産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「この辺にいるらしいね」
「……ハァ……ハァ……!」
「……大丈夫?」
「あんた、ちょっと……! 歩くの早くない……!?」
「そうかなぁ」
ハカセの指示通り、モンスターが出没した地点にやってきたヒロトとシア。
しかし、シアは蛇腹……足? を引き摺って、肩で息をしていた。
「ぜぇ、ぜぇ……! 私、ずっと図書室にいるんだから……! 配慮してよね……!」
「着いてきたいって言ったのシアの方じゃん……」
「私は、あなたを助けに来てあげたの……! その私を置き去りとか、どういうつもり……!? ぜぇ、ぜぇ……!」
「まぁ、それは助かったけどさ……」
「じゃあ、感謝しなさいよ……!」
め、面倒くせぇ。
置いてくれば良かったかな。
「なんだったら休んでてもいいよ? 私一人でモンスターは倒してくるから」
「……そんなこと認めるわけないじゃない。舐めないでよね」
「ちょっと間があったな……」
休みたい、という欲求が強く出てきたと見たよ。
「仕方ないじゃない! 私、インドア派なの! 迎え撃つのは得意でも自分から出ていくなんて滅多にないんだから!」
「なんで着いてきたんだよ……」
今の所、いてもいなくても戦力的に変わらなさそうなんだけど。
「だからそれは、あなたを守るためで……」
「“変身”」
「!」
シアが気まずそうに髪を弄る中。
ヒロトは衣装を身につけて“変身”した。
「もういるね。こっちを見てる」
身を隠しながらも、僅かに向けてきたこちらに対する敵意。
それを敏感に察知したヒロトは、すぐさま変身して戦闘態勢を整えた。
「……ヒロ、あなた」
「なに?」
「あの名乗りみたいなの、上げなくていいの? キラメキがどうのって言ってたやつ……」
「……」
……。
「私と戦った時は派手にやってたじゃない。アレは何か意味があるんじゃないの?」
「……あ、あれはあの時限定というか……いつもやってるわけじゃないというか……」
あの時は、スターにやれって言われただけだ。
そうした方が強くなれるからって……。
今思えば、まさかアレ大嘘だったりするのか?
「名乗りを上げた方が強くなるんだったら、やった方がいいんじゃない?」
「い、いや。今は別にそこまでする必要ないっていうか……!」
「ちょっと。油断は禁物よ? 相手はどんなモンスターかわからないんだから。最善は尽くすべきじゃない?」
「な、名乗っただけで強くなるなんてあるの……?」
「私に聞かれても知らないわよ……でも、魔法も詠唱や陣といった儀式をしっかりやった方が威力が上がる傾向が多いし、そういうことはあるんじゃないかしら」
……やれと?
“アレ”をやれと??
……。
「……あ、あなたの心にキラめいて。プリムノヴァ、さん、じょう」
「……」
「……」
……。
「シュウウゥゥゥ……!」
「あっ! モンスター出てきた! モンスター出てきたよシア!!」
「……えっ、何も起きてないけど」
「うるさい」
名乗りなんか知るか。
二度とやってやらん。
「……で、君はどういうモンスターなのかな」
「シュウウゥゥ!!」
「タコ……?」
姿を現したのは、灰色の空飛ぶタコだった。
敵意を露わにしてはいるが、それほど強い魔力反応は感じない……。
「……!? ヒロ! そいつから離れなさい!」
「!」
「シュウウゥゥゥ!!」
シアの叫び声に、反射的に体が跳ね上がる。
地面を蹴り、白タコから距離を取った瞬間。
ブシュウウウウウ!!
