産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「おー」
「やりましたねプリムノヴァ!」
「うん。触手責めされた甲斐があったよ」
地上からヒロトを見上げるヒカルくんに、手を振って“空”から応じる。
あれから数日後、アニメ鑑賞の甲斐もあってかヒロトは変身時、背中から白い翼を生やして空を飛べるようになった。
「“プリムノヴァ・エンジェル”……いや、“プリムノヴァ・ウィングロード”……?」
「普通に飛行形態でいいんじゃないかな」
ヒロトの新たな能力名を考察し出すヒカルくんを制しながら、ヒロトはゆっくりと地上に降りてくる。
「興味深いわね。翼を出しているけど、揚力で浮き上がっているわけではない……魔力的に浮遊しているのかしら? だとすれば、独立した一個のスキルとしてすら成立する能力よ。あなたのスキル、一体いくつ副次効果があるの?」
「う、うーん、どうかな……」
魔法使いらしく分析しているシアに、首を捻って言葉を濁す。
これで、もし
あんまり見せないようにしてるけど。
「確か、“回復魔法”も使えるのよね?」
「うん。“ブラン”にフォームチェンジすればね」
「ちょっと一回やってみせてくれない?」
「? いいけど……」
シャン、と光に包まれて純白のドレスに身を包む。
「……驚いた。魔力の波長がまるで変わっているわ。確かに回復魔法に適性がある。どういう理屈……?」
な、なんかシアが眉間に皺を寄せながらブツブツ言い始めてしまった。
ペタペタとドレスに触って、なんだか魔力を流して調べているようだ。
「……
「あっ、やっぱりそうなんだ」
制限時間。
今は30分に伸びたけど……最初は10分しかなかった。
これがあるから、ヒロトは短期決戦で敵を倒せなければ負けてしまうのだ。
「これはあなたの明確な弱点よ。敵が正面から挑んできてくれる場合はいいけど、もしズル賢い相手なら、逃げ回って付かず離れず。変身が解けた瞬間に襲えば倒せてしまうわけだから」
「そうなんだよねー……」
ヒロトもずっとそれを警戒している。
幸い、そういう遅延戦法をしてくる敵にはまだ出会ってないけど。
もし周囲からの助けも望めない状況でそんな状況に陥ったら、きっとヒロトは負けるだろう。
「だけど……その弱点、もしかしたら補えるかもしれないわよ」
「え?」
「あなたの“魔性化”。モデルがわかったわ」
「本当!?」
ついにか!
「結局、“淫魔”じゃなかったんだよね?」
「えぇ。結論から言うと……淫魔と同じ悪魔種。だけどより上位の種族ね」
「上位の種族……」
シアが「それが」と口を開く。
「“メルビレイ”よ」
*
メルビレイ。
“深層”以下に棲まう水棲の上位モンスターであり、その姿は“水龍”とでも呼ぶべき、東洋龍のようだと伝わっている。
この種族は雌雄で姿形と名前が変わる。
メルビレイというのは雌の名称であり、雄は“リヴァイアサン”と言う。
こちらの方がより有名で、龍に近い造形で体格も大きく、強力とされる。
逆に、メルビレイは龍とは言われるがどちらかと言うと蛇や鯨、あるいは人魚のようでもあるとなかなか想像し難い外見をしているらしい。
ただでさえ見ることが少ない希少モンスターのリヴァイアサンと比べても、メルビレイの方は目撃証言が皆無と言っていい。
それが姿に関するハッキリしない証言を生んでいる。
「メルビレイは殆ど情報がないモンスターよ。リヴァイアサンと同種族の雌ということ以外、ほとんど何もわからない。だけど……」
「だけど?」
「あなたの魔力波長を調べたら、パターンがリヴァイアサンのソレと非常に似通っていることがわかった。少なくとも近縁種のモンスターね」
いつの間にそんな調べ物を……。
「少ないけど、古い書物にいくつかあやふやな証言……いえ、もう伝承と言うべきものだけど、そういうものの中にメルビレイは悪食であるという記述があったの。それこそ、まだ地上にモンスターが跋扈していた時代に船を丸呑みして沈めた、とかね」
「コワ……」
「ともかく、消去法で残ったのがメルビレイだけだったのは確か。その線で考えておいて欲しいわ」
「メルビレイかぁ……」
うーん、なんともマイナーなモンスターになってしまったものだ。
確かに強いは強いんだろうけど、もっとなんか……わかりやすい伝説とかあれば、テンション上がったんだけど。
「そして……こういった悪食や暴食のモンスターには、ある共通した特徴があるのよ」
「特徴?」
「──他のモンスターを喰らい、その魔力を体内に取り込むの」
はぁ、なるほど。
……。
うん?
「えっ、もしかして……モンスターを食べたら、魔力が回復する?」
「おそらくは。そして、理論上は魔力さえ尽きないなら変身時間も伸び続ける……半永久的にね」
「つっっっよ」
なんだそれ?
えっ、じゃあ周りにモンスターがいる限りずっと変身できるってこと?
「最強じゃない?」
「……まぁ、正直に言って、あなたがもし敵だったら私は逃げるわね」
シアが肩をすくめる。
うん、なんというか……我ながらヤバいな。
「とは言っても、無敵とまではいかないでしょうけどね。それこそ魔力の供給源であるモンスターが居なくなったらその手は使えないし、居たとしても、捕食を邪魔されたら回復は出来ない。まぁ、ダンジョンの中にいる限り早々そんな状況にはならないでしょうけど」
「ひゃー」
他人事のように驚いてるけど。
どうやらヒロトは“魔性化”によって、いつのまにかとんでもない強化をされていたらしい。
「そして、これはただの推測なのだけど」
「うん」
「メルビレイは“水棲”のモンスターよ。これから魔性化が進んで、メルビレイの種族特徴が顕著になれば……多分だけど、水中に特化した能力が芽生えると思うのよね」
「あ、確かに」
イトナは糸を生み出して、自在に建物内を移動していた。
シズクちゃんは体を分裂させることが出来るし。
ユウナはなんか、エロいし。
「……あれ? もしかしてシアの“停止”のスキルって?」
「えぇ。私の魔性化、メデューサだから。“石化”とまではいかないけどね」
「おぉ……!」
ただのラミアじゃなく、メデューサだったとは。
なんかこういうのワクワクする!
「じゃあ、私も水中で動けるようになる」
「多分ね。そして今回、あなたは空を飛べるようになった」
あ。
陸、海、空。
もしかして制覇した?
「……“変身”によって爆発的に身体能力が増加し、回復魔法とモンスター捕食による魔力回復で継戦能力も高い。さらに、フィールドを選ばず高い機動力を発揮できる、物理攻撃と魔法攻撃両方を担える冒険者」
シアは腕を組みながら、ここまでで反映したヒロトのスペックを列挙した。
「それが“魔法少女プリムノヴァ”という冒険者の実力、というわけね」
「……なんか、バカみたいだね!」
「本当にね……」
げんなりとしたように息を吐くシア。
「ヒロ、頼むから洗脳系モンスターに意識乗っ取られて敵対するとかやめてよ……? あなた、その手のモンスターに滅法弱そうだから」
「え、そんなのいるの……?」
「……状態異常を防ぐアイテムを用意しておくわ」
うわっ、なんか”ダメだこいつ“みたいな目で見られた!
洗脳なんて、そんなことされるわけ……されるわけ……!
……。
「……お願いしても、いいッスか」
「せめて抵抗する気概くらい見せなさいよ……!!」
ぐりぐりぐり、と頭をシアの拳で攻撃される。
もしそんなことになったら、この痛みを思い出すとしよう。