やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「須藤くん、リタイアしたんだって」
「何それ、ただでさえクラスポイントを須藤くんのせいで失ってるのに、最悪じゃん」
「だよねー、4月の態度とかも一番悪かったよね」
「5月に入ってもだよ。もっと残せたはずなのに」
「ねー……」
「あーあ、なんで須藤くんみたいなのが同じクラスなんだろう」
「最悪だよね」
「なんかトイレが我慢できなくてリタイアしたらしいよ」
「マジで? なにそれー」
「山内くんがトイレを持って走っていったんだって」
「確定じゃん、うわぁ」
寛治が見つけてきた川の水辺スポット。
前と同じで、ここがクラスのベースキャンプと決まった。
そして、ただでさえ低かった健の評価がだだ下がりだった。
うう……俺のせいなのか。俺が連れ回さなければ。
いや、健の態度が悪かったのは元からだし、言うほど俺のせいじゃないか。
俺は、トイレに行っとくように教えたり、楽になる呼吸法を教えたり、簡易トイレを持って走ったり、出来ることはやったんだ。
それで我慢できずにリタイアしたんだから、どう考えても健が悪い。
ったく、本当に使えねえやつだよなぁ。
健って2学期の体育祭しか、活躍する機会がねえんじゃねえの。
やっぱ多数決の退学候補ナンバー1って健だよなぁ。
もしかしたら、俺は身を挺して健を守ったのかもなぁ。そう考えれば、俺の退学も無駄じゃ──いや、やっぱり嫌だ。だからこうして戻って来たんだし。
ってもういなくなった健のことは、どうでもいい。
スポット探しで貢献出来なかったし、溜め込んだサバイバル知識を活かして活躍しないと。
「なあ、この川の水って飲めるんじゃね?」
これは前回で確認済みだ。
2日目以降は、川の水で生活していたけど、リタイアは堀北しか出なかったはずだ。
腹を壊したやつはいない。つまり、安全な飲める水ってことだ。
なんで水を飲んでない健が腹痛でリタイアだよ。あ、また健のこと考えてた。
「はー、何言ってるの? 無理無理無理、無理に決まってるでしょ」
俺の水が飲めるアピールに、女子を代表して篠原が噛みついてきた。
なんだよ、この女。寛治には悪いけど、ちょいブスのくせに生意気なんだよなぁ。
「何で無理なんだよ。ほら、綺麗な水だぞ」
俺は、手ですくい上げた。ほぼ完全に透き通った水越しに俺の手が見えていて、濁りがない。
篠原は一瞥しただけで、鼻で笑った。ボタボタと俺の指と指の間から水が滴り落ちていく。
「ぜんぜん。川の水とか普通飲まないでしょ。これだから野蛮人は」
「誰が野蛮人だ。なー、池。この川の水なら飲めるよな」
ここで助っ人召喚よ。
寛治は、子供の頃から何度かキャンプに行っていたらしい。
そのおかげでサバイバル知識を少しだけ持っている。動画で予習しまくった俺と比べたら劣るだろうけど、立派な戦力だ。
「もちだぜ。なんなら飲んで見せようか? ほら」
寛治は俺がしたように、川の水をすくいあげて、そのまま顔を近づけて飲み干す。
「かー! キンキンに冷えてやがる」
犯罪的だっ! うますぎるっ! という心の声が見えてきそうな表情だ。
心なしか声までハギ〇ボイスになってるじゃん。
俺も隣に並んで、水を飲んだ。
「おう、普通に飲めるな」
俺には違いが分からない。普通の水って感じだ。
しいていうなら真夏の気温からしたら冷えて感じるのと、さっきまで拠点を探したり、トイレを探したり、健を探したりで走っていたおかげもあって、美味いかな、くらいだ。
「うわー、無いわー。ドン引きなんだけど」
「待てって。これで俺と池が腹壊すようなことがあったら、飲めとはいわねーけどさ。大丈夫だったらよくね?」
「ポイント残さないといつまでたっても小遣いゼロは嫌じゃんかよ」
飲料水の問題は、切実だ。
水の確保というのは、サバイバルで必須の項目で、水が無ければ人は生きていけない。
もし、川の水を利用しないのなら、キャンプポイントを使って買うしかなくなる。
7日分買ったらそれだけで50ポイントだ。大きすぎるダメージとなっちまう。
「でも川の水じゃん」
「いけるって、何が不満なんだよ」
「だって、山内君とか池君が飲んで大丈夫だからって、私達が大丈夫か分からないじゃん」
「なんだと」
篠原の言い分に、寛治が食って掛かる。
いや、マジでなんなんだよ。
まるで俺と寛治が、人よりも耐性を持っているかの如くいいやがって。
そんなわけあるか。
「まあまあ、落ちついてみんな。ここで言い争っても解決しないから、とりあえず様子を見よう。本当に大丈夫かどうか分からないとどうしようもないし、池くんと山内くんを実験台みたいにして申し訳ないけど、そういうことでいいかな?」
平田の仲裁で、とりあえずその場は保留となった。
「ちっ……分かったよ。もっと飲んでやらーー」
「少量じゃ安全かわかんねーもんな。飲んでやるぜ」
川の水が安全であることを示すために、寛治と張り合って飲んでいく。
別に普通の水だっつーの、どれだけ飲んでも問題ないぜ。
「カー、うめえうめぇ」
「喉が渇いてたからちょうどいいぜ」
「だよなぁ、飲み放題じゃん」
「さいっこう」
身体が水分を欲していたのか、どれだけ飲んでも飲み飽きるなんてことはなかった。
30分後。
