産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった 作:ぷに凝
「痛くない?」
「あぁ」
太ももに頭を乗せて、目を閉じるレオンの頭を太ももに乗せて。
ヒロは耳かきをしていた。
「良かった。人の耳かきなんてするの初めてだから」
「……その割には随分上手くないか?」
「えぇ? そうかなぁ」
レオンの耳は大きい。
獣人の耳だからね。人間のものとはそれこそ構造からして違う。
耳垢も人間の耳に溜まるような生優しいものじゃなかった。
「うひゃー……」
ごっそり、という表現が似合いそうな。
かなり溜まっていたらしい耳垢をほじくり出し、そのグロテスクさに若干頬が引きつる。
ちょっとした耳のお掃除くらいに考えたけど……こりゃ大掃除になりそうだな。
「す、すまん。あまりこういうことをやる機会がなくてな……」
「いいよ、別に。いい機会だから綺麗にしちゃおう」
「……ありがとう」
耳掃除をサボっていたことを知られて恥ずかしかったのか。
恥ずかしそうに身を捩りながら目を伏せるレオン。
その目は耳かきを続けるごとに、とろんとしていった。
「あぁ……すごい。すごく、気持ちいい……」
「ここ?」
「あっ、ふぅ……そこだ……」
「……」
なっ、なんだこの妙な雰囲気は。
変な声出すのやめてほしい。
「あっ、そうだ。レオン」
「どうした」
「近いうち、私の仲間が迎えに来てくれるんだよね。だからその人も一緒に行動していい?」
「あぁ、なんだそんなことか。それくらい……」
と、そこまで言ってレオンがカッと目を見開いた。
「む、迎えに? 来るのか? お前の仲間が……?」
「うん」
「……そう、か」
レオンはそう聞くと。
目が右往左往と泳ぎ始めた。
「ちなみに、なんだが」
「う、うん」
「その……迎えの仲間が到着したら……ヒロは、どうするんだ」
「え? うーん……とりあえず、地上に戻るまでは、一緒に行動するかな」
「……そうか」
消え入りそうな声で答えるレオン。
そして、むにゅむにゅと口を動かした後。
レオンは……とても言いづらそうにしながら。
「その、仲間は……男か?」
と、聞いてきた。
「……うん。男の子だよ、同年代の」
「……そう、か」
そう答えると、レオンは。
それから、静かになった。
二人で何も喋らず、無言の時間が過ぎる。
「地上に戻ってさ」
「……あぁ」
ヒロは無言の時間を切り裂くように、レオンの頭を手で撫でながら。
「レオンのご両親に挨拶をして、縁起の必要がなくなったらさ」
「……」
「この関係も、終わりだね」
と。
静かにそう言った。
レオンはそれから。
何も喋ることはなかった。
*
「おやすみ」
「あぁ」
“ご褒美”の時間も終わり。
ヒロとレオンは、二人で寝ることになった。
一つきりの寝袋には、結局ヒロだけが寝ることになった。
ヒロは二人で入ろうとしたのだが、レオンが外で寝ると言い出したので、渋々私だけが使うことに。
寝袋にはヒロが。
その隣にヒロが
眠りについた。
「……ふぁ」
朝。
「……あれ」
起きると、レオンはいなくなっていた。
どこに行ったんだろう。
まだ朝の早い時間だけど。
ヒロは天幕から出て、薄暗い野営地の中を歩いた。
「あれ、ヒロさん?」
外には何名かの見張り役の団員さんが座っていて、ヒロが現れると声をかけてきた。
「ど、どうしたんですか? こんな早い時間に」
「レオンを探してて……どこに行ったかわかる?」
「あぁ……それなら多分、朝の修練中ですね」
「修練?」
「剣の修練です。日課なんですよ、若の」
なるほど。
「どこにいるかわかる?」
「さぁ……多分、それほど遠くない開けた場所にいるとは思いますが」
「そっか、わかった。ありがとう」
ヒロは頭を下げてその場を立ち去った。
*
「ふぅ……ビビったぁ」
「危なかったな」
ヒロが立ち去った後。
その場にいた男たちは、慌てて後ろ手に隠していたものを取り出した。
