産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった   作:ぷに凝

63 / 64
63 これラブコメ?

「私には、触れている相手の感情が読めるのよ」

 

 乱れた髪を整えながら、おすまし顔でそんなことをのたまうシア。

 

「ついさっきまで号泣してたのに」

「あれは! あなたが!! 泣かせたから!!!」

「ごめんて」

 

 そして一瞬でその余裕が崩れる。

 

 ……胸のこと、そんなに地雷だったとは。

 

「あなたにはわからないわよ……! 私の気持ちなんて……! あなたがばるんばるんさせながら私の前を歩くたびに、私がどんな気持ちで……!!」

「ばるんばるんって……」

「しかも! そのあなたが実は男!? は!? 私が男に負けたとでも!? 舐めんなよ!!」

 

 や、やばい。

 

 シアが発狂しちゃった。

 

 まさか、シアがそこまで思い詰めていたなんて……。

 

 ……ん?

 

「……もしかして今日までもの凄く私のこと敵視してたのって、それが理由?」

「違うけど」

「あ、はい」

 

 スンッと真顔になって否定するシア。

 

 違うらしい。

 

 本当に?

 

 ……まぁいっか。

 

「……こほん。ともかく、私には触れてる相手の感情がある程度読めるの。だから、少しでもあなたに邪な気持ちがあればすぐにわかった。だけど……」

 

 と、シアはヒロトを見て。

 

「困惑と警戒しかされてなかったわ」

「だろうね」

 

 それが驚くべきことであるかのように、真剣な顔で言った。

 

「“だろうね”ってナニ? どういうことかしら? 私がそういう目で見られるのはありえないってこと?」

「いや、それ以前にあんなムードもへったくれもない色仕掛けされたってさぁ……」

「あなたが同じことしたら“獣王”が釣れたのに?」

「してないから!?」

 

 なんだそのイメージ。

 

 レオンはあんな安っぽい誘惑で釣れるほど、バカじゃありません。

 

 “十冠”舐めんなよ。

 

 ……釣れないよね?

 

「ハァ……。まぁ、言いたいことはわかるわ。私なんてね、ふっ、所詮は擦り切れたババアよ。あなたみたいなピチピチの若い女の子じゃない。最近デコルテに年齢が出るから隠してるしね……ふふ……」

 

 や、やばい。

 

 シアがなんかよくわからないタイプの自虐をし出してしまった。

 

 こりゃ重症だ。

 

「……聞きたいのだけど」

「う、うん」

「あなたのスキル、魔法少女に変身するスキルじゃないの? 性別が変わるって、流石にそれは効果を逸脱しすぎだと思うけど……」

「えっとねぇ……」

 

 それを話し出すと長くなる。

 

「簡単に言えば、元々は“性転換”のスキルだったんだよ。それが運良く魔法少女の変身にも使えて……なんかよくわからないけどスキルが進化してこうなった。みたいな」

「“スキル進化”ね……話には聞いたことがあるわ」

 

 それを言うと、シアは納得した様子でヒロトに向き合った。

 

「……戻らなくていいの?」

「えっ、戻っていいの?」

「違和感がすごいからいいわ。見た目も声も男なのに、喋り方はヒロなんだもの。気味が悪いわ」

 

 ……男になれって言われたり、戻れって言われたり。

 

 釈然としないものを抱えながら、ヒロトはヒロに戻った。

 

「……あっ、ちょっと待って。下着ズレちゃった」

「……男が放っておかないわけね」

「うん?」

 

 男から女に戻った反動でズレた服を直していると、げんなりしたような反応を見せるシア。

 

 “これで無自覚っていうのが……”と、なんだかブツブツ言ってるのが聞こえた。

 

 しかし、シアは頭を振って“ともかく”と持ち直した。

 

「こうなると、考えられる可能性は一つだけね」

「可能性? なんの話?」

「あなたが私に全然、興味のきの字も見せなかった話よ」

「あぁ……」

 

 その話、まだ続いてたんだ。

 

「だから、あんな強引なやり方じゃ誰だって……」

「あなた、女じゃなくて男が好きでしょ?」

「……」

 

 一瞬。

 

 何を言われたかわからず、目を瞬かせる。

 

「え。なんでそうなるの……?」

「さっきも言ったけど、あの状況で全く私に対して興味を抱かないというのは、男性なら不自然な状態なのよ。“ほぼ”ならともかく、“全く”というのはね」

 

 いい?と言ってシアは指を立てた。

 

「そもそもあなたは、私を恋愛対象と見做していない。一切の身体的反応がないというのはそういうことよ」

「そ、そんなのわかるの……?」

「わかるのよ。逆にそうでなかったら、私はあなたを許さなかったもの。“一切女性に興味がない”とわかったから、あなたを許せるの」

「えぇ……?」

 

