産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「お……こりゃ思った以上に」
ヒロとレオンは、二人で元いた場所まで戻ってきた。
指を絡ませて、お互いに顔を逸らしながら歩く二人を見て“ヒュウ”と口笛を吹いた。
「全く、初々しいねぇ。ご馳走様でしたってな」
「……リドル。茶化す気なら」
「はいはい。邪魔者はあっちに行ってますよ」
……ここに来るまでも、ヒロとレオンの姿は目撃された。
こ、恋人なんだからおかしくはないんだろうけど。
……顔から火が出るくらい恥ずかしい。
「あっ、そうだ」
そんな二人の様子を察してか、その場を離れようとしたリドルさんが。
くるりと振り向いて言う。
「この後にやる予定だった会議な、あれ中止になったわ。なんか、賊が出たとかなんとかでな」
「賊……?」
「おう。そういうわけだから、今日はもう夜まで自由時間だ。あとは若いお二人さんで好きにやんな」
「リドル!」
「はははっ」
リドルさんはそう言って、飄々とした様子で去っていった。
「「……」」
そして、ヒロとレオンはその場に残された。
「あっ、えっと……どう、する?」
何を言えばいいか迷ったヒロは、レオンの顔を見上げながら言った。
冒険者がダンジョン内で野営をする場合、大体の場合は即席の天幕を張る。
“黄金の牙”においてもそれは変わらないらしく、すでにギルドの紋章があしらわれた天幕が用意されていた。
“一つきり”の天幕が。
「私、野宿慣れてるから。天幕はレオンが使ってくれていいけど……」
「いや、あり得ない。それなら俺が地べたで寝た方がマシだ」
「地べたで寝るのは変わらないと思うよ」
苦笑しながら、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。
バクバク、と緊張と共に早くなっていく。
だって、ヒロはリーダーであるレオンを外に追い出せるわけがない。レオンもヒロを外に出さないとなったら。
「……じゃあ、入ろっか」
二人で入るしか。
ないじゃないか。
「そう、だな」
やけにカタコトな言葉で。
レオンが応じて。
ヒロたち二人は、“一人用天幕”の中に入った。
「……リドルめ」
そして中に入り、レオンが苦虫を噛み潰したような顔をした。
そこに用意されていたのは“一人分の寝袋”だったからだ。
「もう一つ貰ってくる」
「ま、待って!」
天幕から出て行こうとするレオンを引き止める。
「えっと、私たちって急遽参加させてもらうことになったわけだし……足りないのは仕方ないんじゃないかな。もし私たちのために他の誰かの寝袋を貰わなきゃいけないんだったら、悪いよ」
「だとしても君は女の子だ。融通は効かせるべきだろう」
当たり前にヒロを女の子扱いしてくるレオンに悶えつつも。
ヒロは、早くなる心臓の音を自覚しながらも。
言うべきことを、言った。
「……二人で入れば、いいんじゃない?」
「……」
そう言った瞬間。
レオンの目が、ギラリと鋭い光を纏ったのを見えた。
そして。
わかってしまった。
普段から、そういう目を向けられるからこそ敏感になっていた。
……ヒロの体が一瞬、欲望の籠った視線で見られたことを。
それは一瞬かつ、罪悪感があったのかすぐに逸らされた視線だったけど。
経験上、こういう視線を向けられた時は大抵。
ヒロは“そういう目”で見られてる。
他でもない、レオンに。
欲望を向けられてしまった。
「……」
本当なら、ヒロはレオンを嫌うべきなんだろうか。
最低! とでも言ってこの場を離れるべきなんだろうか。
でも、なんでだろう。
いつもなら、背筋に悪寒が走るのに。
ゾクゾクとした感覚が体を駆け上って。
ヒロはそれが、あんまり嫌じゃなかった。
「……いいのか?」
顔を伏せて、小さく呟いたヒロに。
レオンが真剣な声で聞いてくる。
ヒロは、やはり顔を伏せたまま。
こくん、と小さく頷いた。
二人して指を絡ませながら寝袋の前に立つ。
どちらも、緊張からか手汗をかいていて、握られた手は僅かに震えていた。
「……じゃあ、着替えるか」
「う、うん」
