産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「忘れ物はないですか、ヒロ様」
「うん、大丈夫。ありがとうシズクちゃん」
数日後。
ついに旅立ちの日がやってきて、ヒロは暗里繭の前でみんなの顔を一人一人眺めた。
「ヒロちゃん〜……! 今からでも考え直そうよ〜……」
「イトナ……ごめんね。私、やっぱり戻らなきゃ」
「うぅ……私の生きがいがぁ」
イトナは今日この日を迎えるにあたり、昨晩からポロポロと泣いてしまっていた。
せめて、私の服を着ていて欲しいということで、ヒロのふしぎな衣装部屋の中には大量のイトナがデザインしてくれた服と化粧品が詰め込まれた。
貰った服は本当に可愛い。地上に出てから切るのが楽しみだ。
今更だけど、ダンジョンの奥でこれだけコスメやらを充実させるのは地味にすごい努力の賜物な気がしてきた。
イトナって実はすごいのかも。
おっぱい星人ではあるけど。
「ヒロ様、お体にはお気をつけて」
「うん、シズクちゃん。風邪ひかないようにするよ」
次にシズクちゃん。
実は、絡み自体はスイホウちゃんの方が長くて本人とはあまり会話できなかったけど。
どうやら毎晩、スイホウちゃんは本体のシズクちゃんと記憶を共有しているらしいから。
それを加味すると、一番長く話した相手とも言える。
「いえ、ヒロ様。風邪というより……地上の食べ物を食べ尽くさないようにしてください。ヒロ様の食欲は、地上では異次元ですので」
「普通にここでも異常扱いだったけどね〜」
アーアー、キコエナイキコエナイ。
……だって、お腹空いちゃうものはしょうがないし。
「……行くのか、ヒロ」
「カナト……うん、今まで色々、ありがとう」
「……結局、お前にはなんもしてやれなかったな」
寂しそうに笑うカナト。
「そ、そんなことない。カナトは色々助けてくれたよ」
「例えば?」
「……」
思い起こされる。
最初に出会った時のインパクト。
目を逸らす。
「うん、まぁ、そんなこったろうと思ったよ」
「なんかごめん」
「いや、悪いのは俺だからな……」
さめざめと自嘲気味に下がって行くカナト。
なんか悪いことした気分なんだけど……。
ま、まぁいいか。
「ヒロちゃん」
「……ユウナ。まさかまたアレを渡してくる気じゃ……!」
そして最後に、ヒロの前に立ったユウナ。
最初から最後までエロお姉さんという印象だったユウナに、ヒロは警戒して。
「ありがとう」
ふわり、と抱きしめられた。
「……ユウナ?」
「あなたがいてくれたこの1ヶ月間……本当に、楽しかったわ。娘がいたらこんな感じかなって考えちゃった」
「む、娘って……」
「もし、あなたさえ良ければずっとここにいてくれても良かったけど……」
そこで、少し体を話して。
ユウナは寂しそうに笑った。
「ここも、私も……あなたには合わなかったみたいだから」
「!」
その顔には、どこか諦めたような笑顔が張り付いていて。
ヒロは察してしまった。
ユウナは……本当なら、暗里繭の仲間の一人としてずっとヒロにはいて欲しかったのだと。
でも、ヒロが本当の意味ではここに馴染めていないこともわかっていた。
「シアと、何かあったのよね?」
「あ……」
「でも大丈夫。シアはきっとあなたのことが好きよ。今は少し混乱してしまっているだけ。きっと、時間が経ったら……」
そこでユウナは。
ぐっとヒロの耳に顔を近づけた。
「あなたの本当の姿のことも、わかってくれるはず」
「!?」
ビクッと肩が跳ねる。
まさか、ユウナはヒロの本当の性別を……?
