TS魔法少女プリムノヴァ   作:ぷに凝

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7 隣の二階堂くん

『またまた大手柄! 魔法少女プリムノヴァ、神谷グループ総帥と学生たちを救う!』

 

「はぁ……」

 

 スマホに表示されたニュースと、大きく載ったプリムノヴァが杖を構える写真に嘆息する。

 

 記事に対する反応が、昨日のそれより増えている。なにせ二日連続だ。こんな頻度でニュースになるような冒険者はそうそういない。

 

「ダンジョン潜りづれぇ……」

 

 結局、昨日はしれっと変身解除して学生の中に戻った後もしばらく帰れなかったし。

 

 このニュースが出回った後の、カワサキダンジョンで安易に変身するのも避けたい。

 

『プリムノヴァって何者?』

『めっちゃ強いらしい』

『魔法少女なのに近接で戦うんだって』

『大体そうじゃね?』

『でも昨日は魔法使ってたらしいぞ』

『両方いけるってこと?』

『ってか顔めっちゃ可愛い』

『ミミックに捕食されてるとこ見たい』

『衣装エロすぎ』

『プリムノヴァを性的な目で見ることは許されません』

『出た。ユニコーン』

『負けてるとこ記事にしろよこの記者無能か?』

 

 ネットの反応は様々で、いちいち取り合っていたらキリがない。

 

 この手の下衆なコメントなんかは特に。

 

「忘れよ」

 

 やっぱ、ネットニュースのコメント欄なんて見るもんじゃないな。無駄に気分を害されて終わった。

 

「……」

 

 “迷宮騎士団”からのスカウトは、断った。

 

 当たり前だ。プリムノヴァの正体を知られるわけにはいかないし、何より変身時間という制限があるヒロトはパーティで動くのには向かない。

 

 それは今後も変わらないだろう。なにせ、制限時間というヒロトの抱える問題は深刻さを増しているのだから。

 

 無言で冒険証を取り出し、スキルを確認する。

 

『性転換』

効果時間 [15:00]

 

「15分……」

 

 昨日変身を解除してから、『性転換』の効果時間はついに10分を上回った。

 

 実は昨日の変身時点ですでに10分になっていたので、もうこれは次の変身時には10分を越すかもなと思っていたら、案の定だ。

 

 変身時間10分超え。すなわち『魔法少女のドレス』の装着時間オーバーだ。

 

 『性転換』してすぐに変身に移った場合、ドレスの時間制限が先に来て変身は解除される。

 

 そうなれば、ドレスは失われる可能性が高い。

 

「どうすっかなぁ」

 

 変身しなければダンジョンで戦えない。今更、スキルなしの自分の戦闘力に大した期待はしていない。

 

 だからこそ、ヒロトはスキルを求めたのだから。

 

 そうして結果的に手に入れた魔法少女の力を使う以外に、ダンジョンで生き残る術はない。

 

 だが、それもあと一回までしか……。

 

「いや、待て」

 

 5分間、『性転換』の時間が余分に多いのなら。

 

「変身する前に、その5分を消費してしまえば……」

 

 うん。

 

 これならいけそうだ。

 

 

「な〜! お前ら昨日プリムノヴァに会ったんだろ!?」

「どんな感じだった? やっぱ強いん?」

 

 教室に入るや否やそんな声が聞こえてきて、回れ右して帰ろうかと思った。

 

 どうやら、隣の2-Aの男子たちが来て教室の中で騒いでいるらしい。別のクラスなんだが?

 

 気づかれないようにヒロトは自分の席に座った。

 

「ありゃヤベェな。カワサキん中じゃ最強じゃね? 何のスキル持ってんのか知らねぇけど」

「パンツ見えた?」

 

 なに聞いてんねん。

 

「いや、見えなかったんだよな」

 

 なに答えてんねん。

 

「ちょっとやめなよ! プリムノヴァ、うちらのこと助けてくれたんだよ!?」

「女子の下着見ようとすんのサイッテー」

「ネットの反応もなんかそんなんばっかだし……マジキモい」

 

 おお……。女子からの援護射撃。

 

 まさかヒロトの人生の中で男子より女子に親近感を覚える時が来るなんて。ちょっとした感動だ。

 

「女子て。プリムノヴァ学生なん?」

「その可能性高いってネットで出てたよ? 見た目とか、ダンジョンにいる時間帯とか」

「平日の昼間いないってなら大人でもそうじゃね」

「でもなんか若かったぽいよね?」

「もしかしたら高校生かもよ? ヒガメイにいたりして」

 

 「まっさか〜!」と笑い声。ちなみにヒガメイというのは、ここ東迷宮高校の略称だ。

 

