やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「今回は、Dクラスかよ」
前回は、なんだったんだろうな。
前回の反省を踏まえて、一応門近くで貼ってある振り分け表をチェックして、自分のクラスを確認した。何事もなかったかのようにDクラスだ。
ほっとしたような、もったいないような、複雑な気分だ。
あーあ、Cクラスは怖かったけど、慣れてしまえば楽しかったんだけどなぁ。
女の子は可愛いし、ポイントに不自由しないし、考えなくても龍園が指示してくれるし。
まあ、Dクラスになっちまった以上は、またDクラスで頑張るしかないか。
慣れ親しんでいるのに、少し久しぶりになった教室に入る。
「俺の席はっと……」
ただいまって感じだ。
やっぱりDクラスのメンツの中にいると、ほっとするな。
健ですら愛おしく感じ──「なにみてんだ、てめぇ」「なんでもないです」──こええよ。
健は愛おしくなかった。気のせいだった。
あとは、当然の櫛田ちゃんでしょ、
「ん? 誰だあのイケメン」
クラスを見まわしていると、見覚えのないイケメンが居た。
前回俺がCクラスになったみたいに、ランダムでクラスが変わった奴か?
にしても、初めて見る顔っぽいけどなぁ。
戦力になればいいけど、足を引っ張るのだけは勘弁してくれよ。
こうして、謎のイケメンが増えたDクラス生活が始まったのだった。
で、入学式の時間に、戦略を練り直す。
前のときは、色々あったけど、無人島試験までいけたし、悪くはなかったんだよなぁ。
健がう〇こでリタイアしたのは余計だったし、佐倉のデジカメをぶっ壊したのは失敗だったけどさ。でも、たぶん佐倉はあのおっさんから救えたはずだから、無駄じゃなかった。
改善点はどうすっかなぁ。
まさか上陸前に、健のトイレを見張るわけにはいかないし、健は諦めるしかないか。
となると、残りは佐倉のデジカメだが、前回はキャッチできなかったのが失敗だったんだよなぁ。上手くキャッチする練習でもするか?
でも、本番やらかしそうだしなぁ。
そもそも本堂とぶつかったからだから、本堂の方を注意すればいいんじゃね?
おお、逆転の発想。これならデジカメ守れるじゃん。
本堂と佐倉がぶつからないようにして、デジカメを落とさせない。
寛治とか健ほどじゃねーけど、本堂とも結構仲いいほうだし、本堂をコントロールするのは楽勝じゃん。
くっそー、なんで早く気づかなかったんだろうなぁ。
佐倉のデジカメにダイブしてる場合じゃなかったぜ。
あ、授業中とかはいつもの真面目モードな。
つーか、カツアゲとかされたCクラスの方が俺へのダメージひでえのに、あれでもDクラスよりはマシだったとかさ。
どんだけ4月のDクラスが酷いんだっつーの。あーもう、絶望しかねえし。
絶望……絶望かぁ。
とりあえず、俺は大事なことを決めた。
堀北にちょっかいかけるのは止めよう。
あいつは殺人鬼じゃん。綾小路に何を言われたって、絶対泥だらけにはしない。
櫛田ちゃんの隙だらけ動画は欲しいけど。
くー、綾小路だけラッキースケベとかもったいねえぜ。
◇◇◇
「綾小路がいない!?」
入学式が終わって、最初のホームルーム。
変な違和感が残っていた理由に、ようやく気がつくことが出来た。
堀北を泥だらけにするしないの前に、綾小路がこのクラスには居なかった。
マジかー。地味すぎて気づくのが遅くなったぜ。
けどアイツどのクラス行ったのかな、アイツがCクラスとかだったらパシリになってたりして。
放課後になったら、探しに行ってみっか。
龍園とか石崎のバカに、パシられてる綾小路とか絶対みてえじゃん。
俺がカツカレー食べてる目の前で、山菜定食食ってた寛治とどっちが笑えるかなぁ。
あー、放課後が楽しみになってきたぜ。
「つーわけで、放課後」
ちょっと前に通っていた教室へと足を運ぶ。
相手はCクラスだ。睨まれたら何されるかわかったもんじゃない。
少し離れた位置で、龍園と石崎が教室を出るのを待ってから、中を覗き込んだ。
まだ出てきた生徒の中に綾小路はいなかったはず。
綾小路、綾小路っと……相変わらず山田アルベルトはでけえな。座って本読んでるひよりちゃんカワイイ。あ、俺の彼女候補だった山下沙希ちゃんもいる。
やっぱ、山下沙希ちゃんだよなぁ。中間テストを突破出来てたら、俺の彼女だったのに。
って、違う違う。今は、綾小路だ。
