産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「私には、触れている相手の感情が読めるのよ」
乱れた髪を整えながら、おすまし顔でそんなことをのたまうシア。
「ついさっきまで号泣してたのに」
「あれは! あなたが!! 泣かせたから!!!」
「ごめんて」
そして一瞬でその余裕が崩れる。
……胸のこと、そんなに地雷だったとは。
「あなたにはわからないわよ……! 私の気持ちなんて……! あなたがばるんばるんさせながら私の前を歩くたびに、私がどんな気持ちで……!!」
「ばるんばるんって……」
「しかも! そのあなたが実は男!? は!? 私が男に負けたとでも!? 舐めんなよ!!」
や、やばい。
シアが発狂しちゃった。
まさか、シアがそこまで思い詰めていたなんて……。
……ん?
「……もしかして今日までもの凄く私のこと敵視してたのって、それが理由?」
「違うけど」
「あ、はい」
スンッと真顔になって否定するシア。
違うらしい。
本当に?
……まぁいっか。
「……こほん。ともかく、私には触れてる相手の感情がある程度読めるの。だから、少しでもあなたに邪な気持ちがあればすぐにわかった。だけど……」
と、シアはヒロトを見て。
「困惑と警戒しかされてなかったわ」
「だろうね」
それが驚くべきことであるかのように、真剣な顔で言った。
「“だろうね”ってナニ? どういうことかしら? 私がそういう目で見られるのはありえないってこと?」
「いや、それ以前にあんなムードもへったくれもない色仕掛けされたってさぁ……」
「あなたが同じことしたら“獣王”が釣れたのに?」
「してないから!?」
なんだそのイメージ。
レオンはあんな安っぽい誘惑で釣れるほど、バカじゃありません。
“十冠”舐めんなよ。
……釣れないよね?
「ハァ……。まぁ、言いたいことはわかるわ。私なんてね、ふっ、所詮は擦り切れたババアよ。あなたみたいなピチピチの若い女の子じゃない。最近デコルテに年齢が出るから隠してるしね……ふふ……」
や、やばい。
シアがなんかよくわからないタイプの自虐をし出してしまった。
こりゃ重症だ。
「……聞きたいのだけど」
「う、うん」
「あなたのスキル、魔法少女に変身するスキルじゃないの? 性別が変わるって、流石にそれは効果を逸脱しすぎだと思うけど……」
「えっとねぇ……」
それを話し出すと長くなる。
「簡単に言えば、元々は“性転換”のスキルだったんだよ。それが運良く魔法少女の変身にも使えて……なんかよくわからないけどスキルが進化してこうなった。みたいな」
「“スキル進化”ね……話には聞いたことがあるわ」
それを言うと、シアは納得した様子でヒロトに向き合った。
「……戻らなくていいの?」
「えっ、戻っていいの?」
「違和感がすごいからいいわ。見た目も声も男なのに、喋り方はヒロなんだもの。気味が悪いわ」
……男になれって言われたり、戻れって言われたり。
釈然としないものを抱えながら、ヒロトはヒロに戻った。
「……あっ、ちょっと待って。下着ズレちゃった」
「……男が放っておかないわけね」
「うん?」
男から女に戻った反動でズレた服を直していると、げんなりしたような反応を見せるシア。
“これで無自覚っていうのが……”と、なんだかブツブツ言ってるのが聞こえた。
しかし、シアは頭を振って“ともかく”と持ち直した。
「こうなると、考えられる可能性は一つだけね」
「可能性? なんの話?」
「あなたが私に全然、興味のきの字も見せなかった話よ」
「あぁ……」
その話、まだ続いてたんだ。
「だから、あんな強引なやり方じゃ誰だって……」
「あなた、女じゃなくて男が好きでしょ?」
「……」
一瞬。
何を言われたかわからず、目を瞬かせる。
「え。なんでそうなるの……?」
「さっきも言ったけど、あの状況で全く私に対して興味を抱かないというのは、男性なら不自然な状態なのよ。“ほぼ”ならともかく、“全く”というのはね」
いい?と言ってシアは指を立てた。