「腹いてぇ」
「飲み過ぎたよなぁ」
お腹がぱんぱんに膨れ上がって気持ち悪い。
良いところを見せようと寛治との張り合いになってしまったのが失敗だったぜ。
「ほら、やっぱり」
「ち、違うって、飲み過ぎただけで、な」
「そ、そうだぜ。うぅう、悪い、トイレ行ってくる」
結局、一度トイレでスッキリしたら体調が戻ったため、水の飲みすぎだったことは証明できたものの、なんとも締まらない結果に終わってしまったのだった。
なお、前と同じでトイレは設置済みだ。
これは必要経費だからしゃーない。簡易トイレはやっぱ嫌だしさ。
◇◇◇
「乾いた枝じゃないとダメだから、湿ってるやつは拾っても無駄だかんなー」
夕方、暗くなってきてから火を確保するために、ベースキャンプ周辺に出かけた。
何人かついてきたので、ここぞとばかりに知識を教え込む。
どうせなら女子に教えたかったのに、男子しかいないのはなんでなんだよ。
これは、たぶん乾いてるな。
こっちも、乾いてるっぽいな。
ちょっと重いけど表面は乾いてるから、よし。
枝集めは順調だ。流石、俺、しっかり予習してきただけある。
「あ、あと、小さい奴も拾っとけよ。いきなり大きい枝は火がつかないからな、本当は松ぼっくりとかあればいいんだけど」
乾いた葉っぱや小枝も確保しておく。
前の時は、なかなか火がつかずにカッコ悪いところを見せちまったけど、今回はそんなミスはしないぜ。
松ぼっくりは実際は知らんが、寛治がそんなことを言ってた気がする。パクらせてもらうぜ、悪いな、寛治。
「よーし、戻るか」
「なあ、なんで山内が指揮ってんだ?」
「こういうの詳しいから任せとけって」
「まあいいが……」
なんだよー三宅、何か言いたそうな態度だなぁ。
付き合ってくれてるからいいけどさ。正直、健がいなくなってどうしようか困ってたし。
そういや前の時は、佐倉につられて綾小路に付き合ったけど、どうやら今回は佐倉と綾小路に、距離があるっぽい。
前の時と今回の違い。
やっぱり、デジカメの修理だよなぁ。
俺の睨んだ通り、デジカメの修理絡みで佐倉と綾小路が仲良くなったのは、確定したんじゃね?
つーことは、やっぱり俺が上手くやれば佐倉と親しくなれんのかな?
でももうデジカメは終わっちまったし、どうすりゃいいんだろうな。
「あ……」
なんて考えながら戻っていたら、見覚えのある女子生徒が通り道に座り込んでいた。
Cクラスの生徒の伊吹ちゃんだ。
たしか、伊吹ちゃんがスパイで、Dクラスは大変なことになったとかだったんだよな。
あれ? でも結局、リーダーは当てられずに済んだんだっけ?
簡単にしか説明しないけど、この試験では各クラスでリーダーを設定して、それを当てるという要素もある。
基本的に当てるのは無理だから、気にする必要はないはず。
でも、やっぱスパイを引き入れちゃダメだよなぁ。
「他クラスの生徒だし、スルーしようぜ」
「山内、それはないんじゃないか?」
「つってもさー、スパイかもしんねーじゃん」
どうにか引き離したかったが、三宅と話しているうちに、一緒にいた男子が声をかけてしまった。
気持ちは分かるけどさ、伊吹ちゃん可愛いもん。
だからこそ、前回俺はほっとけなかったし。
それに頬が腫れているのが気がかりだ。
「殴られただと、龍園にやられたのか!?」
三宅はすぐに何かを察したらしい。珍しく声を荒げている。
「あんた龍園のやつを知ってるの?」
「ちょっとな……この先にDクラスのキャンプがある。一緒に行こう」
「は? そんなこといいわけないじゃん」
「龍園にやられたって聞いたらほっとけない。行こう」
どうやらよほど龍園に関して何かあるらしいけど、三宅ってこんなキャラだっけ?
ってあれ? 伊吹ちゃんをベースキャンプに連れて行く流れじゃん。
「あーもう、わかった。行くぞ」
「お人よしなんだな」
「Dクラスはそうなんだよ」
しゃーない、俺だけ反対しても4月の孤立の二の舞だし、ここは乗っかろう。
俺さえしっかりしとけばなんとかなるかな。
ったく、余計な仕事を増やしやがって。俺がいなかったら、大ピンチになるところだったぞ。
結局、伊吹ちゃんを回避することは叶わず、伊吹ちゃんも一緒にベースキャンプに戻った。
「よーし、見とけよ。俺がすぐに火をつけてやるからな」
伊吹ちゃんのことは三宅に任せて、集めた枝を使ってさっそく火をつけよう。
クラスに配布されたマッチは、既に確保済みだ。
俺はマッチを手に、目を瞑って精神を集中した。
思い起こせば、何ヶ月だ。
全てはこの瞬間の為だ。
観客が男しかいねえのが、ちょっと残念だけど、みんな見ててくれよな。
さあ、火をつけるぞってタイミングだった。
「あ、火起こしじゃん、俺こういうの得意なんだよな」
「池?」
「いい感じに組めてるな、ほいっと」
寛治が横からマッチをひょいっと取って、あっさりと火をつけやがった。
細い枝や葉っぱを用意したのは正解だったらしく、一発で火がつく。
「お、ついたついた。いやー、久しぶりだから緊張したー」
「池くん、さすが」
「一発とはやるじゃん」
俺が集中している間か、いつの間にか集まっていたらしい女子が絶賛している。
いいんだ。俺のサバイバル知識が役に立ったんだから、無駄じゃなかったぜ。
でも、俺に譲って欲しかったよ、寛治ぃいいいいいいい。