産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「ひぃん……」
缶詰やらカップ麺やら酒のおつまみやら。
長期遠征には欠かせないたくさんの食品に埋もれながら、ヒロはベソをかいていた。
「にゅ〜」
「……君は気楽で良いね」
そんなヒロを首を傾げて不思議そうに見つめてくるタコ娘ちゃん。
何もわかっていなさそうだが、多分その方が幸せだ。
「んっ……ぬ、抜けない……!」
とりあえず体をこの山から抜こうとして足に力を込めるが、変なふうに積み上がってしまっているのか足元が微動だにしない。
仕方ないので、食料を傷つけるリスクを考えながらも、思い切り体を揺すって抜け出そうと……。
「あ、あの。手を……!」
「え?」
抜け出そうとしたヒロの前に差し出される小さな手。
灰色の毛が生え、長く伸びた爪は獣人の証。
手、腕、肩と視線を移していって。
「君は……」
「あっ、えと……僕なんかの手を握るなんて、その、嫌かもしれないですけど……!」
そこに立っていたのは、いつかヒロが助けた子供の獣人だった。
確か、名前は……。
「……アルト君。全然嫌じゃないよ、ありがとう」
「!? ぼ、ぼぼ、僕の名前を……!?」
アルトくんは顔を真っ赤にして、わたわたと取り乱す。
そして、恥ずかしそうにしながらも手はそのまま差し出してくれていた。
その手を掴んで。力を入れる。
「ふんっ」
「よい、しょ……!」
ズボッと体を山から引き抜いて、ヒロは地面に着地した。
「良かった! 無事に……ッ!?」
アルトくんが笑顔を浮かべようとして。
……不意に前屈みの私の胸に視線が集中し、慌てて後ろを振り向く。
「ご、ごめんなさい! つい……!」
慌てて手を振りながら弁明するアルトくん。
そのとき私は。
なんだか、その後ろ姿を見て。
かわいい、と思ってしまった。
「……私も手伝うよ? 私が崩したような……ものではないけど、まぁ君よりは当事者だし」
「ッ!?」
ヒロは両腕を伸ばし、アルトくんの首に絡めるようにして寄りかかった。
胸が首後ろに密着し、アルトくんの体がビクッと跳ねた。
「え!? ヒロ様!? ダ、ダメです! こんな……!」
「なにがダメなの……?」
「なにが、って……!」
アルトくんが真っ赤になりながらもじもじと内股を擦り付ける。
……なんか、変な気分だ。
気分がふわふわとして。
興奮してる、のかも……?
「アルトくん?」
「は、はい……」
「アルトく〜ん……?」
「えっ」
腕の中でプルプルと震えるアルトくんに、なんだかとても楽しくなってしまったヒロは。
「んむっ!?」
アルトくんの頭を胸の中に抱え込んだ。
「んん、んん〜っ!?」
「見えなくなっちゃったぁ〜」
ヒロは小柄だが、アルトくんはもっと小柄だ。
抱きしめると、ヒロの肉体の中に埋もれてアルトくんは見えなくなってしまった。
「ふぁあ……!?」
ヒロに抱きしめられたアルトくんが、恍惚とした声をあげて脱力する。
「ヒ、ヒロさん!? これ、当たって……!?」
「ん〜?」
「柔らか……あうぅ……!」
胸の中で、アルトくんの顔が真っ赤になったかと思うと、ビクビクッと痙攣して。
次第に、その目から光が失われ……。
「──本性を現したわね」
頭上から、濁流のような水が降り注いだ。
ふわふわとハッキリしない頭でも、それがなんらかの“攻撃”であるとヒロは気づいた。
ヒロはアルトくんを胸に抱きながら、その激流に揉まれて行く。
圧倒的な勢いに流される。まるで、洗濯機に放り込まれて丸洗いされてるような。
「……げほっ、ごほっ!」
そんな感覚がして、いつの間にかヒロは地面に蹲っていた。
鼻に水が入って、激しく咳き込む。
……そんなヒロトの視界に映る地面の影に。
蛇の形をした女の影が落ちる。
「少しは酔いが覚めたかしら?」
「……シア」
「あら……そんな敵対的な目も出来るの? いいじゃない」
ヒロを見下し、嫌悪の表情を隠そうともしないシアが、冷たく見下ろしていた。
*
「……」
「……」
向かい合うヒロとシア。
ヒロは気絶してしまったアルトくんを優しく地面に寝かせた。
二人の間には、まさに一触即発の空気が漂っている。
まるで。