「そもそもあなたは、私を恋愛対象と見做していない。一切の身体的反応がないというのはそういうことよ」
「そ、そんなのわかるの……?」
「わかるのよ。逆にそうでなかったら、私はあなたを許さなかったもの。“一切女性に興味がない”とわかったから、あなたを許せるの」
「えぇ……?」
そんなの、全然自覚なかった。
まぁ確かに、性転換した後で女の子を好きになったことはない。
ユウナたちのことをそういう目で見たことも……まぁ、“エロいな”と思うことはあったけど。
男だった時の感覚とは違う気がする。
「でも……私、男の人を好きになったことなんて……」
ない、と続けようとして。
「……」
その先の言葉を言えなかった。
もしかしたら。
ある、のかもしれない。
「……男性を恋愛対象として見たことがある。そうじゃない?」
「う、うーん……」
ヒロの頭の中に思い浮かんだのは。
ジンへの顔だった。
明確に、そうと言えるとは今まで思ってなかったけど。
考えてみれば、ジンといる時のヒロの行動は。
なんか、すごく……“それ”っぽいようになってた気も。
「〜〜!」
思い出したら、すごく顔が熱くなってきた。
「私って、そうだったの……?」
全然、自覚のなかったことを突然言われて戸惑う。
だけど、そう考えると辻褄が合うことがたくさん……。
「その反応……決まりね。まぁ、薄々わかってたけど」
「え、シアは知ってたの!?」
「だってわかりやすいもの。あなた」
「えぇ……!」
は、恥ずかしすぎる……。
シアはジンと会ったことすらないはずなのに。
一体いつから……。
「レオンといる時のあなた、かなり露骨よ? 気づかない方が無理ね」
……
…………。
「……はい?」
「? いや、だから。レオンのことが好きなんでしょ? まさか今更否定するつもり?」
思考がフリーズする。
たっぷり数十秒、時間を使って。
「はぁ!?」
素っ頓狂な叫び声が出た。
「ち、違うよっ!!?」
「え? 違うの? 恋人なんでしょう?」
「うぐっ! そ、そうだった……!」
慌てて否定しようとして、否定するのもおかしな話になってしまうことに気づく。
そ、そうだ。レオンとヒロは今、偽装でも恋人同士なんだ。
レオンと……恋人……。
「……」
「……その顔をしておきながら、違うっていうのは無理なんじゃない……?」
「えっ、ど、どんな顔してた……?」
「古臭い表現だけど、“恋する乙女”って感じよ。完全に……」
「う、嘘だ……」
シアからの指摘に絶望する。
「私が……レオンを……?」
……でも、だとしたら。
ジンのことはどうなんだろう。
ジンのことも自覚できるくらいだから、多分、好き……なんだと、思うけど。
ジンと、レオン。
「……」
まさか。
……二人のことを、どっちも好き?
「や、やばすぎる……」
それを自覚した瞬間、ヒロは自分の頭がすぅっと冷えていくのを感じた。
それは、すでに不安定な精神状態となっていたヒロにとって、まさに核爆弾のようなもので。
「……」
「あら……放心してる……これはもうほっといたほうがいいわね」
いつの間にか側にシアがいなくなった事にも気付かず。
しばらくその場でヒロは立ちすくんでいた。
「……ふぅ」
そして数十分後。
なんとか正気を取り戻した(?)ヒロは。
ぱちんと両頬を叩いた。
「まだ、わからない」
出た結論としては。
結局、シアが勝手なことを言っただけということだ。
ヒロがジンとレオンのことを……その。
す、好き。な保証なんてどこにもない。
「いつも通り……いつも通り……」
冷静さを取り戻すことが、まず何よりも大事なんだ。
ヒロは自分の胸にそう言い聞かせて。
岩場から姿を現し……。
「──ヒロ!!」
その瞬間、体を大きくて温かい何かに包み込まれた。
温かくて、ちょっと固くて、野生みのある臭いがして。
ヒロの胸を満たしてくれる。
「探したんだぞ! 無事でよかった……!」
ヒロをぎゅっと強く抱きしめるのは。
心配そうな、切実な声色のレオンだった。
それを認識した瞬間。
「〜〜っ!!」
抑えたはずの感情が、噴火のように溢れ出して。
ヒロは声にならない悲鳴を上げた。