それは、ヒロが遠征隊に合流してからの彼女の姿を写真に収めたもの……。
有り体に言って、盗撮写真だった。
「こんなんバレたら若に殺されるからな」
「あぁ、ちげぇねぇ」
「マジで死んだかと思ったぜ」
男たちはニヤニヤと笑いながらお互いの持つ“コレクション”に目を通した。
そのどれもがやたらローアングルだったり、体のラインがハッキリと見える構図で撮られていたものだった。
“黄金の牙”は男所帯。
言ってしまうと冒険者という職業がそもそも男社会なのだが、それでも大手のギルドというのは団員の士気を保つため、何人かの女を囲んでおくものだ。
しかし黄金の牙は歴史が長く、王牙家の男が代々長を務めるということもあり伝統と格式を重視する風潮があった。
“戦場に女を立たせるなど言語道断”という今更聞いたこともないような価値観のために、一切の女性の入団を認めていないのだ。
そのため団員たちは日々溜まるものを、色街や個人的な関係を持つ女性たちに向けざるを得ない。
だからこそ、今回の遠征でレオンが“暗里繭”にしばらく遠征隊を置いた時は団員たちから歓喜の声が上がったものだった。
女っ気のないダンジョンの中で、天国とも言える至福の時間。
だからこそ、そこを離れるとなった時は密かな落胆や名残惜しさがあったものだ。
また、あの柔らかい女の肌に触れたい。甘い声で囁いてほしい。天にも昇るような快楽を味わいたい。
そういった男たちの欲望は、幸運にも遠征隊に同行した一人の女性冒険者に向けられることになる。
その結果が、ヒロの盗撮写真交換会だった。
言うまでもないことだが、ヒロは魅力的な女だ。
その豊満な肉体からしてまず凄まじい破壊力なわけだが、裏表がなく無防備な言動や自分の魅力をわかっていないかのような振る舞いも男の琴線を刺激してやまない。
男たちも、それなりの数の女性と付き合ったり抱いたりした経験があるが。
この世に、あれほど純粋で擦り切れてない天使のような女性がいるのかと驚愕したほどだ。
だからこそ、その純粋無垢な存在を自分の欲望で汚せたら……と妄想した時、男たちの征服欲を煽るのだ。
今の所、その狼藉は彼女が明確に団長であるレオンの恋人であると公言されたことで阻止されているが。
そうでなければ、本気で口説きに行く者が何人現れていたかわからない。
「なぁ」
「ん?」
「今のヒロちゃんの格好、ヤバかったな」
「あぁ……」
思考の海に沈んでいた男の頭が、下卑た笑みが引き上げる。
先ほど現れたヒロは、薄手の黒タンクトップにショートパンツだけという非常にラフな格好をしていた。
当然晒される、陶磁器のように白い肌色。
そして暴力的な肉体。
「……」
男の血流が一箇所に集まっていくのを感じた。
「なぁ、今ならさ。団長の目盗んでヒロちゃんに近づいていけんじゃねぇか……?」
「は? 何言ってんだお前?」
「いやだからさぁ、別に直接手は出さなくても、近くまで寄れれば……あんだけ無防備な格好なんだから、ヤバい写真撮れることも……!」
「へぇ、楽しそうな話してんな?」
興奮する男たちの中の一人。最もローアングルでヒロの体を写真に収めていた男の肩に。
不意に、無遠慮な腕が回された。
「あ? 誰だよ。今いいとこ……にっ!?」
「ふ、副団長……!」
「俺も混ぜてくれよ。お前らの内緒話」
浮ついた空気感に差し込まれた、凍るような気配。
副団長、“銀狐”と呼ばれるリドルが男たちの会話に割って入った。
吹き出す冷や汗。
浮かべた柔和な笑顔が、何よりも恐ろしく。
「言い訳を聞いてやろう」
処刑宣告に等しいその一言に。
長い長い思考の末。
導き出された答えは……!
「……いります?」
彼に、自分のコレクションを渡すことだった。
「……」
リドルが写真を受け取り、そこに映し出されたヒロの姿を見て。
フッと笑い。
数分後。
「見張り番おつかれさーん……どうした?」
ボコボコに腫れ上がった顔の三人の獣人が、焚き火とその周りで消し炭になった写真を囲んで泣いていた。