った冒険者でもある。どんなモンスターでも負けないわ」

「……ヒロ、一人で大丈夫なのですか?」

「私も行くわ」

「大丈夫だよ、ハカセ。私は一人でも強いから」

「私も行くんだけど」

 

 心配そうなハカセの頭を撫でる。

 

「絶対、帰ってくるよ」

「……約束なのです」

 

 二人で抱き合い、再会の約束をする。

 

「……私も行くんだけど……」

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