「うわ!?」
白タコの口から、謎の白い液体が大量に吹き出した。
それはまさにホースから水が飛び出すような勢いで、ヒロトは体を逸らしてその体液をかわした。
その結果、白液はヒロトの背にある暗黒の森の大樹に襲いかかり……。
「うへぇ……」
その幹を、ドロドロに溶かしていた。
「避けてなかったらヤバかったぁ……!」
「あれは“アシッドオクト”。体内で強力な酸性の毒……“蛸酸”を生成しているモンスターよ」
「た、たこさん……」
そ、そんな激ヤバなタコモンスターがいたとは。
強力にも程があるだろう。
「いい? 接近戦は禁物よ。至近距離であれをまともに喰らえば骨も残らないわ。基本的に一撃死と思うべきね」
「コワ……」
「逆に言えば……酸の射程範囲外から攻撃を加えれば、決して怖くない相手よ」
そう言って、シアが周囲にさまざまな魔法を浮かべる。
炎の槍。氷の矢。土の杭。風の刃。
「“オール・フォー”!!」
四属性の魔法による同時攻撃。
卓越した魔法の才能により放たれた多属性魔法攻撃がアシッドオクトに襲いかかる。
「シュウゥッ!?」
「なるほど。弱点は“氷”ね。体内成分のほとんどが水分だから、氷結の影響を受けやすいみたい。得意分野だわ」
「おぉ、すごい!」
同時に当てた四属性の魔法。それぞれの効き目を見て瞬時にアシッドオクトの弱点を看破するシア。
かっこいい。魔法使いの戦いって感じだ。
“いっぱい魔力込めて魔法撃てば大体死ぬくね?”って感じの運用しかできないヒロトとは違う。
「ふふん、当たり前でしょう」
ストレートなヒロトの褒め言葉に、口の端を吊り上げてにっこりと笑うシア。
あ、調子乗ってる。
「魔法というのはね、究極的には数学の公式と同じなの。パターンと定型の組み合わせでしかないわ。魔法に対する充分な知識さえあれば、どんなモンスターにだって遅れを取ることは」
「ブシュッ」
「シア!?」
得意げに解説するシアの顔面に、アシッドオクトが口内で圧縮させた体液を矢のように噴射する。
そして、シアの顔面が体液で覆われた。
「シア! すぐに回復……って」
「あまり舐めないでよ。直撃してはいないわ」
「だ、大丈夫……?」
「この通り」
あわやシアの頭部が溶け落ちるかと思われたが。
シアの顔にかかったと思われた液体は、その周囲で空中に留まっていた。
まるで時が止まったかのように。
「……“固定”のスキル!」
「そうよ」
空中に散布された酸に触れないように、シアが潜り抜けて酸から離れた。
そして、スキルが解かれた瞬間酸は元の運動能力を取り戻し彼方へ飛んでいく。
よ、良かった……いや、良くないけど……。
「それにしても、酸を圧縮させて、射程距離を伸ばした……? モンスターがそんな器用な真似を……」
「考察はあと! 氷属性が弱点なんでしょ? 私も手伝う!」
「えぇ」
“プリマスターロッド”を掲げて、黒色のドレスに変化する衣装。
……予想はしてたけど、こっちもハイレグ露出衣装なのは変わんないんだなぁ。
「“アイシクルレーザー”!」
シアが手に持つ魔導書から迸る“氷の稲妻”が迸る。
「ブシュッ!」
しかし黙ってやられるアシッドオクトでもないようだ。
触手が唸り、魔法を放ち無防備な状態のシアに襲いかかり──。
「マジカルはたきおとし」
「──」
ことごとく、シアの前に立った私の丁寧なビンタで叩き落とされた。
氷の稲妻がアシッドオクトの周囲を包み込み、体表に霜が降る。
アシッドオクトの動きが、氷に包まれどんどんと鈍くなり……。
「……」
ついに動きを止め、ふよふよと宙を漂っていたアシッドオクトは。
ゴト、という重い音を立てて地面に落ちた。
「よしっ、やったねシア!」
「……」
「……シア?」
動きを止めたアシッドオクトに歓声を上げ、シアと喜びを分かち合おうとしたヒロトは首を傾げる。
顎に手を当て、考えるような仕草をしているシアに。
「……何でもないわ。とにかくモンスターにトドメを刺しましょう」
「あ、うん」
首を振り、アシッドオクトに近づいていくシア
ヒロトは胸中の疑問を一旦胸に留めて、彼女の後を着いて行く。
モンスターは凍らせただけだ。今にも目覚めるかもしれない。
心の中にしこりのようなものを残しながらも、ヒロトは地面に落ちたアシッドオクトの元に近づき。
その疑問の原因が何であるかを理解した。
「これは……」
「えっ」
そこに転がっていたのは、凍ったアシッドオクタ……ではなく。
髪が灰色のタコの触手のような形をした、一人の女の子だった。