産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

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62 ちびっこウルフとえろがり魔女

「ひぃん……」

 

 缶詰やらカップ麺やら酒のおつまみやら。

 

 長期遠征には欠かせないたくさんの食品に埋もれながら、ヒロはベソをかいていた。

 

「にゅ〜」

「……君は気楽で良いね」

 

 そんなヒロを首を傾げて不思議そうに見つめてくるタコ娘ちゃん。

 

 何もわかっていなさそうだが、多分その方が幸せだ。

 

「んっ……ぬ、抜けない……!」

 

 とりあえず体をこの山から抜こうとして足に力を込めるが、変なふうに積み上がってしまっているのか足元が微動だにしない。

 

 仕方ないので、食料を傷つけるリスクを考えながらも、思い切り体を揺すって抜け出そうと……。

 

「あ、あの。手を……!」

「え?」

 

 抜け出そうとしたヒロの前に差し出される小さな手。

 

 灰色の毛が生え、長く伸びた爪は獣人の証。

 

 手、腕、肩と視線を移していって。

 

「君は……」

「あっ、えと……僕なんかの手を握るなんて、その、嫌かもしれないですけど……!」

 

 そこに立っていたのは、いつかヒロが助けた子供の獣人だった。

 

 確か、名前は……。

 

「……アルト君。全然嫌じゃないよ、ありがとう」

「!? ぼ、ぼぼ、僕の名前を……!?」

 

 アルトくんは顔を真っ赤にして、わたわたと取り乱す。

 

 そして、恥ずかしそうにしながらも手はそのまま差し出してくれていた。

 

 その手を掴んで。力を入れる。

 

「ふんっ」

「よい、しょ……!」

 

 ズボッと体を山から引き抜いて、ヒロは地面に着地した。

 

「良かった! 無事に……ッ!?」

 

 アルトくんが笑顔を浮かべようとして。

 

 ……不意に前屈みの私の胸に視線が集中し、慌てて後ろを振り向く。

 

「ご、ごめんなさい! つい……!」

 

 慌てて手を振りながら弁明するアルトくん。

 

 そのとき私は。

 

 なんだか、その後ろ姿を見て。

 

 かわいい、と思ってしまった。

 

「……私も手伝うよ? 私が崩したような……ものではないけど、まぁ君よりは当事者だし」

「ッ!?」

 

 ヒロは両腕を伸ばし、アルトくんの首に絡めるようにして寄りかかった。

 

 胸が首後ろに密着し、アルトくんの体がビクッと跳ねた。

 

「え!? ヒロ様!? ダ、ダメです! こんな……!」

「なにがダメなの……?」

「なにが、って……!」

 

 アルトくんが真っ赤になりながらもじもじと内股を擦り付ける。

 

 ……なんか、変な気分だ。

 

 気分がふわふわとして。

 

 興奮してる、のかも……?

 

「アルトくん?」

「は、はい……」

「アルトく〜ん……?」

「えっ」

 

 腕の中でプルプルと震えるアルトくんに、なんだかとても楽しくなってしまったヒロは。

 

「んむっ!?」

 

 アルトくんの頭を胸の中に抱え込んだ。

 

「んん、んん〜っ!?」

「見えなくなっちゃったぁ〜」

 

 ヒロは小柄だが、アルトくんはもっと小柄だ。

 

 抱きしめると、ヒロの肉体の中に埋もれてアルトくんは見えなくなってしまった。

 

「ふぁあ……!?」

 

 ヒロに抱きしめられたアルトくんが、恍惚とした声をあげて脱力する。

 

「ヒ、ヒロさん!? これ、当たって……!?」

「ん〜?」

「柔らか……あうぅ……!」

 

 胸の中で、アルトくんの顔が真っ赤になったかと思うと、ビクビクッと痙攣して。

 

 次第に、その目から光が失われ……。

 

「──本性を現したわね」

 

 頭上から、濁流のような水が降り注いだ。

 

 ふわふわとハッキリしない頭でも、それがなんらかの“攻撃”であるとヒロは気づいた。

 

 ヒロはアルトくんを胸に抱きながら、その激流に揉まれて行く。

 

 圧倒的な勢いに流される。まるで、洗濯機に放り込まれて丸洗いされてるような。

 

「……げほっ、ごほっ!」

 

 そんな感覚がして、いつの間にかヒロは地面に蹲っていた。

 

 鼻に水が入って、激しく咳き込む。

 

 ……そんなヒロトの視界に映る地面の影に。

 

 蛇の形をした女の影が落ちる。

 

「少しは酔いが覚めたかしら?」

「……シア」

「あら……そんな敵対的な目も出来るの? いいじゃない」

 

 ヒロを見下し、嫌悪の表情を隠そうともしないシアが、冷たく見下ろしていた。

 

 

「……」

「……」

 

 向かい合うヒロとシア。

 

 ヒロは気絶してしまったアルトくんを優しく地面に寝かせた。

 

 二人の間には、まさに一触即発の空気が漂っている。

 

