産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「おめでとうございます! 若!!」
「流石は若です! こんなに綺麗な子捕まえるとは!!」
「しかもデカいし!」
「ぶっちゃけ、俺はその辺のアイドルより断然カワイイと思いますね、ヒロちゃんは」
「わかる」
「式はいつになさいますか?」
「バカッ、まだ早いだろ!」
「いやいや、すぐだろ! 他の男に持ってかれるぞ!?」
「まぁ、こんだけ上玉だとなぁ……」
「しかもデカいし!」
ヒロトとレオンが天幕を潜り、VIPルームから姿を現した途端。
二人を迎えたのは、盛大な拍手と歓声だった。
「すまん、油断した……」
「い、いや。もういいって……」
レオンはひどく落ち込んでいるようで、肩を落としている。
立ちあがろうとして、二人してもつれ込んでソファに押し倒してしまったところを見られてしまったのだ。
そりゃ、あの状態を見れば誰だって誤解する。
い、いや。いいんだけどね? 元々そのつもりだったし??
そう、計算。あれは計算だ。そうに決まってる。
「よぉ若。さっきはお楽しみのところ悪かったな」
「リドル……!」
このリドルという銀髪の獣人に。
レオンがすごい形相でリドルに詰め寄る。
「やってくれたな、貴様」
「こうでもしねぇと、お前はビビって腹決まんねぇだろ? 男なら、一度心に決めた女に逃げ道なんか与えんじゃねぇ」
「ヒロはそういう相手じゃない!」
「じゃあなんだってんだ?」
レオンの言う通り、ヒロは別にレオンの特別な存在でもなんでもない。
まだ付き合うって決まっただけで、結婚なんて見据えてるワケじゃ……。
っていうか、その付き合うってすら嘘だし。
うぅ、なんかすごく罪悪感……。
「若! あれはもう済ませたんですか!?」
ヒロトが微妙な顔をしていると、一人の獣人がやってきてレオンに耳打ちしていた。
どうでもいいけど、レオンって仲間の人には若って呼ばれてるんだ……。
「あれ……とはなんだ?」
「ちょっと、とぼけないでくださいよ! チューっすよ! チュー! 接吻っすよ!」
「あ、あぁ」
僅かに動揺した様子のレオンが、ギクシャクと動いた後、ヒロトに向き直る。
「す、するか……?」
「えっ!?」
まさかそんなキラーパスをされると思っていなかったヒロトは。
“黄金の牙”の面々の期待が込められた視線を前に、顔が熱くなるのを感じながらアタフタして。
テンパったままレオンの耳に顔を近づけた。
「そ、それはまだ恥ずかしいから後でね……?」
「「「うおおおぉぉ!!?」」」
「えぇ!?」
レオンにこっそりと話したはずの内緒話。
だが、小さく囁いたはずの声も、獣人の耳には届いたのか。
周囲で驚愕と歓声の混じった叫び声。
「オイ! オイ嘘だろ若オイ! オイオイオイ!!」
「ヤベェ、めっちゃ若のこと殺したくなってきた!!」
「クソッ……なんで俺はこの人を殴れねぇんだ!!」
「俺いま、めっちゃ巨乳の彼女ほしい気分だわ」
「いや出来たとしてもあのレベルはそういないだろ……」
「対抗できるのユウナちゃんくらいか……? すげぇよな、マジで……」
「おい、あんま見んなよ。若に殺されるぞ」
「いや、俺が若を殺す」
「オイオイオイ」
「死んだわアイツ」
周囲でガヤガヤと、あちこちからヒロトとレオン二人に向けられる好奇の視線。
「ちくしょお! レオン様いかれたぁ!!」
「お相手はやっぱりヒロちゃんかぁ……まぁ、あの子には勝てんわな。逆にあの子以外だったら“は?”って感じ」
「まだ二日目だったよね……? それで“獣王”落としたの?」
「えぐ。天才かよ……j
「でっかいお魚釣ったなー、いいなー、ヒロちゃん……」
その視線は男性からだけでなく、女性からも。
……というか、女性からの視線の方が多い気がする。
思った以上に、レオンを狙っている女の子は多かったみたいだ。
「レオン、すごいね。モテモテじゃん?」
「……ギャグで言ってるのか?」
「えっ」
「いや、天然か。そうか、そうだったな……君はそういう人だったな……」
「???」
勝手に納得されても困るんだけど。
「ともかく、ヒロ。大騒ぎになってしまったからまた後で話そう。そうだな……明日の夜でいいか?」
「あ……わかった。じゃあまた、明日の夜この部屋でいい?」