その手を一旦解き、二人は背中を向けながら装備を外していった。
ヒロは軽装なのですぐ終わったが、レオンは重装備なので時間がかかっている。
遠征メンバーがもっと少なかったり、薄い警備だったら装備も外さず常在戦場の心構えで寝ることもある。
だけど、今回は周囲の見張りも多い。モンスターもまだそれほど多くないし。
装備を外しても問題はない。
「先に体を拭くといい」
「あ、うん」
そんなレオンから視線を外したまま、タオルが入った水桶が渡される。
そうそうとお風呂なんか入れない冒険者は、こうして体を拭いておくに留めるのだ。
ヒロは上着を脱いで、下着姿になってタオルで体を拭き始めた。
熱った体に、冷たい水タオルの感触は気持ちよくて……。
「ヒロ、もう……ッ!?!?」
背後でどんがらがっしゃんというすごい音が聞こえた。
「え、なになに?」
「な、なんで脱いでるっ!?」
その音に思わず振り返ると、レオンがひっくり返った体勢で手を顔で覆っていた。
声が裏返って、相当動揺してることがわかった。
「え。だって体拭くんだからそうしないと……」
「せ、せめて一声かけろ! “後ろを見るな”とか……!」
狼狽するレオンに、ヒロは一瞬頷きそうになってから。
うん? と首を傾げた。
「いや、それはおかしくない?」
「な、なにがだ」
ヒロの疑問に素っ頓狂な声を上げるレオンに。
“だって”と言って。
「恋人同士なんだから、下着見るくらい普通じゃないの……?」
と、当然のように言って。
……あれ?
ピシッ、と。
その場の空気に、何か決定的な“ヒビ”のようなものが入った感触がした。
「……そうか」
レオンが、まるで亡霊のように。
ゆらめきながら立ち上がった。
「ヒロ、お前はそういう考えなんだな……」
「レ、レオン?」
まるでレオンが。
モンスターと対峙した時のような気迫を漂わせながら。
見下ろすように立ち上がった。
……もしかして。
何か、マズイスイッチを押してしまっただろうか。
「なら俺も覚悟を見せる」
「!?」
そう言って、おもむろにシャツとズボンを羽織った状態から。さらに脱ぎ始めたレオン。
ヒロは慌てて顔を手で覆いながら。
指の隙間からレオンをガン見していた。
盛り上がった筋肉。ヒロとは対象的に岩のようなゴツゴツした体。傷だらけの皮膚。
全身が、鍛え上げられた戦士の肉体をしたレオン。
そのレオンが、ヒロを見下ろした。
もはや心臓の音は、そうとわからないくらいの激しい音を立ててkた。
……レオンが惜しげもなく自分の体を見せた以上。
ヒロもまた、自分の体を隠すわけにはいかなくなってしまった。
うぅ、なんでこんなことに……。
本当に、死にたくなるくらい恥ずかしくなりながら。
……胸の前で組んでいた腕を下ろして、こちらを凝視するレオンに体を晒した。
全身に突き刺さる、熱に浮かされたような視線。
み、見られちゃってる……。
「……ヒロ」
そして、ヒロの体を真剣な顔で見ていたレオンが。
気まずそうに視線を逸らした。
「お前の体は、破壊力が高すぎる」
「どういう意味!?」
レオンは顔を逸らしながら唸っていた。
「いや、前からすごいとは思っていたが……想像以上というか……」
「そんなの言い出したら、レオンもすごいと思うけど……」
「いや、俺とお前じゃ話が違うだろう。流石に」
レオンは顔を逸らしたまま、チラチラとヒロの方に視線を向けていた。
気になってしょうがないみたいだ。
「……そんなに、気になるならさ」
ヒロは、熱に浮かされた頭のまま。
その言葉を言おうとしていた。
多分、口にしたら引っ込めることはできない。その言葉を。
「ヒロ……」
そして、レオンにもその予感があり。
二人の間に漂っていた、悶々とした熱のようなものは。
明確に今この瞬間、燃え上がる炎となって。
「……さわ」
「若様!!」
バッ!!
入り口の天幕が思い切り開かれて。
「すみません! こっちの方に賊の奴が逃げて……! ……は……」
「……」
「……」
入り口で固まる、黄金の牙の団員。
フリーズする、レオンとヒロ。
「……サーセンっ」
団員の男は。
ペロッと舌を出しながら外に出ていった。