 まるで。

 

「初めて会った頃みたい。とか思ったのかしら?」

 

 ヒロの思考を先読みしたようにシアが言って。

 

 ハッと鼻で笑った。

 

「つくづく失敗したわ。あなたのことは、やっぱりあの場で殺しておくべきだったのね。変に情けをかけたせいでこんな面倒なことになるなんて」

「……なんで」

「うん?」

「なんでそんなに、私のことを嫌うの……?」

 

 気づけばヒロは。

 

 自分が頭に思い浮かんだことを、そのまま口に出していた。

 

 聞きたくても聞けなかったその質問を。

 

「そんなの決まってるでしょ。聞くまでもない」

「……」

「気持ち悪いからよ。男が女のフリをして、あの場所で何食わぬ顔で過ごしていた……その事実がね」

「!」

 

 予想していた答えではあった。

 

 だけど、いざ真正面から言われると……流石に。

 

「傷つくよ……」

「あら、そう。じゃあ、騙されて傷ついた私の心は誰が癒してくれるの?」

「騙してなんかないよ……!」

「ふざけないで!!」

 

 魂の奥底まで、ビリリと震えるような怒号。

 

 それを発したシアは、肩で息をしていた。

 

「私たちの中に紛れて! 私たちのこといやらしい目で見てたんでしょう!? 内心“ラッキー”とか思いながら! 最低よあなたは!!」

 

 ……。

 

「ちょっと、言いたいんだけど」

「なに!? 言い訳があるんなら──」

「逆に私って、そういう目で見られる側だったと思うんだけど……」

 

 主にユウナやイトナに。

 

「……!」

 

 ぱくぱく、と勢いのままにシアが何かを言おうとして。

 

「……」

 

 “……確かに”という顔で少しクールダウンするシア。

 

「……だ、だとしてもよ。それであなたが邪な心を抱いていない証明にはならないでしょう」

 

 さっきまでの勢いよりは、少し弱まった気勢で、それでも怒りが収まらない様子のシア。

 

「そんなの証明しようがなくない……?」

 

 と、ヒロが言うと。

 

「ふふん」

 

 “かかったわね”とでも言いたげに、シアが唇の端を歪めた。

 

「え、ナニ……?」

「証明する方法がない……? それが“ある”と言ったら?」

 

 シアが腕を組み、自慢げに言う。

 

 なんだなんだ、一体何が始まるんだ。

 

「こっちに来なさい」

 

 シアが指をくいくいと曲げて、ダンジョンの奥まった場所に誘われる。

 

 い、行きたくねぇ。

 

 岩場の構造から、あまり外からは見えない場所だ。

 

 そこでヒロは、シアと一対一で向き合う。

 

 そしてシアは口を開いた。

 

「脱ぎなさい」

 

 ……はい?

 

「なんて?」

「脱ぎなさい。その女の衣を」

「……」

 

 ヒロは自分の服を見下ろす。

 

 服に手をかけた。

 

「バッ!? 違うわよ! 男に戻りなさいって意味!」

「は? 紛らわし……」

「わかるでしょ普通!?」

 

 わかるかい。

 

 ヒロは国語のテストが得意だったが、それでも読み解けなかったぞ今のは。

 

 若干嫌な予感がしつつ、男の姿になる。

 

「……やっぱりあなたは、その姿が本当の姿なのね……」

「……まぁね」

 

 バレてしまったものは、もう取り繕いようもない。

 

 素直に認める。

 

「何よこれ。こんな……ゴツゴツしてて、筋肉が浮き出て……本当に穢らわしい」

「シア?」

 

 男に戻ったヒロトの体を、なぜかぺたぺたと触り始めるシア。

 

 その行動の意味がわからず、疑問の声を上げると。

 

「──ほぉら。どう?」

「?」

 

 ヒロトの胸に触れたまま、突然シアが胸元を強調するように前屈みになった。

 

 何してんだコイツ。

 

「う、うっふ〜ん?」

「はぁ」

 

 さらに困惑が深まり、首を傾げるヒロト。

 

「……」

 

 そして、なぜか同じように困惑げのシア。

 

「ど、どういうこと……?」

「いやこっちのセリフなんだけど……」

「??」

「???」

 

 二人して頭にハテナを浮かび上がらせる。

 

 いやなんの時間だよ、これ。

 

「……ええい!」

 

 いつまで経っても変化しない状況に焦れたのか。

 

 シアが声を上げながら、突然抱きついてきた。

 

 胸を押し付けるようにして。

 

「ほら! どうせこうされたかったんでしょう!? さっさと私に欲情なさい!」

「……えぇ」

 

 まさか、確かめる方法って、これ?

 

 うーん……。

 

「……シア、言いにくいんだけど」

「な、なに……?」

 

 予想とは違った展開になったのか。

 

 やや不安げな顔をするシアに、ヒロトは言った。

 

 言ってしまった。

 

「ないものには興奮できないだろ」

 

 ……。

 

 シアがギャン泣きした。

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