産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「そもそも、前提として」
ヒカルくんは言いながら、一枚の画用紙をヒロトの前に広げた。
中心に描かれているのは、フリル付きドレスを着た女の子……まぁ言うまでもなく、プリムノヴァのヒロトだろう。
「プリムノヴァの衣装は、全てヒロの体内魔力で構成されています。変身と同時に、ブローチ内部に記憶されているドレスの設計図通りにヒロの体から魔力を引き出し、装着します。ここまではいいですか?」
「う、うん」
これは、初耳ではあるけど何となくわかっていたことだ。
そもそも、最初にヒロが変身する時は元々“魔法少女のドレス”という別個の装備品を使っていた。
だけど、“スキル進化”の時にドレスはスキルに統合されて、いつでもどこでも装着可能になった、という認識。
そして、元々“性転換”だったヒロトのスキルは“
「この時、自動的に生成されるドレスですが……ヒロ、これは何をモデルに構成されるか知っていますか?」
「何をモデルに……?」
魔法少女のドレスのモデル。
「……考えたことなかったかも。モデルがあるの?」
「あるはずです。恐らくは、ヒロの頭の中に」
「頭の中……」
両手を頭に置き、指先で叩く。
コンコン。
とても軽い音がした。
「誰が頭空っぽやねん」
「そうではなく。多分ですが、ヒロも昔アニメで魔法少女を見たことがあるのではないでしょうか?」
「私が?」
「はい。具体的には、毎週日曜に配信していて、1年ごとに内容が変わるシリーズモノとか」
「あー」
確かに、子供の頃見たことあった。
かなり大昔……それこそ、何百年という単位で続いている超長寿アニメなんだとか。
女の子向けと思って、そこまで熱心に見ていたわけではないけど。
「なるほど……確かに。今の私ってアレになってるのか……」
言われてみれば腑に落ちた。
“魔法”少女なのに、ヒロトの中ではこのスタイルになった以上は拳で戦うべきだというイメージがどこかにあった。
あの時見たアニメがそうだったから、そのイメージに引っ張られてるんだ。
「やっぱりそうでしたか! いやー、あのシリーズは本当に素晴らしいですよ! ずっと続いているのに常に絵柄が変わり続けるから、古臭さを感じないんですよねー。というのも、実はあのシリーズは制作体制が非常に特殊でして。作画監督を務めている方に至ってはもう百年以上……」
「わ、わかった。それで、私の衣装がアニメから来てるのはわかったけど、それで?」
「あ……えっとですね、要するにその脳内イメージを更新すれば、ヒロさんは自身の衣装をカスタマイズできるはずなんです」
「カスタマイズ……」
脳内イメージを更新?
「む、難しい……」
「プリムノヴァの変身のキモは、セルフイメージの具現化にあります。だから、頭の中にある魔法少女のイメージを強くして上書きすれば、新しい能力を得られるということですね」
「上書きって、どうやって?」
「まさにそこです」
ヒカルくんが興奮気味に人差し指を立てて、ずずいっと迫ってきた。
凄い迫力に、若干体を引く。
「ヒロさん、今から僕と“アニメ鑑賞”しませんか?」
「……あにめかんしょう?」
そして、飛び出した言葉の脈絡のなさと。
「空を飛ぶ魔法少女。その映像を見れば、きっとヒロも飛べるようになります!」
発想の突飛のなさに。
ヒロトは首を捻ったのだった。
*
『そこまでよ! 怪人ワルガール! 今日こそはあなたを倒す!』
『ウフフ♡ プリムノヴァ! 今日こそはあなたのハートをウソとゼツボウで染め上げてあげるワル!』
そんなこんなで。
ヒロトはヒカルくんと一緒に、“戦闘少女プリムノヴァ”の鑑賞会をすることになった。
「あ! このシーンはですね! 後々に伏線となっていたことがわかるので今解説してしまうのはネタバレなんですが、ヒントを出すとワルガールの使う魔法に注目してもらいたくて! どこかで見たと思いませんか? ね? ね?」
……隣に先の展開をネタバレしてくるタイプの強火ファンを据えて。
「ヒカルくん」
「はい!」
「集中したいから、ちょっとだけ静かにしてもらえる?」
「あ! わかりました!」
笑顔でこくんと頷くヒカルくん。
うん、ヒカルくんがこのアニメが大好きなのはわかった……というか、知ってた。
実際、面白い。シンプルなストーリーの勧善懲悪モノだけど、登場キャラがみんな個性的で魅力的だ。
『私の正体……あなたにわかるかしら……?』
『ま、まさかあなたは……!?』
「く、くる! 鳥肌注意です!」
だからこそ、隣のネタバレ魔のせいで話に集中できないのが非常に困る。
肝心の魔法少女の変身シーンも隣でヒカルくんが騒ぎまくるせいでそれしか印象に残らない。本末転倒だ。
どうすっかなぁ。
『イーッカッカッカ! 水質の変化の影響で棲家を追われたイカたちの恨みを喰らうゲソー!!』
『きゃー!!』
……うん?
