やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「なあ、小遣いくれよ。金無くなっちまった」
「もう今月のお小遣いはあげたでしょ」
「足りねーよ。5千円で過ごせるわけないだろ」
「ゴロゴロしてるから足りなくなるのよ。いい加減働くのか、学校行くのかどっちかにしなさい」
「うるせえババア」
「あんた親に向かって」
「ちょっと出かけてくるわ」
「春樹、まだ話は終わってな──」
うるさい
そのまま最初の角を小走りで曲がって、ようやく一息つく。
「あーあ、何やってんだろうな、俺」
時間を潰そうにも、お小遣いはとっくの昔に使い果たしていた。
追加の要求は、却下されたばかり。
「親なら産んだ責任取れっつーの。高校生でお小遣いがたかが月5千円とか、ふざけてるぜ」
ぼやいたが、実際には高校生ではない。
つい先日、転校先の高校も一学期途中で自主退学したばかりだ。
ちょっと早くて長い夏休みを謳歌するはずが、家でゴロゴロゲームしてたら親がうるさい。
だからといって外に出ても、やることがない。
せめて金があれば違うのに、5千円なんかあっという間だ。
「お、ギリジュース買えるじゃん。ラッキー」
小銭をかき集めて、どうにか自販機で炭酸飲料を買う。
公園のベンチで、よく冷えたそれを流し込むようにして飲んだ。
「くぅうううううっ」
のど越しが最高に気持ちいいぜ。溢れてちょっと襟周りが汚れちまったけど。
でも、これでいよいよお金がなくなってしまった。
「あんまり近所をうろついてても、ババアがうっせんだよなぁ」
どうやら俺は親にとって、人に見られたくない存在らしい。
真昼間に外を出歩くなとか、ほざきやがった。
家でゲームしてたら怒る。外に出てても怒る。どうしろってんだよ。
「シューーーートォオオオオ」
空になった缶を握り締めて潰し、ゴミ箱に向けて放り投げた。
が、明後日の方向へと飛んでしまい、茂みの向こうへと出てしまった。
「ま、いっか。誰かが拾って捨てるだろ」
ゴミ箱に捨てるのも、道端に捨てるのも同じだ。
缶なら問題ないはず。
なんつったっけ。資源ゴミ? そう、資源ゴミだ。
資源なんだからどこに置いたって一緒。やっぱ、俺って頭良いぜ。
「おい、今、投げたのはお前か?」
なんて、自画自賛してたのが悪かったんだろうか。
茂みの向こう側から、どう見ても不良ですみたいな二人組が現れた。
おいおい高校生は学校行っとけよ。何やってんだっつー話。馬鹿かよ。
「ち、違いますよ」
「お前だろ。他に居ないだろうが」
「や、やだなぁ。俺は空き缶なんか投げてないっすよ」
「誰が空き缶って言った?」
「あ……」
しまった。と思った時には、右頬に衝撃が走った。
いてぇええええ。
いきなり殴るなよ。言葉が通じねえのかよ。これだから不良はクソだ。
その言葉は発せられることなく、俺の叫び声にかき消され。
「……いってぇ。なんで俺がこんな目に」
そのまま不良が飽きるまで殴られ続けて、ボロボロになったところでどうにか解放された。
幸いだったのは、お金をもっていなかったこと。
全財産20円の男だ。ザマアミロ。
その20円もカツアゲされたけど。
芝生の上で大の字になって寝っ転がる。
しばらく動けそうにない。
なんか頭がぼーっとしてきた。
「あーあ……退学にさえなってなけりゃ、こんなことにはならなかったのになぁ」
ちょっと前のことが脳裏に浮かぶ。
なんでこんなことになったのか。思い当たる答えは一つしかない。
高校を退学してしまったせいだ。
2番目の高校じゃない。1番目の高校だ。
何も悪いことをしていないのに、クラス内投票というふざけた試験で俺が退場者に選ばれてしまった。
これもそれも全部、坂柳のせいだ。
本当なら俺は守られるはずだったのに。約束を破りやがった。
どうやったのかは分からないが、俺の退学が仕込まれていて退学になっちまった。
あの高校にいたら、お小遣いは5千円とは言わずたっぷり貰えたのに。
寛治や健と徹夜でゲームしても、怒られることなんかなかった。
「……楽しかったよな、あの頃は」
ほんの半年前のことなのに、輝いて見える。
なんで俺はこうなっちまったんだろう。
全部退学になったのが悪い。
せっかく入った名門校を退学したことを、親父には責められるわ、ババアには泣かれるわ。
退学後にどうにか決まった転校先は、イマイチ馴染めなかったし。
中途半端な時期の転校生だ。浮いてしまったのは、俺に責任はない。
授業の進み具合も違ったせいでついていけず、2年の1学期中間で赤点4つ。
期末も赤点が続いたら、夏休みは補習で潰れるとか脅してきやがった。
どうにか足掻きたいのに、助けてくれるやつもいねえ。
そんな薄情な学校なんか、さっさとやめて正解だったと思う。
そのおかげで長い夏休みをゲットすることが出来たけど、お金とやることに困るっていう。
「……退学になってなきゃ、今ごろは上手くいけばAクラスにだってなれたよな」
高度育成高等学校。
卒業後の未来が約束されるはずが、それはAクラスで卒業したときだけらしい。
つーわけで、Aクラス入りを目指して色んな特別試験が行われていたけど、なんだかんだ俺の居たクラスは、結果を出し続けていた。
最初は、クラスポイントが0のDクラスからのスタートになったのに、どんどん追い上げた。
俺が退学になった時は、Cクラスまで上がっていた。
上手くいきゃ1年のうちにBクラス。2年の1学期でAクラスだって夢じゃない。
「そしたら、ポイントも大量にもらえて、最高の学園生活だったんだろうな」
クラスポイントは、そのままお小遣いであるプライベートポイントに直結している。
Aクラスなら毎月10万くらいもらってたはず。
毎月10万とか、どんだけ使ってもなくならねえじゃん。
月5千円の今の俺とはえらい違いだ。
「俺が辞めちまったから無理かな。あいつら今ごろ俺のありがたみを実感してるかもしれねえ」
クラスには俺が必要だったはずだ。
それなのに、俺を退学にしやがった。
今ごろ苦労しているのを想像して、ちょっと胸がスッとした。
「……戻りてえなぁ。もし戻れるなら、俺は……絶対に……Aクラスで卒業して……やる……のに」
全身が痛い。どんだけ殴りやがったんだ不良共。
やばい、なんか意識が朦朧としてきたかも。
まあ、いっか。今なら良い夢が見られそうな気がするし。
俺は公園の芝生で、静かに意識を手放した。
◇◇◇
「え?」
気づけば俺は、見覚えのありまくる制服を着て、バスの中に居た。
「なんでだよぉおおおおおおおお」
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