産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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49 タコちゃんガール

「“魔性化”ね」

 

 モンスターが倒れていたはずの場所に、凍りついた状態で倒れていた少女。

 

 彼女をヒロトたちは屋敷の中にある“医務室”へと運び込んだ。

 

 そして、簡素な服を着せられベッドに寝転がるその外見的特徴と、直前直後の状況からシアはそう断定した。

 

「やっぱりそうなの?」

「えぇ。“アシッドオクト”の魔性化に感染した子よ。髪に吸盤の特徴が出ているでしょう? それにこの子、骨格がないのよ」

「骨格がない?」

「もっと言えば骨そのものがないのね。見た目は人間らしい造形だけど、実際は軟体生物に近いわ」

 

 ベッドに寝転がる女の子は、特徴的な髪以外は人間の少女とそれほど違いがわからない。

 

 しかし、腕を触ってみると確かに骨の感触はなく、それこそタコの触手を触っているような掴みどころのない感触が返ってきた。

 

 ヒロトも生きているタコを触った経験はないけど。

 

「スライム娘、クモ娘、ラミア娘ときてタコ娘か……」

「アホ娘とデカ娘を忘れてるわよ」

「どっちがどっち?」

 

 多分、ヒロトとユウナのことを言っているんだろうけど。

 

 共通点が多くて絞り切れない。

 

「それにしてもこの子、今はともかくさっきまで完全にモンスター化してたよね? どうして今は人間っぽくなってるの?」

「症状が緩和された、と見るべきね。完全にモンスター化しているように見えても、戦闘で弱って“魔性化”が後退することがあるのよ」

「へぇ……あ。ってことは、前にカナトが言ってた私の“魔性化を止める別の方法”って」

「よく気づいたわね。そう、あなたをなんらかの手段で弱体化させて、魔性化の進行を遅らせる……多分そのセンで考えてたんじゃないかしら」

「なーる」

 

 “魔性化”は体が弱ると症状が後退することがある、と。

 

 覚えておこう。

 

「……で、この子どうするの?」

「とりあえずは、目覚めるまでここで安静しておくしかないでしょうね。いきなり暴れ出しても困るから、見張りをつけて……って、あら?」

「──」

「その必要もないみたいね」

「お、目覚ました?」

 

 話しているうちに、タコ娘ちゃんが身じろぎをして、パチリと目を開けた。

 

 不思議な目だった。見ていると吸い込まれそうな、何を考えているかわからない瞳。

 

「……」

 

 体をのそりと起こしたタコ娘ちゃんが、ゆっくりと辺りを見回して。

 

 ヒロトとシアを視界に収める。

 

「初めまして、タコちゃん。ここは“暗里繭”。あなたの名前を聞かせてくれる?」

「……」

「シア、名前を聞くならまず自分からじゃない? タコちゃん、私の名前はヒロだよ。こっちはシア」

 

 シアに向けられていたタコ娘ちゃんの視線がヒロトに向く。

 

「……」

 

 タコ娘ちゃんは何も喋らず、じぃっとヒロトを見つめ続けていた。

 

「……もしかして、言葉がわからないとか?」

「あるいは忘れてしまったか……あり得ることよ。魔性化の影響は脳にも及ぶもの。言語野にまで症状が及んでいるなら口が聞けなくなっていることもあり得る」

「そんな……」

 

 シアから聞かされた可能性に眉を顰める。

 

 ……今更だけど、魔性化ってそんなに恐ろしいものだったんだ。

 

 まぁ、人間の体がモンスターに作り替えられるんだから、そういうことも起きるのは当たり前かもしれないけど。

 

「当たり前、で済ませていいことじゃないな……」

「……」

 

 この子もまた、望んで魔性化したわけではないはずだ。

 

 知らず知らずの内に毒で蝕まれ、何も知らないうちにモンスターになって。

 

 そして、ヒロトたちに殺されかけた。モンスターとして。

 

「ダンジョンの悪意……」

 

 こんな言葉がある。

 

 ダンジョンに潜り、その魅力に取り憑かれた冒険者は……必ず悲惨な末路を迎える。

 

 そして、そんな悲劇もダンジョンの闇に隠されて、人の目に映ることはない。

 

 結果、ダンジョンの煌びやかな面だけが人を惹きつけるのだと。

 