「居ないか」
「何うちのクラス見てんだ、てめぇ」
「え? なんで? バカは帰ったはずじゃ」
あれ? 石崎。お前先に帰ったはずじゃ。
「あぁん? 今バカっていったか?」
「ち、違う。俺は……」
「怪しい奴だなぁ、ちょっとこい」
教室をこっそり覗き込む他クラスの
俺、終わったじゃん。
その後、何があったのかは、聞かないで欲しい。
たぶん、監視カメラの前だ。Cクラスのクラスポイントを削ることには成功した。俺って本当に前向きだな。
◇◇◇
「あれ? おかしいなぁ」
翌日は、Bクラス。こっちは特に問題が起きることなくチェックできた。
さらにその翌日は、念のためにAクラスをチェックしたけど、綾小路の姿はなかった。
綾小路のやつがAクラスに選ばれるとか無いと思うけど、万が一の可能性もあったし。
Aクラスでは坂柳ちゃんと目があって、結構気まずかったり。向こうは、なーんも覚えてないだろうけど、こっちからしたら因縁の相手だ。
まあいい。今は綾小路だ。
これでDクラスからAクラスまで全クラスにいなかったことになる。
あいつもしかして、高校に合格できなかったとかか。
ここは名門校だもんなぁ、綾小路が落ちるってこともあり得るか。
あーあ、綾小路がパシられる姿が見たかったんだけどなぁ。
ま、いっか。どうせ綾小路だし。
平田とか櫛田ちゃんとか堀北がDクラスにいなかったら大問題だけど、綾小路だと居ても居なくても変わんねーよなぁ。
クラスへの影響ゼロって感じだ。
せいぜい堀北の唯一の友達が減ったくらいか?
あ、そうだ。
綾小路が居ないってことは……
「俺にチャンス到来じゃね?」
佐倉が親しくなる男子が居なくなったってことじゃん。
つーことは、佐倉のデジカメ事件で上手くフォローすれば、佐倉と仲良くなるのは俺しかいない。
本堂を止めて、佐倉のデジカメが壊れないようにするって方針だったが、変更しよう。
佐倉のデジカメは、本堂にぶっ壊してもらう。
そして、俺が綾小路の代わりに修理に付き合う。
となると、後はあの家電屋のもっさいおっさんをどうするのか問題か。
なかなか全部が上手くいくってことはないなぁ。これが堂々巡りってやつか。
「うーん……」
「どうしたんだ山内。何か悩みごとか?」
綾小路が居ないチャンスをどう利用すればいいか、頭を悩ませていたら声がかかった。
「悩みごとだぜ。俺くらいになると考えないといけないことが、色々多すぎるんだって」
「なんだそれ」
背中を軽くポンと叩かれる。
こういう親しい感じのやりとりが楽しい。
「まあ、なんか相談したいことがあればいつでも言ってくれよ。いつでも乗るから」
「相談したくなったら相談するから、頼むぞ」
「任せとけって」
本当に頼りになりそうな奴だ。綾小路とは大違いって感じだ。
綾小路と比較した理由?
Dクラスには、綾小路が居なかった。
代わりにいたのがこのイケメンだったってだけだ。
女子に囲まれてばっかの平田みたいなイケメンならいけ好かねえけど、こいつは平田とは違って俺ら男子ともよろしくやってるから話しやすい。
「ねえ、一緒に帰らない?」
「どうする、山内?」
「そうだな……」
こうやって、男子と一緒にいる時に女子から誘われた時も、先に話していた方を優先する。
こういう気づかいが助かるって言うか、一緒にいやすいって思わせてくれる。
真面目くんモードで何かと孤立しがちがったしさ、こうやって新しい友達が増えて嬉しいぜ。
なにより、一緒にいれば女子と過ごす時間も自然と増えてるしさ。
寛治とはまた違ったコミュニケーション能力の高さがあるんだろうな。
「帰るか」
「分かった。一緒に帰ろうか、佐藤さん松下さん」
「うん。あ、どっか寄り道していかない?」
4月はポイント節約月間だ。あんまり考え無しに使いたくはない。
佐藤とか何も考えてないんだろうなぁ。来月からお小遣いが止まることを知らないから仕方ないか。
まあ、いっか。佐倉のデジカメ新調代、5万ポイントが浮くわけだし。
佐藤とは結構遊んだことあるけど、松下とはあんま遊んだことないしな。
「いいんじゃね」
「そうだなー……佐藤さん達はどっか寄り道したいところある?」
「松雄くんが行きたいところでいいよ」
そう、松雄こと松雄栄一郎。
こいつが綾小路の代わりに、Dクラスに加わった新しい仲間だった。
「とりあえずケヤキモール行ってみようか」
「賛成」
「いいと思う」
新しい日々が始まる。