産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
遅れての投稿になります。
地上への帰還に向けて。
“黄金の牙”を主体とした遠征メンバーが動き出した。
大人数が動く大型ギルドの遠征というのは、基本的にいくつかのチームに分かれて編成される。
前衛、中衛、後衛からなる最低3人以上のチーム。
それが9組。
総勢35名の冒険者が列を為してダンジョンを進んでいく。
今回は、非戦闘員も隊列の中に組み込まれるので、その部分は防御が厚く5人体制。
逆に、全員が高機動力の冒険者で構成されたチームもあり。
レオンチームはその筆頭だ。
長年の経験と阿吽の呼吸、そして何よりも高い実力が要求される。
“黄金の牙”のエリートチーム。
……の、はずなんだけど。
「なんで私も入ってるの?」
「……すまん。“俺以外のチームに入れるのはあり得ない”と言われてしまってな」
そこに何故か、ヒロも配属されることになった。
レオンが気まずそうな顔で髪をかいている。
「そりゃそーだろ。お前の女なのに、お前が一番近くで護ってやらねーでどうする。獣人の男のくせに、そんなこともわからないのか?」
黄金の牙副団長、リドルがさも当然のように言って。レオンの胸を叩く。
「挨拶が遅れたな、ヒロちゃん。俺はリドル。まぁココの副団長みてぇなもんだ。団長が情けないもんでな。苦労させられてるぜ」
「みたいなものではなく、そのものだろう。コイツとは腐れ縁でな……昔からの付き合いだ」
「信じられるか? ヒロちゃん。前団長は俺がレオンと仲が良いからってだけの理由で副団長にしやがったんだぜ。身内贔屓にも程がある」
両手を振ってお手上げのポーズをしながら首を振るリドルさん。
レオンとリドル。二人のやり取りには長年の付き合いを感じさせる気軽さがあった。
「そもそも、“黄金の牙”は閉鎖的すぎるんだよ。余所者に異様に厳しいし、色々と戒律も多い。お堅いんだよなぁ」
「そうなの? そんな気あんまりしなかったけど……」
「そりゃ……まぁ、言っちまうとヒロちゃんは超かわいいし、良い子だったからな。あいつら、気に入られようと必死だったのさ」
「そ、そうだったんだ」
「あと、あんまり男慣れしてなさそうだったからな。“俺でもいけそう”って勘違い野郎が大量発生した。まぁ、結果はこの通りってわけだ。ざまぁねぇ」
リドルはくつくつと笑いながら、後ろ手を組んでスキップでもするに歩いていた。
男慣れしてない、かぁ……。
どちらかと言うと、女の子として扱われることに慣れてないだけだけど……。
「まっ、安心しろよヒロちゃん。別に戦えなくたって問題ねぇ。隊列の中央にいる俺たちのところまでモンスターが押し寄せることなんか滅多にないし、あったとしても若が守ってくれらぁ。ハッ、なんなら俺が守ってやっても──」
「リドル!」
軽口を叩くリドルに。
レオンが叫んだ。
その瞬間、リドルの背後の何もないはずの空間が……“歪んで”、真っ黒な蜥蜴が現れた。
「なっ!?」
突然現れたモンスターに、リドルは不意を突かれ。
鞭のようにしなる尻尾の一撃を……。
「マジカル飛び膝蹴り」
──喰らわなかった。
「イィィッ!!」
クロトカゲの懐に飛び込んだ影が、モンスターを吹き飛ばしたからだ。
レオンではない。レオンが奇襲に気づいたタイミング的にも、距離的にも助太刀は間に合わなかった。
「ヒロちゃん!?」
だから、それをしたのはヒロだ。
反射的にクロトカゲに対して、飛び込んで吹き飛ばした。
「まだ終わってない!」
ヒロを見て驚く二人に、トカゲに対する警戒を促す。
流石の練度で、一瞬の驚きも隙と言えるほどの硬直にはならず、すぐに二人は臨戦体制を整える。
「シィィィィィ……」
そして、殺気を立ち上らせる二人に危機感を感じたのか。
再び体が透明になって行くトカゲ。
「リドル!」
「わかってら!」
それを見た瞬間、レオンが叫んだ。
その叫びが届くより前に、リドルはすでに動いている。
