やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
無人島キャンプ。
健のリタイアとか色々あったけど、2日目以降はどうにか立て直すことが出来た。
たぶん前回と比べたら、健がリタイアしただけだ。
俺が神回避した伊吹ちゃんも結局拾ったし、トイレはポイントでレンタルしたし、初日は食料も水も買った。あ、高円寺は当然リタイアしてる。なんだよアイツは……退学した時のこと、忘れてねえからな。
2日目以降は、川の水を飲み水に回して、食料は釣りをしたり、無人島の各地から集めてしのいでいる。
「俺が伊吹ちゃんのスパイ行為から守らないと」
伊吹ちゃんは、だいたいベースキャンプにいる。
そのせいで、俺もベースキャンプから離れられずにいる。
「山内、釣りに行かね?」
「悪い、ちょっと忙しくてさ」
「何もしてねえじゃん、なんだよ。宮本、釣りいこうぜ」
せっかく寛治が誘ってくれたけど、釣りに夢中になって伊吹ちゃんから目を離したらアウトだ。
あーあ、水を一緒に飲んだ仲間として距離を詰めつつあったんだけどなぁ。
これもクラスのためとはいえしんどいぜ。
◇◇◇
6日目。
今日までの間に、軽井沢下着事件がやっぱり起きて、でもなんかどうにかなったらしい。
寛治が焦って綾小路となんかやってたのだけ見えた。
俺? 予知して寛治とは距離を取ってたから、無問題よ。
女子が騒ぎ出したタイミングで思い出して、速攻でテントを出て寛治から離れた。
ナイス逃げだったぜ。
で、今日も今日とて、伊吹ちゃんのチェックだ。
「山内くんも、少し食料を取ってきてほしいんだ」
「悪い、ちょっと気になることがあってさ、無理だ」
クラス全体の指示を出していた平田から相談されるが、断るしかない。
水を確保した、火も俺が確保した。
あとはスパイを確保するだけなんだけど、伊吹ちゃんはほとんど動かない。
迂闊だったぜ、軽井沢の下着事件はたぶん伊吹ちゃんの仕業だろう。
日中は見張るので忙しいし、夜はぐっすり寝てたせいで見逃してしまった。
気合を入れ直して、伊吹ちゃんを見張らないと。
ってあれ? 櫛田ちゃんが綾小路と一緒にいる?
なんでだよ、櫛田ちゃんはずっと女子グループで行動してたのに。
って、堀北も一緒とか両手に花かよ。
どうする? 邪魔するか?
いや、でも伊吹ちゃんを1人にするわけには──って、伊吹ちゃんも一緒に行くのか!?
「あ、俺も、俺も行くぜ」
ラッキー。
伊吹ちゃんが一緒なら俺も一緒に行くしかないよな。
別に綾小路ハーレムの邪魔をしたかったわけじゃねえぞ、伊吹ちゃんを見張るためだ。
「…………」
「……あなたが?」
「山内も来るのか?」
伊吹ちゃんはスパイだから冷たいのもいいけど、堀北、綾小路もなんか冷たくね?
「あはは……一緒に行こっか、よろしくね」
櫛田ちゃん。櫛田ちゃんだけがガチで天使。
やっぱ櫛田ちゃんしか勝たん。
俺、堀北、綾小路、伊吹ちゃん、櫛田ちゃんの5人で歩く。
食料探しという名目だし、一応周囲を見ながらだけど、もう6日目。
ベースキャンプ周辺は、あらかた調査済みで取りつくされているみたいで、収穫はない。
堀北は無口、綾小路も無口、伊吹ちゃんはスパイ。
となれば、自然と俺と櫛田ちゃんの会話が増えて、良い感じだ。
「あと1日だって思ったら、ちょっと名残惜しくならね?」
「えーどうかなー、みんなで一緒にキャンプしてたくさん思い出作れたのは良かったけど、大変な所は大変だったかな」
「櫛田ちゃんは、豪華客船の方が嬉しい?」
「あはは、そこまで極端な比較だとそうかも」
どよ、この盛り上がりっぷり。
櫛田ちゃんの笑顔が眩しく夏を彩っている。
これだけで無人島キャンプは、大成功って感じだ。
「どうしたの、櫛田ちゃん」
櫛田ちゃんが足を止めたのに合わせて、俺も止まる。
「ううん。綾小路くんと堀北さんってやっぱり仲いいなぁって思って」
櫛田ちゃんが見ている方向を見ると、綾小路と堀北が何やら話し込んでいた。
その奥には伊吹。
櫛田ちゃんに夢中で、ちょっと目を離してたけど、まあ大丈夫か。
「だよなぁ。でも、本人に聞いても否定するんだよなぁ」
「逆に怪しいよね」
「堀北も綾小路も、どっちも暗いしお似合いっちゃーお似合いだしなぁ」
「大人しい感じだよね」
堀北は意外と暴力的なところもあるけどな。
主な被害者は俺。近づきすぎると手が飛んでくる。
こんな感じで、しばらく5人で探索をしていた。