「……」

 

 ぼーっと、何も考えていないようにヒロトを見つめる視線。

 

 彼女は運良く人の姿を取り戻して、こうしてヒロト達に保護された。

 

 でも、そうはならずモンスターの姿のままだったら、きっとヒロトは迷いなく彼女を殺していたと思う。

 

 人を殺したとすら思わず、モンスターを殺したとしか思わない。

 

 誰もこの子のことを気にかけない。

 

「私が殺したモンスターの中にも……そういう子がいたのかな」

 

 “魔性化”というものがあると知ってから、考えないようにしてきた思考。

 

 ヒロトは今まで、知らず知らずのうちに人を殺していたのではないかと。

 

 目の前の彼女を見て、蓋を閉じていた可能性が蘇ってきた。

 

「……例えそうだとしても、あなたに出来ることなんて何もないわよ」

 

 そんな落ち込んだヒロとの言葉に、ぶっきらぼうに答えるシア。

 

「元は人間だとしても、今は人に危害を加えるモンスター。放置すれば被害は増える。倒せる人間が倒すことを、間違ってるなんて誰にも言わせないわ」

「……」

「絶対にね」

 

 弱気なヒロトに、強く言い切るシア。

 

 その言葉には、シアにとって絶対に譲れない何かがあると感じさせた。

 

「だからね、ヒロ。彼女のことも……もしあなたが殺すべきと思うなら、私は責めないわよ」

「……え?」

「というより、私はそうすべきだと思うけどね。言葉が通じるならともかく、何を考えているかわからないこの子を置いておくのは危険だわ」

「ちょ、ちょっと待って」

 

 シアが突然言い出したことに、頭の理解が追いつかず思わず制止する。

 

「……この子を殺すって言ったの? そうするべきって?」

「えぇ。少なくとも、もし少しでも敵意を見せたら、私は即座にそうするつもりよ」

「ちょ、ちょっと待って!? この子はまだ何も──」

「してない。とでも言うつもり? たった今、襲われたばかりなのに?」

「!」

 

 シアから向けられる冷たい視線に、思わず言葉を飲み込む。

 

「今は何も覚えていないような素振りを見せているけれど、そいつは明確に私たちを敵視して、確実に殺す気で襲ってきたわ。難なく対処できたけど、私たちのどちらかに被害が及んでも不思議じゃなかった」

「それは……」

「今こうして、その子が無事なのは私たちの……いいえ、あなたの温情の結果でしかないわ。あなたが保護して連れて行くべきと言ったから、私は従っただけ」

「じゃ、じゃあ」

 

 もしかして、シアはあの時。

 

 人間だってわかっていながら、この子を殺してたかもしれないっていうのか。

 

「あ、“暗里繭”はこういう子を受け入れる場所じゃないの?」

「受け入れるのは、あくまである程度の協調性を持っていることが大前提。殺そうとしてくる相手をボロボロになりながら保護している余裕なんてないの」

 

 ……そうか。

 

 決してユウナ達も慈善事業でやっているわけじゃない。あくまでここは、行き場所がない者が“望んだ”時だけ受け入れる施設。

 

「ボランティアでも、仲良しごっこでも、家族でもないの……私たちはあくまで“協力関係”にあるだけ。爆弾を抱えている余裕なんて、ないのよ」

「……」

 

 それじゃあ。

 

「この子は……どうするの……?」

「このまま、口も聞けない状態なら……当然、彼女に私たちへの敵意や憎悪があっても気づけない。残念だけど、出て行ってもらうことに」

「きゃ〜! かわいい!! うちの子になりなさい!!」

 

 シアが冷たい目で、そう言い放った時。

 

 バン、と突然医務室の扉が開かれてユウナが飛び込んできた。

 

「ヒロちゃん、シア! よく連れてきてくれたわ! こういう不思議ちゃん系って今まで居なかったのよ〜! お店に幅が出るわ〜!!」

「「……」」

 

 部屋に飛び込んできたユウナは、ベッドで物言わぬ人形のようになっているタコ娘ちゃんに飛びつき、すりすりと頬を擦り付けた。

 

 ヒロトが無言でシアに視線を送ると。

 

「……チッ」

 

 顔を逸らしたシアが、小さく舌打ちした。

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