「さぁ、行ってらっしゃい、ヒロ」
だけどその疑問の答えを知ることもなく。
ユウナはいつものように艶然と笑った。
イトナ、シズク、カナト、ユウナ。
みんながそれぞれの笑顔で見送ってくれていた。
「……じゃあ、行ってくる!」
ヒロは、そんなみんなの姿を胸に。
力強く頷いたのだった。
*
「ヒロ! 遅くなりました!」
「あっ、ヒカルくん……って何それ!?」
「すいません、荷物が多くなってしまって……」
忘れ物の確認をしながら、残りのメンバーが揃うのを待っていると。
謎の多脚メカを引き連れたヒカルくんが現れた。
「最近、ずっと部屋に篭ってると思ったら……もしかしてこの子を作ってたの?」
「は、はい。移動型貨物要塞、“プリマレッグ”です。本来、プリムノヴァの戦闘補助用途として開発していたのですが、急遽ここを出るということで、荷車がわりに使おうと改造を」
「……これをヒロが装備しているのは想像がつかないのですよ」
自慢げに“プリマレッグ”を紹介するヒカルくんと、呆れ気味のハカセ。
この二人が無事な状態で、なんとか地上に戻る算段をつけられた。
もうすぐだ。
「……」
「あ、シア……」
「話しかけないで」
「!」
そして、“黄金の牙”の面々に混じって。
長旅用の装備で武装したシアを見かけて話しかけたが。
取り付く島もないとはこのことだった。
「私が付いてきた理由、もう忘れたの? ……あんたの監視のためよ」
「……」
「ほら、早く愛しの恋人の元に行ってあげたら? “ヒロちゃん”」
そんな風に、シアは侮蔑の感情を隠そうともしないまま、人混みに紛れていった。
「……ヒロ、大丈夫なのです?」
ヒロとシアの険悪なやり取りを見て、不安に感じたのかハカセが服の裾を掴んだ。
私は、笑顔を作ってハカセと目線を合わせる。
「大丈夫。ちゃんと仲直りするから」
「……」
「ハカセ?」
「……ヒロ、ワタは」
「よし! そろそろ出発するぞぉ!!」
ハカセが思い詰めたような表情で何かを言いかけ。
それを遮るように、大きな号令がかかった。
ヒロは、ハカセに“あとでね”と言って黄金の牙の中から目当ての人影を探す。
「あっ、いた」
そして、目当ての大男……レオンを見つけると、近づいて行く。
レオンのヒロの気配に気づいたようで、こちらを振り向くと、その仏頂面が僅かに緩んだのがわかった。
「ヒロ、もう準備はできたか?」
「うん。レオンは……大丈夫そうだね」
レオンの装備は、まさに“冒険者”然としたものだった。
使い込まれた装備、重そうな鎧、魔道具と思われるいくつかの小道具に。
魔力のラインが走る武器。“魔装”。
こうした姿を見ると、本当にレオンは冒険者なんだと実感する。
「ヒロ、お前の装備はあの子供が連れてる……クモ?に載ってるのか」
「あ……そ、そうだよ」
「ふむ」
実際には違うが、都合の良い勘違いをしてくれたレオンに頷く。
ヒロのスキルのことは、まぁ、話しても良いのかもしれないが。
その時になってからでも遅くない。
「地上に戻るまでは、2週間ほどかかると思う。道中のモンスターは基本的に俺たちで対処するが……もし流れ弾が飛んできたら、ある程度は自衛してもらうことになる。それで良いか」
「うん、大丈夫」
「良し」
ヒロはこれから“黄金の牙”に同行する期間。
あまり戦わないことになっている。
“黄金の牙”の総意でそうなったと聞くし。
実際、ヒロとしても消耗が少ないのは助かる。
……彼らの前で思いっきりモンスターを捕食するわけにもいかないし。
「よし、じゃあ出発だ。仲間たちに話してきてくれ」
「了解」
ヒロはレオンに背を向け、連れてきたメンバーに声をかけようと近づいていって。
「ど、どうするのです!?」
「今から戻るのは間に合いませんね……」
「……連れて行くしかないんじゃないかしら?」
なにやら、がやがやと騒がしいのに気づいた。
ハカセが慌てて、ヒカルくんが困ったように顎に手を当て、シアはうんざりとしているのがわかる。
「みんな、一体どうし……」
何が起きているのかと。
ヒロは近づいて行って。
「え」
三人に囲まれ、地面にへたり込む。
“それ”を見た。
「にゅ〜」
灰色のうねる触手。
簡素な白シャツに、感情の読めない瞳。
「……タコちゃん?」
言葉少なく、タコの少女がヒロを見て。
“抱っこ”とばかりに腕を広げたのだった。