「どうしたんだ綾小路」
「山内、頼みがある」
そろそろ戻るかって時間になって、女性陣から離れた位置で綾小路が相談してきた。
あ、なんか覚えがある展開だ。
綾小路の頼みってだいたいロクでもないし。
「雨の影響で泥だらけだろ。これを堀北の頭にかけてくれないか。全力で」
出たよ。この展開。
どう考えてもキチガイのやることじゃん。なんで俺に頼むんだ。
「自分でやれよ。なんで、俺が」
「もちろんタダでとは言わない」
どうせ佐倉のメアドだろ。
もう、佐倉とは距離が出来てるから諦めてるんだって。デジカメの件でなんか嫌われちゃったし、今更佐倉のメアドとか欲しくないから。
「櫛田って、電話中にたまに無防備な時があるだろ」
え? 櫛田ちゃん。佐倉じゃなくて櫛田ちゃんの話なのか。
確かに櫛田ちゃん、たまにドライヤーの音とか聞こえたり、生活感を感じて最高に萌える時あるけど。なんか俺のこと全然警戒してませんよ、ってのがいいよなぁ。
「……ま、まあ、あるな。それがどうしたんだよ」
「この前、俺が間違えてテレビ電話をかけてしまったんだが、櫛田もそれに気づかずに出たみたいで、画面に風呂上がりの櫛田が出てきたことがあったんだ」
「あったのか!? なんだよ、その超絶ラッキースケベイベント」
綾小路のやつ、超羨ましいぜ。
「ヤバいと思って切ろうとしたら間違って録画ボタンを押したみたいで……山内が頼みごとを聞いてくれたら、その動画を提供する用意がある」
「マジかよ。やる、任せとけ」
やるっきゃねえだろ、それは。櫛田ちゃんの風呂上がりの無防備な姿とか、見るっきゃない。
綾小路だけに独占させてたまるか。いい思いは仲間で共有しないと。
「よーし、見とけよ。絶対だからな、動画の用意しとけよ」
「試験が終わったらな」
あ、そっか。今は預けられてるんだっけ。
まあいい、試験が終わった後にご褒美が待ってると思ったら、より一層頑張れそうだし、やるぞ。
俺は、足元の泥を集められるだけ集めて、両手にいっぱいにして堀北の背後に回る。
「おりゃおりゃおりゃおりゃぁあああ、くらえ堀北。泥だらけの刑じゃぁああああ」
堀北の黒髪を上から下になぞるように、泥を食いこませながら押し込んでいく。
そのままシャンプーするように、シャカシャカと泥を絡ませた。
うっしゃぁ、これで櫛田ちゃんのマル秘動画ゲットだぜぇ。
「…………」
「お、来るのか」
堀北がゆっくり振り返った。
前の時は、不意打ちだったから食らっちまったけど、来るのがわかっていたら、川に投げられるなんてことは──
「──そげぶぅうううううう」
──腕を掴まれたと思った瞬間に、俺の身体は宙に舞っていた。
やっぱり、川に投げられってちょっと待った、川の中に岩が見えるような──
後頭部に走った衝撃。それを最後に、俺は意識を失ってしまい……
◇◇◇
気づいたら俺は、見覚えのあるバスの中にいた。
「堀北ぁあああああ。もうDクラスはいやぁあああああ」
この魂の叫びがどう影響したのか分からない。
だがまさか、こんなことになるとは思わなかった。
ここからの展開は早い。
流石に慣れたもんで、俺はバスを降りると真っ直ぐにDクラスの教室へと向かった。
当然、途中で見かけた健はスルーだ。
うんこの件を心の中で謝りつつ、距離を取ったままタイミングをずらして教室に入る。
ええっと、俺の席は……たまに変わってるからややこしいんだよなぁ。
教卓の上に置いてある紙を見て、自分の座席を探す。
やまうちやまうち……あれ? おっかしいなぁ、俺の名前がないじゃん。
3周ほど見返したけど、俺の名前は見つけることが出来なかった。
「各自の席につけ」
どうしたもんかと思っていると、茶柱が教室に入ってきた。
「あ、先生、俺の席がないみたいなんですけど」
「名前は?」
「山内……山内春樹です」
「山内……」
俺が名乗ると茶柱が端末を操作して何やら調べ始めた。
「山内、教室を間違っている」
「はい?」
「ここはDクラスの教室で、お前はCクラスの生徒だ。クラス分けをしっかり見なかったのか」
「そんなはず……」
「いいからさっさとCクラスの教室に行け、遅刻になるぞ」
「は、はい」
え? どういうこと?
俺はDクラスの教室を追い出されて、Cクラスの教室へと向かうことになった。
まさかのCクラス編に進む。
何故かCクラスに配属されることになるやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。