地面に右掌を突いて、目を瞑る。
「──9時の方向! 距離50!」
カッとリドルが目を見開き、叫ぶ。
「むぅ……っ!」
恐らくは、敵の位置を知らせたのだろうその叫び声に、ヒロが反応するより早く。
レオンが腰に下げた、魔力の線が刃に走る手斧を手にとって。
「そこだ」
投げた、のだと思う。恐らくは。
腕の先が一瞬ぶれて見えただけで、投げの動作自体はヒロの目でも捉えきれず。
気づけば、投擲されていた斧が左方向に逃げ去っていたトカゲの後頭部を砕いた。
声もあげず、パタリとうつ伏せに倒れるクロトカゲ。
手斧を構える瞬間、投げる瞬間、当たる瞬間が一瞬のうちに続いた。
恐ろしい早業だった。
「すごい……これが“十冠”……」
最高位の冒険者の技を直接目にしたヒロは、素直に感動していた。
最後のあの動作、もしヒロが“変身”していたとしても捉えきれたか怪しい。
集中すれば、見切ることも出来るのかもしれないが。
少なくとも生身の状態で敵う相手じゃないな。当たり前だけど。
「……ヒロ」
「お疲れ様。今のすごかったねぇ。レオ……」
「今のは、どういうことだ」
「え?」
ヒロはレオンに近づいて至近距離からヒロを怖い目で見つめていた。
小柄なヒロからは、見上げるような大男がこちらを見下ろしている。
「奴の擬態に……気づいていたのか? 俺よりも前に?」
「ちょ、ちょっとレオン? 落ち着──」
「どうやったんだ。教えてくれ、ヒロ」
ガシッと肩を掴まれて、身動きが取れなくなる。
ゴツゴツとした両手が、ヒロの肩を力強く押さえつけていた。
ドクン、ドクンと心臓の鼓動が速くなる。
「ど……どうやったって聞かれても、なんとなくわかったとしか……その、気配が漏れてたから」
「いや、クロトカゲの擬態は非常に高度なものだ。視覚的だけじゃなく、臭いや音……魔力的にもあらゆる感知をすり抜ける。これにどれだけ多くの冒険者がしてやられたかわからないんだ」
レオンは首を振り、必死な様子でヒロに詰め寄る。
そんなレオンの様子に、なぜかヒロの胸にはむかむかとしたものが湧いてきた。
「……私のことより、モンスターのことが気になるの?」
「……?」
なんだろう。
こんな気持ち、あんまり感じたことない。
「どういう……」
「私のことは、恋人なのに心配してくれないの?」
「え……」
レオンは、そんなことを言われるとも思っていなかったのか。
キョトンとして、目を丸くしていた。
「け、怪我をしたのか?」
「してないけど……!」
「じゃあ、大丈夫だろう?」
心底わからない、という風にレオンが首を傾け。
むっとヒロは眦を吊り上げた。
「怪我してなくても! 気遣うフリだけでもしてくれれば……恋人っぽくもなるし…」
「……恋人同士なら、そういう演技も必要ということか」
「〜っ、そういうことじゃ……!」
なんだろう、この気持ち。
言葉が全然、出てこない。
「……レオン。流石にそれはねぇぜ」
「な、なに? リドル。それはどういう……」
ヒロは、自分の感情を抑えられなくなって行くのを感じた。
まずい。
このままじゃ、またこの前みたいに泣き出してしまいそうだ。
「ちょっと、向こう行ってる……」
「! ヒ、ヒロ!」
ヒロは二人に背を向けて。
その場から離れて行った。
……。
「はぁ……」
レオンチームから少し離れた、荷台や運搬係のいる後方にヒロは顔を出していた。
「戻りづらいなぁ」
まだ、“黄金の牙”の中で馴染めてすらいないのに。
初っ端からあんなトラブルを起こしてしまった。
どんな顔をすればいいんだろう……と荷台を見つめながら歩いていると。
「にゅ〜」
「あっ」
その荷台の陰から、ひょっこりと小さな少女が顔を出した。
灰色の触手髪を持つ女の子。
「タコちゃん!」
何故か、タコちゃんが荷台の上に乗っていて。
「にゅ〜」
「……え」
ぐらり、と嫌な音がした。
そして。
「嘘でしょ?」
バランスを崩した、荷台に詰め込まれた食料たちが。
「ス、ストッ──!?」
ガラガラガラ……と。
音を立てて崩れていった。