「初めて会った頃みたい。とか思ったのかしら?」
ヒロの思考を先読みしたようにシアが言って。
ハッと鼻で笑った。
「つくづく失敗したわ。あなたのことは、やっぱりあの場で殺しておくべきだったのね。変に情けをかけたせいでこんな面倒なことになるなんて」
「……なんで」
「うん?」
「なんでそんなに、私のことを嫌うの……?」
気づけばヒロは。
自分が頭に思い浮かんだことを、そのまま口に出していた。
聞きたくても聞けなかったその質問を。
「そんなの決まってるでしょ。聞くまでもない」
「……」
「気持ち悪いからよ。男が女のフリをして、あの場所で何食わぬ顔で過ごしていた……その事実がね」
「!」
予想していた答えではあった。
だけど、いざ真正面から言われると……流石に。
「傷つくよ……」
「あら、そう。じゃあ、騙されて傷ついた私の心は誰が癒してくれるの?」
「騙してなんかないよ……!」
「ふざけないで!!」
魂の奥底まで、ビリリと震えるような怒号。
それを発したシアは、肩で息をしていた。
「私たちの中に紛れて! 私たちのこといやらしい目で見てたんでしょう!? 内心“ラッキー”とか思いながら! 最低よあなたは!!」
……。
「ちょっと、言いたいんだけど」
「なに!? 言い訳があるんなら──」
「逆に私って、そういう目で見られる側だったと思うんだけど……」
主にユウナやイトナに。
「……!」
ぱくぱく、と勢いのままにシアが何かを言おうとして。
「……」
“……確かに”という顔で少しクールダウンするシア。
「……だ、だとしてもよ。それであなたが邪な心を抱いていない証明にはならないでしょう」
さっきまでの勢いよりは、少し弱まった気勢で、それでも怒りが収まらない様子のシア。
「そんなの証明しようがなくない……?」
と、ヒロが言うと。
「ふふん」
“かかったわね”とでも言いたげに、シアが唇の端を歪めた。
「え、ナニ……?」
「証明する方法がない……? それが“ある”と言ったら?」
シアが腕を組み、自慢げに言う。
なんだなんだ、一体何が始まるんだ。
「こっちに来なさい」
シアが指をくいくいと曲げて、ダンジョンの奥まった場所に誘われる。
い、行きたくねぇ。
岩場の構造から、あまり外からは見えない場所だ。
そこでヒロは、シアと一対一で向き合う。
そしてシアは口を開いた。
「脱ぎなさい」
……はい?
「なんて?」
「脱ぎなさい。その女の衣を」
「……」
ヒロは自分の服を見下ろす。
服に手をかけた。
「バッ!? 違うわよ! 男に戻りなさいって意味!」
「は? 紛らわし……」
「わかるでしょ普通!?」
わかるかい。
ヒロは国語のテストが得意だったが、それでも読み解けなかったぞ今のは。
若干嫌な予感がしつつ、男の姿になる。
「……やっぱりあなたは、その姿が本当の姿なのね……」
「……まぁね」
バレてしまったものは、もう取り繕いようもない。
素直に認める。
「何よこれ。こんな……ゴツゴツしてて、筋肉が浮き出て……本当に穢らわしい」
「シア?」
男に戻ったヒロトの体を、なぜかぺたぺたと触り始めるシア。
その行動の意味がわからず、疑問の声を上げると。
「──ほぉら。どう?」
「?」
ヒロトの胸に触れたまま、突然シアが胸元を強調するように前屈みになった。
何してんだコイツ。
「う、うっふ〜ん?」
「はぁ」
さらに困惑が深まり、首を傾げるヒロト。
「……」
そして、なぜか同じように困惑げのシア。
「ど、どういうこと……?」
「いやこっちのセリフなんだけど……」
「??」
「???」
二人して頭にハテナを浮かび上がらせる。
いやなんの時間だよ、これ。
「……ええい!」
いつまで経っても変化しない状況に焦れたのか。
シアが声を上げながら、突然抱きついてきた。
胸を押し付けるようにして。
「ほら! どうせこうされたかったんでしょう!? さっさと私に欲情なさい!」
「……えぇ」
まさか、確かめる方法って、これ?
うーん……。
「……シア、言いにくいんだけど」
「な、なに……?」
予想とは違った展開になったのか。
やや不安げな顔をするシアに、ヒロトは言った。
言ってしまった。
「ないものには興奮できないだろ」
……。
シアがギャン泣きした。