 そんなの、全然自覚なかった。

 

 まぁ確かに、性転換した後で女の子を好きになったことはない。

 

 ユウナたちのことをそういう目で見たことも……まぁ、“エロいな”と思うことはあったけど。

 

 男だった時の感覚とは違う気がする。

 

「でも……私、男の人を好きになったことなんて……」

 

 ない、と続けようとして。

 

「……」

 

 その先の言葉を言えなかった。

 

 もしかしたら。

 

 ある、のかもしれない。

 

「……男性を恋愛対象として見たことがある。そうじゃない?」

「う、うーん……」

 

 ヒロの頭の中に思い浮かんだのは。

 

 ジンへの顔だった。

 

 明確に、そうと言えるとは今まで思ってなかったけど。

 

 考えてみれば、ジンといる時のヒロの行動は。

 

 なんか、すごく……“それ”っぽいようになってた気も。

 

「〜〜!」

 

 思い出したら、すごく顔が熱くなってきた。

 

「私って、そうだったの……?」

 

 全然、自覚のなかったことを突然言われて戸惑う。

 

 だけど、そう考えると辻褄が合うことがたくさん……。

 

「その反応……決まりね。まぁ、薄々わかってたけど」

「え、シアは知ってたの!?」

「だってわかりやすいもの。あなた」

「えぇ……!」

 

 は、恥ずかしすぎる……。

 

 シアはジンと会ったことすらないはずなのに。

 

 一体いつから……。

 

「レオンといる時のあなた、かなり露骨よ? 気づかない方が無理ね」

 

 ……

 

 …………。

 

「……はい?」

「? いや、だから。レオンのことが好きなんでしょ? まさか今更否定するつもり?」

 

 思考がフリーズする。

 

 たっぷり数十秒、時間を使って。

 

「はぁ!?」

 

 素っ頓狂な叫び声が出た。

 

「ち、違うよっ!!?」

「え? 違うの? 恋人なんでしょう?」

「うぐっ! そ、そうだった……!」

 

 慌てて否定しようとして、否定するのもおかしな話になってしまうことに気づく。

 

 そ、そうだ。レオンとヒロは今、偽装でも恋人同士なんだ。

 

 レオンと……恋人……。

 

「……」

「……その顔をしておきながら、違うっていうのは無理なんじゃない……?」

「えっ、ど、どんな顔してた……?」

「古臭い表現だけど、“恋する乙女”って感じよ。完全に……」

「う、嘘だ……」

 

 シアからの指摘に絶望する。

 

「私が……レオンを……?」

 

 ……でも、だとしたら。

 

 ジンのことはどうなんだろう。

 

 ジンのことも自覚できるくらいだから、多分、好き……なんだと、思うけど。

 

 ジンと、レオン。

 

「……」

 

 まさか。

 

 ……二人のことを、どっちも好き?

 

「や、やばすぎる……」

 

 それを自覚した瞬間、ヒロは自分の頭がすぅっと冷えていくのを感じた。

 

 それは、すでに不安定な精神状態となっていたヒロにとって、まさに核爆弾のようなもので。

 

「……」

「あら……放心してる……これはもうほっといたほうがいいわね」

 

 いつの間にか側にシアがいなくなった事にも気付かず。

 

 しばらくその場でヒロは立ちすくんでいた。

 

「……ふぅ」

 

 そして数十分後。

 

 なんとか正気を取り戻した(?)ヒロは。

 

 ぱちんと両頬を叩いた。

 

「まだ、わからない」

 

 出た結論としては。

 

 結局、シアが勝手なことを言っただけということだ。

 

 ヒロがジンとレオンのことを……その。

 

 す、好き。な保証なんてどこにもない。

 

「いつも通り……いつも通り……」

 

 冷静さを取り戻すことが、まず何よりも大事なんだ。

 

 ヒロは自分の胸にそう言い聞かせて。

 

 岩場から姿を現し……。

 

「──ヒロ!!」

 

 その瞬間、体を大きくて温かい何かに包み込まれた。

 

 温かくて、ちょっと固くて、野生みのある臭いがして。

 

 ヒロの胸を満たしてくれる。

 

「探したんだぞ! 無事でよかった……!」

 

 ヒロをぎゅっと強く抱きしめるのは。

 

 心配そうな、切実な声色のレオンだった。

 

 それを認識した瞬間。

 

「〜〜っ!!」

 

 抑えたはずの感情が、噴火のように溢れ出して。

 

 ヒロは声にならない悲鳴を上げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。