産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
俺はバカだ。
大バカだ。
姿の消えたヒロを必死になって探しながら、レオンは自責の念に駆られ続けていた。
「ヒローッ!!」
声を張り上げながら、休憩中の隊列の中をひた走る。
「ちょっと、なになにどうしたの若様? 血相変えちゃって?」
「ローレン! ヒロを見なかったか!?
「ヒロちゃん? いやぁ、見てないなぁ……」
「そうか……」
通りがかりに出会ったローレンに居場所を聞くが、知っている様子はなく落胆する。
一体、どこに。
「あ、若様! 僕らのチームでも探してみますから! 見つけたら連絡します!」
「ああ、頼む!」
レオンは頷き、再び走り出した。
どんな強敵と戦ったとしても、これほどの緊迫感に襲われた事はない。
普段は汗ひとつかかずユニークモンスターですら打ち倒せるのに、今は一人の女性のために必死になっている。
少し前のレオンには考えられもしなかった事だ。
「ヒロ……!」
もし、彼女に何かあったら。
レオンは自分を決して許さないだろう。一生。
伝えるべきことも、伝えずに。
もう二度と会えないなんてことになったら……。
「……?」
そんな時、ふと視界の隅にへたり込んでいた獣人の少年が見えた。
いや、あれは……。
「……確か、アルトだったか。ウチの見習いに志願していた」
「!? レ、レオン様!? どうしてここに……!」
「それはこちらの……待て」
レオンは周囲を見渡し、異常に気づく。
「なんだ。この物資の山と……水たまり、か?」
「あっ……レ、レオン様! 大変です!」
そこに広がっていた光景は、異様としか言いようがないもので。
レオンは、アルトが発する言葉に嫌な想像をした。
「……ヒロ様が、連れて行かれてしまったのです!」
*
抱きしめられ、レオンの腕の中にすっぽりと覆われてしまったヒロはまるで大災害に飲み込まれたような心地になっていた。
改めて思うが、レオンは本当に体が大きいし力強い。
筋肉はムキムキで、余計な脂肪なんて一切ついてないし、腕の太さがヒロの腰くらいある。
そして、何よりもこの、包み込まれる少し汗の混じった獣のような臭い。これが嗅いでるとクセに──。
って、落ち着け落ち着け。
そ、そうだ。レオンにもまず落ち着いてもらって……!
「……レ、レオン? 一回落ち着こう? ほら深呼吸」
「深呼吸……」
レオンがヒロを抱きしめたまま、呟いて。
「すぅ〜……」
「なっ! ちょ、バカバカ!?」
「はぁ〜……」
「あっ……! ちょ、耳元で吐いちゃだめぇっ……!」
首筋に顔を埋めながら、大きく息を吸い込んで、耳元に吐かれたことでヒロが身悶えするハメになった。
「へ、変な臭いしない……?」
「……酒のような甘い臭いが」
「そうだった!」
シアに水をかけられて、覚めたとはいえ。
ヒロは酒のようなものを被っていたことを忘れていた。
「ほら、離れて。臭いついちゃうから」
「……別に俺はついても構わない。というか、ヒロの臭いを全身につけたい」
「そういう問題じゃない……っ」
さらっととんでもないことを言い出すレオンに、ヒロは赤くなりながら呆れる。
ただでさえ、心臓が張り裂けそうなくらいバクバクなのに。
レオンにバレてしまう。
ヒロが、レオンのことを、もしかしたら……なんて。
絶対バレちゃダメだ。
「ほら、離れて」
「むぅ……」
だからヒロは表面上、つんとすまし顔でレオンの胸に手を置いて引き剥がした。
本当はレオンの胸板に触れる腕すら緊張で固まっているのに。
「……ヒロ。やっぱり、その」
「うん?」
「怒ってる、か?」
「〜〜〜っ!!」
ヒロから引き剥がされたからか。
まるで、叱られた大型犬のような仕草で、シュンと項垂れて落ち込むレオン。
ぎゅーーーーんっ!