「あんなアイドルみたいな奴いたら速攻噂なってるだろ。俺告りに行ってるわ」

「橋田じゃ無理無理。相手にされないって」

「わかんねぇじゃん! 昨日ちょっと俺のこと見てたし!」

「目が合っただけのアイドルを見てたっていうタイプ」

「……お前ら、プリムノヴァプリマノヴァってうるせぇな」

 

 わいわいと騒がしい教室内に、小石を打ち込むようにその声はよく響いた。

 

「そんなにあの雑魚が気になるのか?」

「げっ、二階堂……」

 

 二階堂照哉。染めた金髪と耳に開いたピアス。そしてこれ見よがしに制服に付けられた“冒険者バッジ”。

 

 彼は2-Aに在籍している、高校生冒険者だった。

 

「冒険者の勘として言わせてもらうけど、ありゃ初心者だな。ダンジョンのことをまるでわかってない」

 

 二階堂はポケットに手を突っ込み、前髪をいじりながら教室に入ってきた。

 

 現役冒険者からの視点が聞けるのは、なにげに有益だ。クラスメイトは高圧的な態度の二階堂を嫌っていたが、ヒロトとしてはぜひ意見を聞きたい。

 

「大体、あんなドレス姿でダンジョン潜るとか舐めてんのかって話じゃん?」

 

 印象論じゃねぇか。

 

「あれ、そういう装備なんじゃないの?」

「ハッ。あんな装備存在しないって。趣味で着てるだけに決まってるだろ? つまり、ダンジョンにコスプレ姿を見せにきてる痛い女ってのがプリムノヴァの正体な」

 

 なんか好き勝手言われてる。

 

 根も葉もない噂ってこうして広まってくもんなんだな。本職が言うと説得力出るし。

 

「俺、今日もダンジョン潜るし。それで証明してやるよ……アイツが偽物だってな」

 

 プリムノヴァの話で盛り上がっていたところに水を差されて、白けた雰囲気になる教室内。

 

 そんな中で一人ヒロトは、よくやってくれたと心の中で親指を立てたのだった。

 

 

 放課後。

 

「冒険者です」

「はい、確認しました」

 

 受付で冒険証と冒険者バッジを提示してダンジョン内に潜る。

 

「冒険証の提示をお願いします」

「いらねぇだろ? ほらバッジ。見えてねぇのか?」

「冒険者バッジだけでは入場できません。偽造防止のため冒険証との照合が必要となります」

 

 後ろでなんか揉めてると思ったら、例の二階堂がダンジョンに入れず騒いでいた。同じタイミングで来てたとは。

 

 向こうはこっちに気付いてない。まぁ、フードで顔隠してるからな。

 

 ダンジョンに入るのに冒険証を忘れるとか、うっかりのレベル超えてると思うんだが。

 

 まぁいいか。

 

 転移門を潜り、第10層へ。

 

「お、おぉ……」

 

 そして、転移門広場を埋め尽くすあまりの人の多さに面食らう。

 

「なんだこりゃ」

 

 以前までのダンジョンの雰囲気とは、熱気がまるで違う。今までカワサキダンジョンがこんなに賑わってることあったか?

 

「兄ちゃん、あんたも例のプリなんとか目当てか?」

 

 人の集団を遠巻きに眺めていると、冒険者と思われる中年の男に声をかけられた。

 

 ま、まずい。知らない人に話しかけられた。

 

 ヒロトは首を横に振った。

 

「だろうな。装備を見ればわかる。だが、兄ちゃんみたいな備えもできてない、ただ有名人を見たいだけって迷惑な輩が昨日あたりから一気に増えてなぁ」

 

 そのおじさんは、何度かカワサキで見たことがあった。

 

 ベテランの冒険者なのだろう。

 

「ここのダンジョンはでかいのに静かで気に入ってたのに……いい迷惑だよ」

 

 そう言って去っていくおじさん冒険者。

 

 誰かに愚痴をこぼしたい気分だったのだろう。

 

「これも、プリムノヴァの弊害か」

 

 初めて『性転換』を使った時はここまでの大事になるなんて思いもしなかった。

 

 だが、やめる気はない。

 

 誰もこちらを見ていないのを確認して、物陰に。

 

「『性転換』」

 

 パーカーの下にある体が縮んで、視点が低くなる。

 

「あと5分」

 

 冒険証に表示された残り時間を見てつぶやく。

 

 こうなることを見越して、裾の長さを調節できるやつにしておいたのだ。

 

「よし、行こう」

 

 ヒロトはダンジョンに潜らなければいけない。

 

 そしてダンジョンで生き残るために、魔法少女になるだけなのだから。

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