「ああ」
この状況じゃ、落ち着いた話もできそうにない。
ヒロトとレオンはまた明日の夜会う約束をした。
のだが……。
「ちょっと若! 明日の夜会うって……そりゃどういう意味ですか!!」
「どういうってお前、そりゃ……なぁ?」
「ぐはっ! マジかよ、羨ましすぎる……!」
「若! 明日はお赤飯炊きますんで!」
「レオン様、奪った……ヒロ、許すまじ……」
「「……」」
ま、待ち合わせすら満足にできる状態じゃない。
このままじゃヒロトたちが何かを話すたびに騒ぎになりかねない。
仕方ない。
「私、そろそろ戻るね。色々と後片付けとかあるから……」
「あぁ、そうか……もうそんな時間か」
暗里繭から見える外の景色は、相変わらず暗闇の森だが。
時刻としては、地上ではもうそろそろ太陽が出てくる頃。
それを理由に、ヒロトはこの場を離れることにした。
「……今日は、すまなかった。色々と」
「あはは……うん、大丈夫」
レオンからの謝罪に、苦笑いで返す。
まぁ、全然大丈夫ではないんだけど。
レオンが悪いわけじゃないからなぁ……。
「じゃあ……」
ヒロトは、レオンから離れて歩きながら。
最後に、何を言うかを迷って。
「また明日」
胸元で小さく手を振った。
そんなヒロに、目を見開いたレオンは。
フリーズしたように固まったまま、動かなかった。
だけどそれを、振り向かないヒロトが知る由はなかった。
*
「……」
「おい、若?」
「……」
「おーい? 聞こえてんのかー?」
ヒロがその場からいなくなり。
それに応じて、集まっていた野次馬も解散の雰囲気となったところで。
レオンは一人、最後にヒロの笑顔を向けられた瞬間フリーズしたまま動かなかった。
「リドル」
「おん?」
「俺は今まで……恋愛に関する歌や映画、小説の内容を理解はしていたが、共感は出来なかった」
「はぁ……」
イキナリなんの話だ、と怪訝そうな表情をするリドルに。
レオンはそれがまるで正規の大発見であるかのように言った。
「だが、今この瞬間に全て理解できた。いや、共感できた」
「……」
「恋というのは……凄まじいものだな」
その顔に、リドルはげんなりとした顔をした。
「何周遅れの感想だよ……。冗談キツいぜ」
「し、仕方ないだろう。初めてなんだ」
「20半ばで初恋かよ? “黄金の牙”の団長サマともあろうお方が? おいおい、頼むぜ。ホントに」
やれやれと肩をすくめながらも、しかしリドルは「だが、まぁ」と言って一定の理解を示した。
「今まで一歩すら進めなかったんだ。それが、今日は一歩も二歩も踏み出したと考えれば……まぁ上出来か」
この朴念仁、いやそれ以下の不能野郎に。
恋という感情を教えることができる女性がいたことは、素直に驚きだ。
「で? 若。説明してもらうぜ」
「うん? ……ヒロの魅力か? 今ならいくらでも言える」
「違ぇよ。そりゃ本人に言え。そうじゃなくて……」
そこでリドルは。
ギラリ、とまさに野生の獣の如き眼光を宿した。
「どういう風の吹き回しであんな子を捕まえたんだ? まさか真っ当に口説き落とした……なんて言わねぇよな? それが出来なかったからこんなとこまで来たんだ」
「……」
リドルが詰め寄ると。
レオンはピシリと固まり、頬を硬くして。若干の冷や汗をかきながら。
すっ、と目を逸らした。
「そら見ろ! 目ぇ逸らしやがった! 言え! どんな弱み握って言うこと聞かせたんだ!!」
「よ、弱みなど握ってなどいない。ただ“お願い”しただけだ」
「ほぉ? 若が女に“お願い”ねぇ? そりゃ随分なこった。女と目も合わせられない若がどんな風に“お願い”したのか、ぜひ聞かせていただきたい」
「……言ったら」
「あん?」
「言ったら、怒るだろ……」
「……」
頭をかきながらレオンに詰め寄るリドルに対して。
予想外の言葉が投げかけられ、動きが止まる。
そして、リドルの額に青筋が浮かんだ。
「俺が怒るようなことしたのか!? オイ、勘弁しろよこのコミュ障クソ陰キャ! 尻拭いすんのは俺だぞ!! テメェあの子にまで迷惑かけてるって自覚あんのか!?」
「わ、悪いのは全部俺だ! ヒロはなにも悪くない!」
「じゃあ、はよどんな条件で付き合い出したのか言え!!」
……そうして。
古い付き合いの二人の獣人による言い合いは。
日が昇るまで続いた。