と、ヒロの内心の“何かのメーター”が上振れる。
ぞくぞくと、何か、感じちゃいけない類の嗜虐心が芽生えてくる。
「そうだよ。私、すっごく怒ってるよ? なんでだと思う?」
「……俺が、ヒロのこと、ちゃんと恋人として扱えなかったから。ごめん」
体の大きさも、力の強さも今のヒロよりずっと上なのに。
まるで子供が叱られているかのように縮こまるレオン。
なんなんだろう。この生き物。
可愛くてたまらない。
「うん、そうだね。よく言えました。えらいえらい」
「!!」
ヒロがなんだか、レオンのことを無性に愛おしく感じてしまって頭を撫でると。
レオンの尻尾がぶんぶんと振り回された。
ワ、ワンちゃんすぎるだろ……!!
コイツのどこが“獣王”なんだよ……!!
「ヒロ、もしかして、もう怒ってないのか……?」
「ん〜? どうだろうねぇ?」
実際には、もうなんで怒っていたかもわからないくらいだし。
それ以前にレオンの挙動がいちいち“犬”すぎてそれどころでは無くなっているけど。
可愛いのでそれは言わない。
「そうか……」
すると、再び落ち込むレオンだ。
ああ、ダメだ。
もう、何しても可愛いんだけどこの子。
“何しても可愛いと思っちゃう”モードに入った。
こうなるとおしまいだ。
「ヒロ。俺、考えたんだ。どうすればヒロに許してもらえるかって……」
「うん、なぁに?」
「これからヒロを、俺の恋人だって示すために……こうする」
そう言うと、レオンは。
ポン、とヒロの頭の上に手を置いた。
「!?」
そのまま頭を優しく撫でられて、ヒロの体が固まる。
手のひらは大きくて、少しごつごつしていて、でも温かい。
獣人らしい体温と安心感が伝わってくる。
「これをすると恋人だって示せるの……?」
「ああ。獣人社会では、こうすることは“番”への愛情表現だ」
「つ、番って……」
つまり、これをされると。
周りからは、レオンの番として見られちゃうってこと……。
い、いや!
あくまで、演技。そう。
そのはず……。
「ヒロ」
「! ひゃ、ひゃいっ」
ヒロが悶々と悩んでいると。
とても真剣な顔をしたレオンが、真正面からヒロを見つめていた。
ち、近い……!
「俺はヒロの番……恋人だ。たとえ嘘でも、周りにそう思われなきゃ意味がない」
「……そうだね」
たとえ嘘でも。
その言葉に、ほんの少しだけチクリとした痛みが走るが。
レオンの顔をヒロもまた真正面から見つめた。
「だ、だから……ヒロ……」
「う、うん」
緊張からか。
強張った顔で、唇を震わせるレオン。
そして。
「これからは、手を繋がないか……?」
世紀の大発表をするかのように、そう言った。
「……ぷっ」
「えっ」
そんなレオンの様子に、ヒロは思わず吹き出してしまった。
「わ、笑うな。俺は真剣なんだぞ……」
「ふふっ、ごめんごめん」
そんなヒロに、口を尖らせるレオン。
その仕草もまた、なんだか可愛くて。
「グゥ……」
バカにされたと思ったのか。
顔を背けて、嫌そうな顔をするレオン。
「本当にごめんね? お詫びに……」
だからヒロは。
「あっ」
自然に、レオンの手を取った。
恋人として手を繋ぐなら。
「やっぱり、こうかな……?」
するりとレオンのゴツゴツした指の隙間に、ヒロの細い指先が入り込んで。
指が絡み合う繋ぎ方になり。
「「……」」
二人して、完成した“恋人繋ぎ”を見て無言になる。
「な、なんか……恥ずかしいね……?」
「だ、だな」
ただ手を繋いだだけ。それだけなのに。
なんなんだろう……この異様な照れ臭さは。
「べ、別の繋ぎ方にしようか……?」
焦ったヒロが、手を解こうとすると。
「……」
「……レオン?」
ぎゅっとレオンの拳に力が入り込んで、離すことができない。
「……これで、いい」
レオンは、顔を赤くしながら。
「一番、これが恋人らしい握り方だ。だから、これにしよう」
と言って。
「あっ」
ヒロの体が引き寄せられた。
そして。
腰に腕が回り、強く抱きしめられた。
「この手はもう、離さないようにしよう」
強い力で、逃げられないようにされてからそんなことを言われて。
「は、はい……」
ヒロは、そう言うしかなかった。