「うわ!?」
画面の中の魔法少女が、イカ型の怪人と戦い始めたシーンに移ると同時に。
「イカ!?」
脇腹と胸部に違和感を感じて見下ろすと、なんとイカの触手がヒロトの体に絡みついていた。
「……」
「ってなんだ、タコちゃんか」
「あれ? ヒロ。この子って確か……」
「タコちゃんだよ。例の新しい仲間」
しかしそれはイカではなく、タコの触手。
いつの間にか部屋の中に入っていた、タコ娘ちゃんがヒロトの体に触手を伸ばしてきていたのだった。
「どうしたの? お腹すいた?」
「……」
首を横に振る。
「うん? じゃあどうしたんだろ……」
「……ヒロ。もしかしてですが、この子もアニメを見たいのではないですか?」
「え?」
言葉を喋らないタコちゃんが何を考えているのか、読み取りに苦労しているヒロトに対して。
そう答えたヒカルくんに、タコちゃんはYESとばかりに触手をうならせて……。
「タ、タコちゃん……?」
「……」
にゅるにゅるにゅる、とヒロトの体にタコ触手が巻き付いていく。
『は、離してっ!』
『イーッカッカッカ! 無敵のプリムノヴァも、こうなってはホネぬきというやつでゲソ〜! ナンタイ生物にしてやるゲソ〜!』
『う、ぐぅっ……!?』
アニメの中で、プリムノヴァがイカ怪人の触手に襲われるのに合わせ。
「……」
じーっとその画面を凝視するタコちゃんの触手がどんどんヒロトの体に絡みついていく。
「ヒ、ヒロ。止めましょうか……?」
「う、うーん……でもこれ無理に引き剥がすと怪我しちゃうんじゃ……」
ヒロトの体に絡みつく触手は、吸盤が肌にピッタリと張り付いて簡単には引き剥がせそうにない。
タコちゃんはアニメを目を輝かせながら見ていて、離してと言っても聞いてくれなさそうな雰囲気。
かと言って無理に引きちぎって怪我をさせてしまうのはなぁ。
……っていうかこのアニメ、ちょっと触手シーン長すぎじゃない!?
こんなの子供に見せちゃダメだろ!!
「タ、タコちゃん? そろそろ離してくれると……」
いい加減、触手の動きがいよいよ怪しくなってきたのでそろそろ抜け出さないとマズいということでタコちゃんに声をかけたところ。
──シュウゥゥゥ。
「シュー……?」
ヒロトの体の随所から白煙が上がると同時に、何かが解けるような音が聞こえてきて……。
って!?
「蛸酸! やばい蛸酸出てる!!」
「は、剥がします! ……って、マズい触れない!?」
「わぁーっ!?」
シュウシュウ、と音を立てて触手の隙間から白煙が上がり。
「服が!」
ヒロトの服が酸により溶かされていく。
ぽと、ぽとと布切れとなって剥がれていく、せっかくイトナに仕立ててもらった衣服。
「ヒロ!? 大丈夫ですか!?」
「大丈なわけあるかぁ!」
「へ、変身です! プリムノヴァの衣装なら酸でも溶けません!」
な、なるほど!
「“変身”!」
「すぐに人呼んできます!」
「は、早めにね!」
二人揃って大慌てしながら。
やがてやってきたユウナに抱きしめられ、タコちゃんはヒロトの体から触手を離したのだった。
「……あなたって、この手のアクシデントに遭わないと死ぬ体質なの?」
地面に細切れとなった下着類を見ながら呆れるシア。
……最近、ちょっとそうかもしれないって思い始めてるよ。