やまうちのなく頃に   作:おやまうちさま

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やまうちのく頃に 肩透かし編


肩すかし編 ここだけ修羅の国かよ

「いいからさっさとCクラスの教室に行け、遅刻になるぞ」

「は、はい」

 

 茶柱先生からそう命じられて、俺はDクラスの教室を後にした。

 

 俺がCクラスとかどういうことなんだ。

 

 あ、でも、これで永遠に続くかと思ったDクラスからおさらばできたんじゃね?

 DクラスよりもAクラスが近くなるし、クラスポイントに余裕があればお小遣いだって増えるはず。イイコト尽くしじゃねえか。

 

 俺は、ルンルン気分でスキップなんかしながら廊下を急いで、Cクラスの教室の扉を開けた。

 

「俺、山内春樹、よろし──」

「あぁん?」

「誰だよ、テメェ」

「やんのかよ」

 

 一斉に、複数の男子から睨みつけられた。

 Dクラスは健だけが問題児だったが、このクラスには健が複数いる感じだ。

 こぇえよ。なんでこんな武闘派揃いなんだよ、Cクラス。

 

「早く席に座りなさい」

「はい」

 

 幸い、時間がギリギリだったこともあって、大事には至らなかったが、入学早々ピンチだったぜ。

 空いてる席は1つだけだったので、すぐに自分の席は分かった。

 

「すぐに入学式が始まります。移動してください」

 

 だったら、席に座らせるんじゃねえよ。助かったけどさ。

 まあいいか、いつものように入学式中に状況を整理しよう。

 

 堀北にアレされて、Dクラスは嫌だ―って叫んだらCクラスだった。

 なんじゃこれって感じだけどさ、ちょっと冷静になったら別に変じゃないよな。

 

 だいたい、俺がDクラスだったのがおかしいし、本当の俺の評価ならCクラスはむしろ妥当っつーか、Cでも物足りないくらいだし。

 ようやく学校が俺をまともに評価したっつーか、そりゃ、Cクラススタートってのもあり得る話じゃん。

 

 よく分かんねーけど、クラスのバランスってやつ?

 いくらDクラスがダメダメクラスでも、平田とか櫛田ちゃんとか俺みたいに、出来る奴を配置してないと競争が成り立たなくなるからなぁ。

 今までは俺がそれで割を食ってたってだけだろ、たぶん。

 

 今回は、俺がようやく正しく評価されてCクラスになった。

 あ、まだぜんぜん正しくないか。別に、Aクラスでもおかしくねえし。

 まあ、Dクラスよりは評価されたってことで納得しといてやろう。

 

 で、問題はCクラスよ。

 なんであんなに武闘派揃いなんだ?

 

 龍園は、なんかラーメン屋みたいな名前なのに何考えてるのかちっともわかんなくて怖いし。

 石崎は、ラーメン屋でタオル頭に巻いて、腕組んで店長してそうな風貌してるし。

 小宮は、ラーメン屋でバイトリーダーしてそうな感じだし。

 金田は、相手にされてないラーメン評論家みたいな眼鏡だし。

 

 なんかラーメン屋みたいなやつばっかじゃねえか。なんで高校生やってるんだよ。

 

 山田アルベルトは、キャバクラの店の前で立ってそうだし。キャバクラとか言ったことねえけど。あいつが一番怖えよ、でけえし、あそこもでけえし。

 

 と、これだけならピンチだけど、健のおかげで扱い方は分かってるから大丈夫か。

 武闘派連中は、近づかずにスルーするに限る。これ、鉄板よ。

 

 つーわけで、今回は大人し目でやるしかないけど、Aクラス目指して頑張ろうぜ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 2週間後の昼休み。

 

「パン買ってきました」

「ああ? コッペパンじゃねえか。お前、ふざけてんのか。俺が頼んだのは焼きそばパンだろ」

「ふざけてないですよ。パンはそれしか売ってなくて」

 

 俺は命令されて昼休みに購買まで走っていた。

 なんかよく知らないけど、パレットがあったところが購買になっている。

 そのせいで俺は買出し当番よ。

 別に、何もしてねえのに、石崎の奴が俺に命令しやがる。

 

 なんでだよ。

 

「は? お前その袋に入ってるのはなんだよ」

「……たまごサンドです」

「じゃあ、それも出せよ。何がコッペパンしかないだ」

 

 パンはなかったんだよ、サンドイッチがあっただけで。

 

「すみません、龍園さんたまごサンドをどうぞ」

「まともにパンを買ってくることすら出来ねえのか、使えねえな。石崎、今度はお前が行けよ」

「すみません、龍園さん」

 

 それ俺の昼食だぞ、ふざけんな。

 

 なーんて言えるわけもなく、ついでに買ってきたサンドイッチまで奪われてしまった。

 俺には偉そうな石崎も、龍園にはペコペコかよ。だっせー奴。

 

「もういいぞ」

「あの……ポイント貰ってません」

「俺が頼んだのは焼きそばパンだろ、違うもん買ってきて何言ってんだ」

「……すみません」

 

 いや、コイツが何言ってんだよ。石崎つーか、バカ崎じゃねえか。バカかよ。

 コッペパンだってポイントで買ってるんだから払えや。あとサンドイッチ代も。

 あーあ、なんでこうなったんだ、Cクラス怖えよ。

 Dクラスよりもよっぽど不良品じゃねえか。

 

 解放されたし、食堂まで飯食いに行くか。

 ポイントのカツアゲとか勘弁してくれ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 5月になった。

 

 クラスポイントの説明があったおかげで、クラスポイントに影響しそうなカツアゲは止まった。

 ふー、ようやくパシリ生活とはおさらばだぜ。

 

 そしてCクラスということもあって、なんと驚きのクラスポイントが490ポイントも残っていた。4万9千円ゲットだぜ。

 

 2万くらいパンとかジュースとか買わされたけど、それでもDクラスの頃より余裕があるっていう。Dクラスは本当に何だったんだ。ひでえ話じゃん。

 

 よーし、ポイントに余裕があるし、今日は学食で高めなのを食うか。

 

「……ぷ、山菜定食」

「は? 今笑っただろ、お前?」

「笑ってねえって、気のせい気のせい」

 

 俺がカツカレーを受け取って、空いた席を探していると、寛治が無料の山菜定食を食べている姿が目に入った。

 ポイントを使いきったんだろうなぁ。Dクラスだと5月は補充出来ないし。

 

 思わず吹き出しちゃったけど、これは不可抗力ってやつで悪気はない。

 一歩間違えたら俺もあっちだったなぁ、とか思ったら笑えてしまっただけだ。

 

 今回は敵同士だし、距離を取っておこう。

 

 あー、無料の山菜定食を食ってる寛治を見ながら食うカツカレー、うめえわーーー。

 カツって最強だろ?

 カレーって最強だろ?

 カツカレーって最強+最強の夢のコラボなのよ。

 

 それに寛治っていう最高のオカズまで出来たら、今まで食った学食の中で一番うめぇえ。

 

 Cクラスになったことに戸惑っていたが、Cクラスで良かったぜ。

 クラスポイントっていうバリアがある以上、龍園とかもこれからは大人しくなるだろ。

 で、落ちついてクラスを見てたらさ、なかなかレベルが高いのよ。

 

 能力の話じゃねえぞ、女の子の容姿の話。

 

 伊吹ちゃんは、ショートカットが眩しいし。

 ひよりちゃんの穏やかな感じとかたまんねー、それに俺にも優しいんだぜ? カツアゲされてたら大丈夫ですか? とか声かけてくれたぜ。これは、ワンチャン俺に気があるかもしんねー。

 西野ちゃんは、サイドテール最強だし。

 木下ちゃんは、陸上部ってのがいいね。もうそれだけで、エローーーって感じ。

 真鍋ちゃんの勝気美少女も、Dクラスにはいなかったパターンでいいよなぁ。

 

 でも、俺の推しはなんといっても、山下沙希ちゃん。

 優しそうだし、俺にも手の届きそうな丁度良さがたまんねー。

 

 いやー、櫛田ちゃんとかがいたDクラスが最強って思ってたけど、CクラスはCクラスでいいよなぁ。今度、グループで遊びに行く約束があるし、そっから仲良くなっていこう。

 

 それにさ。俺には未来に楽しみがあるんだ。

 ほら、Dクラスにはキャンプ経験者の寛治がいたから、無人島でそこまで活躍できなかったけどさ。このクラスならサバイバルマスターの出番じゃね?

 評価が上がれば俺の時代が来るだろうし、Dクラスと違ってポイントのこともあんま気にする必要がない。Cクラス、最高。このままAクラスまで突っ走っていこう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「お前ら、最低限の勉強だけはしとけよ」

「うっす」

 

 中間テストの概要が発表されて、龍園からクラスに指示が飛んだ。

 いくつかのグループに分かれていたCクラスも、この頃にはどんなことが陰で行われていたのかはわかんねーけど、すっかり龍園の下で一本化している。

 龍園と距離を置いていたはずの山田アルベルトも、いつの間にか龍園の護衛みたいなポジションになっていた。

 

 完全に龍園が掌握してやがる。

 

「けど正直言って、これはこれで楽なんだよなぁー」

 

 とりあえず、龍園のいうことさえ聞いとけば害はない。

 石崎のバカとかが偉そうなのはムカつくけど、それさえ我慢すればいい。方針とかも、リーダーがしっかり方向性を定めてくれるから、あとはそれに乗っかるだけだ。

 

 まあ、中間テストに限っていうなら、俺にはみんなと違って裏技があるから、大して勉強する必要はないんだけど。

 

 今日は、何して遊ぼうかな。

 あんま節約しなくていいって本当に楽しいのな。

 あ、沙希ちゃん達が奢りならカフェに行こ、だって。もちろん奢る奢る―。来月にはまたポイント入って来るし。

 さてと、遊びに行こっと。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 テスト前日。

 

「あれ? もしかして、俺は櫛田ちゃんから過去問貰えないんじゃね?」

 

 俺にとって、中間テスト=前日に櫛田ちゃんから貰った過去問の答えを覚える試験だ。

 だから今回も貰えるものだと思い込んでいたけど、放課後何もなく寮まで帰ってきてしまった。

 

 何やってんだよ、櫛田ちゃん。って櫛田ちゃんはDクラスの生徒じゃん。俺はCクラスだった!?

 つーことは、裏技つかえねえぇええええ!?

 

 ど、どうする!?

 

 いや、いくら俺って言っても、もう何度目の中間テストだよ。

 いい加減地力でも突破できるって、いけるいける、やれる。

 

 一応、最後の勉強しとこうかな。

 

 こうして、どうにかこうにか一夜漬けで中間テストに挑み──

 

「山内、お前は退学だ」

 

 ──ダメでした。

 

 

    ◇◇◇

 

 

「せっかくのチャンスだったのにぃいいいいいい」

 

 俺は奇跡のCクラスチャンスを逃して、バスの中で一人泣いた。




神様が与えてくれた千載一遇のチャンスを逃し、繰り返される回目の惨劇。
つかの間のCクラスを過ごしたやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。

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